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2006-06-16

ダン・ブラウン 『ダ・ヴィンチ・コード』上中下 角川文庫

全部で1000万部売れたそうだ。本が売れない、という状況から見ると慶賀すべき話である。

内容に関していうならば、
 ベストセラーはいい本とは限らない
のを体現しているのが『ダ・ヴィンチ・コード』だと思う。確かに、キリストに子孫がいて、いまも血筋を保っている、という設定は衝撃的かも知れないけれども、暗号解読にシオン修道会とオプス・デイの暗闘を絡めた筋立ては、荒っぽさが目立つ。主人公ロバート・ラングドンの人物造型に魅力が感じられないのが一番の問題だろう。ハーヴァードの象徴学者ってこんなしょぼいか?と疑ってしまうわけで、「基づいた資料はすべて真実だ」と断られても、こけおどしに見えてしまう。それとも、宗教学者が英仏独の会話程度ならできると思ってるのが間違い?てか、フランス人が英語が出来ないのと同じ程度にアメリカ人はフランス語が出来ないのか?不思議で堪らない。(というかこういう専門だったら、少なくともかなりの数の言語が読めないと勝負にならないし、現代語であれば最低三つはアクティブだろうし、ハーヴァードに籍を置くなら、三つなんて筈がない)
結局は、
 作者はマーケットが一番大きいと思われる英語圏読者向けに物語を書いている
わけで、いくらなんでも、フランス人が秘密を守るために孫娘に英語を教え込んで、暗号が全部英語で解けて、という設定は
 悪しきグローバリズムの現れ
以外の何者でもない。てか、この場合
 ラテン語で暗号
なら、まだわからないでもないのだが、
 そうすると大多数の読者にはわからない
からな。ま、大衆迎合主義の設定なのである。そもそも、こんなにラテン語の出てこない「象徴」の話って、ヘンすぎる。
謎の構築に力を注ぐあまりに、人物は狂言回し以下におとしめられているし、謎自体も、それほどあっと驚くものでもない。う〜ん、
 ハリウッド映画的張りぼて
というなら、半分くらい当たってるかな?
該博な専門知識をちりばめつつ、人物造型する作品だったら、たとえば、パトリシア・コーンウェルの検屍官シリーズがある。こちらでは、専門知識に溺れずに、人間がそれなりに生きている。
人間が出てくる割に、人物が書き割りでしかないのが『ダ・ヴィンチ・コード』だな。暗殺者に外貌にかかわる先天異常がある、ってのも、安易すぎるし。
まあ、かかえてる謎の割に、謎解きに関わる登場人物があまり賢くなさそうに見えるのが、この小説の一番の欠点だ。全然説得力ないんだもん。

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