「マスコミたらい回し」とは? (その64) 大淀病院産婦死亡事例遺族の記事を共同が配信 自社社員の「堀病院民事提訴」を全社的に応援するための「産科民事提訴」キャンペーンか
今日は奈良女で
大淀病院産婦死亡事例のご遺族の講演二回目
が開かれた。この講演は
医療社会学の授業の一環
として開かれている。担当教員は「陣痛促進剤による被害を考える会」の会員である。
わたしが某学会で「メディアとモラル」という発表を辞めた理由は
「陣痛促進剤による被害を考える会」のメンバーがその学会にいる可能性が高い
からだった。不毛なやりとりが続くのが予想できたので、別な題目に差し替えた。
人文系学会は、ほんとに社会に貢献しないな
と思った瞬間だった。別な題目の方は、これで人が死んだりしない分、まだ、害毒にはならないかも知れないが。(学会で発表するつもりだった方は、別な形で公にする予定)
「陣痛促進剤による被害を考える会」は、1988年の開設当初から知っているが、近年は、開設当時のような
無茶な陣痛促進剤の使用による母体と赤ちゃんの被害
は少なくなっている。医学は進歩する。
しかし、「陣痛促進剤による被害を考える会」の方針は一貫しているようで
陣痛促進剤を使った出産で何らかの期待に反する事象があったら、それは自分たちの仲間
だと考えているようだ。
大淀病院産婦死亡事例のご遺族が「陣痛促進剤の被害を考える会」のサポートを受けている理由は
亡くなった産婦さんが、陣痛促進剤の投与を受けていた
というところに求められるだろう。
わたしは「陣痛促進剤による被害を考える会」には、科学的アプローチが決定的に欠如していると考えている。実は、わたしの発表しようと思っていた某学会には
自宅で出産、娩出された妻の胎盤をその場でむさぼり食う研究者
という凄い人もいて、それは趣味嗜好の範囲だからなんともよう言わないのだが、
排出の役割を担う器官でもある胎盤を生で食う
という発想にはついていけない。身体に良いわけがないのである。
無根拠に胎盤を身体に取り込むのが善と信じる
というあたりから、人文系学会での
出産を扱う研究者の雰囲気
を感じ取っていただければありがたい。てか、
現実と遊離した「理想の出産」を学生に講義したり、論文に書く(あるいは出版する)
ことは、
将来の母親と子どもの命を損ないかねない反社会的行動
だとわたしなどは思うのだが。この手の
理想の出産
を唱える人たちは、夫婦共に強固な絆があって「自宅出産」とかしちゃうわけで、
過剰な健康主義
に、本人達が気がついてないのも、いささか恐ろしくなる。しかも
自分たちのわずかな例を引き合いにする
という、科学的なアプローチからは、とてもエビデンスにならないような根拠をもって、出産を語ったりするわけで、産科医が減少し、
妊婦の自己管理がいよいよ求められている
時代に、
無根拠に「自分はなにもしなくても、健康な子どもを自力で出産できる」と信じる、実は虚弱な妊婦
を作り出すわけである。その意味では極めて罪深い。
話を「陣痛促進剤の被害を考える会」に戻すと、厚労省とも直談判できる、立派な
圧力団体
となっている。そういう意味では
結束してない周産期医療に携わる医師の立場は弱い
わけで、これは今後組織化する必要があるだろう。現実問題として
周産期医療に携わる医師は、多忙のあまり、組織化すらできない
のだが、同じ周産期医療を担う産科と小児科が、理解がないままでは困るのだ。知り合いの小児科医が
どうして産科の先生は、ちゃんと妊婦さんに多胎の危険性を説明しないの?
と嘆いていたが、それは
不妊治療クリニックが説明しないことを非難
しているのだった。小児科から見れば
不妊治療もお産を取るのも同じ産婦人科領域でしょ
というのが、知り合いの主張だったが、これを聞いたら、現場の産科の先生は
不妊治療クリニックと出産を預かる産科は別だ
という悲鳴を上げるだろう。医師同士でも、かくのごとく誤解があるのでは、こうした圧力団体にはなかなか対抗できないだろう。
さて、奈良女での講演では若いご遺族が講演するというので
マスコミが蝟集
した上に、
受講者もずいぶん多い
のである。前回は30人出席だったらしいが、全然、そんな規模じゃないぞ。教室に
あまたいるマスコミ取材陣と増加した出席者
を見て、絶句した。
まずはMBSの動画ニュースから。(画像はクリックすると拡大します)
例によって
泣きは絵になる
とばかりに
ご遺族の「泣き」のシーンを短いニュース映像にしっかり挿入している
のである。ちなみにMBS毎日放送は
大淀病院産婦死亡事例の第一報を出した毎日新聞と一体
みたいな放送局である。(以下、()内は説明)
奈良・妊婦死亡事件 夫が大学で講義
奈良県大淀町の病院で、脳内出血を起こした妊婦が19の病院に受け入れを断られ死亡した問題で、(画面右手に大量にいるマスコミ取材陣に注目)
女性の夫が大学で講演し、産科医療の改善を訴えました。高崎さんの妻の実香さん(当時32)は去年8月、町立大淀病院で分娩中に脳内出血を起こしましたが、19の病院に受け入れられず、帝王切開で息子の奏太ちゃんを出産した後、亡くなりました。
(30人よりは遙かに多い出席者。マスコミ取材陣の姿もたくさん見えている)
6日、奈良女子大学文学部で講演に立った夫の晋輔さんは、現在の心境を語りました。「二度とこんなこと起こってほしくない。産科医療が良くなることを1番に思っている」(高崎晋輔さん)
晋輔さんは、「この問題が明るみになったことで、各地で産科の閉鎖が相次いでいるのではないか」と悩んでいるとも話し、産科医療の改善を訴えました。
(「泣き」は絵になる、というのでインサートされているショット。今後もご遺族の「泣きの絵」を撮るために、マスコミは押し寄せるだろう)遺族らは先月、病院を相手に損害賠償を求める訴えを起こしています。 (06/06 13:54)
で、
共同通信
が、この講演に関する記事を全国に配信している。
共同通信といえば、堀病院の民事提訴原告は、共同通信記者
である。つまり
大淀病院産婦死亡事例で民事提訴したご遺族を支援する記事を全国に配信
することで
自社の記者の民事提訴にも有利になるよう全社的に取りはからっている
と考えていいだろう。つまり、これは
メディアによる「自社社員の訴訟に有利な世論誘導」
ではないのか。
共同通信より。
「産科医療良くなれば」 死亡妊婦の夫が講義
2007年6月6日 12時05分奈良女子大で産科医療に対する思いなどを語る、死亡した高崎実香さんの夫晋輔さん(右)と義父憲治さん=6日午前、奈良市
http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/images/2007060601000226.jpg奈良県大淀町立大淀病院で分娩中に意識不明となり、約20の病院から転院を断られ死亡した高崎実香さん=当時(32)=の夫晋輔さん(25)と義父憲治さん(53)が6日、奈良女子大(奈良市)で講義、産科医療に対する思いなどを学生に語った。
晋輔さんは「二度とこんなことが起こってほしくない。僕が動いて産科医療が良くなれば実香が生きた証し、死んだ意味が残る」と訴え、涙ぐむ場面もあった。1年の土田由美さんは「生の声で、心にくるものがあった。医療制度をしっかりしてほしい」と話した。
医療事故の当事者の話を学生に直接聞かせたいと、文学部の栗岡幹英教授(医療社会学)が依頼した。
実香さんは昨年8月、分娩中に頭痛を訴え、意識不明になった。医師はけいれんと診断し移送を要請。次々断られ、最終的に転院した病院で手術し男児を出産したが、脳内出血で約1週間後に死亡した。
(共同)
先日、
北海道新聞や東京・中日に「大淀病院産婦死亡事例」の大きな記事
が出たのは、
いわゆる三大ブロック紙の二つの北海道新聞・東京・中日新聞(もう一つは西日本新聞)が、共同配信の記事を掲載したのではないか
と思われる。
今後
産科の「医療事故」記事の内、「共同通信」配信記事
に関しては
堀病院民事提訴を有利に運ぶための偏向報道の可能性がある
ことを考慮に入れたい。
しかし、
自社の記者の取材で足りない分の穴埋めに共同配信の記事を使って、紙面構成をしている
のが、全国の新聞の現状だから
共同通信記者が堀病院民事提訴の原告
であって
共同通信が今後「産科民事提訴」「産科事故」記事を積極的に取り上げる
のであれば、
全国の新聞に共同配信の「産科民事提訴」「産科事故」記事が掲載
されて、
産科への風当たりを全国的に高める
ことになるのだ。
ということは
共同通信が、現場の産科医を辞職に追い込み、全国に「お産難民」を更に増やす可能性がある
ってことですね。まあ、産科医療への復讐に燃える記者を抱える共同通信がそんなことを気に掛けているとは全然思えないけど。
ちなみに、堀病院民事提訴の原告である共同通信記者と、大淀病院産婦死亡事例のご遺族、「陣痛促進剤による被害を考える会」会長は、一緒に
産科医療事故についての講演活動
を行っている。
4/28に、大阪で開かれたシンポジウムでは、上記の三人が顔を揃えた。このシンポジウムの発言内容をすべて独力で文字起こししているのが、三上藤花さんである。
わたしが「陣痛促進剤による被害を考える会」の主張に科学的根拠が貧弱だ、と感じた理由は、シンポジウムの全貌を伝えつつある、以下の時限blogに目を通していただくと、理解できるのではないか、と思う。
日々のたわごと・期間限定特別ブログ
http://symposium.b-r.under.jp/
たとえば、
陣痛促進剤と事故例報告その3〜事例報告続き
だが、コメント欄の山口先生のコメントにもあるように
効き過ぎによる事故を大きく取り上げることで、実際には陣痛促進剤による被害が少ないにもかかわらず、過大に弊害を主張する傾向
は一貫して変わらない。
身内で陣痛促進剤を3日間打たれて、効果が無く、帝王切開になった例があるだけに、
陣痛促進剤=悪
という決めつけのもとに、この会が運営されているのを見ると
適切な治療機会を奪う可能性すらあるのではないか
と思うのだ。適切に用いれば、陣痛促進剤は、必要な薬剤である。
| 固定リンク
« 「太湖ビール」は「藻の味」 そんな昔話さえ吹き飛ばす中国の水質汚濁 | トップページ | 産科崩壊 助産所からのキラーパス 平成17年度に助産所で亡くなった新生児はわずか3人 ほかは搬送して病院で死亡 »
コメント
「胎盤を食う」って、それどこの華南?というくらい香ばしい話ですね。
これって一種の新興宗教でFA?
投稿: SY1698 | 2007-06-06 22:34
リチャード・ドーキンスのエッセイ集『悪魔に仕える牧師』によると、1998年に、テレビで「新しいグルメ料理」として人間の胎盤のピューレとフランべが紹介されていたそうです。(p67)
クローン羊やシャム双生児の分離手術についてはテレビで議論をするくせに、胎盤食を「ちょっとしたおふざけ」で済ませる、テレビ会社の無知とラッダイティストの二重規準ぶりを指摘するための実例として、ドーキンスが挙げていました。
栄養状態の悪かった時代ならいざ知らず、現代人が人体の一部を食べるだなんて、彼らは何に駆動されているのでしょう。
彼らは、出産を、人肉食が許されるほどに桁外れなハレの事態であると信じねばならない事情でも、持っているのだろうか……?
投稿: 脱福者 | 2007-06-07 00:50
助産院では、胎盤を出すところが多いみたいですよ。
刺身にして、わさび醤油で食べると美味しい
というのをよく見かけます。
投稿: tokuko | 2007-06-07 08:26
キュ○ピ○コ○ワゴ○ルドにも胎盤は入ってますよ
「プラセンタエキス」と書かれてますが
投稿: 匿名 | 2007-06-29 00:16