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2007-03-06

羊水塞栓症で死亡した妊婦の遺族が「医療ミス」で提訴 メディアは「羊水塞栓症」を理解せずにミスリード 産科に病死は認められないのか

メディアの今後の報道姿勢によっては、産科崩壊が一気に進むかも知れないニュースが、昨日、一部地域で報道された。問題は
 メディアが、何がいけないのかを切り分けないで、一方的な取材結果のみで報道を始めた
点にある。医学的な問題を報道するなら、少なくとも
 死因になった病気が、どれだけまれでどれだけ致命的なのか
を理解した上で、報道してほしい。

日本の産婦死亡率は、世界的に見て極めて低いが、不幸にして亡くなる産婦さんはいる。遺族がその割り切れない感情を訴訟という形で問うのは、しょうがない。
とはいえ、
 メディア側がなんの検証もせず、ミスリードする形で報道する
のでは、話にならない。そのあたりの
 報道の暴走
に近いものが、昨日の読売新聞に載った。(webでは確認してない)


高松赤十字病院 「誤診で妊婦死亡」告訴
 遺族近く賠償提訴 死後、カルテ書き換え

 高松市の高松赤十字病院で2005年、出産に備えて入院中だった同市内の女性(当時30歳)が死亡したのは誤診が原因で、死後にカルテも改ざんされたとして、東京都内の遺族が当時の主治医ら医師4人を業務上過失致死容疑で香川県警に告訴していることがわかった。病院は、カルテを書き換えたことは認めているが、「医療行為は適切」としている。遺族は近く、病院側を相手取り、損害賠償請求訴訟を起こす。
 告訴状によると、主治医は04年11月、胎盤が子宮口を完全にふさいでい帝王切開が必要な「全前置胎盤」の疑いと診断。12月20日の検診でも「前置胎盤か」と診断し、カルテに記載した。
 05年1月4日、女性が出血を訴えて受診すると、別の医師2人は自然分娩が可能が「低置胎盤」と診断。2日後、女性は病室で心肺停止状態で発見され、帝王切開で生まれた女児は脳に障害が残った。
 遺族は1月11日、病院に説明を求め、12月20日の検診時のカルテをカメラで撮影。「前置胎盤か」とあったのに、翌12日に見ると、低置胎盤の疑いがあるように書き換えられていた。遺族は、医師らが低置胎盤と誤診し、適切な時期に帝王切開をすべき義務を怠ったと指摘、主治医については「死後に過失を隠蔽するため、カルテを改ざんしたのは許せない」としている。
 病院は、病理解剖の結果、死因は羊水が血管に入ってできた血栓で肺の血管などがつまる「羊水塞栓」と説明。「訂正の仕方は日付を書いてないなど不適切だったが、病院としては低置胎盤と判断している。改ざんではない」としている。

まず、亡くなった妊婦さんに合掌。

ご遺族が病院側に不信を抱いたのは
 カルテが書き換えられた
点にある。その点は理解できる。なぜ、高松赤十字病院は、そんなことをしたのか、遺族に説明を尽くす必要がある。

しかしながら、カルテの書き換えと不幸にして亡くなった妊婦さんの死因の因果関係は、ないのではないか。
今回の死因とされる「羊水塞栓症」は極めてまれで、いつ起きるかわからず、しかも致命的な結果をもたらすことが多い。
詳しくは、以下に。
 ある産婦人科医のひとりごと
 2006/01/19 羊水塞栓症について
http://tyama7.blog.ocn.ne.jp/obgyn/2006/01/post_2ff9.html
一部を引用する。


羊水塞栓症は、8000~30000件の分娩に1回の割合で起こる非常にまれな疾患です。分娩中や分娩直後に、突然、急激に血圧が下がり、呼吸循環状態が悪化してショック状態になるものです。重篤なものは引き続き呼吸停止、心停止となります。非常にまれな疾患ではありますが、もし発症した場合には、致死率は60~80%にも及ぶとされています。事前に発症を予測することは不可能です。

すなわち
 「カルテが改ざんされた」とされる「前置胎盤or低置胎盤という診断」と「死因となった羊水塞栓症」とに因果関係はない
のである。つまり
 死亡原因は「誤診ではない」
のだ。帝王切開の有無は、羊水塞栓症とは関係ないのだ。
そうすると争点は
 なぜ、カルテが書き換えられているのか
ということになるだろう。

しかし、何だって書き換えたんだろう? しかも、書き換えたのが、カルテ開示の後だとすると、疑問が残る。

一般的な話をすれば、
 胎盤は、妊娠中に移動することがある
わけで、
 前置胎盤から低置胎盤になる
ことは、珍しくない。そうすると
 死因と全く関係ない部分でカルテが書き換えられた
ということになるのではないだろうか。これを
 改ざん
と見るか、
 訂正
と見るかは、結局は
 信頼関係が構築されたかどうか
にかかってくると思う。おそらく、この場合は、理由はわからないが、病院側とご遺族の側の信頼関係がうまくいってない。

結局、最後は
 病理解剖の結論が正しかったか否か
ということになるのだが、果たして、警察や司法はどう判断するのだろう。
羊水塞栓症で亡くなったのであれば、残念ながら、手を尽くしても、助からないことの方が多いのだ。

極めてまれな不幸な症例で産婦さんが亡くなり、この場合は、更に不運なことに、お子さんが脳に障碍が残ったので、ご遺族としては、原因を知りたい、という切実な気持ちがあるのはよくわかる。しかしながら、
 病因が不明
ということは、出産に関してはまだまだたくさんあるのも事実だ。
 過失がなくても、産婦や赤ちゃんが亡くなったり、障碍を負ったりすることはある
のだ。

今回の事例は
 カルテが書き換えられているのは事実だが、そのことと死因には因果関係がない
というものである。もし、責任を問われるとすれば、
 死因ではなく、カルテの書き換えの責任
を問われるだろう。

ところが、読売の書き方だと、
 まるで前置胎盤を放置したから羊水塞栓症で死亡した
かのように読める。明らかにミスリードだ。これがテレビになると更にひどい。
瀬戸内海放送。


妊婦が誤診で死亡 病院を告訴
03/05  19:27

2005年、高松赤十字病院で入院中の妊婦が死亡したのは、病院側の誤診が原因で、死後にカルテも改ざんされたとして、遺族が主治医ら4人を刑事告訴していることがわかりました。このうち、当時の主治医は証拠隠滅容疑でも告訴されています。告訴状によると2004年11月、高松赤十字病院受診した妊娠中の女性(30)に対して、主治医は帝王切開が必要な「全前置胎盤」の疑いと診断しました。しかし2カ月後、別の医師2人が自然分娩が可能な「低置胎盤」と診断し、その2日後、女性は病室で心肺停止状態で見つかり、死亡しました。さらに「前置胎盤か」と書かれていたカルテを女性の死後、主治医が「低置胎盤」の疑いがあるように書き換えたとしています。告訴を受けた香川県警は4人の医師や別の専門家から事情を聞くなどの捜査をしていて、近く4人を書類送検する予定です。高松赤十字病院では「捜査中なので一切コメントできない」と話しています。

死因が羊水塞栓症だと一言も書いてない。

岡山放送も同様。


医療ミスで死亡したとして遺族が病院を告訴

高松市の病院で女性が死亡したのは医療ミスが原因で、カルテも改ざんていたとして遺族が当時の主治医らを警察に告訴しました。業務上過失致死傷の疑いで告訴されたのは高松赤十字病院の当時の主治医など医師4人です。主治医はカルテを改ざんした証拠隠滅の疑いでも告訴されています。警察によりますと、遺族は2004年11月に医師4人が当時30歳だった妊娠中の女性に対し、出産には帝王切開が必要だったにもかかわらず、適切な時期にその措置を行わなかったと主張しています。女性は、その後死亡し、遺族が病院側に説明を求めたところ、診断の内容を書いたカルテも改ざんされていた事がわかったという事です。香川県警は遺族からの告訴状を受理し、業務上過失致死傷などの疑いで捜査しています。

これだと完全に「病院がミスを隠蔽した」という犯人扱いだ。

で、もし、
 羊水塞栓症による死亡が原因で、主治医が逮捕されるようなことになれば、「福島県立大野病院事件」に次ぐ大事件
になるのは間違いない。産科から医師が逃げ出し、日本の産科崩壊は一気に進むだろう。多くの医師はカルテの書き換えはしないだろうが、羊水塞栓症なら、死亡率は高いからだ。もし、羊水塞栓症で妊婦さんが亡くなった場合、それが原因で刑事事件になるのであれば、産科を続けるのは、精神的な負担が多すぎる。まれな症例とはいえ、いつ発症するかは誰もわからないのだ。

これまでは周産期における「原因がわからない」不幸な状態は
 病気のせいだ
と納得してきたのだが、この頃は
 病気ではない、過失だ
と見る向きが増えている。
でも、
 まれな例だが、産科で病死することはある
のだ。最近、産科が提訴される例の中には
 明らかに病死なのに、医療ミスを問われる
ものが増えてきているように感じる。おそらく
 お産は病気ではない
という意識が浸透した結果
 周産期の病死はあり得ない
という考え方が出てきてしまったのではないかと思う。
だが、人間は機械ではない。お産で起きた突発的な病気によって、死んだり、障碍を負ったりすることは、残念ながらある。そうした病気は本当に数少なく、急に起こるために、どれほど設備の整った病院であっても、不幸な転帰を迎える場合がある。お気の毒としか、表現しようがないのだ。
 
そうした場合、わだかまりが残るのは、確かに
 医師からの説明がわかりにくい
ということもあるのだろう。一般的に、医師が患者に対して不親切だと感じられる場合、いくつかの複合した原因が考えられる。
1. 一人の医師が多くの患者さんを抱えすぎていて、処理能力を超えている(次の患者さんが待っているから、丁寧に説明する時間もなければ、36時間勤務などの苛酷な勤務状況で、普段ならうまく説明できることが、通り一遍になる)
2. 医師は患者にわかる言葉で説明する、ということを訓練されてない(医師同士の会話では問題ないが、専門的なことを素人である患者に理解できるように説明するのは難しい)
3. 患者の側も、医師の言葉をきちんと聞いてない(医師が確認したことを、聞き流していることもある。何が重要で何が重要でないかが、判断できない)
という互いの問題が原因だろう。

高松赤十字病院の産科は毎年
 年間1000件以上のお産を扱っている、四国最大規模の産科
だということだ。産科外来は現在7人の医師で回しているようだが、産科医若干名を募集している。
http://www1.odn.ne.jp/~aan30530/menu8/menu8_%20bosyuu18_1.html
1000件を7人でというと、単純に計算しても、1人年間
 142件のお産を扱う
ということですが、先生方、大丈夫ですか? 二日に一件は担当のお産があるわけで、帝王切開などが入れば、更に医師の負担は増える。外来は月〜金の毎日開いている。36時間連続労働なんて、していませんか?
24時間体制で周産期医療の管理もしているから、小児科も大変だろう。

もし、誰も刑事被告人にならなくても、この問題が元になって、産科の先生方の内の何人かが職場を去れば、四国の産科は崩壊しますね。その点が、気がかりだ。

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コメント

 お邪魔します。当直(という名の夜勤)明けのぼーっとした頭で拝見しました。最近崩壊への燃料が多すぎます。
 もうここのところは、何をするにも極力起こりうることを説明しています。患者さん側から「こんなの聞いていないよ」と何かあったときに言わせないために。先輩からもそういわれています。患者さんと自分との間で信頼関係が築けたように自分だけ思っていても、家族がこちらに対して常に身構えているようなこともありますからね。
 「先生にお任せします。」ですべてすむならば、これほど楽なことはないのですが、そううまくは行かない。ほんとにいやな世の中です。

投稿: mosriteowner | 2007-03-06 07:06

mosriteowner先生、当直お疲れ様です。
説明を果たしたつもりでもわかってもらえず、それもあって疲れ切り、公立病院から逃散した知人がおります。
いくら説明しても深刻な病状をわかってもらえず、家族の楽観的な対応が致命的な結果を招いて、トラブルになった例も聞いています。
今のような勤務体制ですと、本当にお医者様は大変ですね。お察し申し上げます。

投稿: iori3 | 2007-03-06 07:18

大野事件支援有り難うございます。
医学的な実態はやむを得ないのに、どうして「訂正」したのでしょう?故人・遺族へは同情を禁じえませんが、医者(産科医)の世間知らずぶりをさらけ出しているニュースのようで、残念です。警察・検察への心証は悪いでしょうね?メディアの格好の餌食になってしまいます。徳島でも里帰りの患者さんで
県立病院を訴えて原告が勝訴されている事案があったように思います。旅行や四国出身の知人といった狭い見聞からの一般化ですが、四国の現地の方々と里帰りや転居で長く定住されていない方々とでは、ひとの良さや医療への期待ににギャップがあるのではと思ってしまいました。

投稿: gemba | 2007-03-06 23:31

 現在、妊娠中です。今回のニュースはテレビ報道で知りまし
たが、さらに詳しい内容をと思い、こちらにたどりつきました

 今回の報道で不信感を頂いたのは医療ミス(の疑い?)より
もカルテ改ざん疑惑です。医療ミスかどうかは告訴の段階では
判断しかねますから。羊水塞栓について全く報道されていない
のはかなり疑問です。メディアにはどういう意図があるので
しょうか。

 産科医減少の一因に医療告訴の増加があるとよく言われて
います。私は"医療告訴=悪"だとは思いません。場合によって
は医師が責任を負うべき事例もあるでしょうから。訴える側も
裁判費用などの経済的負担や精神的負担もかなりあると思い
ます。確かに素人目にも言いがかり的な訴えを耳にすることも
ありますが。

 トラブルや疑問があった時、裁判の手前で相談や仲介する
機関があれば医者・患者共に負担が減るのではと思います。
今のままでは、お互いに不信感ばかりがつのりそうで心配です。

投稿: ぴぴ | 2007-03-07 09:58

 九州の産婦人科医です。高松日赤の先生方は多忙の余り,カルテの記載が後手にまわったのでしょう。羊水塞栓が生じた後に,追記してしまったと思われます。私どもの現場でも,若い連中にうるさくカルテ記載を指導していますが,手術・外来。分娩に追われ,毎日のように気がつけばすでに深夜で,カルテ記載の時間の時間がとれないのが実情です。高松日赤は,産科の「縮少・撤退」とならないように,妊婦さんが相当数が瀬戸大橋を渡る事になるかもしれませんが,当分の間だけも分娩・手術を制限し,現状をみつめなおすべきかもしれません。妊婦さんは瀬戸大橋の通行料が無料になればいいですね,また,厚労大臣によれば,徳島は医師が余っているそうですので,徳島から医師を招聘したらいいかもしれません。

投稿: 絶滅危惧石 | 2007-03-08 08:28

絶滅危惧種様

>妊婦さんが相当数が瀬戸大橋を渡る事になるかもしれません

 現実的には厳しいと思います。JR瀬戸大橋線は強風で運休
になることもありますし、特に初期や臨月間近の妊婦の長時間
移動は危険ではないのでしょうか?

 私が通院している産婦人科を始め、産婦人科医の皆様は厳し
い環境の中、がんばっておられると敬服し感謝しています。
地方によっては高額な給料でも産婦人科医が集まらないし、
希望する学生も減っているそうですね。
結局、この状況を回避するのは女性が出産を控えることしか
ないのでしょうか(悲観的な考えですが)。

投稿: ぴぴ | 2007-03-08 09:26

絶滅危惧石 様、徳島の産婦人科医です。まず声を大にして言いたい徳島だって産婦人科医は足りません。県南ではと言うか室戸あたりから徳島市側にはほとんど産婦人科医はございません。官僚様のフィルターのかかった答弁通りでないことをご理解いただきたいです。って、解って書いてますよね。


さてこのたびの事件のように、結果責任だけを問われるのであれば、ご存じの通り我々産婦人科医は年間50名ほど減少していき最終的には助産婦さんによる自然な分娩にのみ頼ることとなります。

早く、医療ミス・医療事故・病死の定義をしっかりしてお互いがよりよい治療を受ける日が来ることを祈ります。


なくなった患者さんの冥福をお祈りすると共に、知っている先生方だけに診療の継続を頑張っていただきたいと思います。

投稿: RD.DR | 2007-03-18 20:49

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