農村と旅行
いま、中国は旅行ブームだ。少し生活に余裕があれば、旅行に出かける。もともとの母数が大きいから、「少し生活に余裕がある」人達が0.1%増えれば、その数は、130万人増えたことになる。旅行業者の鼻息は荒い。
中国で二番目に入場料の高い観光スポットは、開封の「清明上河園」だそうだ。入場料は60元。去年は3000万元稼いだ。清明上河園は、その名の通り、「清明上河図」を復原したテーマパークである。中国人は最近、この手のテーマパークをヤマほど作っている。開封は、テーマパークが乱立気味だが、まだ金明池遺跡の上に、コンクリートで昔の都城を再建中である。柳の下には泥鰌が100匹以上いる、と思っているのが中国である。
考えてみれば、日本では飛鳥・奈良・京都にあたる古都が、中国にはもっとたくさんある。西安、洛陽を始めとして、三国魏の鄴・呉の建業・蜀の成都、南北朝になると、都の位置はいろいろ変わり、隋・唐を経て、再び分裂、こうして王朝が変わり、中国が分断される度に、都の数は増えていく。古都は売り物になる。
昨日訪れた鄴城遺跡は、河北の農村の中にある。遺跡の周りは、ここ50年来変わってないだろう。寺院遺跡周辺には、地表に磚や瓦が落ちている。わたしも黒い丸瓦の破片を見つけた。
農民は畑を耕す。国家重点文物に鄴城遺跡が指定されて、それに含まれる寺院跡も保存されているが、周りは一面韮などの畑だ。農民の生活は苦しい。多少機械化されたとはいえ、昔ながらの人力に頼る農作業が続く。
そこへ来て、このところの旅行ブームだ。どこそこは昔の遺跡を復原して、観光客の誘致に成功し、周りは商売繁盛、みんな金持ちになった、というイイ噂ばかりが耳に入る。我が村は、六つの王朝の都鄴ではないか。だったら、今ある鄴城三台遺跡を整備しよう。そして、観光客を誘致しよう。田舎の村の考えそうなことで、現在、整備という名の破壊と再建が始まろうとしている。やってることはまさに文化財の破壊なのだが、目の前の農村の貧しさを見ると、それを責めるのは酷だ。地を這うような生活から、座っていても金の入る観光業への転進。学も資金もない農民達にとって、今の境遇を劇的に変えてくれる魔法の呪文が「観光資源」なのだ。
たぶん、柳の下の泥鰌は1000匹くらいいるのだろう。ただし、泥鰌がいつまで金の卵を産んでくれるかは、誰も知らない。そのうち、テーマパークは飽きられ、次々潰れていくだろうが、目端の利く連中は、潰れる前に取るものを取って、海外にでも逃げていくだろう。残されるのは、土地から離れることなど考えもしなかった農民達だ。
テーマパークの廃墟と荒廃した農村が、中国観光開発の未来ではないか。
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