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2007-10-06

NHK 特報首都圏 「急増! お産難民」@10/05 19:30-20:00(画像はクリックすると拡大します)

Sts10
「なぜ『たらい回し』が」と、ご丁寧に手をくるっと回して見せた司会の野村アナ。
そもそも
 受け入れ不可能なので断っている
のだから
 たらい回しというのは誤報
である。これが冒頭の部分に出てきた絶望的なシーン。

先日の
 奈良高槻妊婦搬送問題(救急搬送される2,3日前には胎児は胎内ですでに死亡していたことが、搬送当日の警察発表から判明している)
報道では、「ニュースウォッチ9」で
 奈良県立医大病院産婦人科教室を理不尽に叩き、研修医を1人辞退させて、貴重な人材である未来の産科医1人を永遠に失わせる報道被害
を生んだNHKは
 いまだにこんな「産科叩き」番組
を作っているのか。
一体、NHKは
 何を見て報道している
のだろう。
だいたい、NHKは
 局内の女性職員は高齢出産(35歳以上)の傾向が高い
のではないか。高リスク妊婦予備軍を局内に多数抱えていて、かつこの程度の認識なのだとしたら、
 足元に火が付いたので、パニックになっている
としか思えない。
 単に感情的なだけで、まるで分析ができてない番組
である。
NHKに求められているのは
1. プレ妊婦の社会教育
2. 医療行政の不備を明らかにする報道態度
だろう。末端の産科医を叩いて、なんの解決ができるというのか。その意味では
 司会の野村優夫アナ

Sts34
 NHK 千葉局の國廣明美記者
も、方向を間違っている。もっとダメなのは
 この「特報首都圏」を編集したPDとCP
だ。この素材ならば、単なる産科医叩きではなく
 もっと拡がりのある、生産的で、社会的な問題提起のできる番組
に編集できたはずだ。はっきりいって
 PDとCPのこの「お産難民」に対する認識が浅薄すぎる
のである。特殊法人日本放送協会で、みなし公務員として高い給料を貰っていて、この程度の番組しか放映できないならば、外注して制作した方がよほどマシだし、良心的な内容になるだろう。首都圏限定のこの番組がすぐに見られたのも、以前放映された
 テレビ東京 ガイアの夜明け
の医療特集を見た友人が、このNHKの番組のあまりのひどさを嘆いて、便宜を図ってくれたからである。テレビ東京の「ガイアの夜明け」の医療特集は、
 日経から出向したPDが制作した
そうだよ、NHK。
 プロ集団のテレビ屋
が、日経出向PDよりもひどい番組を作っているということは
 NHK内の人材育成システムと番組制作システムが破綻している
からじゃないのか。

番組紹介。


急増 “お産難民”

10月05日(金)
救急車を呼んだ妊婦が医療機関に受け入れを拒否されるケースが首都圏各地で相次いでいる。その多くが、かかりつけ医を持たず、どこで分娩を行うかが決まっていない人たち。妊婦や胎児の健康状態が状況が把握できないなどとして病院側から受け入れを断られることが多い。首都圏の現状を探り、安心してお産ができるにはどうすればいいのか考える。

さて、番組の編集がなぜ酷かったかを一つずつ挙げていく。

1. 冒頭の煽り部分 救急搬送した妊婦の受け入れ先が決まらない
産科を受診したヒトなら誰でも必ず
 産気づいたら、緊急の出血などがない限り救急車は呼ばないでください
と指導されるはずだ。そもそも
 産気づいたから救急車を呼ぶ
というのは、産科医療の本来の姿ではない。そんなことをしたら
 救急搬送システムがいっぺんで破綻する
からである。
番組で取り上げたのは
 正常分娩だが産科未受診のケース
だった。これは
 普通の妊産婦とは区別すべきケース
である。あたかも
 産婦はみんな救急車を呼んでイイ
というような間違った印象を与えている。

2. 妊婦の容態が悪化 という明らかに誤ったキャプション
Sts14
キャプション 「千葉 市川 容態が悪化 自宅で出産
妊婦の容態が悪化というのは、周産期の疾病に関わる場合の表現ならまだしも
 単に、子宮口が大きく開いて、陣痛の間隔が狭まった、正常の出産の進行

 容態が悪化
とは言わない。
 お産が進んで
というのが正しい。こうした
 明らかに誤ったキャプションで、産科医を追い詰める
のは、いい加減にしていただきたい。

3. 妊婦が苦痛を訴え 陣痛だから当然痛い
この番組で不思議なのは
 無痛分娩の処置をしてない普通のお産なんだから「痛いに決まっている」
という視点がまったく欠落していた点だ。NHK千葉局で
 長年産科医療の取材を続けてきた國廣明美記者の「経験」
がにわかに胡散臭くなったのは
 お産は痛い
という生理的に当たり前のことが抜けていて、まるで
 陣痛の痛みを放置された
というような流れに編集されていることだ。ひょっとして
 國廣記者も編集したPDもCPも誰も「正常分娩」の経験がない
のか?
救急隊員が
 妊婦さんが痛そうで
というのは、外から見た様子だから当然だが、それは医療的な問題ではない。
 人間がお産をするときには当然の痛み
である。むしろ、陣痛がちゃんと起きず、あまり痛みを感じない
 微弱陣痛
の方がよほど問題である。場合によっては、赤ちゃんもお母さんも助からないことになる。
したがって、
 痛い陣痛

 正常な出産が進んでいる徴候
であり、そのことをあたかも
 救急車をよばなくてはいけない非常事態
のように取り上げるのは間違っている。むしろ
 陣痛が起きるまで、医師にかかってなかった
 陣痛だと分かっていたのに救急車を呼んで、救急医療の限られた資源を無駄遣いした
点を指摘すべきである。
救急医療は、高度な難しい疾病やけがの患者さんを受け入れるためにあるのだ。
 正常分娩の妊婦の陣発を受け入れる機関ではない
ことを、NHKはまったく理解していない。

4. 神奈川県立病院の産科休止に伴う「お産難民」の甘えを当然とみなす編集
Sts21
「県立病院でそんなことあるのと一番最初に思った」
(ついでに突っ込んでおくと、給与が安く、労働条件がきつい公立病院から先にどの診療科の医師も逃げていっているのが現状。つまり「県立病院だから産科がなくなる」というのが真実。)

Sts23
「どこの産婦人科も一杯だから閉鎖する病院から他の病院を」

Sts24
「紹介することはできないんだよ 自分たちで探してくれというようなことを言われた」

産科が休止になり、転院しなければならなくなったケースで、
 県立病院なのに、転院先を紹介してくれなかった
という声を堂々と放映していたが
 県立病院なのだから、すべての患者さんを平等に扱わなければならない
のは当然である。
 公立病院の医師は公務員
なのだから
 ある特定の人間に特別な便宜を図ることはできない
のだ。
この発言は
 本来ならば、放映してはいけない発言
なのである。
それを堂々とNHKが流すのは
 普段、特殊法人職員として「特別な便宜を図って貰うのが当然」という奢った意識がある
からだと思う。
現に、他の妊婦さんは転院先を自分で探したのだから、こうした発言は
 単なる甘え
である。しかも
 転院先は車で1時間以上掛かる
というのは、
 大淀病院産婦死亡事例報道で、毎日新聞奈良支局の誤報垂れ流しによって、メディアスクラムが起き、産科が絶滅した奈良県南部と周辺地域の妊婦さん達
にしてみれば
 なにを言ってるのか
と怒りを覚える発言だろう。他の地域で
 車で1時間以内に産科がないところ
はたくさんある。こうした、いわゆる「産科崩壊地域」から見たら
 無神経きわまりない甘えた発言
を、そのまま流してしまうのは
 首都圏に住む人間の奢りの反映
だろう。

Sts35
「本当にその時恥ずかしいが先生の前でポロポロ涙が出たし」

ついでに言うと、上記の発言をしているこの女性には、他にも子どもが複数いる。つまり
 初産ではない、立派な3児の母(もう一人いるかも)
なのである。
 前のお産もその前のお産も大丈夫だったから今回も大丈夫、という経産婦であるが故の甘い認識
が表に出てきているのがちょっと恐い。てか
 3児(もう一人いるかも)の母ならもうすこし「自分で考えて欲しい」
と思うんだけど。3児の母に目の前で泣かれちゃうお医者さんも驚いたかもね。マタニティブルーだったのかも知れないけどさ。
この女性に関して言えば、非常に誤解を受けやすい編集であったのはお気の毒である。
メディアの取材で感情をぶつけるのはいいけど、本人が使って欲しいコメントを自分の意図した流れで使う訳じゃないからな。編集されたコメントを見る限りでは、余り感心しなかった。お子さんと庭で遊んでいるシーンが流れていたけど、たぶん、知ってる人が見たら誰かわかっちゃう映像だったしなあ。
つまり、
 産科崩壊のスピードがここ2,3年で急激に早まった
ことを、この発言は示しているのだ。番組が取り上げるならば、こうした
 以前の出産では大丈夫だったのに、この何年かで急に産科崩壊が進んだ例
であることを、きちんと把握した編集が必要だったのだ。なんせ神奈川県は
 西は順調に産科崩壊中、横浜は共同通信社による「横浜焦土作戦」でどんどん産科が減っている地域
なのだ。神奈川の産科事情だけで、番組一本になるくらいの話題はある。このあたり
 編集がぬるくて、制作者の認識が甘すぎる
と思う。

5. 妊娠中毒症で100km離れたNICUのある病院に搬送、四日後に緊急出産
これも
 首都圏の奢り
が垣間見える例だった。北海道で同じ内容を放映したら、抗議殺到である。
そもそも
 妊娠中毒症の一番の治療は出産
である。胎児が胎内にいるから起きる疾病だからだ。
 4日後に出産
というのは、NICUに赤ちゃんを入れるにしても
 できるだけ胎内に留めてから出産させる
のが、産科の常識である。
 少しでも胎内で育てる
のが一番重要なことなのだ。それをあたかも
 4日間放置されたような編集
をしているのは
 制作スタッフの産科医療に関する基礎的な知識が絶対的に不足している
からだと思う。この程度の認識で産科医療の番組を制作しているのは
 それこそ犯罪行為に近い
のではないか。國廣記者の「経験」というのがいよいよ胡散臭くなったシーンだった。

6. 24時間戦う医師についてはスルー
NHKの労働環境も褒められたモノではないが
 首都圏の産科医の労働条件の厳しさ
は、その上を行く。いつ過労死してもおかしくないのだ。
その事実を意図的に隠蔽しているとしか思えない編集で
 医師が努力しろと迫る野村アナ
は、
 産科医の敵
である。野村アナに子どもがいるかどうか知らないが、もし、子どもがいるなら
 ひどい恩知らず
であることは確かである。

7。医療制度の問題に切り込まない構成
せっかく北里大学の海野信也教授が
 産科の窮状と、医師の努力の限界を超えている点
を何度も口にしているのに、
 番組の趣旨ではない
とばかりに、野村アナはそれらの発言を切り捨て
 お医者さんとしてはどうなんですか
という
 感情論で押し続けた
のは、
 最低
である。
 感情論で処理できるような生やさしい現場ではない
のだ。はっきり言って
 産科は戦場
である。戦場に感情を持ちだしたところで、意味はない。そうした
 産科のシビアな状況を全く理解しない構成
であり、制作者のアホさ加減、リサーチ不足、自分たちの奢りがよくわかる構成だった。

8. 年収280万円なのに妊娠してから分娩費用に驚く
Sts15
「本当に高くて とにかく50万円からはじまって あとは100万円とか聞いて」

Sts16
「とても用意できないなと思った」

Sts17

はっきり言って
 子どもを育てるのには、もっとお金が掛かる
のではないか。もっと年収の高いカップルだって
 子どもを生み、育てるには、どれだけお金が必要か
は事前にシミュレーションする。それが
 親になること
ではないのか。

この番組で欠落していたもう一つの視点は
 生まれてくる子どもの福祉
という視点だった。要は
 親の都合ばかりで構成された産科医療番組
なのだ。
これが、この番組が
 最低の医療番組
である大きな理由になっている。

そして、
 NHKは医療を有限なリソースであると認識してない点
が、問題だ。
 NHKは伝統的に「人海戦術」で番組制作
を続けてきた「特殊法人」の「公共放送」だ。
 番組制作のスタッフはいつでもかき集められる
と、勘違いしているのだろう。だから
 産科に限らず、医療が有限なリソースであり、「有効利用の手だてを考える必要に迫られている」
ことに気がつかないのだ。
今回の番組で紹介された例のいくつかは
 医療が無限のリソースであると勘違いしている例
だった。それは同時に
 この番組を制作したスタッフ全員の勘違い
である。
これほど
 時代が読めてない
のでは、
 報道番組としては大失敗
であるだけでなく
 報道機関として致命的
だろう。

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コメント

同感です。
特に、
『産科に限らず、医療が有限なリソースであり、
「有効利用の手だてを考える必要に迫られている」
ことに気がつかないのだ。』
というところに激しく同意します。

自らが全て知っているわけではないことを自戒して、
せめて少し深く考えてから、
せめて近くの関係者に相談してから、
構想を組み立てて欲しいものです。

彼らはキューブラー・ロスの「死の受容」
に見立てた医療崩壊の5段階の
どのあたりに立って
番組を作っておられるのですかね?

今働いている多くの産科医は
もうすでに第5段階を突き抜けて
次の道を探り始めているのに
その意気をくじくような番組は
公共放送としての価値も、誇りもありません。

投稿: 風邪ぎみ | 2007-10-06 14:48

相変わらず筆がさえてますな。
ここの読者なら当然至極のご意見だろうが、
もし、野村アナと國廣記者がこの記事読んでも、
ポカーン
だろうな。○○の壁はとてつもなく高いようだ。
こんな「恥ずかしい」番組垂れ流す職員飼ってる犬HKも
先は長くないな。

投稿: 受信料は払わん | 2007-10-06 23:30

内部検証不足の情報公害の認定を差し上げたいNHKの報道ですね

素人上がりの記者が夏休みのレポートを提出したかのような、内容の吟味の軽さが気になります。
千葉ローカルの編集部不在の報道だったのでしょうかねぇ

専門家に文句を言うときには、専門家と同じ知識レベルが最低限要求されるという批評家の必要条件を全く満たしていない。

この手の素人が報道と称して、情報公害を巻き起こし、更なる素人を扇動するのは本当に困ったことだ。

『知らぬは一時の恥、知らぬは一生の恥』というけれど、この記者たちは、一時の恥すら感じることもできなかった、恥知らずということができるだろう。
さて、今は恥を感じているだろうか?
たぶん、破廉恥のままだろうなぁ

投稿: Med_Law | 2007-10-07 15:52

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