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2006-11-24

地方病院勤務で夜勤明けに交通事故で逝った友

昔話をする。
ゴールデンウィークの最中、京都で学生生活を送っていたわたしは、中高と同級生だった友人のことをふと思い出していた。いつも名前で呼んでいた。ここではTちゃんとしておく。
それから二時間もしないうちに、北海道の公立医大の救急部で修行中の旧友Mから電話が掛かってきた。
 Tちゃんが亡くなったぞ。そっちの新聞には載らないだろうから、お前に知らせてやろうと思って。
あまりのことに、言葉が出なかった。

Tちゃんはその頃、医局から、道内の地方病院に派遣されていた。夜勤明けで、同僚と一緒に車に乗って帰る途中、事故を起こしたのだという。さっき、Tちゃんのことを思い出したのは、虫の知らせという奴だったのか。
 搬送されたときは、もう心肺停止状態だったそうだ。
Mが手短に状況を話してくれた。運転していたのはTちゃん、北海道の地方ではよく見かける、ほぼ一直線の道の、信号のある交差点(信号のない交差点もたくさんある)で事故を起こした。赤信号で突っ込んだらしい。
助手席に座っていた同僚の先生は骨盤を骨折、後遺症で手術が出来ない身体になったとは、あとで聞いた。手術が出来ないと困る診療科の先生だった。

Tちゃんは、個人開業医の息子だった。お兄ちゃんも、医師になったはずだ。地元の大学に進み、学生生活をエンジョイしつつ、子どもの頃からの目標だった医師になった。一度、クラーク会館で本を読んでいたら、Tちゃんが前を通り過ぎたことがある。その時は、もうTちゃんは医局に入っていて、クラブ活動からは引退してたのだが、後輩の指導に駆り出されたところだったらしい。向こうから声を掛けてくれた。
いつものように屈託のない笑顔だったのを覚えている。

今にして思えば、事故を起こした日、Tちゃんはおそらく36時間とか48時間とか、人間が通常の意識でベストを尽くすには辛い長時間勤務を終えて、宿舎に帰るところだったのだろう。まだ20代後半、地方病院では下っ端である。連休中の宿直付き長時間勤務は、若手に割り振られることが多い。
Mは
 居眠り運転だった可能性が高い
と教えてくれた。北海道の長い直線の続く広い舗装道路は、眠りを誘う。そうでなくても、睡眠を削って、病院で勤務をしていたTちゃんが、ふと睡魔に襲われただろうことは、想像に難くない。

イイ奴は早死にする、とは言うが、Tちゃんは、あまりにも早く逝きすぎた。それも、恐らく
 労働基準法違反の長時間勤務がもたらした過労が引き金になった交通事故
によって。
新聞のベタ記事にしかならなかっただろうTちゃんの死は、医療問題を考えるとき、ずっと心の奥にある。

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コメント

先日は、書きませんでしたが、いつかの「シリーズ-18」で「202」で紹介して頂いた医師です。開業医ですが、昨年8月に採用した看護師A子さんが働いていたのは15年ほど前に、Eグループに買収されたF病院のICUでした。人手が足りず、いつも過重な労働になっていて、交通事故も何回か起こしたそうで、採用したときは、ぶつかっても大丈夫なように?でかい車に乗っていました(今もです)。辞めたいと何度か辞表を出したそうですが、その度に「残った人に余計に荷重がかかる」と引き留められ、辞めるまでに8ヶ月ほどかかったと言っていました。最初は、顔つきが険しかったのですが、2~3ヶ月経つと徐々に柔和になり、結婚すると言い出しました。先日、結婚式をしたのですが、夫側の列席者の大部分が、A子さんが当院に就職してから顔つきが変わったと感じたと述懐していました。忙しさは人の心をむしばみます。

私も働き中毒では他の追随を許さないほど働いていましたが、忙しさが尋常でなかったので、「このまま歩めば精神も肉体もぼろぼろになる」と悟り、開業しましたので、職員にはゆったり働けるように配慮しています。もちろん私も今はゆったり仕事をしています。A子さん以外は全員2人の子持ちで、A子さんも「結婚しない」と決めていたのだそうですが、「みんなが幸せそうだから、結婚する気になった」そうです。

お亡くなりになったご友人には心から哀悼の意を表します。

投稿: tera2005 | 2006-11-24 14:03

tera2005先生、コメントありがとうございます。
医療現場の労働環境は、なかなか改善されません。友人が亡くなってからかなり経つのですが、地方公立病院などでは更にひどいことになっているのでは、と憂慮しています。イイ奴だったので、休日駆け込んでくる患者さんや入院している患者さんへの対応に身を削った結果の交通事故だったのではと思ってます。
医師の労働条件については、国会議員の同情が得られにくいのではと思います。議員先生方はそれこそ
 日に夜を継いでの労働超過が当たり前
なのでね。マスコミも過重労働の職場ですが、たぶん議員先生の方が凄いでしょう。そうした
 働き中毒の人達が、倫理観や宗教観のない状態で、生殺与奪の力を持っている
のが、日本の医療をめぐる悲劇ではないかと思います。無宗教状態である日本は、
 奉仕が基盤にある労働に対する共感
が不足しています。

投稿: iori3 | 2006-11-24 14:20

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