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2007-06-11

産科崩壊 増える高齢の母親 30代出産女性の不妊治療も増える

先週厚労省が発表した
 平成18年 人口動態統計月報年計(概数)の概況
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai06/index.html
が、極めてショッキングな結果を示している。
 この4年間で30代の産婦が全体の半分を超え、40代の産婦の数も増えている
のだ。つまり
 もっとも出産に適当と思われる25歳前後に5年以上遅れて、出産する女性が多い
ということなのだ。これは
 母体の高齢化による高リスク妊産婦の増加
を裏書きする。

 母の年齢別(10歳ごと)に見た出生数(クリックすると拡大します)
Ss平成15年には48%近くあった20代での出産は、年を追うごとに減少している。一番増えているのは30代の出産で、平成16年以降は半数を超え、今なお増え続けているのが分かる。
また、子どもも母体も危険なお産になりやすい40代の出産も、年々増えていて、昨年はついに2%を超える22000件以上のお産があった。

増えている30〜44歳までのお産を
 母の年齢(5歳ごと)に見た出生数
Ss2のグラフ。
明らかに
 35歳以上の高齢出産が増加、合わせて18%とほぼ2割に達する勢い
なのだ。
これが意味するのは
 高リスク妊産婦が増加、高次病院の周産期医療が圧迫されている
ということだ。
もう一つ
 高リスクな出産による、子どもや母体のダメージの増加
も懸念される。もし、子どもや母体が障碍を負った場合は、国や自治体が生活や医療のサポートをするだろうが、こうした高リスク出産の増加で、以前よりそのサポート対象の人数が増えていることが予想できる。つまり
 高リスク出産を原因とする社会保障費の増加
が、あり得るということなのだ。

ところが、高リスク出産をする側、特に
 不妊治療によって出産にこぎ着ける場合
では、妊産婦には、出産後に起きうる危険に対して、あまり警戒心がない。
日経より。


30代出産女性「不妊治療受けた」13%・日経調査

 不妊治療を受ける女性が増えている。日本経済新聞社が、2006年に出産した30代女性を対象に5月下旬に実施した調査で、「不妊治療を受けていた」との答えが13.8%あった。少子化対策として不妊治療費の負担軽減が必要と指摘する声も43.8%に上った。出産数の過半数を占める30代女性の間で、不妊治療に抵抗感が薄れ、期待が大きいことがわかった。

 調査は06年の合計特殊出生率が1.32と、6年ぶりに回復したことをきっかけに実施した。妻の受診率13.8%に対し、「夫が受けていた」と回答したのは3.5%だった。不妊治療を受けた回答者のうち、勤務先企業や自治体の助成制度を利用したのは15.1%にとどまった。(11:02)

この調査では、不妊治療の結果、トラブルがあったかどうかまでには、言及していない。
しかし、高リスク出産にまつわるリスクは、低減しないから、
 35歳以上の不妊治療を受けて出産した女性に起きたトラブル
は、実数で増えているだろう。

不妊治療は確かに必要ではある。
しかし、
 不妊治療による、母子へのダメージ
が、ちゃんと調査されないと、
 不妊治療が成功した暁には、「母子共に健全」だ
という誤ったイメージが、いつまで経っても消えず、それどころか
 不妊治療さえすれば、いつでも健康な赤ちゃんを母親が健康に不安のない状態で育てられる
という幻想が大きくふくらむだけだ。
不妊治療はバラ色の医療技術ではない。その点をいつまでも正面を切って取り上げない限り
1. 高リスク出産によるトラブルで、病院が民事提訴される事例が増える
2. 高リスク出産によるトラブルで増加した障碍のある子どもや母親のサポートのための費用が新たに必要になる
3. 子どもや母親に障碍が残った場合、家族によるサポートには限界があり、最悪で一家離散などのリスクが高まる
ということが予想できるのである。

日本は現在
 福祉切り捨て、医療費削減

 国是
としている。これから少子化で、労働人口が減り、税収も減っていくだろう。そうなると、身障者には辛い社会が待っている。
今はまだなんとか社会が持ちこたえている。
しかし、重い障碍があるからといって、人間は簡単には死なない。栄養・呼吸管理などを適切に行い、感染症に気をつけていれば、たとえ出産が元で赤ちゃんや母親が寝たきりになっても、かなり長期間の生存が可能である。5年、10年と果たして、家族はこうした重い障碍を持つ家族をケアできるのだろうか。これだけ医療機器が発達すると、10年前なら病院で管理しなくてはいけなかった重い障碍でも、家に連れ帰るよう指導される。なにせ病院のベッド数自体が削減されているのだ。病院は急性の患者を中心に扱う場所となり、社会的入院は認められなくなりつつある。ある程度の呼吸や栄養の管理は、家でも機械をつかってできる。そうなると、病院には置いてもらえない。「家にお連れください」ということになるのだ。
もっとも懸念されるのは、母体が重い障碍を負った場合で、健康な乳飲み子と植物状態の母親を抱えた場合、家族の負担は大変に重くなる。昔のように大家族であれば、ケアを担当する人手を家族内でまかなうことは可能だったろう。しかし、ここまで世帯人数が減っており、一方で高齢者がものすごい勢いで増加している現在では、
 すでにいる高齢者のケアの人手も足りない
のである。悲観的なシナリオでは
 高齢者のケアを取るか、若い寝たきりの人々のケアを取るかで、人手の争奪戦が起きる
ことになるだろう。どのみち、すでに手は足りない。
 弱者のケアをめぐって、困難な選択を迫られる
のは目に見えているのである。

これまでの障碍者・高齢者ケアは
 人手がなんとかある
ことを前提としていたが、今後は
 ケアに割ける人手が減少する
のだ。今の段階ですら、すでに
 生産活動に必要な人員補填のために、若い労働力はかり出され、ケアの人員は高齢化しつつある
のだ。
悪夢に近いシナリオでは
 若い、常時ケアを必要とする人たちには、高齢者がケアにあたる
ことになるだろう。問題は、
 定期的に、場合によっては頻繁に必要な呼吸管理や栄養管理を高齢者がこなせるかどうか
だ。今は高齢者であってもまだ「若い」かも知れないが、いずれ高齢者自身が、他人の助けを必要とするようになるのだ。

人間の出生と老齢の問題が少子高齢化によって、若い障碍者と高齢者とが互いにケアのための人手を奪い合う未来が、いまのまま
 高齢出産や超高リスク出産を制限しない状況
を続けると確実に待っている。

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コメント

はじめまして。介護の問題が起こるたびに、医師や看護師や介護師を輸入すればいい、移民を大量に受け入れれば解決という安易で誰もが納得してしまいがちな回答がマスコミに載るわけで、反対すると「差別者」の烙印を押されます。しかし、日本の医療・介護関係の労働環境が劣悪で、本国に送金するほどのお金がもらえないのも知れ渡っていますし、移民問題も、http://www.nli-research.co.jp/report/econo_eye/2005/nn051107.html
のようなレポートもあり、にっちもさっちもいかないですね。

投稿: 774氏 | 2007-06-11 19:08

妊産婦死亡率は35-39歳で2.4倍、40歳以上で5.5倍(※1)という報告とか、
日本における2003年の出生数に対する妊産婦死亡率は
1O万人に対し20~29歳では2.4人,40歳以上では22.3人という報告もありますね。(※2)
40歳を過ぎると20~24歳の妊婦と比べ20倍以上に高まるという報告もありますね。(※3)
文献としては※3がおすすめです。
またそのうちアップしたらトラックバックさせていただきます。

(※1)
吉松淳:高年妊産婦管理上のピットフォールと対策
産婦人科の実際 54(No3):p449-455. 2005
(※2)
母子衛生研究会:母子保健の主なる統計.母子保健事業団,p47.2004
(※3)
朝倉啓文:我が国における周産期死亡.妊産婦死亡の現状
周産期医学36:799-803.2006

投稿: 僻地の産科医 | 2007-06-12 12:08

トラックバックができなかったので。
我が国における周産期死亡,妊産婦死亡の現状
http://blog.m3.com/OB_Gyne/20070612/2
高年妊娠の産科リスク
http://blog.m3.com/OB_Gyne/20070330/5
高齢妊娠と難産
http://blog.m3.com/OB_Gyne/20070406/2

投稿: 僻地の産科医 | 2007-06-12 23:44

774氏さん、僻地の産科医先生、コメントありがとうございます。
厚労省は、どう考えても
 日本は人口減少フェーズに入っていて、労働人口確保は、周辺諸国も同じ状況
という、自分たちが一番やらなくちゃいけない分析結果を無視してますね。

僻地の産科医先生、スパムよけでTBがはねられてしまい、申し訳ありませんでした。
別に記事を立てて、取り上げます。

投稿: iori3 | 2007-06-13 01:29

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