「マスコミたらい回し」とは? (その70) 共同通信の「横浜焦土作戦」を数字で見る
2007-06-15 「マスコミたらい回し」とは? (その67) 共同通信による「横浜焦土作戦」更に進む 横浜栄区でついに分娩施設ゼロ 年間500件のお産を取っていた横浜栄共済病院が4月以降新規分娩受付中止
http://iori3.cocolog-nifty.com/tenkannichijo/2007/06/67_5004_cf70.html
に、僻地の産科医先生から、次の記事をご教示いただいた。
日産婦医会報(平成19年06月)
神奈川県内の産科医療機関における分娩取り扱い数調査結果と将来予測(第2回調査)の概要前医療対策委員会副委員長 小関聡(神奈川県産科婦人科医会)
はじめに
平成17年7月に神奈川県産科婦人科医会が行った第1回調査では、具体的な数字で将来の分娩取扱可能数を示したことで多方面での議論を呼び起こした。平成18年7月に第2回目の調査を行ったので、その調査の概略を報告する。
対象と方法
平成14年1月〜18年7月に分娩を取り扱った県内186施設に各年の分娩取扱数を尋ね、病院と診療所ごと、地域ごとに集計した。同時に今後の分娩取り扱い計画を、
イ) 5年以内に中止、
ロ) 5〜10年以内に中止、
ハ) 10年以上継続予定
のいずれかであるかを尋ねた。それをもとに、中止予定施設の平成17年実績分を平成17年のその地区の合計から差し引き、平成23年、28年における理論上の分娩取扱可能数を推定した。結果
〈この1年間で病院6施設が閉鎖〉
各施設の今後の計画に基づいて将来の取扱可能数を算出すると、平成23年は61,431件、28年は58,907件で、平成17年と比べそれぞれ5,888件、8,412件の減少であった。これを前回調査と比較すると、平成22年推定が65,468件に対し平成23年は4,037件の減少、平成27年推定が59,475件に対し、平成28年は568件の減少であった。平成22年〜23年の急激な減少のうち70%は病院分で、この1年間に病院の産科病棟閉鎖または閉鎖予定が6施設あったためである。診療所は開設者の年齢と後継者の有無で今後の継続を見通せるのに対し、病院の場合は医局人事に頼っているため、5年はおろか1年後の見通しも立たないことが示された。一方、10年後の取扱可能数の減少が、568件と小幅にとどまったのは、病院が上記理由で現状維持できると仮定した場合の数字を回答したことと、診療所の中で前回「中止」と回答したものの、「もう少し続けられそうだ」と中止時期を延長した施設がいくつかあったからである。診療所への支援は分娩取扱可能数を維持する上で有効な手段であることも示唆された。
〈2年にわたる調査で分かったこと〉
神奈川県南部の横須賀地区と横浜地区を例に挙げて2回の調査で分かったことを述べる。横須賀地区では平成16年の取り扱い実績が3,907件、平成17年が3,387件で520件の取り扱い数の減少があった。一方平成16年の出生数が3,845人、平成17年が3,640人で、205人の減少であった。里帰り(in、out それぞれ)や多胎、死産等の要因で分娩取り扱い数と出生数は一致しないが、毎年一定の比率でこれら里帰り等があると考え、前年との差で論ずれば、これらの要因は排除できる。したがって約300人が同地区から溢れ他地区で産んだ計算になる。
同地区に主に隣接する横浜南部地区の分娩取り扱い実績は、平成16年と17年の比較で13件しか減っていないのに対し、この地区の出生数は平成16年と17年の比較1年間に413人減少している。地区内の出生数が413人減ったのに分娩数は13件の減少にとどまったのはその差400人分他の地区からの流入があったからと考えられる。
横浜南部地区に主に接する横浜西部地区では2年間の比較で取り扱い数は727件の減。これに対し出生数は431人減で、差し引き約300人が他地区で分娩した計算になっている。この300人は前述の南部地区と次の北部地区に流れていると推測される。北部地区では分娩取り扱い実績は143件の減。出生数は672人の大幅減少である。その差約500人は、他地区からの越境分娩であると計算される。平成17年はこのように取り扱い施設の閉鎖による“分娩難民”は大幅に出生数が減少した他の地区に流れこむことにより、何とか救われたのである。おわりに
平成18年の神奈川県の出生数は平成17年に比べ2,500人増加している。にもかかわらず、自治体は自らに都合のよい調査結果のみを引き合いに出し、医療関係者、マスコミ、県民が声高に叫んでも、具体策が実行されていないのがこの1年間の状況である。今回2回目の神奈川県の調査結果が、分娩取り扱い施設と産科医の減少問題を国や自治体が改めてより危機感をもって取り組むことを再認識し真剣に取り組むことを望む次第である。
この最新記事が示すように
1. 神奈川県では産科崩壊、産科ドミノ倒しが進んでおり、特に横須賀市の産科崩壊の影響で、隣接する横浜市南部地域に「お産難民」が押し寄せている
2. 横浜市西部地域でも産科崩壊は進み、南部地域と北部地域が西部地域から溢れた「お産難民」を引き受け、なんとか最後のバランスを保っている
これを地図上に示したのが以下だ。(画像はクリックすると拡大します)赤字が他地域から流入した「お産難民」の数。青字が他地域へ流れていった「お産難民」の数だ。
横須賀から「お産難民」が押し寄せている横浜市南部地域の内
栄区は現在分娩施設ゼロ
になってしまっている。残る戸塚・港南・南・磯子・金沢の5つの区が、栄区と横須賀および横浜西部地区などからの「お産難民」を受け入れて、支えているのである。大丈夫か、横浜南部地域。そういえば、去年の暮れに横浜南共済病院で、予約分娩の張り紙を見たが、今は
40万円の預かり金も取る
らしい。
産婦人科の特徴
(略)
分娩は件数が多いため予約制にしていますので、早め(妊娠12週位まで)の来院をお願いします。夫立ち会い分娩は行っておりません。 なお、妊娠20週を目安に入院予約金40万円をお預かりしておりますのでご了承ください。
むむむ、
出産費用の踏み倒し防止策
ですか。大変ですな、南共済。そうでもしないと、捌ききれないくらいの
分娩希望の妊婦が来院
するのだろう。
立ち会い分娩なし
というのもポイントが高いな。この要件を出すだけで
「理想のお産」妊婦をシャットアウトできる
というわけですね。そういう
特別なサービスをお望みの方は別な病院をお選びください
というこの横浜南共済の潔い行き方は、ある意味
今後の公立・凖公立病院の産科アクセスの指針
になるのではないか。すでに
フリーアクセスでは、産科は回らない
のだ。
ちなみに、南共済の2004年度の分娩数と婦人科手術数は以下の通りだ。
分娩数 771件(帝王切開135件含む)
婦人科手術数 239件
南共済での帝王切開率は
17.5%
すなわち、二割近くが帝王切開の適応を受けてるわけで、高リスク妊婦や急変の取り扱いが多いことがわかる。
お産だけでなく婦人科の手術も行っている。
現在産科は7人で回していて、2004年と実績があまり変わらないとすると、1人平均年間に110件のお産を取り、その内20件近くは帝王切開という勘定になる。それぞれの先生は婦人科の外来もあるから、かなりの激務だ。
40万円の預かり金で、経済的な条件を設けていても、南共済の産婦人科は忙しい。
これが預かり金なしの産科だとどうなるのだろう。
今のままの状態が続くと、横浜市の産科全面崩壊の日は近い。
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コメント
直接的に産科の話ではないですが、横浜の状況を参考までに。
僕が住んでいる港北区や隣接する都筑区(港北ニュータウンですね)なんかは、この10年、マンション立ちまくり(ま、僕も12年前に新築のマンションに入ったのですが、、、)で、人が増えまくっています。
小学校もキャパが足りず、グラウンドにプレハブの仮校舎(これがシックハウスの原因物質で臭い)を作ったりしていました。
綱島の鶴見川をわたったところの「グリーンサラウンドシティ」は945戸の規模で、3年くらい前にできました。
まさに、子どもを生むか、生んだところ、という感じの世代に向けた物件が多い。
隣の川崎市では、武蔵小杉に高層マンションが数棟建設中で、一気に2万人近く人口が増えるようです。
ロクにスーパーもないし、道路は一部片側一車線だったりするのですが、、、。
横浜南部は、どっちかというと古い街で、例えば金沢区の一部などは、子どもは成長してしまって、中高年しかいない状態(世田谷のような)になっているという印象です。
そうではないところもあるのでしょうが、区の人口増加は穏やかだと想像されます。
ちょっと前の話ですが、金沢文庫の地元の公立中学へ進む子どもが1学年10人とかで、部活もできん、という話を聞きました。
絶対数もかつてより少ないのでしょうが、私立に行く子どもが多いという事情もあります。
というような状況で、今後は、
いずれにしても、人は、不動産デベロッパの都合で住むところを決め、社会インフラは付いてこない、ということが、昨今では、加速していると思います。
確かに、分娩数とか流入数とか、分娩に対応してくれる病院の数、といった数字も大事なのですが、出産対象世帯の数とその変化、それに対する施設の対応状況、ということも見て行かないと、ホントの危うさは見えてこないような気がしますね。
投稿: バンドル星人 | 2007-06-17 09:31
バンドル星人さん、コメントありがとうございます。
金沢区は帰省先なのですが、古くからある住宅地(西武が開発したところとか)は高齢者が多いのですが、海側の埋め立て地に最近マンションが増えています。横須賀にもたくさん安い、新しいマンションが建っています。病院が新しく開業するのも海側です。価格が手ごろなので、若い人が購入しているのでしょう。京急沿線(横浜〜金沢文庫)には、介護つき老人ホームの広告がやたら出ていて高齢者が多いことがわかりますが、首都圏中心部の不動産価格高騰で、若い人の買えるマンションは、また郊外になってきてるのかな、と思ってます。で、金沢文庫周辺だと、古い住宅地は70を超えた高齢の開業医が結構います。若い先生は海側に開業してますね。
横浜がまだなんとかお産がやりくりできているのは、奇跡的ですね。
バンドル星人さんがおっしゃるように、産科や小児科が必ず若い人の住むような地域に潤沢にあるわけではないです。
東京だと東部地域がマンション価格の安い地域だと思いますが、ここも産科が壊滅状態です。
人口の構成比と周辺の医療機関のバランスが取れてないけれど、首都圏の場合、なにかあったら、病院の絶対数が多いから、なんとか搬送してしまうので、問題が表面化しないという一面もあります。
あとは、自分たちの住んでるところだから、メディアがわざと報道しない、ってあたりもあるでしょう。
「首都圏医療崩壊」なんてことが一般市民に分かっちゃったら、えらいことですよね。こういうとアレですけど、「マスコミ特権」を振りかざして医療機関にかかるマスコミ人とその家族の話は、よく耳にします。
でも、首都圏の医療環境は全然良くないですよ。もし、JR宝塚線規模の事故や災害が起きたら、とたんにパンクすると思います。高次医療機関が何事もない今の状況ですでにパンクしかかってますから。
投稿: iori3 | 2007-06-17 10:02
はじめまして、いつも為になる記事を有難うございます。
トラックバックさせて頂きました。
参議院選挙が終わったとたんに、色々な事件が明るみに出そうな気がします。
今、何も起こってないのが、不思議でしょうがありません。
本当に現場を理解しない厚労省と、
それを垂れ流すだけのマスコミには頭にきます。
産科医を守らずに、少子化対策ができるとでも言うのでしょうか?
これからも宜しくお願いします。
投稿: うろうろドクター | 2007-06-18 17:39