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2007-03-01

全国の産科・外科崩壊か 「1時間以内に帝王切開できない産科は過失あり」と横浜地裁 常勤麻酔医がいても、1時間以内に帝王切開が開始できる産科は日本に果たしていくつあるのか?→追記あり

昨日、多くの産科を置く病院にとって、衝撃的な判決が神奈川県で下された。
 帝王切開決定から施術までに1時間以上を要したので、子どもが仮死状態で生まれ脳性麻痺になった
と司法が判断、一億四千万円の損害賠償が認められたからだ。これは
 麻酔医が常駐してない病院では、帝王切開を行うことは難しい
ことを意味する。昨年の大淀病院産婦死亡事例でも明らかになったが
 大淀病院には常駐の麻酔医がいなかった(常勤の放射線技師もいなかった)
のだ。麻酔医が常駐してない病院は少なくない。今後、
 麻酔医が常駐していない病院では、緊急帝王切開を行わず、他院に搬送依頼
するだろう。しかし
 30分以内に他院に搬送が済み、すぐに手術を始められるような病院
は、日本にいったいいくつあるのだ?
もし、常勤の麻酔医がいたとしても
 他の手術にかかっていれば、手が空いてないこともある
のだ。はっきり言って
 日本全国の妊産婦と新生児の周産期死亡率を上げるだけの判決
だとしか思えない。
 出産では何が起こるかわからない
からだ。
 最後に治療を施した医師や病院が責任を問われるのであれば、誰も最後の医師にはなりたくない
だろう。
毎日より。


大和市立病院損賠訴訟:出産後に障害、市に1億4250万円命令−−地裁 /神奈川

 ◇担当医の過失認める
 大和市立病院(大和市深見西)で97年に仮死状態で生まれた男児(10)=東京都町田市=が手足のまひなど重い障害を負ったのは、同病院の担当医師が適切な時期に帝王切開しなかったためとして、男児と両親が大和市を相手取り損害賠償を求めていた訴訟で、横浜地裁は28日、同市に計約1億4250万円の支払いを命じる判決を言い渡した。三木勇次裁判長は「担当医は速やかに帝王切開の準備を始めなかった」と過失を認めた。
 判決によると、母親は97年2月24日午後9時ごろ、胎児の心拍数が一時的に低下する症状が表れ始め、同40分にも再発したため担当医師が帝王切開を決定。午後11時ごろ、帝王切開で男児が生まれたが、手足のまひや発達遅滞の後遺症が出た。
 三木裁判長は「午後9時ごろには既に胎児の心拍数が一時的に低下する症状がみられ、帝王切開の準備を始めるべきだった」と指摘。さらに「帝王切開決定から実施まで約1時間16分要し、遅きに失した」と述べた。【伊藤直孝】

 ◇大宮院長が控訴の意向
 大和市立病院の大宮東生院長は記者会見して「障害を負っていることは誠に残念だが、可能な限り適切な処置を行った。過失は無く、脳性まひとの因果関係もない」と述べ、控訴する意向を示した。【長真一】
毎日新聞 2007年3月1日

お子さんには気の毒だが、脳性麻痺と出生時の低酸素状態との因果関係は未だ解明されていない。
(追記 17:50)
 脳性麻痺と新生児脳症 最新の病因・病態
http://www.medicalview.co.jp/catalog/ISBN4-7583-0519-6.html
一部引用する。


 15,6年前には米国でも幼児期,小児期の脳性麻痺は分娩中のasphyxiaとして敗訴になる率が今の日本と同様であったそうで,彼等の優れていたのは見事に事実に挑戦したところにある。新生児脳症とその一型である低酸素性虚血性脳症は正期産および正期産に近い児において多数の病因をもって定義され,前,後者とも脳性麻痺になったりならなかったりするが,後者が後に脳性麻痺になるには必ず新生児脳症の段階を経過しなければならない事実を見出している。脳性麻痺(CP)は分娩中の低酸素症の結果として敗訴になるケースが多いが,新生児脳症のたった19%が該当するのみで,さらに10%のみが分娩中低酸素症を伴うと思われるのみという統計も出している。
 優れた産婦人科医であり法律家である奥山通雄氏は大阪府医師会医事紛争特別委員会委員として,20年ごとに産婦人科医事紛争を分析し統計を出しておられる。新著『産婦人科医事紛争の症例に学ぶ』(昭和58年〜平成10年,500余例の集計)が本書と同じ頃出版になる。まさに紛争の大河ドラマを見るようであるが,「新生児の項をみると,多胎妊娠,discordant twinが増加し,殊に新生児にかかわる事件234件中108例と約半数に近いのが脳性麻痺で,分娩時のasphyxiaによるものは外国文献上10〜20%であるはずなのに敗訴になってしまうものが多い。CPになったからには産科医側に原因があったに違いないと訴えられる。正確なasphyxia診断を誤らないことが大切」と強調されている。さらに事件の中で医師側に過失の認められるケースは約30%,過失のないのにトラブルになっているケースが約45%で,医師側の対応の悪さに警告を発しておられる。こうした配慮の必要なのは我が国だけではないはずである。原告,被告,裁判官,弁護士,誰もが科学的知識をもてば,不幸な争いはぐんと減るに違いない。

このような精査に基づいての判決かどうか、はなはだ心許ない。
(追記おわり)
麻酔医がいない病院で、1時間少しで帝王切開が行えたのは、実は大変迅速な措置であったのではないかと思う。その懸命の努力をも
 時間がかかりすぎて、脳性麻痺になった
と断じる判決は、果たして医学的なレファレンスをどこに置いたのか、疑問が残る。
 裁判官は医学を知っていて、これまでの低酸素状態と脳性麻痺との因果関係の有無に関する医学論文を博捜した上で、この判決を出したのか
と。そして、
 この判決によって、全国の麻酔医が常駐してない産科では、以後、訴訟回避のために、帝王切開適用事例は他院搬送が当然
になるだろう。麻酔医が常駐してなければ、
 1時間以内に施術できない
のだから、この判断が間違っているとはいえない。

出産は親にも子にも高負担の、命がけの営みである。無事生まれることが尊いからこそ、
 母子共に健康
という知らせが重要視されていたのだ。
子どもが何らかの障碍を負うことは、不運ではあるが、すべてが
 出産時の医療ミスに起因する
訳ではないのだ。むしろ、
 原因不明
であるほうが多いだろう。医学が進歩したとはいえ、まだ人間の身体について、人間はすべてを知っているわけではないのである。そのことを、司法は肝に銘じていただきたい。
 人間は機械ではない
のだし、医師は
 機械である人間を修理するエンジニア
でもないのだ。
 治療をすれば元通りになる
という思いこみは、
 人間は機械
だと漠然と信じているからではないか。加えて
 日本中どこでも最高の治療を受けられる
という幻想も捨てていただきたい。最高のスタッフがそろった病院ならば、可能なことでも、そんな
 すばらしい設備とスタッフを備えた病院
は、日本では実に少ない。今回示された司法の「基準」に満たない病院の方が、圧倒的に多く、そうした病院がこれまで
 日本の産科を支えてきた
のだが、今後、この判決によって
 産科から撤退する病院
が一層増えることだろう。同時に
 麻酔医は常に不足
しており、
 病院間の「麻酔医獲得」競争に敗れ、適切な人数の麻酔医を得られなかった診療科の縮小を招く
のは目に見えている。つまりは
 産科ドミノ倒し
だけでなく
 産科・外科ドミノ倒し
が、目前に迫っているのである。それほど、今回の司法判断は罪深い。

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