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2007-05-29

産科崩壊 「産婦人科」を標榜する36-60歳の現役医師は全国で5664人 24-35歳の若手医師は2318人(平成16年度) 全員がお産を扱うわけではない

平成16年12月31日現在というから約2年半前の統計で、産婦人科医がどれだけいるかを調べてみた。
出典は
 厚労省平成16年(2004)医師・歯科医師・薬剤師調査の概況の 統計表11 診療科名(主たる)が「小児科」、「産婦人科」・「産科」の医師数、各歳別
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ishi/04/tou11.html
Excel形式でダウンロードできるので、それを加工して調べた。

平成16年12月31日の段階で
 全国で産婦人科を標榜する医師の総数 10594人
 経験を積んだ医師(36-60歳)の数 5664人
 若手医師(24-35歳)の数 2318人
 高齢の医師(61-70歳)の数 1026人
 超高齢の医師(71歳以上)の数 1586人
ということで、いくら
 産婦人科医数は一万人以上
といっても
 イザとなるとき頼りになる36歳〜60歳までの医師の数はその半数に過ぎない
のだ。しかも、これは
 産婦人科を標榜している全医師の数で、この中には「お産を扱わない医師」も含まれている
のである。
年間日本で生まれる赤ちゃんの数は106-108万人だが、上の医師数の1割がお産を扱わないとすれば、
 5000人程度のベテラン医師と2000人程度の若手医師が106-108万人の赤ちゃんを取り上げている
計算になる。すると、単純計算で
 産科医1人当たり年間150件前後のお産を扱っている
ことになるんですが、これで計算合ってますか?
この計算では
 61歳以上の医師を抜いて計算している
ので、もし61-70歳までの高齢の産科医の半分はお産を扱っているものとして計算しなおすと、
 産科医1人当たり年間140件前後のお産を扱っている
勘定になる。
 年間140件
だとすると、
 5日に2回はお産があり、その内何割かは帝王切開など異常分娩
だ。しかもお産は、夜昼関係ない。夜中や明け方のお産だって少なくない。
 どれだけ産科医が苛酷な仕事か
わかる。

次の問題は
 産科医の高齢化
だ。双胎間輸血症候群(TTTS)という難しい双子の先天性疾患がある。この疾患は
 一卵性双生児が、胎盤が一つ、胎児のはいる羊膜腔は二つの「一絨毛二羊膜性双胎(以下MD双胎と略す)」
で、
 10-15%に起きる病気
だ。TTTSは予後の悪い病気なので、まずは
 MD双胎かどうかの膜性診断が必要
だ。しかし、膜性診断は、時期が限られる。
 超音波診断で膜性がわかるのは妊娠12週まで。それ以後だと診断ができなくなる。
のである。つまり
 妊娠3か月までの初期段階で双子と分かったら、膜性の診断も一緒に下しておかないと、MD双胎の10-15%で起きるTTTSによって赤ちゃんが両方ないし片方亡くなる危険性がある
のだ。
最近、不妊治療によって、多胎妊娠が増えているが、
 妊娠三ヶ月までに膜性の診断が下っていないために、お産をする産科では膜性が不明な多胎妊娠
も増えているそうだ。これには
 高齢の産科医が最新の多胎妊娠管理に関する知識を持たず、妊娠早期に超音波診断で膜性の診断をしていないからもあるのではないか
と、知り合いから指摘された。MD双胎かそうでないかは、子どもと母体の予後を大きく左右する重要なファクターなのだけれども、高齢の医師では、TTTSの危険性と膜性診断の重要性に対処できないのではないか、そもそも知らないのではないか、と知り合いは危惧していた。こと医学に関しては、医師は
 年齢高きが故に尊からず
なのだ。医学は日々進歩している。学会にも出ず、症例研究にも興味が無くなった高齢の医師では、おそらく、こうした
 不妊治療による危険性の高い妊娠を診る技術や知識
が欠けている場合は少なくないだろう。10年前の常識が通用しなくなっている。

もう一つの問題は
 上記統計の示す10年後の日本の産科
である。平成16年の段階では
 36-50歳の現役医師の数 3610人
だが、昨年立て続けに起きた三大産科問題
 福島県立大野病院事件
 横浜堀病院無資格助産問題
 大淀病院産婦死亡事例
で、この年代のベテラン医師が次々に産科の最前線から逃散している。
たとえ産婦人科医を標榜していても、お産は扱わなくなっていたり、不妊クリニックを開いたり、甚だしい場合は他科に転向したりしている。この層の医師がいなくなるということは
 若手医師の指導ができる医師がいなくなる
というのと同義だ。つまり
 日本の産科医療は風前のともしび
といってもよいだろう。
ベテラン医師の元で研鑽を積むはずの若手医師の数も足りない。上記で
 24-35歳の若手医師 2318人
は、その10歳上の世代
 36-45歳のベテラン医師 2440人
と同じ程度しかいない。若手医師の中には
 これから妊娠・出産を控えている女性医師
も含まれているから、彼ら若手医師がベテラン医師になる頃には、この年代の医師はもっと数が減っているはずである。
そうすると、いくら日本の少子化が進んでいたとしても
 産科医の年間に扱うお産の件数はそれほど変わらないか、場合によっては増加
しており、過重労働の余り、産科の最前線から脱出する医師は減らないだろう。
 産科は悪循環に陥っている
のだ。

要するに
 高齢・超高齢医師の「みかけの登録の多さ」
に支えられているのが
 現在の「日本の産婦人科医の総数」
なのだ。結局
 頼りになるベテラン現役医師と研鑽中の若手医師の数
は減りつつあり、産科の現場で、医師の悲鳴が上がるのは当然だ。
かつ
 産科の下支えを期待されている高齢医師が知識・技術不足で、不妊治療による多胎妊娠に対応できない
場合には、TTTSなどに適切な処置が行えず、赤ちゃんや母体が死んだり、重い障碍を負ったりして、
 途中から妊婦を引き取った病院や最後にお産を取った病院が訴えられる
ということが起きるだろう。

日本の産科の現状は、実に危うい。
しかも、これは2年半前の統計によるものだ。
状況は更に悪化しているだろうと思われる。

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コメント

厚生労働省の医師確認URLから手繰れば、鬼籍に入った医師も登録人数として計算されている惧れあり

つまり生きている実数が反映されていない可能性が高い

厚生労働省に調査能力がないのと、分析能力が無いので、もしかすると本気で鬼籍医まで人数に入れて医師不足はないと考えているのかもしれない

死人を数えたら反則だろうと思うが、相手がバカだけに心配が尽きない

投稿: Med_Law | 2007-05-29 23:08

福島県の産婦人科医師の年齢分布(日本産婦人科医会5月号)

H18年4月時点
産婦人科医師 総数;186名

50歳以上;118名(63%)
    50-76歳;97名(52%)
    77歳以上;21名(11%)医会費免除会員
 
50歳以下;68名
    女性医師;18名(10%)
    男性医師;50名(27%)

50歳以上の医師は、昔ながらの1人医長で分娩をしているか、すでに婦人科のみでしょう。
大野事件の後、何人が残っているのでしょうか?

硫黄島のようです。
計算していて切なくなりました。

投稿: 子持ちししゃも | 2007-05-30 15:07

取り上げていただき、ありがとうございます。
尚、H16には11282人いた産科医ですが、
H18年末に発表された8月の産婦人科医会の報告では7873人だったそうです。

手元にある限りの産婦人科医会報から報告します。

平成18年6月号
・鳥取県
会員92名 そのうち免除会員12名(77歳以上)
産婦人科医の減少は深刻

平成18年7月号
・山口県
会員147名中
そのうち分娩取扱い97名 取り扱い施設44施設(診療所25、病院19)
分娩取りやめ施設30施設。

・三重県
最近5年間で分娩取りやめ20%
16の総合病院と30の開業医で分娩取扱い中。

平成18年9月号
・神奈川県
会員数1004名
施設閉鎖予定
H17年 1病院9診療所
H22年 2病院32診療所
H27年 2病院48診療所減予定

お産できる施設がどんどん減っていく、という危機感あふれる報告になっています。

H18年10月号
・茨城県
会員数238名

・新潟県
分娩取扱い医療機関(H14 H15 H16 H17の順です)
   病院     31  29  28  28
   診療所    31  30  29  29
   新規開業   4   1  0  0

H19年11月号 支部会だよりなし

H19年1月号
・愛媛県
H18.8月時点で
会員 163名(女性医師43名 勤務医93名)
会費免除会員 21名

産婦人科85施設中分娩を取り扱う病院は17、診療所30の合計47施設。

・滋賀県
会員数129名
平成18年8月の調査で分娩取扱い施設は病院14、診療所27
そこに勤務する医師は病院46名(男性29 女性17)
診療所30名(男性27 女性3)
病院勤務医の当直回数は男性医師12名(44.4%)女性医師4名(26.7%)が月平均10回以上となっている。

過去5年間に産科取扱い中止施設は診療所は3診療所減3診療所増で差し引きゼロ。
しかし病院は7施設で産科閉鎖。

平成19年3月号は支部会だよりそのものがなし。

平成19年4月号
・香川県
H18年度の分娩取扱い停止施設は4件(病院2、診療所2)
H19年度には1施設が予定
しかし「産科医が減っているのは出生数の減少で医療ニーズが低減した反映」という最近の厚労相の発言にはがっかりさせられた。


抜粋ですが。

投稿: 僻地の産科医 | 2007-05-31 12:29

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