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2007-03-26

16歳の試練 浅田真央@2007 世界フィギュア東京大会→追記あり

わずか0.64点及ばなかった。
フリースケートで133.13点という歴代世界最高スコアを得た浅田真央は、SPとの総合点で0.64点足りず、安藤美姫に優勝を譲った。
スケートの神様は16歳の天才に試練を与えた。
安藤美姫の二人前に演技を終え、すばらしい得点に涙し、結果を待っていた浅田真央は、肩を落として通路を去った。フジテレビの「特設カメラ」が暗い通路に消えていく16歳の姿を一瞬だけ映した。もちろん、思いやりのある取材だとは到底思えない。

今回、浅田真央の敵は「自分」と「マスコミ」だった。
世界選手権初出場の16歳をカメラと取材陣が追いかけ回した。採点競技であるフィギュアスケートでは、選手は氷を離れても、イメージを守らなくてはならない。どんなに体調が悪くても、疲れていても、気分が乗らなくても、カメラをむけられれば、NOとは言えないのだ。
16歳の少女に、大人達が与えたプレッシャーはどれほど重かったことだろう。

今季完成された、と誰もが思っていたSP「ノクターン」。練習では、あれほど飛べていたジャンプで、浅田真央が失敗した。SPでジャンプの取りこぼしは致命的だ。結果は5位。61.32点と、予想外の低い得点だった。優勝候補といわれた浅田真央が表彰台に立つことさえ危うくなった。
SPの1位は、キム・ヨナ。ほぼ完璧な演技で、71.95点という驚異的な得点だった。2位は安藤美姫。トリノ五輪での失敗を糧にした安藤美姫は、ミスなくSPをこなし67.98点。
それでもSP終了後のインタビューで、浅田真央は大会前と同じく
 ノーミスで、200点とって、優勝する
と答えた。200点を取るためには、140点というこれまで誰も出したことのない高得点が必要だ。いくらなんでもそれは無理だろう。
しかし、確かに浅田真央のフリーでのPBは130点を超える。一方、キム・ヨナのPBは120点に満たない。SPでの浅田真央とキム・ヨナの得点差は10.62点。浅田真央がPBを更新すれば、逆転優勝も可能ではあったのだ。

翌日。
フリーでは、何かが起きていた。
氷のコンディションのせいなのか。
 自爆大会
という声があちこちで囁かれる。有力選手がジャンプを失敗し、得点が伸びないのだ。
こうしたイヤな雰囲気は、最終滑走グループにも影響する。

開催国日本に敬意を表して、頭にかんざしを挿し、"SAYURI"でフリーに臨んだ、前日SP3位のヨーロッパ女王コストナーはジャンプが決まらない。
続く、エミリー・ヒューズも、目も当てられないような失敗が続く。
圧倒的な点数でSP首位に立っていたキム・ヨナも、自爆大会の波に飲み込まれる。もともと体力が足りず、フリーでは演技を全うできないとは言われていたのだが、ジャンプで転倒、さらにザヤックルールで最後に飛んだコンビネーションジャンプを認められず、114.19とPBにも及ばない低い得点でフリーを終える。このとき、得点がなかなか出ず、次の演技者浅田真央はかなり待たされた。

チャルダッシュ。
今季の浅田真央は、この曲をフリーに選び、難しいプログラム構成ですべての大会に臨んだ。
 未完のチャルダッシュ
とファンは呼ぶ。難度の高いプログラムを、浅田真央は一度も完璧に滑ったことがないのだ。
今大会に合わせ、浅田真央はプログラム構成は少し簡略にして、アピールしやすく、演技しやすいものにした。
会場は固唾をのんで、浅田真央の演技を見つめた。
最初のジャンプは難しいステップからのトリプルアクセル。浅田真央はいつものように軽々と飛び、着氷を決めた。すばらしい。拍手が地鳴りのようにわき上がる。
次はコンビネーションジャンプ。ダブルアクセルにトリプルトゥーループだったが、両足で着氷してしまった。
だが、二つめのコンビネーションジャンプ、トリプルフリッツ+トリプルループは軽々と決める。
今回サーキュラステップからストレートラインステップに構成を変えた複雑なステップはレベル3判定。
キャメルスピンの入った足換えのコンビネーションスピンはレベル4判定。
ダブルアクセルを決め、高々とトリプルルッツを飛ぶ。
真央ちゃんが笑った。
張り詰めていた会場の雰囲気が一気にゆるんだのは、浅田真央がビールマンの態勢でスパイラルシークエンスに入ったときだった。
スケートの神様に愛されている浅田真央の魅力の一つは、演技中の無垢な笑顔にある。会心の演技をしているときの浅田真央は、神様に愛されている人間だけが許されている、見る者の心を和らげる、光が射しているような笑みを浮かべるのだ。浅田真央のファンは、たぶん、あの笑顔をみたくて、浅田真央の演技を見守るのである。
浅田真央の笑顔は、会場の雰囲気をさらに盛り上げた。会場にいた人の話では、
 みんなが心を合わせて、浅田真央を応援していた
という。他のどの選手にも与えられたことのない、祈るような応援が続いたというのだ。浅田真央の不思議な魅力が、会場の祈りを呼んだのだろう。

浅田真央は、後半の演技を次々決めていく。トリプルフリップを軽々こなし、コンビネーションスピンの後には
 トリプルルッツ+ダブルループ+ダブルループの3連続ジャンプ
が待っていたのだが、最後の体力的に辛い時間帯でも、見事に決めた。
レイバックスピンは速度が足らず、レベル1判定だったが、最後のフライングシットスピンではレベル4を得た。
特筆したいのは、難しい演技要素を浅田真央は
 音楽に乗せてこなしていた
ことだ。チャルダッシュはただの伴奏ではなく、浅田真央はその中の物語を、一つ一つの演技に込めて、氷上に「浅田真央のチャルダッシュ」の世界を展開していた。音楽とスケートの融合。これができていたのは、あとはキム・ヨナだけだったと思う。
音楽の最後、浅田真央は高々と両手を挙げた。笑顔はすぐに涙に変わった。16歳の頬から、涙がリンクにこぼれ落ちた。
これまで背負ってきたものの重さ、辛さから、浅田真央が解き放たれた涙だった。

浅田真央が得た点数は133.13、歴代の最高得点である。この時点で、浅田真央は1位となった。
しかし、結果は、4回転サルコウを止め、安全運転で確実に得点を重ねた安藤美姫に優勝を攫われたのである。一度掌中に収めたと信じていた勝利は、滑り落ちてしまった。
フジが一瞬映した通路に消える浅田真央は、泣き崩れていた。しばらく号泣が続いたという。

浅田真央は何故勝てなかったのか。
ここに採点表がある。


要素/基礎点/GOE/得点
1/3A/7.50/-1.00/6.50
2/2A+3T</4.60/-1.20/3.40

3/3F+3Lo/10.50/0.43/10.93
4/SlSt3/3.10/0.64/3.74
5/CCoSp4/3.50/0.50/4.00
6/2A/3.63 x/1.57/5.20
7/3Lz/6.60 x/0.00/6.60
8/SpSq3/3.10/0.50/3.60
9/3F/6.05 x/1.29/7.34
10/CoSp3/2.50/0.50/3.00
11/3Lz+2Lo+2Lo/9.90 x/0.14/10.04

12/LSp1/1.50/0.50/2.00
13/FSSp4/3.00/0.29/3.29
基礎点総計/63.49/得点合計/65.48

青で示したのが、低い評価に終わった要素である。
0.64点は、こうした要素が改善されれば、克服できる点差だ。
注目してほしいのは、トリプルアクセルの得点だ。6.5点。GOEで-1点となって、減点されている。まだ、浅田真央のトリプルアクセルは完璧でない、と審判団は見ている。
(追記 11:55)
トリプルアクセルの両足着氷で減点された模様だ。
(追記おわり)
伊藤みどり以来、国際大会で成功させたトリプルアクセルだが、実際の得点は、その後に飛んだトリプルルッツの6.6点の方が高かったのである。
トリプルアクセルを更に磨き、スピンの速度を上げるだけで、浅田真央の得点はもっと伸びるだろう。
フリーの世界歴代最高得点を出しても、まだ尚伸び代のある選手が浅田真央なのだ。
それこそが浅田真央の魅力だ。

まだやることはあるよ。
今回、16歳の浅田真央が優勝できなかったのは、スケートの神様のこんな配慮があったのかもしれない。
負けたことは悔しいだろうが悪くない。
浅田真央には次のステップが見えているはずだ。

おまけ。(3/26 7:00)
いま、めざましテレビに浅田真央と安藤美姫が生出演している。
昨日のスタメンからフジが二人を引っ張り回しているが、いくらシーズン最後の試合だったからといって、10代の少女に無理をさせるのはどうなのか。彼女たちはアスリートであって、タレントではないのだ。

続き。(3/26 8:00)
この後とくダネ!にも二人が生出演だって!
小倉におもちゃにされるのか。ヤだな。
早く休ませてやれよ、フジ。
フィギュア選手を骨までしゃぶって、商売するつもりか?

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コメント

このコメント読んで真央を応援する一ファンとして涙が出ました。全く同感です。こんな風に真央ちゃんを応援する人達が大勢いると思うと素直に嬉しい。  大会後…マスコミ達の心無い扱いに腹腸が煮え繰り返る思いでした。 もっと敬意を払うべきだしあるお笑いタレントのあまりに程度の低い質問には開いた口が塞がりませんでした。彼らは類稀な才能を持ちその才能に磨きをかけるべく我々には想像し尽くし難い練習を重ねて私達に夢を与えてくれているのです。ハイエナのように彼らを食い尽くすような真似はどうかやめていただきたい。

投稿: coco | 2007-04-21 13:10

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フィギュアスケート・世界選手権の会場での生観戦レポートです(1ヶ月も経ってしまったが、連休に入ってようやく書く時間ができた)。 ■ 概要: ・日時: 2007年3月23日, 24日 (開催期間は 3月20日〜25日) ・場所: 東京体育館 (東京都渋谷区千駄ヶ谷) ・観戦内容: - 3/23: 女子SP,アイスダンスFD (座席はS席・スタンド1F ジャッジ側) - 3/24: 女子公式練習,女子FS (座席はS席・スタンド1F ジャッジと反対側) ※女子SP・FSのみレポートし... [続きを読む]

受信: 2007-04-29 22:23

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