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2006-10-24

「お産の取り扱いを止めます」 70年の伝統を持つ新潟県妙高市けいなん総合病院の決断 「一人医長では安全なお産はできない」

大淀病院のような
 一人産婦人科医長
の体制では、難しいお産があったときに、母子の命を救えない事例が起きる。

全国には、似たような
 一人産婦人科医長体制の地方病院
が多数あるのだが、その一つ
 新潟県妙高市けいなん総合病院
は、
 今年八月、お産の取り扱いを止める決断
を下した。
病院のサイトより。


産婦人科の診療方針の変更について(お知らせ)


平素より、当院の運営に際して、患者様並びに地域の皆様より多大なるご理解とご協力を賜りまして深く感謝申し上げます。
さて、本年4月7日開催の日本産婦人科学会・産婦人科医療提供体制検討委員会において『ハイリスク妊娠・分娩を取り扱う公立・公的病院は、3名以上の産婦人科に専任する医師が常に勤務していることを原則とする』との緊急提言がなされました。それを受けて、当院産科のあり方について検討した結果、通常の分娩においても、妊婦のリスクを最小限に迎えるためには、常時、複数の産婦人科医師の体制下での分娩が望ましいとの結論に達しました。
ついては、以下のとおり診療方針の変更をいたします。
平成18年9月末をもって、当院で実施しておりました分娩の取り扱いにつきまして、中止させていただく事といたします。(妊婦健診等、産前産後の管理は、従来通り継続して行います。)また、分娩については、系統の上越総合病院をはじめ患者様の希望の病院・医院への紹介をいたします。
長年にわたり産科(分娩)をご利用いただきましたことについて、職員一同、心より深く感謝申し上げます。何卒、地域の皆様のご理解とご協力の程よろしくお願い申し上げます。

平成18年8月吉日 けいなん総合病院長


英断といえよう。

けいなん総合病院は、昭和13年開設で、開設当時から産婦人科はあったから、70年の伝統のある産科でのお産取り扱いを止めたことになる。

けいなん総合病院が紹介するといっている

 上越総合病院の産婦人科外来

http://joetsu-hp.jp/kanja/g-tantoui.htm

は、常勤担当医が三人おり、上記の

 ハイリスク妊娠・分娩を取り扱う公立・公的病院は、3名以上の産婦人科に専任する医師が常に勤務していることを原則とする

という条件を満たしている。上越総合病院は、院長の言によれば、

院長 外山 譲二

 当院は新潟県の上越市という所にあります。平成18年4月に北陸道上越インターより車で3分の場所へ新築移転したばかりの地域急性期中核病院です。急性期医療、亜急性期、療養期、リハビリテーション、在宅医療そして健診センターと急性期から予防医学までを網羅しており、地域の方々がいつまでも健やで安心な毎日をお送りいただけるよう高度医療提供体制を充実させております。


という地域急性期中核病院だ。高リスク妊婦であれば、ここにかかるのが適当だろうな。

しかし、
 一人産婦人科医長体制の地方病院
は、
 医長が奴隷奉公自慢
をしていても、始まらない。その労働条件がすでに
 良質な産科医療を提供するのには不適当
なのだから、是非、全国の一人産婦人科医長体制の地方病院が、けいなん総合病院の英断に続いて、分娩の取り扱いを止めるか、常勤医を増やして三人体制になることを望む。もちろん前提として、
 高リスク妊婦の管理・出産を受けられるマンパワーがある中核病院が存在する
のが条件だ。大淀病院の事例のような難しいお産は、産科医三人体制でもフォローできない。

そもそも
 厚労省が定義する高齢初産が35歳以上
になったとしても
 人間の生物学的カレンダーが、政府の都合で、5歳遅くなるわけではない
のだ。いくら見た目が若かろうとも、30を過ぎれば、産道は固くなるから、お産は重くなるだろう。性成熟の観点からすれば、25歳前後に初産を済ませておくのが、生き物としての人間のサイクルには、一番合致するのではないか。
晩婚化で得たのは
 長い独身生活の自由
かも知れないが、一方で
 お産のリスクの昂進
も、獲得してしまった。
30過ぎて結婚、
 しばらくは子どもを作らない
というカップルは少なくない。しかし、実は
 35歳以降は妊娠・出産での母子のリスクがより高まるし、かつ妊娠しにくくなる
という
 生物学的カレンダー
を忘れていることも多く、いざ、
 子どもが欲しい
と思ったときに足元を掬われてしまう。
 人間は生物なのだ
という、ごく当たり前のことを忘れていると
 なんでもかんでも医者の責任
にしてしまうのではないか。ちなみに
 35歳で不妊治療を始めたとしても、妊娠に成功するカップルは1/3程度
だとも言われている。
 不妊治療で妊娠に成功
するためには、
 30代で結婚した夫婦なら、一年経っても妊娠しなければ治療開始
が原則である。なおかつ
 妊娠に成功しても、胎児にリスクが高まるのは35歳以上の妊婦
なのだ。
それに、35歳過ぎると、若い頃ほど体力はない。慣れない赤ん坊との生活で、育児ノイローゼになるのは、これまで自分のために自由に時間を使ってきた高齢の母親にも少なくないのだ。二時間おきに授乳しなければならない、生まれたての一ヶ月間で音を上げる母親がいるのも残念ながら事実だ。実際は、それを乗り越えられれば、かなり楽になるのではあるが。

晩婚化で増えている
 高リスク妊婦
である、ということは、
 無事に生まれたら、それは幸せ
ということだ。授かった命を大切にしたいならば、
 難しいお産に対応できる病院で管理する
のが適当だろう。晩婚化と産科医の減少で、
 どこで子どもを無事に産めるか
というあたりを勘案して、人生設計をしなければいけない時代になっているのである。

その意味では、アカデミックカップル(夫婦どちらかもしくは双方が研究者。大学の研究者だと、勤務先を好きに選べないし、別居婚が普通)の出産・育児事情は、最低に近いな。以前は、修士で結婚出産なんて言われてたけど、大学院が拡充されて、博士を取るのが必須になった今、よほどうまくスケジュールを立てないと、
 家族の支援なしの高齢初産・子育て一直線
である。両親が若ければ手伝ってもくれるだろうが、全部現役(飛び級を除く)でも学位取得は27歳。その後すぐに就職できるわけでもないから、うかうかしてると30は超えてしまう。女性の場合、結婚してると就職が遅れるから、普通は就職が決まるまで待つ。
さて、結婚して妊娠すると、その時、親の方は、孫の面倒を見てくれるどころか、介護が必要な状況かもしれないのだ。
くわえて、どこで産むか。実家や配偶者の住んでいるところに、「高齢妊婦の里帰り出産」受け入れ可能な産科があればいいが、昨今の産科不足で、早期の出産予約の妊婦以外はお断り、というところだって少なくない。勤務地で産むにしても、妊娠に気がつくのが遅ければ、出産の予約を取るのだって難しいし、医者は高学歴・高齢の妊婦はあまり好きじゃないかも知れない。医者の言うことを聞かなかったりするし、しかも高リスク妊婦だ。「文句ばかり言って、リスクの高い妊婦」は、現場では嫌われる。その上で、もし、何か起きたら、絶対に訴訟するだろう、と病院側も身構えるだろうしな。安産が一番だが、そうでなかったときのリスクは常に考えなくてはいけない。もし、万が一、子どもや自分に何か重大な問題が起きた場合、自分のアカデミックキャリアをどうするか、という選択を迫られることだってあるだろう。
博士号を取るような高学歴の女性には、妊娠・出産・子育ては難しい世の中になっている。

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