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2006-11-05

「マスコミたらい回し」とは? (その32) 大淀病院産婦死亡事例を報道するなら、この表をよく分析してからにしてくれ 人間は生物なのだ

大淀病院産婦死亡事例が稀な例だ、というのは、以下に示す
厚生統計要覧 第2−18表 妊産婦死亡数・妊産婦死亡率(出産10万対),死因別
http://wwwdbtk.mhlw.go.jp/toukei/youran/data17k/2-18.xls
からも読み取ることが出来る。
厚労省製作のExcelの表をイメージにして下にアップしてみた。

Photo

平成14-16年度の
 妊産婦死亡数・妊産婦死亡率(出産10万対)、死因別
という表なのだが、全国で出産が元で亡くなった女性は
 平成14年 84人(10万人に7.1人)
 平成15年 69人(10万人に6.0人)
 平成16年 49人(10万人に4.3人)
で、極めて少ない。今回の大淀病院産婦死亡事例は、子癇発作の後に脳内出血かと言われているのだが、
 子癇による死亡例は平成16年で6例
なのである。もし、子癇で亡くなられていたとしても、稀かつ不幸な事例という他はないのだ。

で、母体死亡が起きた場合、かなりの確率で訴訟になると思われる。これだけ産婦の死亡例が少なくなっていると
 母体死亡は医療ミス
と考えたい遺族の気持ちは分からないではないのだが、この統計に出る死因を見る限り
 残念ながら、死にいたる稀かつ不幸な事例
である。例えば、分娩時の大量出血は
 普通の傷病では、なかなか経験しないほどの大量出血が、突然、短時間に起こる
のが特徴で、そうした危機的な状況で、産科の先生達は、もの凄い速度で帝王切開を行い、なんとか母子共に助けようとするのだ。事前に発生が予知できず、極めて稀な症例である羊水塞栓症なら、母体死亡率は60-80%、赤ちゃんも半分は助からないと言われている。

産科の大量出血が、特に
 不妊で高齢の産婦が、他人の卵子を提供してもらって出産する場合に頻発する
ことが、今朝の朝日新聞で報じられた。


卵子提供受けた高齢出産 大量出血など事例続出
2006年11月05日09時24分

 海外で他人から提供された卵子と夫の精子を使った体外受精によって妊娠した40〜50代の女性で、帰国後の出産時に大量出血や子宮摘出など重大なトラブルが起きていることが分かった。学会や専門誌で報告された。卵子提供は卵子が若く妊娠しやすいとされるが、高齢の母体で子宮などが対応できていないことも考えられ、医師らは注意を呼びかけている。


卵子提供と代理出産
http://www.asahi.com/life/update/1104/image/TKY200611040303.jpg
 日本産科婦人科学会は卵子提供を認めていない。海外で受ける人が増えていると見られるが、実態は分かっていない。

 慶応大の久慈直昭講師(産婦人科)らは、米国での卵子提供で双子を妊娠した41歳の女性で、帝王切開後の異常出血が止まらず、7リットルを超える大量輸血が必要になったと報告した。

 慶応大病院では過去4人の妊婦から米国で卵子提供を受けたと申告があった。3人が出産に至ったが、やはり双子を妊娠した50歳の女性も帝王切開手術の後で子宮からの出血が止まらず、子宮を摘出せざるを得なくなった。出血が著しかった2人に妊娠高血圧症などの合併症はなく、普通の妊娠・出産では考えられない出血だったという。

 一方、日赤医療センター(東京都渋谷区)は、閉経後に米国で卵子提供を受けた57歳の帝王切開で8リットルを超える出血を経験。女性は集中治療室で1週間の治療を受けたのち退院したと報告した。

 米生殖医学会は指針で卵子提供者は21〜34歳が望ましいとしており、日本のあっせん業者もインターネットなどで「提供者は20代」と紹介する例が多い。久慈さんは「子宮と卵子の年齢差が予想外の合併症を起こしているのかも知れない。他人の卵子と精子による受精卵への免疫反応が原因との説もある。卵子提供は、医師に隠さず伝えてほしい」と言う。

 また日赤医療センターの杉本充弘・産科部長は「一般的な出産の出血は0.5リットル。中小規模の病院では8リットルを超す輸血は間に合わない。50代以降の妊娠は技術的には可能でも、生命にかかわる事態となり得ることをよく考えるべきだ」と言っている。

ああ、記事になってる例は
 慶應病院と日赤医療センターだから、7-8リットルという大出血でも輸血の手当てがついた
という幸運な例だ。もし、この産婦さんたちが、特殊な血液型だったり、あるいはもっと小規模で設備の整っていない病院で出産したら、たぶん、助かっていなかっただろう。
しかし
 前兆がまったくなく大出血
というのは、お産でもっとも恐い上に、時々起こるのだけれども(そのため、ちゃんとした病院なら、分娩室に入る前に輸血用の針を事前に刺して、血管を確保する)、
 高齢かつ他人の卵子提供による出産はかなりのリスクがある
ということを、もっとちゃんとアナウンスしないといけないのではないか。どうも、世の中のヒトは
 お産では死ぬことはない
と思いこんでいるようだ。
それに、
 40-50代で出産
ってだけで、
 出産だけでかなりしんどく、これに子育てがプラスされるのだから、かなりの負担
なのだが、
 なおかつ大量の失血があって、輸血を受けた後
なんで、母体へのダメージは相当だと思われる。果たして
 大量出血したこの高齢のおかあさんたちは、無事に子育てが出来る健康状態に戻ったのかどうか
が気になるところだ。

高齢出産は、初産でなくても、様々なリスクを抱える。母体はもちろんのこと、せっかく生まれてきた赤ちゃんが、重い先天的な病気だったり、すぐに発病しなくても、乳児期に重い病気になったりするのは、高齢の母親から生まれた子どもでは、増えるのではないか。
難病の子どもを救う募金でも、母親の出産年齢が35歳を過ぎている例が散見される。昔の35歳と今の35歳の違いは
 訳の分からない大量・多種の化学物質に生まれたときから晒されて育ってきた
点にある。母体の化学汚染は昔よりひどいと思うし、出産年齢があがると、蓄積されたそうした汚染物質が、もっともプリミティブな生殖に大きな打撃を与えるのではないか、という不安がある。これはまだ追試できない段階なので、
 なんとなく変
というあたりで留まっているが、100年くらいすると、たぶん化学物質の人間の生殖への影響が、どの程度の深刻さだったのかが、判明するだろう。判明したところで、その時は遅いのだが。有機水銀中毒では、胎児性水俣病が、
 母体ではなく、直接胎児に汚染が濃縮された
例として知られているが、今の化学物質汚染は、原因物質が複合的すぎて、容易な分析は不可能だ。

さて、高齢出産でやっと生まれた子どもが重い病気になった場合、せっかく授かった子どもだからと親は必死になるのだが、子どもの側からすると、生まれてからずっと病院に入れられ、手術に次ぐ手術、しかも余命がそれほど長くないとなると、子ども達の人生は、本当にそれで楽しかったのかどうか。1歳半から5歳までの間に数度、都合数ヶ月、眼科に入院した経験から言っても、小児科病棟の重い病気の子ども達は、本当に気の毒なのだ。親は必死に看病してるからいいけど、子どもって
 どんなに悲惨な状況でも、けなげに周りの大人に合わせてしまう
のだ。大人は
 ああ、子どものためにしてあげた
と信じ込むのだが、かつての小児患者の立場から言わせて貰うと、それって大人の自己満足の部分が凄く大きい。「我が子は天使になった」と大人が言うのは勝手だが、天使にならざるを得なかった子ども達は、本当にかわいそうなのだ。自分の意志で闘病する訳じゃないからねえ。それに、小さいときから入院せざるを得ない子ども達は、たいてい
 プロの患者
である。周りは大人ばかり、いかに
 病院の看護師さんや先生、食事をもってきてくれる職員の人達に気に入って貰うか
という心配りを、知らず知らずに身につけている。自分の欲求よりも
 自分の病気のために働いてくれる人の欲求を優先する
ように、うんと小さな時から慣らされてしまうのである。だから
 天使になった
と言われると、なんとも返事のしようがないのだ。簡単に言うと
 天使にならざるを得なかった
というのが、小児患者の実像だと思う。

今考えると、あの子はどうしてるだろう、という子がいる。
入院しているとき、風邪など引くと、すぐに小児科に連れて行かれるのだが、ほっぺたに掌くらいの大きな黒いあざのある男の子が来ていて、看護師さんに
 ○○ちゃんっていうの。遊んであげてね
と紹介されたことがある。その後、何回か外来で顔を合わせた。
あの子のあの黒く盛り上がったあざは、ひょっとしたら悪性のものだったのではないか、と今にして思うのだ。
あざがある以外は、ごく普通の子で、色白でふっくらした、ちょっと甘えん坊の男の子だった。もし、悪性の腫瘍だったのだとしたら、あの後それほど長生きできなかったのではないか、と思うと、胸が詰まる。それもあって、看護師さんが友達を増やしてあげようとしたのかも知れないな。
わたしの入院していた病院では、小児科病棟は割に近くにあったが、重症患者の病室で命が危機にさらされると、人の出入りが激しくなるのでなんとなくわかった。その後その子達がどうなったか、周りの大人達はなるべくわたしたちの前では口にはしなかったけれども。

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