大学図書館崩壊 司書を時給1000円でアウトソーシング
図書館司書というのは
蔵書に関するプロ
である。
大学図書館というのは
文献の形になったその大学の知の集成
だと思っていた。断じて、図書館司書は
カウンター業務や図書整理するだけの人
ではない。
今日、大阪本社版朝日新聞の求人広告に出ていた驚きの広告。
司書資格/実務経験のある方歓迎
大学図書館業務
京都市左京区内の大学勤務1. 契約 閲覧カウンター、レファレンス業務
時給 1000円以上
8:30-17:00、12:00-20:30(シフト制)
週休2日(日曜日+1日)要経験2. パート 閲覧カウンター業務(短期2ヶ月)
時給 1000円以上
12:15-20:15(日祝 9:45-18:15)
週休2日(火曜日+1日)3. 契約・パート 目録業務 常勤・パート選択可
時給 900-1100円
8:45-16:45 週3日以上(応相談)待遇 社保完備(契約社員のみ)、交通費支給
応募 上記募集番号を明記の上、履歴書(写貼)・職務経歴書をご郵送ください
当社ホームページでも応募受付中
http://www.aspectcore.co.jp
この
日本アスペクトコア
の業務内容を見ると、こんなコトが書いてある。
業務アウトソーシングサービス事業(略)
ライブラリーサービス
現在、大学を取り巻く厳しい環境の中で学内・図書館業務のアウトソーシングの提案を行い研究・教育支援の質的向上のサポートを行なっています。
業務請負として当社は大手書店と提携し大学図書館のあらゆる業務において経験豊富な人材を配置し、人材マネージメントを含めた業務運営管理を行なっています。
また、人材派遣として図書館業務と併せ大学内のシステム管理業務、一般事務などにサポートスタッフを配置し学内の効率化、品質向上の支援を行なっています。▼事業内容
ライブラリーサービス(図書館におけるレファレンス、カウンター、ILL業務、目録作成業務)
大学図書館業務って
アウトソーシングされる内容
なのか。これで
学生や教員の研究サポートを責任を持って行える環境が保証される
とは到底思えない。
派遣されてくる司書は時給1000円以上だそうだけど、
カスリを人材派遣会社が抜いている
わけで、実際に1人の手当に
一体時給に直していくら抜いてるんだか
わからない。結局
雇う方は、払った金額に見合うだけ働け
と言うんだろうけど、
派遣されている方は、その金額から派遣会社の取り分を引かれた給与しかもらってない
わけでしょう?絶対に
最初から「給料分働け」の基準が雇用側・派遣される側で違う
と思うな。で
こんな高い給料払ってるのに働かない派遣だな
と思う雇用側と
こんな安い時給で働かされているなんて
と思う派遣社員とが、ある日「見解の食い違い」で派遣終了になる悪寒。そうすると
いつ行っても、司書の人が違う
なんて悲惨なことになる。
臨時職員にするにしても、「人買い」を間に挟まないで
大学の直接雇用
にしないと、たぶん、図書館はどんどんダメになる。こういう部分は
大学が費用をケチってはいけない分野
だと思うんだけどな。
日本の大学図書館がダメだ、という話は前にもしたけれども
目先のカネに惑わされて、図書館業務をアウトソーシングする
のでは、恐らく、
日本の大学の研究能力はどんどんと削られていく
だろう。むしろ
大学図書館のサービスを充実すること
が、これからの大学の生きる道だと思うのだが、
金儲けの効率から行くと、一番最初に削られるのが図書館業務や事務
なんだろうな。
プロの司書を育て、大学の図書館サービスを充実させる
という、高等教育では当然のことが出来ない限り、日本の研究環境はじり貧になるだろう。
京大文学部には、
プロの司書
がいて、大変お世話になったのだが、この方達は
臨時職員
で、後任補充がないと聞いた。
有名な史閲の2人組のおじさん
が、1人になっていたので驚いたが、
実は、2人の年齢がちょっと違った
らしい。
「タウンページ」に登録されている情報では、京都市左京区にある大学は以下の通り。
京都アメリカ大学コンソーシアム
京都工芸繊維大学
京都情報大学院大学
京都精華大学
京都造形芸術大学
京都大学
京都ノートルダム女子大学
京都府立大学
ちょっと話は違うけど、いま東大文学部の東アジア古典学系図書を揃えているところの図書館が使えないそうで。東文研がダメ、史料編纂所も使えないと聞いた。この2-3年の間に博士論文執筆予定の日本やアジアに関連する研究をしている東大院生は、地獄のような文献日照りだな。東京はいろんなところに文献があるからマシだとはいえ、大学にあるのがわかっているものをわざわざ他の機関で閲覧するとかコピーするとか、考えただけでげっそりする。中国関係の人文系雑誌は、東文研で一括購入になったとかで、効率化が逆に研究の足を引っ張っているんだって。
京大はいくつかの部署で同じ雑誌を購入しているので、たとえ文学部図書館が使えなくても、人文研や教養の図書館に行けば、何とかなったりする。ただ、部署によっては全部揃ってなかったりするので、そうなるとお手上げではあるのだが。
続き。(10/8 4:30)
トラックバックをいただいたので、少し考えたのだが、
漢籍や写本を扱うか扱わないか
で、
アウトソーシングに対する「信頼性」
はかなり違うのではないかと思う。京大人文研の漢字情報研究センターでは毎年
漢籍担当職員研修会
を全国の図書館関係者に対して開いている。
京大で東洋学を学んでいれば、この漢籍についての基礎知識は自分で勉強することになるが、
四部分類
が分からないと、基本的に漢籍は扱えないので、普通に文学部図書館に出入りしてしていれば、身につくものだった。(最近は若干配架が変わってるので、以前よりは四部分類に対する依存は低下しているようだ)
漢籍の分類整理は十進分類法より遙か昔、漢代の劉向・劉歆父子の『七略』『別録』に始まり、その後いくつかの分類バージョンが出来たが、最終的に
経・史・子・集
に落ち着いた。現在は更に
叢書
を入れて、五部分類として運用されている。(総合的な性格を持つ叢書であれば、その中で更に四部分類されている)
漢籍は十進分類法でも分類できないことはないのだが、かなり不合理な整理になる。京大図書館では、漢籍とその影印・排印本の分類に四部と十進が入り乱れているところがあって、常に両方の分類を頭に置いておかないと、目的の書籍にたどり着けなかったりした。
なんだって『論衡』がこっちとこっちに泣き別れで入ってるの?
という事態が発生した記憶がある。排印本と版本を分けて受け入れをしていたからだと思うんだけどね。
ただ、版本の管理には、四部分類が一番合理的だと思う。
漢籍以外では、写本の問題がある。貴重書は別として、それ以外の普通に見られる貝葉写本(梵本)や和本があるから、こうしたものの扱いは、本来的に
アウトソーシング
できないんじゃないのかな。版本や写本の取り扱いに習熟した派遣社員というのもいるのかもしれないが、たぶんいたとしてもごく僅かだろうし、どうしても信頼性の問題が出てくる。
漢籍や和書だけでなく、たとえば日文研で蒐集していた
日本関係外書
には、かなり古いものがあり、こうしたものの扱いもアウトソーシングで可能かどうか謎だ。
たった時給1000円程度
で、そこまで責任のある仕事を任せられるかどうかだ。
確かに、専門性を活かしたアウトソーシングができれば万々歳だろうけど、
図書館蔵書には文化遺産が含まれる
という側面もある。公共図書館だと
除籍本
があるけど、文学部図書館に関して言えば、そういう発想はない。
京大文学部みたいに、学部生でも明版が普通に見られる大学が変わっている(というか世界で唯一だと言われている)のは承知だが、そうした学問上の自由が、もし業務のアウトソーシングで失われるとすれば、教育の機会における損失は大きい。
専門職には、敬意を払って、それなりの待遇を用意しないと、士気が下がってしまう。どうも、今回の人材募集広告が目指す
図書館業務アウトソーシング
は、
専門職を出来るだけ安くこき使う口実
に見えてしょうがない。だって、
時給1000円
って、責任を持って専門的な図書館業務をこなすには、安すぎませんか? これでは、士気は保てない。
実際これに近い時給(たしか1250円)で大学院図書館に配属されて、特殊文庫の購入見積(それも専門じゃないロシア語書籍など)や蔵書目録出版(外国書の書影と実際の蔵書の突き合わせ、目録の修正など)の手伝いなどをした悲しい思い出がある。ポスドクでやる仕事でもなかったし、実に精神的に消耗した。当時、ワープロ入力代行が1250円以上だった頃だから、それより遙かに考える、外国語を多用する仕事でも、同じ時給だった。ILLも少しやったかな。自分が経験した、こうした図書館業務よりも、はるかに高度なモノが求められているだろうに、時給1000円以上とは、ひどいな、と思うのだ。その当時働いてたわたしたちは、ポスドクではあったけど、司書資格を持っていたわけではなかったのだから。
士気が下がっている図書館って、本を借りにくいんだな、これが。
そして、いくら司書が蔵書のプロだとはいえ、その分野のプロよりその分野の文献について熟知しているわけではないから、図書館利用者のニーズに応えられるよう、勉強は欠かせない。難しい要求に応えていると、どんどん司書のレファレンス能力も上がり、図書館も活気づく。ハーバードでマスターを取った知り合いが言ってたけど
例え、論文の口頭試問当日だったとしても、その時点までに出た参考文献にはすべて目を通しておかなくてはいけない
んだそうで、そうした厳しい文献検索の要求水準を支えているのが
大学の図書館司書
だったそうだ。お世話になった図書館司書が、カウンターの前を通るたびに口にする
あなたの論文には、この文献が必要でしょう? もう読んだ?
というアドバイスに、何度も叱咤激励され助けられた、とその人は教えてくれた。不幸なことに、こんな面倒見の良い図書館司書には、日本ではお目にかかったことがない。その人の話では
大学図書館司書は、論文作成のよきパートナー
であり、レファレンス能力は凄い、という。そして、たいていの大学図書館は夜間遅くまで長時間開館している。要は
図書館にも、司書にもお金を掛けている
のだろう。そういう予算配分になっているのではないかと思う。
それに比べると、まだまだ日本は大学図書館後進国だと思われる。
大学によっては、活気のない図書館が存在する。身近な例では、奈良女子大の総合図書館はそうした「活気の乏しい図書館」の一つである。
活気のない図書館には、人は来ないから、司書も勉強することがない。こうして
図書館は死んでいく
のである。奈良女子大の場合は
ほとんどの専門書が研究室別置
という信じがたい蔵書管理をしているから、総合図書館では
〜研究室の助教に依頼を出さないと、閲覧出来ません
という対応になる。これでは、司書のレファレンス能力が上がるどころか、学生の文献検索水準も下がる一方だ。奈良女子大の学生は、北は学内の北限、南は三条通、東は県庁の西側の通り、西はやすらぎの道までが「活動区域」で、そこから外にある他大学・他機関の図書館は「著しく遠いと思っている」というジョークがある。以前は県立図書館がその範囲内にあったのだが、今は大安寺に移転したから、「著しく遠い」図書館になってしまった。「研究室別置」の不備を県立図書館で補えばいい、という発想だったという噂だが、それが成立しなくなっている今は、どんなことになっているのやら。
研究室別置の書籍について言えば、研究室助教が毎日来てるワケじゃないから、たとえ学内の人間だろうとも、他の研究室だったら、なかなか必要な文献を手に入れることが出来ないのである。この不自由さは一度経験すると、唖然とする。
そういえば、学園闘争華やかりし頃、文学部の「戦闘的学友諸君」が、
手っ取り早くカネになる
というので、工学部建築学科図書館の書籍を借りだして、古本屋に売り払うというモラルハザードな行為を繰り返したため、
文学部から建築系の書籍を閲覧するのは大変
という、悪しき伝統が残った。
最近の諸大学でも
学生の蔵書に対するモラル低下
は著しいが、もし、
図書館業務のアウトソーシングが単に「カネ」の為でしかない短絡的な大学経営の視点から導入された場合
には、
同様のモラルハザードが起きてもおかしくない
と危惧する。だって
もらう給料
よりも、
滅多に借り出されないような「古典籍」(よく特殊文庫などになって、隅に追いやられている中にあったりする)や豪華本(開架にも置かれるが、たいていは「大型本別置」で判型もバラバラ、管理しにくい)や専門書(医学書などは大変高価)を売る方がマシ
だったら、そういう行為に手を染める人間が出てきても不思議はない。
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コメント
確かに図書館の司書はただ貸し出し業務とかだけをしてればいいってものではないですからね。
ウチの大学は教員の研究費で買った本も一定期間過ぎると強制的に大学図書館に収蔵されるというシステムをとっているので、司書の人たちは大変でしょうが、楽々こなしているみたいですね。
たまに図書館で企画展をやる余裕があるぐらい(今学園祭の季節で企画展やってます)。
自分が知っている多くの教員が「筑波の図書館は素晴らしい」と言ってます。
まぁ、自前でレベルの高い司書の供給できるからなんでしょうね。
アノ人たちが時給1000円とかのバイトになるかと思うと、ぞっとします。
投稿: mit33 | 2007-10-08 10:56
私も、ひどい目にあいました。東京にある大学でILLの仕事をしました。「もし今いるところに辞める事が言いにくいなら私が変わりに行って交渉します」とおせおせ。それはお断りしましたが、行った職場は2月だと言うのに真夏の暑さ。外は羽毛の世界。私は暑さで病気になりました。図書館員は「使い捨ての紙コップ」。それが、今の東京の図書館員の現実です。
投稿: keenmoon44 | 2008-08-07 23:55