夜勤する女性産科医はほとんどいない(その2) 子どもの数が増えれば増えるほど女性産科医は産科医を辞め、全国で「お産の経験がある女性産科医」はわずか320人 「女性産科医だからお産も安心キャンペーン」でマスコミは女性産科医を絶滅に追い込みたいのか→追記あり
僻地の産科医先生から、
2007-06-03 夜勤する女性産科医はほとんどいない
http://iori3.cocolog-nifty.com/tenkannichijo/2007/06/post_130a.html
に貴重なコメントを頂いた。僻地の産科医先生のblog「産科医療のこれから」からTBもかかっているので、そちらもご一読願いたい。
2007.03.20 07:25 女性産科医:出産に携わるのは11年目で半数以下
http://blog.m3.com/OB_Gyne/20070320/2
コメントを頂いた分、すなわち今年3月に発表された
日本産科婦人科学会・女性医師の継続的就労支援のための委員会 2006年度「女性医師の継続的就労支援のための調査」中間報告
http://www.jsog.or.jp/about_us/jyoseiishi_shuuroushien19MAR2007.pdf
からの表とグラフをこちらにも貼っておく。
女性産科医は、子どもを産むと現場を離れ、子供を産んで頑張っている女性産科医も子どもの数が増えれば増えるほど、分娩の現場を離脱し産科医を辞めている
のがわかる。(画像はクリックすると拡大します)
表 女性医師の子どもの数と勤務形態(人数別)
グラフ 女性医師の子の数別にみた勤務形態の構成(n=1817)
一目瞭然。
子どものいる女性産科医にお産を取ってもらえる確率は非常に低い
のだ。この調査では
お産を取る女性産科医の数は全国で1199人
だが、その内
子どもがいて、お産を扱っている女性産科医は全国でたった320人しかいない
のだ。
なおかつ、女性産科医の分娩離脱・産婦人科離脱率は高い。
まず、男性産科医の分娩離脱・産婦人科離脱を経験年数別に示したグラフがある。
グラフ 分娩離脱ならびに産婦人科離脱(男性、経験年数別)
分娩離脱すなわち、
お産の取り扱いを辞める
のが
20%を超える
のは、周期があって
産科医になってから8年目、11年目、13年目、15年目
で、医師が一人前に育つ年数10年目の前2年くらいから、徐々にお産を扱わなくなる男性産科医がいる。特に
経験15年〜16年の医師として脂ののっている時期の医師が2割近く辞めている
のは、
安全なお産を取れる産科が減少していること
を示す。
女性産科医はどうか。
グラフ 分娩離脱ならびに産婦人科離脱(女性、経験年数別)
女性医師が分娩の現場を離れるのが20%を超えるのは、なんと
経験4年目
からで、以後、グラフは右肩上がりに伸び、経験6-8年では30%以上が分娩の現場を離れ、9-11年では
半数近い女性産科医がお産の現場から立ち去る
のである。経験12-15年でも
お産を取り扱わない女性産科医は4-5割
に上る。そうでなくても少ない
産科医としては一人前の経験11年以上の女性医師がどんどんお産の現場から立ち去っていく
のである。
産婦人科離脱、すなわち
産婦人科の診療自体を辞めてしまう医師の数
は、地域差がある。
なぜか
九州がダントツに産婦人科が辞める地域
なのだ。
表 産婦人科離脱 地域別
593人いた九州の産婦人科医のうち、辞めた先生が140人と1/4近くを占め、女性産婦人科医の離脱は3割近くに及ぶ。
人口が多く、お産の取り扱いの多い
首都圏や関西
でも、産婦人科を辞める医師の数は多いのだ。
東京では866人いる産婦人科医のうち1/8にあたる112人が産婦人科を辞めていて、その内女性産婦人科医は74人と辞めた産婦人科医の2/3を占める
だ。
関西ではどうか。
近畿では831人いる産婦人科医のうち15%にあたる124人が産婦人科を辞めていて、その内女性産婦人科医は85人とやはり2/3以上を占める
のである。
どう考えても
産婦人科医はどんどん減っている上に、全国で320人しかいない、経験豊かで出産したことのある女性医師がお産を取ることは大変に少ない
のだ。
ところが、マスコミは
女性産科医だからお産も安心キャンペーン
を行っている。なにかといえば
女性医師がお産に立ち会うから安心
とか、そういう
分娩を扱う女性産科医の本来の数から行くと、非常に無理な「フリーアクセスではあり得ない状況」を「患者が当然要求できる権利」であるかのように、報道している
のである。
ちょっと待て。
マスコミの「女性産科医だからお産も安心キャンペーン」は詐欺
ではないか。
そもそも、現場にほとんどいないといっていい「お産の経験もあり、産婦人科医としてベテランの女性医師」にお産をとってもらうのが一番
というのは、
よほど恵まれた一部の人間のみが可能な特権的なお産
ではないのか。
全国にたった320人しかいない、子どものいる女性産科医
が
毎年106-108万人生まれる日本のお産を扱う確率
は、微々たるものではないのか。子どものいる女性産科医は、夜勤はしないはずなのでおそらく、毎年扱うお産の数は
多くとも年間100-150件まで
ではないかと思う。そうすると
最大でも4万8000件
だ。多胎があるにしても、単純計算で
「子どものいる女性産科医が扱うお産の件数」は年間4.5%以下
だ。妊婦の20人に1人も、
子どものいる女性産科医にお産を取ってもらえるわけではない
のである。
それとも
たった320人しかいない、子どものいる女性産科医に、出産を希望する妊婦を殺到させて、人間の限界を超えた数のお産を取らせる
つもりか。
こうした
誤った認識が、そうでなくても人材が逼迫している産科医をより「分娩離脱・産婦人科離脱」に追い込んでいる
ことに気がつかないのか、わざとやっているのか。
このまま、誤ったキャンペーンを続ける限り、早晩
子どもを持つ女性産科医の過労死
か
男性産科医に取り上げられたのは「期待権」の侵害という損害賠償請求訴訟
が取り上げられるのではないかと危惧する。
マスコミの
女性産科医だからお産も安心キャンペーン
は、
ただでさえ少ない女性産科医を分娩離脱・産婦人科離脱にかき立てる、悪しき「労働強化」キャンペーン
である。
なにが
女性の権利
だ。
女医さんだって、働く女性
なのではないか。
高度な専門性を持つ働く女性をないがしろにして、潰すためのキャンペーン
でしかない。そんなにマスコミ人は
女医さんがねたましいのか
としか思えない。
子どもを持つ女性産科医を殺すキャンペーン
は即刻中止していただきたい。
(追記 6/5 2:00)
そして、こうしたキャンペーンが
経験のある男性医師を排除するきっかけ
になっていることも看過できない。
男性産科医が、激務の産科を支えている
という現状を否定し、産科全体の士気を下げ、ひいては女性産科医を現場から駆逐し、過重労働に陥った男性産科医をも分娩離脱・産婦人科離脱に導いているのは
女性産科医だからお産も安心キャンペーン
だということを、今一度マスコミは肝に銘じていただきたい。まさに
百害あって一利なし
なのだ。
(追記おわり)
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コメント
とりあげていただけてうれしいですo(^-^)o..。*♡
溜飲を下げました。
子持ち女性の夜勤は、正直厳しいです。
でももうすこし頑張ります!
投稿: 僻地の産科医 | 2007-06-05 00:06