産科崩壊 助産所からのキラーパス 平成17年度に助産所で亡くなった新生児はわずか3人 ほかは搬送して病院で死亡
助産所の出産管理は
お産の9割を占める正常分娩に特化
している。難産は取れない。
助産師の手技が卓越していた
自宅出産が中心だった時代
ならともかく、最近は
助産師になるための産科実習ができないくらい逼迫した状況
なのだ。
6/2付の新潟日報より。
助産学の授業、見通し立たず上越市の県立看護大(中島紀恵子学長)が2006、07の両年度、出産減による実習先不足や看護系大学の増加に伴う教員不足などで、助産師国家試験の受験資格を得る上で必要な授業を行えなかったことが2日、分かった。08年度も改善の見通しは立っていない。助産師を目指して入学した学生は困惑している。
同大学は02年度に開学する際の募集要項で、正常分娩(ぶんべん)の赤ちゃんを取り上げる1年間に10回の実習と、「助産学」(ともに4年次に選択)を履修すれば、助産師国家試験受験資格を得られると明記していた。
しかし、1期生10人が受講を希望した05年度は、出産数の減少傾向で実習先を十分に確保できず、履修できたのは1人だけ。さらに全国で看護系大学が増えたため、教員が他大学へ相次いで転出し、6人いた助産学の教員は05年度末に3人に半減した。06年度以降、助産学の授業は休講となっている。
2期生は履修できないまま今春卒業。現在の4年生、3年生も履修のめどは立っていない。募集要項は06年度から、受験資格取得の記述を取りやめた。
授業を受けられなかった助産師志望の4年女子(21)は「卒業後に県外の学校で助産学を学ぶつもりだが、4年間の学費に加え、さらに授業料がかかるため、親に申し訳ない」と困惑している。
大学側では「教員確保に全力を尽くしたい」としているが、助産学の教員は通常の授業に加え、出産の実習の付き添いなど負担が大きく、人材を確保するのは容易ではないという。
実習先を用意するにも、上越市内には出産を扱う病院は3カ所しかない。分べんの立ち会いには妊婦や家族の同意を得ることが前提条件となっているため、少子化傾向が続く中で、学生数に見合った機会を確保するのはますます難しくなっている。
出産を扱う病院が12(06年10月現在、県調べ)ある新潟市でも、同市で助産師を養成する3大学の学生すべての実習先を確保するには、出産数が足りない状態だ。中には隣県まで実習に出掛けるケースもある。
文部科学省医学教育課は「正確に把握はしていないが、学生が希望しているのに助産学を受講できない例は聞いたことがない」としている。
新潟日報2007年6月3日
そもそも、もう20年前でも
産婦人科のポリクリを行うのが大変だ
と言われていた。
医学生の実習に、うちの大事な子どもをつかわせるわけにいかない
という親が多かったから、といわれている。
ましてや
医師でもない、経験も医学知識も格段に少ない看護学生が新生児を取り上げる実習
に、
少子化の現在、親たちが首を縦に振るとは思えない
のである。
もし、万が一、助産学の学生が子どもを取り上げ損なって、子どもや母親に取り返しのつかないことになったら、誰が責任を取るのか
という話だろう。
ちなみに、一昨年の
平成17年度人口動態調査
によると、
新潟県の出生数 18505
そのうち2500g未満の新生児 1634
自然死産 253
周産期死亡数 94(うち妊娠22周以降の死産79)
周産期死亡率 5.1(出産1000に対して)
で、お世辞にも周産期死亡率(全国平均4.8)が低いとは言えない地域なのだ。体重が2500g未満の未熟児も9%いる。同じ調査によると、周産期死亡の「早期新生児死亡数」の赤ちゃんが死んだ場所は
病院13 診療所1 自宅1
である。
新潟県内のお産自体が少ないから、
1人10回の助産実習を10人の学生にやらせる
となると、最低でも
100例のお産の場を実習用に使わせてもらえるよう、交渉する
ことになるのだが、県立看護大学のある上越市内だけで、実習先を見つけるのはかなり難しいのだ。人口動態調査によれば、
上越市の出生数 1732
そのうち2500g未満の新生児 181
自然死産 17
周産期死亡数 9(うち22周以後の死産 8)
周産期死亡率 5.1
だ。未熟児が多いな。出生数の1割を超えている。
こんな状態だと、とてもじゃないけど
年間100例の助産実習
なんて無理。
さて、新潟県の人口動態調査で気になるのは
周産期死亡の自宅1
で、この年
21人が自宅で生まれている
のだ。ひょっとしたら、この自宅出産の赤ちゃんの1人が助からなかったのではないかと思う。
助産所での出産は57だった。残りは病院か診療所で、新潟県では
99.6%の赤ちゃんが病院・診療所生まれ
である。助産所での出産は
全国平均1%
なので、新潟は助産所自体も少ないのだろう。
ところで、この平成17年度人口動態調査では、驚くべき結果が出ている。
全国で生まれた赤ちゃんの数 1083796人
生まれてすぐ亡くなった赤ちゃんの数 1091人
なのだが、赤ちゃんの亡くなった場所が極端だ。
病院 988人(出生数 545766) 死亡率 0.2%
診療所 67人(出生数 503579) 死亡率 0.01%
助産所 3人(出生数 10676) 死亡率 0.03%
自宅 22人(出生数 2184) 死亡率 1%
その他 11人(出生数 325) 死亡率 3.3%
なのだ。
助産所での死亡数が全国でわずか3人と極端に少ない
のである。
これは
助産所のお産が安全だからではなく、危ないお産は途中で病院に「キラーパス」
するからだ。診療所の死亡率が病院より低いのも同様の理由で
手に負えない難しいお産になったら、高次の病院へ搬送
するので、
最終的に病院で赤ちゃんが亡くなる
ことになるのである。
果たして助産所の
10676人
の赤ちゃんの内
生まれてから病院に搬送されて助かった赤ちゃんがどれだけいるのか
そして
助産所から病院に搬送されて亡くなった赤ちゃんは何人なのか
については、残念ながら、人口動態調査は語らない。
今後は
助産所から搬送された状況によっては、助産師の過失を問える
ようにしないと
助産所では赤ちゃんは死んでいません
という、
数字のまやかし
がまかり通ることになるだろう。
危ないお産を引き取って、不幸にして、赤ちゃんやお母さんが助からなかったり、障碍が残った場合
には
訴訟を起こされるのは、最後に引き取った病院
である。
こうした不均衡が
産科医の助産師不信の大きな原因の一つ
になっているのである。
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コメント
日本周産期・新生児医学会雑誌、40:553-556,2004によりますと、助産所からNICUに搬送された新生児の死亡率は19%、医療機関からNICUに搬送された新生児の死亡率は4%だそうです。約4倍から5倍の差があります。
ということは、助産所での新生児の死亡にも医療機関での分娩に対して約3倍の危険があり、搬送後の予後にも約4倍以上の危険がある、ということですよね。
閉鎖前のm3からたどり着いたあるホームページにありました。
投稿: はな産科爺 | 2007-06-09 10:59