「マスコミたらい回し」とは?(その104)不妊治療による多胎とNICU 読売の「美談記事」は設備や人員の整わない地域の周産期医療への言語テロ行為→読売新聞東京本社に電話してみました
これが日本のどの地域でも可能な
病院間連携
だと思ったら、大間違いだ、読売新聞。たまたま
設備が揃っている地域での実に幸運な例
だということを、分かっているのか。
兵庫の6病院連携、四つ子の赤ちゃん救う
web魚拓
四つ子の赤ちゃんがNICUと他の病院との連携で無事育っているというのは結構だし、今回の幸運なご家族には、是非、無事に赤ちゃんもおかあさんも過ごしていただきたい。それだけの「幸運」なのだから。
けれども、こうした
不妊治療による多胎の成功例を喧伝
することで、
今回ほど設備も産科医や小児科医の数が足りてない地域で、同様の「不妊治療による多胎出産」希望
が、増加することを憂う。
例えば奈良県で四つ子のためにNICUを事前に準備するのは不可能だろう。
兵庫県でも、西宮や神戸に近い地域でなかったらどうだろう?
現在、各地域の周産期医療で問題になっているのは
不妊治療による多胎妊娠の「丸投げ」
であることは、ずいぶん前から指摘されている。
不妊クリニックは、妊娠させるだけで、出産は別な病院が引き受ける
からだ。不妊クリニックは
成功率を上げるために、複数の受精卵を子宮に戻す
ことが多い。そうすると
みかけの成功率は上がる
からだ。
多胎妊娠して、どんな赤ちゃんが生まれたか、その赤ちゃんが無事育ったか
ということについては
不妊クリニックは決して語らない
のである。
妊娠させれば、それでおしまい
という商売の仕方をしているからだ。そして
不妊治療で多胎妊娠した妊婦さんが産科を回ると「多胎を扱えないと断られる」ケースが多い
のである。ましてや
多胎のために、赤ちゃんやおかあさんが出産時になにか問題があったとしても、不妊クリニックは一切責任を取らないし、その治療にかかった多額の医療費についても、まったく関知しない
のである。不妊クリニックは自由診療だから、両親から高い治療費を取っている。生まれた子どもについての責任も取らないから、儲かる一方だ。「不妊クリニック製造」の「多胎妊娠」を引き取って、訴訟に晒されるのは
最後に赤ちゃんを取り上げた産科
である。
2007-04-15 不妊クリニックの「製造者責任」 体外受精では自然妊娠より高率で妊娠異常発生 妊婦の異常に対応する産科医は転帰によっては訴訟を起こされるのだが、原因を作った不妊クリニックは責任を取っているのか?
http://iori3.cocolog-nifty.com/tenkannichijo/2007/04/post_628b.html
今回の赤ちゃんの例でも、大変だったように
多胎妊娠では、赤ちゃんの体重が軽く、命の危険に晒されることが多いし、早産になりやすから母体も危険
なのだ。しかも、多胎だから、一度の出産で複数のベッドが必要になる。
そして、NICUに一ヶ月入れば、
赤ちゃん一人につき1000万円ほどの医療費がかかっている
という事実も、読売は無視している。長期入院すれば、その月数分かかる。つまり、たとえば三つ子で、三ヶ月NICUに入ったのであれば
3×3×1000万円=9000万円
の医療費がかかっている。これらの経費は、ほぼ全額、国の負担となる。
普段、マスコミは
医療費抑制
と書いているくせに、こうした
「美談」になりやすい濃厚医療
については、絶対にNICUにかかる経費を表に出さない。
その上、周産期医療の設備不足・人員不足は、極限まで来ているのだ。今では、三つ子や四つ子だけでなく、
多胎妊娠一般
すなわち
不妊治療による双子でも受け入れに困難がある
のを、読売は無視しているのか?
2007-04-22 周産期医療崩壊 不妊治療における安易な「双子願望」は誰が煽っているのか
http://iori3.cocolog-nifty.com/tenkannichijo/2007/04/post_0189.html
2007-04-23 不妊治療で生まれてくる「子どもの福祉」という観点
http://iori3.cocolog-nifty.com/tenkannichijo/2007/04/post_8585.html
こうした
不妊治療による多胎妊娠
は
デザインされた多胎妊娠
であることを、読売新聞は無視し、むしろ煽っているように思える。これが
周産期医療の現場を疲弊させる言語テロ
でなかったら、何だろう?
子どもの今後の人生という点でも、多胎児はハンディを負うことがある。
超低体重出生児
には、成長がゆっくりな子どもが一定の割合でいるのだ。
2007-04-06 不妊治療で語られないこと 小さく産まれた赤ちゃんが学校に行くとき
http://iori3.cocolog-nifty.com/tenkannichijo/2007/04/post_8bc7.html
新聞は
多胎児が無事にある程度育った時点
では記事にするが
その後、どういう子どもに育っていったか
については、フォローしない。大変残念なことなのだが、普通に育つ子どもばかりではないのだ。
たった一人でも、子どもの成長がゆっくりな場合、親は苦悩する。学校でいじめられたり、教師の理解を得られないことはしばしばだ。成長のゆっくりな子どもを持った親は、それだけで敗北感にうちひしがれてしまうことさえある。そして、成長のゆっくりな子どもは、周りの大人が、その子に十分に注意を払って、できるだけ保護し、成長を促す手筈を整えてやらなくてはならない。
多胎の場合は、そうした心配が、生まれた子どもの数だけ一挙に増えてしまうのである。
子どもが産まれることは嬉しいことだし、「美談」は結構だが、一度こうした
実に幸運な例
が報道されると、誰もが
自分も幸運な例になるだろう
と期待する。不妊治療をしているカップルは、切実に子どもを望んでおり、肉体的苦痛に耐えて治療を受けているわけで、
これだけ努力してるのだから、なにかいいことがあってもいい
と思う気持ちは強い。ところが、現実には
幸運はそう簡単にはやってこない
のだ。
読売新聞の安易な「美談」報道が招くのは
周産期医療への更なる圧迫と崩壊
である。
不妊治療による多胎妊娠と出産についての報道
は
責任を持って、より慎重にしていただきたい
ものだ。そうでないと、不幸な家族と周産期医療の崩壊した地域が日本に増えることとなる。
(追記 14:00)
読売新聞東京本社読者センターに電話して、記事を掲載した真意を尋ねてみたら
四つ子が助かったのはいいことで、これが問題になるという「感覚」の方が理解できない
意見をお持ちになるのは結構だが、ただ聞くだけだ
ご苦労様でした
という返事だった。
電話を受けたおじさんはえらい憮然としてましたな。そもそも、最初ちょっと聞いてただけで、あとはずっと受話器を机に置いて、話し終わるのを待ってたからな。たぶん、何が問題なのか分からないというよりも
素人が大新聞がwebのトップに載せた美談に難癖つけるなんて、精神に異常を来しているに違いない
くらいに思っていることでしょう。いや〜、さすがに
社会の木鐸の「読者センター」担当
は、心意気が違いますね。
マスコミの認識は、この程度。
ま、電話番のおじさんは、現役で記事を書いてるのかどうか謎だから、
若干、現場との認識のズレ
があるかも知れないが。(ひょっとしたら相当ずれてるかも知れない)
日曜日に電話番というのは、どういう社内ポジションのヒトがやってるんでしょうかね。声を聞く限りでは、40-50代くらいのおじさん(たぶん喫煙者)でしたが。
要するに
1. 産科はどこも手が足りていて、連携すれば、三つ子でも四つ子でも、いつでも産んでもらえる
2. 不妊治療による多胎妊娠が母子の生命に危険を及ぼし、産後の母子の健康にも問題があるということを全く認識してない(電話を受けたおじさんは少なくともそうだった。推定年齢と読売新聞の社風から言って、母子の健康には普段から興味はないのだろう。その代わり「産めよ、増やせよ」とか言いそうだ)
ということらしいな。
コメント欄に、現場に立つ「風邪ぎみ」先生からの悲鳴が上がっている。再掲する。
都市近郊でこういう助け合いが行われていると、地方からの搬送依頼が制限されます。
助け合って救命した事は素晴らしいけれど、「奈良たらいまわし」の対側の新聞記者さんの考える理想例として
取り上げられたのでしょうが、いかにも浅薄な発想に思えます。
このおかあさんは、3ヶ月間
その周辺およびそこの三次施設にを頼りにする
圏域全ての周産期医療に我慢、抑制を強いる事で、2番目の子供を生みました。
それはそれで仕方ない事です。
しかし、ジャーナリズムの本質とは、そうした美談だけを伝える事ではなく
そうした美談の裏にある問題点(すでに言い尽くされているのですが)を
掘り起こす事でしょう。
文中の医療者のコメントは本当にこんな内容だけだったのですかね?
そうだったとしたら、周産期医療に対する問題意識欠如甚だしいことになりますが、
きっと多くの言葉がカットされているのでしょうね。『ぜいたくは敵(てき)だ」
「ぜいたくは素敵(すてき)だ」素敵な美談報道でした。
でも敵のようにしか思えないほど
もう産科医の心はグレてしまいつつあります。
読売新聞の記事を書いた記者も、さきほど東京本社の読者センターで対応してくれたおじさんも、どちらも
お産を引き取る産科医や子どもを治療する小児科医の悲鳴
は聞こえないらしいし、
取材の時に聞いた「都合の悪いコメント」
も、やはり
聞こえなかったことにしている
のだろうな。なおかつ
近畿全体での産科連携でこうしたNICUの使われ方がどういう事態を引き起こすか
ということについても、なにも考えてないのであろう。電話に出たおじさんは
奈良から兵庫への搬送
の可能性については、まったく考えてないようだった。たぶん、関西の産科崩壊の状況については、よくわかってないから、この記事を堂々と載せているのだろう。
日曜日に読売新聞本社の読者センターの電話番をしているおじさんが、もし、新聞社の正規の社員なら、
悲鳴を上げている現場の産科医や小児科医よりは遙かに高給
の筈だ。
「持てるもの」には「持たざるもの」の気持ちは分からない
というが、まさに、そういうことですかね。
| 固定リンク
コメント
都市近郊でこういう助け合いが行われていると、地方からの搬送依頼が制限されます。
助け合って救命した事は素晴らしいけれど、「奈良たらいまわし」の対側の新聞記者さんの考える理想例として
取り上げられたのでしょうが、いかにも浅薄な発想に思えます。
このおかあさんは、3ヶ月間
その周辺およびそこの三次施設にを頼りにする
圏域全ての周産期医療に我慢、抑制を強いる事で、2番目の子供を生みました。
それはそれで仕方ない事です。
しかし、ジャーナリズムの本質とは、そうした美談だけを伝える事ではなく
そうした美談の裏にある問題点(すでに言い尽くされているのですが)を
掘り起こす事でしょう。
文中の医療者のコメントは本当にこんな内容だけだったのですかね?
そうだったとしたら、周産期医療に対する問題意識欠如甚だしいことになりますが、
きっと多くの言葉がカットされているのでしょうね。
『ぜいたくは敵(てき)だ」
「ぜいたくは素敵(すてき)だ」
素敵な美談報道でした。
でも敵のようにしか思えないほど
もう産科医の心はグレてしまいつつあります。
投稿: 風邪ぎみ | 2007-09-09 13:47
はじめまして、いどと申します。
「バンキシャ」で今「たらい回し」を連呼しています。
竹中平蔵が「自由化」などといっていますが、実際に自由化した後の影響を考えて発言していただきたいものですね。
投稿: いど | 2007-09-09 18:14
9/9 AM11:30-11:50 NHK総合「三つのたまご」では金田一秀穂さんを呼んでいたのですが、後半あたりはメディアリテラシーの習得を呼びかけてました。
(blogに少し紹介されていたので引用:
http://halmi.iza.ne.jp/blog/entry/295094
)
「大事なこと、本当のことは小さくしか報道されない」どころか、まったく報道しないんですね。
投稿: miskij | 2007-09-09 22:44