ノリック 公道で交通事故死(その3)救急搬送が遅れた原因の一つは「看護師不足によるICU減床」か
ノリックが事故にあった現場の近くには、救急搬送を受け入れる大きな病院がいくつかある。
しかし、
すぐに搬送できなかった
のだった。
事故当時、近隣病院で勤務していた救急担当の知人が調べてくれた。 勤務していた病院は
ICUが満床で受け入れ不可能
だったのだ。ICUのベッドさえあいていれば、大量輸血もできる病院で、みすみす大動脈損傷による失血死にはしなかっただろう、と知人は悔しがっていた。
知人の勤務する病院は
ICUのベッド数が8床から6床、そして今は4床までに減った
という。原因は
看護師不足
だ。たとえ設備があり、医師がいたとしても、
ICUで働く看護師さんがいなければ、ベッド数は削減せざるを得ない
のである。
看護師不足が起きた原因は
厚労省が昨年から導入した7対1看護体制
である。入院患者に対し看護師を厚く配置した病院の診療報酬を上げる、という施策で
1人の看護師あたり7人の患者さんという人員配置をすると診療報酬がたくさんもらえる
のだ。これまでは
1人の看護師あたり10人の患者さん
というのが上限だったから、稼ぎたい病院は
文字どおり日本中から看護師を集めた
のである。その結果
地方から大都市へ看護師が流出、地域医療の質が保てなくなったり、多数の看護師を必要とするICU/NICUなどが、必要な看護師数を雇用できず、減床や休止に追い込まれる事態
になっているのだ。
知人の勤める川崎の病院は
関東で一番看護師給与が高い病院
だそうだ。しかも首都圏にあるこの病院で
人手不足で、ICUを減床せざるを得ない状況に陥った
のである。恐らく、ノリックの搬送先を探していたとき、近隣の病院も
ICU満床
もしくは
高度な医療を施せない看護師不足
に陥っていたのではないか。
もし、ノリックが川崎でなく、都内で事故に遭っていたなら、少しは事情は変わっていたのだろうか。都内でも救急搬送に掛かる時間は年々長くなっていると聞くのだが。
厚労省の
7対1看護体制
が、
手厚い看護が必要なICUなどからの看護師流出
を招いたのは間違いない。
ノリックの搬送先がなかなか見つからなかったという悲しい事実は、
10年前なら助かっていたケガや病気が、たとえ首都圏であっても、助からなくなってきた救急医療崩壊
を示しているのだ。医療崩壊は、医師の撤退によるだけでなく、看護師不足からも起きている。
ノリックの死を無駄にしないためにも
看護師の適正配置を促す施策
が求められる。
首都圏で、世界的に有名なアスリートが、すぐ側にたくさん病院があったにもかかわらず、看護師不足によるICU減床などによって受け入れ先が見つからず、搬送が遅れ、むざむざと亡くなった
のは、果たして先進国の医療体制にふさわしい状態と言えるのか。厚労省には今一度考えていただきたい。
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コメント
ICU認定は、あくまで診療報酬上のことで、見なしICUもたくさんあると思うのですが、それも減っているのでしょうか?7:1は診療報酬加算であって、ICU(相当)とは別の概念と理解してますが NICUについても同じで、3:1で出来ない場合はそれなりの(というか、患者がいないのに3:1なんて整備できない)のNICU(相当)があるはずです
投稿: tune | 2007-10-12 00:47
ICU加算を受けるのに1床あたり4人のICU専従看護士が必要ですから病院の看護士が減ったらベッドを減らすしかないです。
このICU加算というのは、上手くやったら年に一億円ていどもらえるので病院経営にとってはおいしい。
tuneさんは、実際にベッドはあるのだろうということなんでしょうが、基準を超えてICUが患者を受け入れるとこのICU加算がもらえなくなるのでICU管理者は上層部より基準を超えないようきつく言われているのです。(うちの病院もそうです。)
ですからここではみなしICUの(つまりICU加算をもらってないなんちゃってICU)ことは別です。
しかし、このような多発外傷のような重症患者を受け入れられる病院はほとんどこのICU加算を取っているのではないでしょうか?
投稿: 北の循環器医 | 2007-10-12 17:33