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2007-04-23

不妊治療で生まれてくる「子どもの福祉」という観点

先日、
2007-04-15 不妊クリニックの「製造者責任」 体外受精では自然妊娠より高率で妊娠異常発生 妊婦の異常に対応する産科医は転帰によっては訴訟を起こされるのだが、原因を作った不妊クリニックは責任を取っているのか?
http://iori3.cocolog-nifty.com/tenkannichijo/2007/04/post_628b.html
に、次に様なコメントをgemba先生から頂いた。再掲する。


駐車場の空き待ちのように、NICUやMFICUの余裕ができた時にのみ、登録された施設でARTを行なうという方向にはなってもいいと思います。
とりあえず、現在の産科事情を考えると地域によっては、不妊治療のモラトリアム(一時停止)さえ考慮してもよい状態です。
現在のやり方は「クライアント」の要望を満たすと称して、人間の無限な欲望の肯定に過ぎないように思います。産まれてくる子供の福祉は余り考慮されていないのが実態でしょう。

ARTは人工授精のことだ。
不妊治療を受けているカップルは、日本中でおよそ10組に1組とも言われる。
厚労省の資料では、次のように推計されている。


不妊治療の患者数・治療の種類等について

1. 不妊治療の患者数

  (1)  不妊治療患者数(全体) 466,900人(推計)

  (2)  人工授精 66,000人(推計)

 ※  (1)(2)は、平成14年度厚生労働科学研究費補助金厚生労働科学特別研究「生殖補助医療技術に対する国民の意識に関する研究」(主任研究者:山縣然太朗)において推計された調査時点における患者数。

 
(3)  体外受精 48,944人(実数)

(4)  顕微授精 29,582人(実数)

 ※  (3)(4)は、平成16年の1年間に治療が実施され、日本産科婦人科学会に登録施設から報告された実数。

2. 不妊治療の種類

 (1) 一般的な不妊治療(保険適用)
・ 排卵誘発剤などの薬物療法
・ 卵管疎通障害に対する卵管通気法、卵管形成術
・ 精管機能障害に対する精管形成術

 (2) 生殖補助医療(保険適用外)
(1)  人工授精  (1回あたり平均治療費  1万円)
(2)  体外受精  (1回あたり平均治療費  30万円)
(3)  顕微授精  (1回あたり平均治療費  40万円)
└→   特定不妊治療費助成事業(平成16年度創設)

体外受精、顕微授精の経済的負担の軽減を図るため支給。
 給付額 : 1年度あたり10万円。
 給付期間 : 通算5年(平成18年度改正:従前は通算2年)
 所得制限 : 650万円(夫婦合算の所得ベース。税込みでは約945万円)
 実施主体 : 都道府県、指定都市、中核市
(全都道府県・指定都市・中核市において既に開始済み)
 補助率 : 1/2(負担割合:国1/2、都道府県・指定都市・中核市1/2)

平成16年度支給実績 17,657人

上の数字は
・患者数については、転院した患者をダブルカウントしている可能性があるので、実数はこれよりも少ない
と思うのだが、年間66000人が体外受精を受けているというのは、かなりの数だ。それだけ高額な医療費をかけて、初めての子どもや「二人目不妊」の二人目を目指しているカップルがいる、ということになる。

体外受精については、もっと詳しい統計がある。


体外受精・顕微授精の患者数の推移

(単位:人)
年/体外受精/顕微授精/総数
平成7年/19,523/6,940/26,463
8年/21,121/8,626/29,747
9年/25,934/11,517/37,451
10年/30,297/12,823/43,120
11年/31,867/15,875/47,742
12年/30,837/17,185/48,022
13年/33,225/19,979/53,204
14年/36,779/22,900/59,679
15年/42,131/25,675/67,806
16年/48,944/29,582/78,526
出典: 日本産科婦人科学会 倫理委員会登録・調査小委員会報告

つまり、3年前の平成16年には
 体外受精 48944人
 顕微授精 29582人
 総数 78526人
という数になる。もちろん、これは
 体外受精や顕微授精という治療を受けた人の数
であって
 体外受精や顕微授精で生まれた子どもの数ではない
ことに注意しなくてはいけない。
2003年の統計では
 65人に一人が体外受精で誕生した赤ちゃん
だという。
読売より。


65人に1人「体外受精」で誕生、高齢出産増加も影響

 新生児65人のうち1人は体外受精児——。精子と卵子を体外で受精させて子宮へ戻す「体外受精」によって国内で生まれた子供が、2003年の1年間で過去最高の1万7400人に達したことが、日本産科婦人科学会(武谷雄二理事長)の調査で13日明らかになった。

 調査したのは、同学会に体外受精の実施登録施設として届け出ている590施設。それによると、03年の体外受精による出生児数は1万7400人と、前年より2177人増加した。全出生数(112万3610人)に占める割合は1・5%で、この年に生まれた65人の赤ちゃんのうち1人が体外受精児になる計算だ。

 世界初の体外受精児は1978年に英国で誕生し、国内では83年に東北大が成功した。以来、体外受精は年々増え続け、同学会が調査を始めた86年以来の累積出生数は計11万7589人となった。

 調査を担当した久保春海・東邦大教授(産婦人科)は、「治療1回あたりの妊娠率はそれほど向上しておらず、不妊患者の数が増えた結果だろう。安全に妊娠・出産できる年齢限界は35歳以下ということを認識してほしい」と述べ、体外受精件数を引き上げている高齢出産の増加に警鐘を鳴らしている。

(2005年9月14日 読売新聞)

え〜、2003年というと平成15年かな。そうすると体外受精による出生率は
 17400/67806=0.257
か、25.7%ですね。ということは
 4回に1回程度の成功率
だ。これまでにも体外受精・顕微授精の成功率はだいたい25%前後と言われていたから、妥当な数字だ。しかも、不妊治療期間が短く、若い女性ほど成功しやすい。
上の記事にある
 安全に妊娠・出産できる年齢は35歳以下
という年齢を超えて、不妊治療に当たる人が増えているのだろう。

不妊治療が悪いとは思わない。ただ
 子どもにとって、万全の状態で子どもを宿すことができるかどうか
は、親の責任だと思う。ただ子どもを産むためだけに、不妊治療を続けているのだとしたら、それは、まったく
 子どもの人生を考えていない
のではないか、と悲しくなるのだ。
 できるだけ、子どもが幸せな人生を送れるように、子どもを産む
のが、最低限、親のしてやれることだと思う。母体をできるだけたばこなど有害だとわかっているものから遠ざけること(少なくとも妊娠する1年前くらいから気をつけたい)、体力をつけておくこと(子育ては戦争である。子どもは自分の都合で生きている。親の都合など、二の次だ)の二つは当然だろう。もし、どうしても母親が病気などで子どもを自分でケアできないのなら、ケアをしてくれる人を用意しておかなくてはならない。この世にやってくる子どもが、親の不注意で大きなけが(小さい子の死因の第一位は家庭内の事故だ)を負わないように、親は責任をもって育てなくてはいけない、と、幼稚園に行くまでは、ほとんどケガなく育てられた自分は思う。

たぶん、不妊治療を続けている人たちとわたしの考えの違いはそこにある。不妊治療では、
 子育ての方が大変だ
という実感は薄れる。実際は、子どもという他人を相手に過ごすことは、思った以上に労力を費やす。帝王切開だと、母体の回復が遅れるから、そこでもちょっとしたハンディになるのだが、初めての子どもで、かつ不妊治療で得られた子どもだと、そのあたりのすりあわせがうまくいくだろうか。自然妊娠でもマタニティーブルーはやっかいな問題だ。それが多胎で生まれた二人以上の赤ちゃんだったら、しんどい話になる。
そして、もし、我が子がハンディを負っていたら、それを受け入れられるだろうか。自然妊娠でもハンディのある子どもは生まれるが、不妊治療で生まれた場合、たぶん、親はずっと
 不妊治療が原因で、子どもがハンディを負っているのではないか
と自分を責めたりするだろう。体外受精では、発生過程で人の手が入っているわけで、その影響がほんとうに皆無なのかどうかは未知数だ。

我が家も世間的には不妊カップルだが、そのことをとやかく言うヒトはいないし、たまに聞く人がいると
 あ〜、どう考えても高リスクの妊娠になるのですが、家も実家も産科崩壊地域にあって、最初から受け入れてくれる産科も周産期医療センターもないので、絶対に命に関わるものですから
と答えると、
 それじゃしょうがないね
で済む。

高齢で不妊治療を行っている人には、もう一度
 妊娠リスクスコア
をチェックすることをおすすめする。
診療所、個人病院における「妊娠リスクスコア」の適応評価に関する調査報告
この報告のp.9-10がリスクスコアだ。たとえば
 年齢 15歳以下or35-39歳 1/40歳以上 5
 現在の妊娠について 人工排卵、多発排卵、卵巣切除後排卵、ART(ICSIを含む)長期不妊治療 2
 多胎妊娠 DD双胎1/DD双胎(体重差25%以上) 2/MD MM双胎 3胎以上 5
という点数がつけられている。このリスクスコアでは
 4点以上はハイリスク妊婦
と規定されている。
 35歳以上、不妊治療、多胎妊娠(DD双胎)で4点
だ。すでに産科のマンパワー不足があちこちで明確になり、
 産科崩壊
が進んでいる現在、
 不妊治療で妊娠しても、高リスク妊婦を診てくれる産科は減少している
のが実情だ。不妊クリニックは
 現場の医師がどのくらい残っているかは知らない
のだ。
不妊を解消したいという気持ちはわかるのだが、
 すでに現場は支えきれなくなっている
のである。あなたがかかれる産科は、近所にありますか? まさかと思いますが、品胎(三つ子)だと、今はほとんどの病院が断ります。

この不均衡を解消できないのであれば、gemba先生のご意見のように
 現場のマンパワーに合わせて、体外受精数を制限する
しかないだろう。上のリスクスコアにもあるように、高齢での不妊治療による妊娠は、中〜ハイリスク妊娠になる。不妊クリニックが出産まで面倒を見るのなら、誰も文句は言わない。そうではないから、
 現場が疲弊する事態
が起きているのである。
もし、国が本気で
 不妊治療を支援する
つもりがあるなら、まず
 出産できる施設の数と高リスク妊婦を診られる産科医を増やす
しかないのだが、残念ながら、
 40代の熟達した産科医はどんどん現場から逃散している
のだ。この事態を引き起こしたのは
 不妊クリニックの丸投げ体質
 出産トラブルでの訴訟増加
 まれで不幸な症例を「医療ミス」と医師を悪者にし、不妊治療が「バラ色の家庭」を作るとだけ報道してきたマスコミ
 ことここに至るまで、「医療費削減」の元、医師を痛めつけ、いままた「無資格助産」で、いよいよ市中の産科を閉鎖に追い込んでいる厚労省と南野元法相以下「助産師・看護師」勢力
である。

しかし、子どもを将来持つ、ってことが、若い内は想像できないから、それまでどういう努力をしてきたか、ってことは切り離されちゃうんだけど、
 腰を冷やすな
という昔からの教えは、果たして守られているんだろうか。ローライズで臍出しが当たり前、冬は生足、冷たい床にべったり座るなんて格好で10-20代を過ごした女性が不妊症になったら、たぶん、その子のおばあちゃん達は
 あんたはいうことを聞かないで、腰を冷やす格好ばかりしてたから
と嘆くだろうなあ。この10年くらい、若い女性は下半身が冷える格好ばかりしてたから、不妊率が高くなっても、あまり驚かない。性成熟の途中で、身体に悪いことをしていると、いろんなところに歪みは来るだろう。
少なくとも
 普通に性生活を行っていて、1年経っても妊娠しなければ不妊クリニック受診
は、もっと周知徹底されていい。妊娠の可能性は、年齢が上がれば上がるほど低下する。これからは
 若年不妊の問題(クラミジア感染などSTDの後遺症なども不妊の要因となる)
が、クローズアップされてくるだろう。

クラミジアの話は以下に。
2004-06-14 少子化のもう一つの原因
http://d.hatena.ne.jp/iori3/20040614/p4
2005-08-07 在中国の日本人駐在員、HIVに感染して帰国 妊娠中の妻にクラミジアをうつす夫もいる駐在員の風俗遊び
http://iori3.cocolog-nifty.com/tenkannichijo/2005/08/hiv_c584.html
2006-08-20 クラミジアによる不妊症 「僕が初めての男性だと言っていた妻だったのに」
http://iori3.cocolog-nifty.com/tenkannichijo/2006/08/post_db96.html
 

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