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2007-05-25

「マスコミたらい回し」とは? (その60) 出産途中の産婦の脳出血に関する医師の見解「概算で200万人に1人の脳動静脈瘤畸形の患者が出産する場合の31万2500件に1件あるかないか、CTを撮ってもたぶん無意味な、稀で不幸な症例」

ご遺族の気持ちが収まらないのはしょうがない。
しかし、マスコミが
 医学的な検証を欠いて、一方的に「情動失禁」な医師叩き報道を続ける
のは、
 すでに「報道の公平中立性」を放棄した報道の暴走
と言えよう。いつから
 マスコミは言論による個人リンチ機関
になったのか。

大淀病院産婦死亡事例の
 極めて稀で不幸な症例
について、癌の専門家の医師が、次のような見解を示している。是非ご一読を。
 癌治療医のつれづれ日記 大淀事件「たられば」の幻想 2007/5/24(木) 午後 10:07
http://blogs.yahoo.co.jp/bluesky822jp/47797405.html

結論を含む後半を引用する。


つまり、こういった脳内の血管異常をもつ女性への分娩の影響については、まだまとまった報告もなく、1例報告が少しあるだけに過ぎないということが1点。

出血をしていない血管異常であっても痙攣をひきおこすことがあるということが1点。

遺族の主張する0時には、小生の類推するに上に類似したメカニズムで痙攣を起こした可能性があり、その時点で単純CT(造影剤を使わない)を撮ったとしても出血を起こしていないAVMは余程で無いとまずわからないということが1点。撮るならMRIであることがもう1点。

造影CTではAVMがわかったかもしれませんが、産婦に造影剤を使うことはかなり躊躇されます。撮るならMRIなのですが、金属が体についていると撮れませんし、CTよりも長時間です。救急をやっている病院でも夜間はCTを撮ることがほとんどでMRIを撮ることは滅多にありません。出血があればCTでわかるからです。出血の無いAVMにしても動脈瘤にしてもMRAを撮れば診断は容易でしょうが、出血が無い、急がない場合に撮るのが通例で、余程出血の無いAVMなどを疑った場合だとありえますが、症例報告がちょっとあるくらいの知識を全ての産科医がもっているとは思えません。症例報告はエビデンスレベルは低いと看做されているのです。

つまり、遺族のリクエストどおりCTを撮っていても「やっぱり脳内出血はなかったね」となり、搬送先でも下手をすると「そうですか、脳CTで脳内出血は否定されたのですね?」となる可能性もあります。無論、念には念をと思えば撮るでしょうが、少なくとも、ご遺族が必要な検査もせずに放置したと主張する時間帯に緊急CTをとっても何もわからなかった可能性があります。

脳血管になんらかの異常がある場合は、妊娠から分娩・その後を通して破裂などの可能性が高いとなれば、全員MRI、MRAを撮るべきという、非常に費用対効果費の悪い推奨が成り立ちかねないですが、過剰検査に輪を掛けるだけではないのかと思いますし、少なくともこういうことは現時点でコンセンサスとしては成立していません。無論、妊婦が痙攣や意識消失をおこしたらMRIを撮るべきというような推奨も現時点ではありません。

この方は、むしろ症例報告に値するような不幸な事例であったような気がします。この方への医療の対応が不適切とされるのなら、一番上に引用したカナダの例は「不適切」の極みということになります。動脈瘤がみつかっておりながら、それに対する処置をせず、結局亡くなられたのですから。

大変に珍しいケースに遭遇された産婦人科医も気の毒ですし、断定はできませんが、どういう経過を取るのか、どういう検査や対処がすすめられるのかが確立していない病気をたまたまかかえていたかも知れない患者さんも不運だったというのが「真実」であるのかもしれません。

追加です。更に調べてみましたが、脳内AVMと出産に関する論文は先のものを含めて5つしかありませんでした。面白いのは日本産婦人科学会誌1995 Dec;47(12):1359-64.における筑波大学産婦人科からの報告です。

これは既に脳内AVMとわかっている女性患者さんを丁寧に経過をおいかけた結果をまとめた報告です。しかし筑波大学をもってしても17年間に42人女性の患者さんがおられたに過ぎません。これらの患者さんは46回妊娠されていますが、脳出血に至ったのは3人です。そして過去に出血していないAVMの患者さんが妊娠分娩中に出血するリスクは1年1人あたり6.5%+/-3.6%と算出されておられます。AVMがあるとわかっていたとしてこの頻度ですが、そもそもAVMそのものが100万人に一人の発生頻度の病気であり、しかも男性の方が女性より多い病気です。仮にイーブンとして200万人に一人で、その方が妊娠している間に脳出血をきたす割合は、トータルで計算すると・・・1年あたりの換算で0.0000032%となります。要するに、めちゃんこ稀ってことになりますが、どこか計算間違えていますかね・・・。その他の血管系の基礎疾患を加えても、なくはないが凄く稀です。子癇ではなくて、先にそっちを考えるってなかなか大胆な判断ってことになりますよね。

ここでは
 亡くなった産婦さんにはAVMという先天性の脳血管畸形があったのではないか
という前提で話が進んでいる。
AVMについては以下に説明がある。


脳動静脈瘤奇形(AVM)について

どのような病気か 胎生期の3週目に形成される脳の血管の奇形です。
正常なら、血液は動脈から毛細血管を通って静脈へと流れるところを、
この病気では、血液が動脈から奇形(ナイダスという)を通って静脈に
流れ出ております。
動脈から高い血圧が静脈にかかるので出血しやすいのが特徴です。
発生の頻度 10万人に約1人の割合。珍しい病気です。

症状 症状は出血。次に、てんかん(けいれん)が多い。
 1) 出血の発生率は1年につき2〜3%。一度出血すると、再出血率は高くなる
   (出血後の1〜2年間は1年につき6〜32.9%で非常に高い)。
    出血に伴う死亡率も高く10〜30%。
 2)  てんかんは年1%。
 3)  その他(頭痛、三叉神経痛、水頭症など)。
(以下略)

20-30代の若い女性でAVMを疑うことは、ほとんどないだろうし、出産時に見つかったとしても、すでに手の施しようがない。 
 非常に稀で不幸な転帰をとられた病死
であると思われるのだが、
 解剖されていない
ので、正確な病態は、たぶんもう明らかにはならないだろう。

剖検なしで、どこまでご遺族の求める
 真実
がわかるのか、残念ながら、大変に難しいと思う。

続き。(15:30)
上記で計算された
 年間1年あたりの換算で0.0000032%
とは、
 312500回に1回
ってことだ。
 概算で200万人に1人という珍しい病気で、なおかつその病気がある女性の出産312500回に1回脳出血を起こす可能性
という計算になる。確かに
 極めて稀で、不幸な転帰を取った、報告に値する症例
というしかない。

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コメント

今朝の地方紙に、「マスコミたらい回し」に関連するコラムが掲載されていました。
http://www.ehime-np.co.jp/rensai/chijiku/ren018200705259982.html

結語の部分がひどすぎです。

>お産の危機を告発した奈良の問題では、再発防止がことに重要になる。これも遺族の思いだ
>危機を一番知るのは現場の医師だろう。冷静な生の声を聞きたい。

今回の毎日新聞が起こした医療危機について、現場の医師が激怒している生の声を知らないのでしょうか。

投稿: mt | 2007-05-25 20:01

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