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2007-08-30

「マスコミたらい回し」とは?(その89)奈良高槻妊婦搬送問題 38歳女性は妊娠7ヶ月? 妊娠中期まで産科未受診の妊産婦の急変には救急は対応できない

一体、橿原のオークワから搬送された妊婦さんは
 妊娠3ヶ月(第一報)
 妊娠20週(毎日新聞)
 妊娠7ヶ月(読売新聞)
のいずれだったのか。情報が錯綜している。
もし、読売が書いているように
 妊娠7ヶ月(妊娠週数にすると25〜28週)
だったとすれば
 流産ではなく、死産
ということになるのだが。


妊婦死産、かかりつけ産科医なく搬送先決定遅れる

 出血などの症状を訴えた奈良県橿原市の妊娠中の女性(38)を受け入れる病院が見つからず、死産した問題で、女性にかかりつけの産科医がいなかったことがわかった。医師から要請のあった妊婦については受け入れ病院を探す仕組みがあるが、今回は、消防が各病院に直接受け入れを打診せざるを得ず、搬送先の決定に時間がかかったとみられる。奈良県は「かかりつけ医のいない妊婦の搬送は想定外」とし、制度上の不備がなかったかどうか検証する。

 奈良県によると、危険な状態にある妊婦らを対象にした周産期医療ネットワークがあり、県立医大病院などを窓口に受け入れ先を探す。新生児集中治療室などを備えた43病院がパソコン端末で空床状況などを共有する大阪府の「産婦人科診療相互援助システム(OGCS)」に協力を求める仕組みもある。しかし、原則として、かかりつけ医の要請に基づく病院間の転送に限られている。

 女性にはかかりつけ医がいなかったため、救急要請を受けた橿原市の中和広域消防組合は、こうしたシステムとは別に受け入れ先を探した。同県立医大病院に要請したが、多忙などを理由に断られ、大阪府内の各病院へ連絡。10か所目の高槻市内の病院がようやく応じた。この間、女性は救急車内で待機させられた。

 救急車は同市内で事故を起こし、病院到着は119番通報から約3時間後だった。女性は当初、妊娠3か月で事故直前に流産したとされていたが、病院の診断で妊娠7か月とわかったという。

 消防の受け入れ要請を受けたOGCS加盟の大阪市立総合医療センターは「OGCSを利用した転搬送であれば受けられると回答した」と説明している。

 この日、記者会見した奈良県健康安全局の米田雅博次長は「かかりつけ医のいない妊婦への対応策を検討していきたい」と述べた。

(2007年8月30日 読売新聞)

妊娠7ヶ月というのが本当だったら、なぜそんな遅い時期まで産科にかからなかったのかが問題となる。普通であれば、すでに産科を受診して、母子手帳の交付を受けている時期だ。38歳妊娠7ヶ月の妊婦が腹痛・出血であれば、どこの病院も、まず受け入れられるよう対応したはずだ。というよりも
 38歳の高齢妊婦はハイリスク妊婦
であり、妊娠が分かった段階で、管理が必要である。この妊婦さんは、以前にも切迫流産しているようだから、
 管理入院が必要だった妊婦である可能性が高い
のだ。しかし、実際には、伝えられているとおり
 妊娠7ヶ月になるまで、産科未受診
だった。これでは、
 十分な医療を受けられない
のである。すでに産科を受診している
 ハイリスク妊婦の出血
であれば、かかりつけ医が応分の処置をするはずだ。搬送先もこれほど時間がかからずに見つかっただろう。
ところが、今回は
 深夜に妊娠してるかどうか分からない女性が、出先のスーパーで出血を訴えた
という
 救急隊にとっても、病院側にとっても、女性の妊娠について、きわめて「不確かな情報」
しか得ていなかったのが、
 橿原から高槻まで搬送せざるを得なかった大きな要因
である。もちろん
 奈良県内や近接する大阪府など近畿圏の産科不足
は明らかなのだが、
 未受診妊産婦の急変
には、奈良でなくても、対応しきれないのが実情だろう。

一部マスコミは
 搬送先を見つけるのに時間がかかった!医療側の不備だ
と、医療や救急を叩こうとしているようだが、今回の不幸な事例について言えば、それは筋違いだ。
NHKは近鉄奈良駅前の路上で妊婦さんにインタビューしていたが、
 ちゃんと産科を受診して、妊娠管理をしている普通の妊婦さんであれば、今回のような腹痛・出血の受け入れ先は見つかる
だろう。今回のことは
 妊娠しているのに、産科にかからない妊産婦の特殊な問題
なのである。

妊娠末期まで、一度も産科にかからず、いざ出産という段になって、急に産科に来て子どもを産む例が増えている。こうした例では、
 出産費用を払わずに退院
する率が高い上に
 ただでさえ、ぎりぎりの人員で回している産科

 割り込みの形で出産する
わけで、
 きちんと産科を受診して出産に備えている産婦さんの医療を受ける権利を侵害している
だけでなく、産科医やスタッフの負担を重くしている。

奈良県がどういう調査結果を出すかわからないが、
 高リスク妊娠で産科未受診の妊産婦の急変
は、たとえ周産期医療センターを整備したとしても、とてもではないが現場は対応しきれないだろう。求められているのは
 妊産婦側のそれなりの準備とモラル
でもあるのだ。せっかく周産期医療体制を充実させても
 自分が妊娠しているかどうか分からない
のでは、どうすることもできないのだ。ましてや、38歳の妊娠は高リスク妊娠で、赤ちゃんだけでなく、母体の命に関わる事態もあり得る。

お気の毒ではあるのだが、なんともやりきれない。

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コメント

本題とは関係ありませんが、改行位置がグチャグチャなためにすごく読みにくいです。

投稿: とおりすがり | 2007-08-30 17:13

大事なところで改行しているだけだから読みにくくはないですよ。

投稿: とおりすがった | 2007-08-30 20:11

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