高松塚・キトラ古墳保存問題 渡邊座長辞任で済む話ではない (その3) 終末に至る「終末期古墳 高松塚」
だんだん絶望的な気分になってきている。
昨日、高松塚壁画損傷問題を取材している複数のメディアに電話して聞いてみた。そこで分かってきたことは、
現在の「高松塚古墳壁画恒久保存検討会」のメンバーの少なくとも5人以上(4人は「高松塚古墳壁画損傷」時に修復に当たったメンバー)は、76年以降の虫の侵入も、2001年の「取り合い部」の杜撰な工事が黴の大発生を招いたことも、あらかじめ知っていた上で、国民に対して、生物学者の「現況では壁画を守れない」という「科学的知見」に促されて「石室解体」に賛意を示す、というパフォーマンスをして見せたのではないか
という疑惑だ。昨日見つけた大地舜氏の
黄トンボ 今週の疑問 「誰が国宝・高松塚古墳壁画を殺したのか?高松塚古墳石室解体にみる文化庁の体質」
大地舜 10月3日
http://www.kitombo.com/gimon/1003.html
には、当時の文化庁の担当官の実名が書かれていたりするわけだが、これらの人々がほぼ全員「ご栄転」しちゃってるのは、大地氏の記事の通りだ。当時の担当官の現職を見れば、今は現場とは関係ない名誉職についている人が多いことがわかる。(それで昨日、奈良博からアクセスがあったのか〜。今日は奈文研から来てるけど。まさか、エライ人が拙blogをお読みくださっているとは思えないので、たぶんアクセスしてるのは若い人だろう。そんなに、上司や職場の過去がどう書かれているか気になるのだろうか。刊行されたり、ネット上に公開されている資料を用いているだけの、素人の個人blogに、それほどの破壊力があるとは思えないのだが。)
なおかつ、実際の作業にあたった人、直接担当はしてなかったが内部で事情を知り得る立場にいた人が、現在の「検討会」のメンバーに含まれている。ついでに言えば、「特別史跡キトラ古墳の保存・活用等に関する調査研究委員会」とこの「検討会」のメンバー以外で、終末期壁画古墳保存に意見の言えそうな専門家を捜しても、あまりもう残ってない。
もちろん、まったく作業にタッチしなかった人、内部事情を知らなかった人も委員の中にはいる。このあたりは、組織上の問題というか機構上の問題で、実のところ、
高松塚古墳の保存を学問的に議論できる人材は、国内ではこの「高松塚検討会」「キトラ調査研究委員会」に集められた人々でほぼ尽きている
のだ。渡邊座長が辞任したところで、
果たして後任補充が出来るのか
というのは疑問だ。文化庁は、高松塚古墳壁画損傷について
外部から人を呼んで検討する
というのだが、「検討会」「調査研究委員会」以外から新たに呼ぶにしても、専門的な立場からアドバイスできる人はほとんど残っていないのではないか。
渡邊座長辞任で、新たな検討会の委員が選出された後は、何人かの有力委員の言ですべてが決まっていく、といった
より形骸化した「検討会」になるのではないか
という危惧がある。まあ、一番最初の「疑い」つまり
そもそも「結論」ありきで、むしろ文化庁のこれまでの不始末を隠蔽するための「検討会」開催
なのだったとしたら、すでにしょうがないのだけど。さすがにそこまで疑いたくはないなあ。
そもそも、現在、高松塚・キトラ古墳で作業をしている人達は、
過去のマズイ処置の尻ぬぐいをさせられている上に、もし、何か失敗したら、叩かれるだけの損な役回り
なわけで、士気が上がらないこと、夥しいだろう。わたしは
高松塚石室解体は、成功しない可能性がある
とずっと思っているから、もし、解体時に天井石が粉々に砕けても驚かないけれども、世論はそうは考えてはいない。
どうしても誤解されやすいのだけれども、現在独立行政法人になっていて、高松塚・キトラ古墳の保存に関わっている「東文研」「奈文研」は、研究所とはいえ、大学の研究所とは著しく性格を異にする。大学では、基本的に、犯罪にならない範囲であれば、言論は自由だし、研究者としての独立は、よほど変わったところでもない限り、保証されている(教育者として独立してるかどうかは謎)。ところが、東文研も奈文研も、基本的には文化庁とのつながりが深く、人事交流も行われている。独立行政法人化されたから、組織上はそうではないようだが、気分的には今でも親分は文化庁だ。調査・研究活動をしているけれども、大学とは全くカラーが違う。大学では、一人一人が一国一城の主だけれども、「東文研」「奈文研」は、個人業績もあることはあるが、基本的には研究所としての共同の業務が中心である。「東文研」「奈文研」に就職するには試験があるのは、京大の人文研と似ているけれども、その後の業務の性格は180°違うと言っていいだろう。
一番はっきりしているのは、その閉鎖性である。大学も閉鎖的だが、東文研・奈文研はさらに外からはわかりにくい組織だ。そのために、奈文研は、奈良の人があんまり知らない組織である。県内には県立の橿考研があるが、橿考研と奈文研の違いも、一般の人にはよくわからない。
かくして、マスコミも含めて、世間一般からは
秘密の研究所が、こっそりやってるように見える
のが、
高松塚・キトラ古墳の保存修復
なのである。たぶん、文化庁や奈文研・東文研の中の人は
なんでこんなにマスコミに叩かれるんだ!
と身の不運を呪っているかも知れない。マスコミが、叩く理由はただ一つ。
外部に十分な情報公開を行ってこなかった組織だから
だ。マスコミも勉強が足りないかも知れないが、学力が下がっているのは、最近の日本の中では当たり前のこと。教養主義は滅びてしまっているのだから、
取材する側は勉強してこい
と一喝する前に、まずは
中学生にわかるような言葉で説明する
訓練をしたらどうか。言葉が届かなければ、国民の理解は得られない。理解が得られなければ、予算はどんどん削られるだろう。「理解して貰う」努力を今からでも始めなければ、将来に渡って、文化政策に金は回ってこない。
マスコミの言説が高松塚・キトラ古墳保存問題に苛立ちを強める理由の一つは
自分たちの「暗黙知」が世間に通用していると思いこんでいる文化庁とその関係機関の普段の言説と行い
にある。誰もが、考古学や歴史学のエキスパートではないのだ。そうして、取材者をバカにする態度を取るから、こういう時に、一気に敵を取られるのである。互いに敬意を持ち得ない関係は、不幸を呼び起こすだけだろう。
で、ついでに。
これだけ高松塚古墳壁画損傷が問題になってるのだけど、NHK奈良局には、クロ現を作る余力はなさそうですな〜。「ならナビ」とかいう、訳の分からんローカル番組は作れるみたいだけど、最近、文化財関係の取材力はどうも今ひとつですな。久保記者、もうちょっと勉強しようよ。で、文化財番組を作れるPDはいるのか? 去年の正倉院番組(新・日曜美術館)はひどかったけど。
というわけで、渋谷の科学文化部、頑張って頂戴。「高松塚古墳壁画損傷」を抜いた責任は取ろうよ。
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