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2007-09-02

「マスコミたらい回し」とは?(その98)大淀病院産婦死亡事例民事裁判記録 「脳出血で除脳硬直」の患者さんが運ばれてきたら?→裁判記録で毎日新聞奈良支局第一報の「内科医がCTを撮るよう進言」が誤報であることも明白に→加筆あり

2007-09-01 「マスコミたらい回し」とは?(その97)大淀病院産婦死亡事例民事訴訟第二回弁論@8/28 大阪地裁→「除脳硬直が起こるほど重症の脳出血」が大淀病院で起きていたなら搬送しても助からなかったのに、その事実を原告側も報道するマスコミも知らないという驚愕の展開
http://iori3.cocolog-nifty.com/tenkannichijo/2007/09/97828_8590.html
の続き。

救急の前線で日々命を支えておられる「なんちゃって救急医」先生のblog「日々是よろずER診療」が
 除脳硬直
について詳しく取り上げておられる。
 除脳硬直とCT検査
http://blog.so-net.ne.jp/case-report-by-ERP/20070902
実際に脳出血で除脳硬直を起こしている患者さんが搬送された経験も書かれている。脳外科の判断は、手術しないということで、対症療法のみ。手術しても助からないからだ。三日後に亡くなられたそうだ。合掌。
こうした患者さんを受け入れてきている「なんちゃって救急医」先生は、以下のように判断されている。


除脳硬直をきたす状況とは、その時点できわめて予後不良な状況です。 今すぐCTをとろうがとるまいが、予後が変わるわけではありません。
大淀病院の細かい体制まで存じ上げませんが、CTがすぐに取れない(技師呼び出し、移動に時間がかかるなどの要因)状況かつ脳外科緊急対応ができない状況で、私が除脳硬直をきたす患者に遭遇したら、その場所でCTを撮る事よりも高次施設へ転送依頼を優先します。つまり、大淀病院で対応した先生と同じ対応がした可能性が高いということです。

僻地の産科医先生が
 原告側が除脳硬直を主張しているのはおかしい
とおっしゃるのは、このためだ。
大淀病院産婦死亡事例の毎日新聞奈良支局の第一報を、拙blogで大淀病院産婦死亡事例を最初に取り上げた2006-10-17「マスコミたらい回し」とは? 医療現場で起きていることから再掲する。元記事はwebからは削除されている。


分べん中意識不明:18病院が受け入れ拒否…出産…死亡

「お母さんが分かるのか、仏壇の前だと不思議に泣き止むんです」。父晋輔さん(左)に抱かれる長男の奏太ちゃん=青木絵美写す

 奈良県大淀町立大淀病院で今年8月、分べん中に意識不明に陥った妊婦に対し、受け入れを打診された18病院が拒否し、妊婦は6時間後にようやく約60キロ離れた国立循環器病センター(大阪府吹田市)に収容されたことが分かった。脳内出血と帝王切開の手術をほぼ同時に受け男児を出産したが、妊婦は約1週間後に死亡した。遺族は「意識不明になってから長時間放置され、死亡につながった」と態勢の不備や病院の対応を批判。大淀病院側は「できるだけのことはやった」としている。
 妊婦は同県五条市に住んでいた高崎実香さん(32)。遺族や病院関係者によると、出産予定日を過ぎた妊娠41週の8月7日午前、大淀病院に入院した。8日午前0時ごろ、頭痛を訴えて約15分後に意識不明に陥った。
 産科担当医は急変から約1時間45分後、同県内で危険度の高い母子の治療や搬送先を照会する拠点の同県立医科大学付属病院(橿原市)に受け入れを打診したが、同病院は「母体治療のベッド満床」と断った。
 その後、同病院産科当直医が午前2時半ごろ、もう一つの拠点施設である県立奈良病院(奈良市)に受け入れを要請。しかし奈良病院も新生児の集中治療病床の満床を理由に、応じなかった。
 医大病院は、当直医4人のうち2人が通常勤務をしながら大阪府を中心に電話で搬送先を探したがなかなか決まらず、午前4時半ごろになって19カ所目の国立循環器病センターに決まったという。高崎さんは約1時間かけて救急車で運ばれ、同センターに午前6時ごろ到着。同センターで脳内出血と診断され、緊急手術と帝王切開を実施、男児を出産した。高崎さんは同月16日に死亡した。
 大淀病院はこれまでに2度、高崎さんの遺族に状況を説明した。それによると、産科担当医は入院後に陣痛促進剤を投与。容体急変の後、妊娠中毒症の妊婦が分べん中にけいれんを起こす「子癇(しかん)発作」と判断し、けいれんを和らげる薬を投与した。この日当直の内科医が脳に異状が起きた疑いを指摘し、CT(コンピューター断層撮影)の必要性を主張したが、産科医は受け入れなかったという。
 緊急治療が必要な母子について、厚生労働省は来年度中に都道府県単位で総合周産期母子医療センターを指定するよう通知したが、奈良など8県が未整備で、母体の県外搬送が常態化している。
 大淀病院の原育史院長は「脳内出血の疑いも検討したが、もし出血が判明してもうちでは対応しようがなく、診断と治療を対応可能な病院に依頼して、受け入れ連絡を待っていた」と話した。
 一方、高崎さんの遺族は「大淀病院は、総合病院として脳外科を備えながら専門医に連絡すら取っていない。適切な処置ができていれば助かったはずだ」と話している。【林由紀子、青木絵美】

毎日新聞 2006年10月17日 3時00分

上記記事の
 この日当直の内科医が脳に異状が起きた疑いを指摘し、CT(コンピューター断層撮影)の必要性を主張したが、産科医は受け入れなかったという。
は、毎日新聞の誤報であることが、現在は判明している。
僻地の産科医先生が提供してくださった大淀裁判、裁判記録の閲覧情報にもはっきりと


2時00分 Vital良、瞳孔大
夫の身内 (当病院の救急で勤務経験) 来院
[原]身内が除脳硬直と判断し、CT等の検査を要求したが、担当産科医は「子癇なので、動かさないほうがよい」として検査せず、「転院先を探している」と言うだけ

と書かれており
 CTを進言した「内科医」=実は元総婦長の方
であることは明白だ。
今に至るまで、毎日新聞奈良支局も大阪本社も、記事を書いた青木絵美記者(現大阪 産休中)も林由紀子記者(奈良支局)も
 大淀病院の産科の先生および「CTを進言した」とウソを書かれた内科医の先生の名誉を傷つけたことを一切謝罪していない
ことを一言付け加えておく。

そして、上記記事の大淀病院院長の発言にもあるように
 大淀病院では、深夜に緊急脳外科手術を行うマンパワーも設備もなかった
ので、
 搬送先を必死になって探していた
のだ。

その病院として、医師としての当たり前の行動を非難されたのが
 大淀病院産婦死亡事例で大淀病院が受けたメディアスクラム
である。

おまけ。
第一報の当日には
 大淀病院では到底扱えない、きわめて重症の患者さんだった
という結論が、掲示板では出ていた。
2006-10-18 「マスコミたらい回し」とは?(その2) 奈良県で脳出血の産婦、緊急搬送先見つからず吹田の国立循環器センター搬送についての補足
より再掲する。


【医療】分べん中意識不明:18病院が受け入れ拒否…出産…死亡 奈良[1017]★2スレッドより。

872 :名無しさん@七周年:2006/10/17(火) 17:55:04 ID:y5XqPhBo0
正直、今の裁判制度、昨今の判決を見ると、 「分娩中に脳出血を起こした妊婦」なんて、
地雷どころか、すでに導火線に火のついたダイナマイトも同然ですよ。
麻酔科医がいて、脳外科医が複数いて、産科医が複数いて、ハイリスク新生児を診られる小児科医がいて、
帝王切開と脳外緊急手術が同時にできてしかもNICUとICUをもっていて、それぞれに空床のある病院なんて、
日本中にいくつあるでしょうかね。 しかもそんな施設があったとしても、結果が悪ければ訴訟。

874 :麻酔科専門医 :2006/10/17(火) 17:56:43 ID:l09yLWA30
このケースを救命できる条件を考えてみました。
1)産科疾患以外の可能性も考慮に入れられる産科医がいる
2)頭部CTを迅速に撮れる体制にある
3)頭蓋内出血の有無・手術の可否を即座に決断でき、すぐ手術にはいれる脳外科医がいる
4)産科麻酔・脳外科麻酔の両方に精通した麻酔科医がいる
5)新生児が仮死状態のときすぐに救命できる周産期小児科医がいる・新生児ICUがある
6)ICU・せめて人工呼吸器が使える重症患者室がある
・・・これらの条件を整えられる施設でなければ、受け入れるのはむしろ罪です。
この条件を満たす施設でも救命できる可能性はかなり低いと思われますので。
これだけの施設が県内にいくつ存在するか疑問です。深夜だったということがさらに惜しまれます。

875 :名無しさん@七周年:2006/10/17(火) 17:57:33 ID:zOD17Dv+0
>>872
「深夜に」が抜けている。
全国でも5本の指に入るであろう産科施設で勉強したことがあるけど
深夜に脳外と麻酔は無理だろうな。

あの時から1年経っているが、残念ながら奈良県の医療状況は良くなるどころか、更に悪化の一途をたどっている。

続き。(15:00)
今回の民事裁判の落としどころは
 救命にこだわらず「脳出血に気づかなかった」とするのが原告の意図ではないか
と、コメント欄で議論されているのが、Yosyan先生のblog「新小児科医のつぶやき」
 2007-08-31 脳外科が抹殺されるJBMの悪寒
http://d.hatena.ne.jp/Yosyan/20070831
もし、この予想が正しければ、
 この裁判に大淀病院が負けることがあれば、産科だけでなく脳外科も医療崩壊する
かも知れない。
 医療的に正しい行為をして、それを咎められる
のであれば、誰も最前線にはたたないだろう。国循の先生方の証言が待たれるところだ。

刑事裁判と違って、民事は
 言い分が通ればいい
わけだからな。しかし、原告側の提訴の理由は
 なぜ産婦さんが亡くなったのか、原因を知りたい。金は関係ない。
だった筈なんだけど。どうも報道されている内容と、かなり乖離してますね。

(追記 9/3 16:20)
アメリカで脳外科医として勤務されているTai-chan先生が、ご自分のblog「マイアミの青い空」に大淀病院産婦死亡事例の脳外科からの見解を明確にわかりやすく書かれている。
 2007.09.03 13:07 大淀.除脳硬直,後方支援
http://blog.m3.com/Neurointervention/20070903/_.
Tai-chan先生の結論を手短にまとめると
 原告は、大淀病院と大淀病院の産科医ではなく、医療システムを不備のまま放置した国と県の責任を問うべきだ
ということになる。
大淀病院産婦死亡事例の民事裁判が非常にもやもやした印象を受けるのは、この
 行政に対する責任を問うべき裁判を起こさずに、現場の医師を訴えた点
に尽きる。

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コメント

医療の世界には手術適応という考え方があって、手術の安全性、危険性などに応じて、手術したら多分良くなる>手術したら良くなるかもしれない>手術しなかったら死ぬ>手術したら現状よりも悪化する
実施の妥当性などが決まってきます。
例えば胸部大動脈破裂などでは手術しなければ100%近い死亡率がありますので、手術の救命率(成功率)が50%でも行われることがあるわけです。胆石の待機手術で新技術と銘打って10%も死亡率がある報告だったら警察に通報されかねません。
脳出血の手術に関しては、手術すればよくなるんじゃないか?との観点で大小・部位さまざまな脳出血の手術が行われた時代もありました。
現在、脳出血の手術の中で行われているのは小脳出血、皮質下出血など一部で、10ml以下の出血と「昏睡」しているケースには「手術適応はありません」。
www.nishiizu.gr.jp/images/conference/h16/conference-16_11.pdf
これは手術をしてもメリットがないことを示します。手術をすれば万が一でも良くなる、というレベルではなく、手術をすることで対象患者の健康を害する、高い確率で手術室のテーブルの上で死に至る可能性を示します。
自らの「侵襲的」医療行為が殺人と紙一重になる訳ですから、これは通常の医師には大変心理的高いハードルになります。

投稿: とくめい | 2007-09-02 20:54

とくめい先生、ご教示ありがとうございます。
何が何でも開頭すればいい、というわけではないのですね。そのあたりを原告は納得できないってことなのでしょう。
裁判官がそのことを理解できるのかが鍵になりそうですね。

投稿: iori3 | 2007-09-02 23:55

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» 大淀病院 脳病変の検討(脳外科的な見地もふまえて) [産科医療のこれから]
(関連目次)→大淀事件 目次                           [続きを読む]

受信: 2007-09-04 15:09

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