違うシリーズになって三作目 パトリシア・コーンウェル『神の手』上下 講談社文庫
毎年年末恒例のパトリシア・コーンウェル検屍官シリーズの14作目なのだが、発売後すぐ入手したのに、車の中に放置してたので、やっと手に取った。
検屍官シリーズは、第12作目の『黒蠅』から、違うシリーズになった、と考えた方がイイ。
その点については、2003年12月に書いた。
『黒蠅 上・下』 パトリシア・コーンウェル 相原真理子訳 講談社文庫
http://d.hatena.ne.jp/iori3/20031230/p1
ともかくも、初期の設定では
1980年 ケイ・スカーペッター 40歳 ルーシー 10歳
だったのだ。これで行くと、『神の手』は2005年の事件だから
ケイ 65歳 ルーシー 35歳
なんだけど、『黒蠅』で年齢変更しちゃったからなあ。
以前の年齢設定については、こちらで確認を。
*GCB* 検屍官シリーズ年表
http://www.geocities.co.jp/Technopolis-Mars/2221/cornwell/memorial.htm
ベントンは生き返っちゃうし、ケイの一人称から、三人称の叙述に変えちゃうし、
同じ作者によって書かれているパラレルワールドの『検屍官』シリーズ
ということになる。よほどドル箱を失うのが怖いのだろう。
内容は、まあ、例によってご都合主義だは、整合性は取れてないは、マリーノはいつの間にかハーレー乗りの渋いオヤジに変身してるは、「多重人格の犯人」を持ってくるは、と何でもあり。そもそも
スーパーハッカーという設定のルーシーが一年もパスワード変更してない
とか
ハッキングに気づかない
なんてことはあり得ないわけで、要するに
コーンウェルが自分んとこのマシンのパスワード変更と勘違いしてるんじゃね?
な訳だ。たぶん
下垂体腫瘍でやる気がなくて
とか、つまらん理屈をつけるのかも知れないが、そんな管理者おかしいってば。だから
情報がジョーにダダ漏れになってる
ってのは、その話自体成立しないくらい甘い。
多重人格者を犯人にするって、なんか、
ダニエル・キイスの多重人格もの(『アルジャーノンに花束』は厳密に言えば多重人格とはちょっと違うかも知れないが、類似の設定)
がバカ売れしたので、そっちへ行きたいのかしら。全然こなれてない。多重人格の犯人の「モノローグ」部分は読んでいて、
お前はメアリー・ウォーカーか!
とか思ってしまった。『凍りつく骨』とか『神の名のもとに』とかね。
ま、科学捜査が世に知られてなかった16年前に始まった検屍官シリーズは、それなりに意義があった。いまや、日本のテレビドラマで、鑑識ネタは当たり前に出てくる時代だ。検屍官シリーズがネタを持たせていた
目新しい症例
というのも、みんながよく知ってたりするくらい、新鮮味は薄れている。ならばどうするか、というと、パトリシア・コーンウェルは
脳科学
に行くらしい。って、危ないような気がするな。ということは
これからはベントンがより重要性を増す
か?
しかし、講談社、どうした? 相原さんの訳がひどい。てか、今回はテクニカルアドバイザーつけてないんじゃないの?くらいひどい。日本語だけ読んでもおかしい、って思うんだから、どうなってんの? 術語の訳はきっちり出す、ってのが検屍官シリーズの良心だったと思うんだけど、担当編集者が変わった? もの凄く投げやり。
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