橿原救急搬送問題
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橿原署と奈良県立医大病院の距離
を確かめて欲しい。
昨年11月、奈良県立医大病院から目と鼻の先にある、橿原署の駐車場で、酒に酔った男性が顔から血を流して歩いているのが見つかった。お気の毒なことに、打ち所が悪かったらしく、当初は意識があったが、その後外傷性脳内出血で、意識不明の状態が続いている。
当時の記事。
朝日。
出血の男性を搬送せず 家族の要請拒否、重体に 橿原消防署 【大阪】
2006.11.18 大阪夕刊 10頁 2社会 (全623字)
奈良県橿原市の県警橿原署の敷地内で、意識がもうろうとした状態で見つかった男性を、通報で駆けつけた橿原消防署の救急隊員が軽傷と判断し、病院に搬送しなかったことがわかった。男性は帰宅後に意識を失い、運ばれた病院で脳内出血などが判明して手術を受けたが、意識不明の重体。同消防署は18日午前、記者会見し、「判断に誤りはなかった」と説明した。橿原消防署などによると、15日午前2時10分ごろ、橿原署の駐車場で同県大淀町の製材業の男性(42)が歩いているのを署の幹部が発見。署内のソファに座らせ、同3時ごろに橿原消防署に連絡した。数分後に救急隊員が到着。男性は当時、泥酔状態で、鼻血と左顔面に擦り傷があったが、痛みを訴えていなかったことや会話もできたことから、救急搬送の必要性は低いと判断したという。
間もなく駆けつけた男性の家族が病院に搬送するよう求めたが、救急隊員が「軽傷の場合は搬送先を探すのに時間がかかる」「自宅で様子を見たらどうか。何かあれば救急車を呼んで」などと伝えると、家族は納得して連れ帰ったという。
だが、朝になっても男性が目覚めないため、家族が昼ごろ、地元の消防組合に通報。男性は搬送先の病院で脳挫傷などと診断され、手術を受けたが、意識不明の状態が続いている。男性の父親は「頭を打っているかも知れないから、搬送先を探してくれと何度も懇願した」と憤慨している。
高橋善康・橿原消防署長は「当時の救急隊の判断は適正だったと考えている」と話している。
朝日の記事では
救急隊員が「軽傷」と判断したのを家族が納得して連れ帰った
ということになる。
読売。
救急隊員、意識不明の男性搬送せず 9時間後手術も重体 軽傷と判断/奈良
2006.11.18 大阪朝刊 39頁 (全947字)
◆奈良・橿原消防署 飲酒で転倒 家族の要請拒否奈良県橿原市の県警橿原署の駐車場内で今月15日、頭にけがをしているのを見つかった同県大淀町内の木工業男性(42)が、同署の通報を受けて来た中和広域消防本部橿原消防署の救急隊員から、「搬送先の病院を探すのに時間がかかる」などとして、搬送を拒否されていたことがわかった。その際、隊員は搬送先を探しもしなかったという。男性は家族が家に連れ帰った後も、意識が戻らず、運ばれた病院で外傷性脳内出血と診断され、約9時間後に手術を受けたが、重体のまま。消防本部は「結果的には搬送すべきだった。職務怠慢と言われても仕方がない」とミスを認めている。
橿原署や消防本部などによると、男性は15日午前2時10分ごろ、同署駐車場で頭から血を流しているのが見つかった。同市内の飲食店で飲酒後、店近くの駐車場で転倒、頭などを強打したとみられ、約300メートル離れた署の駐車場に迷い込んだらしい。
当初は意識があり、署員が氏名と連絡先を聞き出したが、約50分後に意識を失ったため家族を呼び、橿原消防署に搬送を要請した。
救急隊員は、男性を見て転倒による軽傷と判断。家族が「大淀病院の妊婦が死亡した問題のこともあるので、病院に運んでほしい」などと懇願したが、消防隊員は搬送先を探さず、「朝まで大丈夫なので、様子を見て病院に運んでほしい」と説得して引き揚げた。この際、家族は「私の都合により、救急搬送をお断りします」という内容の「救急搬送承諾書」に署名を求められ、書いたという。
男性は自宅に戻ったが、朝になっても、意識が戻らず、家族が同市の県立医大病院に搬送。午前11時ごろから手術を受けたが、意識は戻っていない。男性の父親(72)は「近くに医大病院があると何度も頼んだのに搬送してもらえなかった。すぐに病院で治療を受けていればこんな結果にならなかったはず」と憤っている。
当時の近隣の救急病院の受け入れ状況は不明だが、県内の他の消防本部によると、家族から救急搬送の要望があった場合、断ることはなく、たとえ近隣の病院が満床であっても、見つかるまで受け入れ先を探すという。高橋善康・橿原消防署長は「脳内出血かどうかを見極めるのは難しいが、結果的に判断ミスをした。再発防止に努めたい」と話している。
読売新聞社
読売の記事だと
家族のたっての望みを救急隊がはねつけただけでなく、「救急搬送承諾書」を書かされた
ということになる。
朝日と読売では、まったく話が違う。
この問題が起きたとき、不思議だったのは
救急隊が搬送してくれなかったにしても、目と鼻の先にある県立医大病院になぜ家族が連れて行かなかったのか
という点だった。その点は、いまも解明されてない。
で、家族は訴訟を起こした。
読売より。
救急搬送拒まれ、意識不明に…奈良の男性の家族が消防提訴駐車場で頭から血を流して見つかり、警察から消防に通報された奈良県大淀町の男性(43)が、消防の救急隊員に搬送を拒否され、意識不明になったとして、男性の両親が、同県中和広域消防組合(橿原市、堀田智消防長)を相手取り、治療費など総額約2億5230万円の損害賠償を求める訴訟を奈良地裁葛城支部に起こした。
訴状などによると、男性は昨年11月15日未明、橿原市内の飲食店で酒を飲んだ後、近くの駐車場で転倒して頭を打ったとみられ、橿原署の駐車場に迷い込んだところを保護された。当初は意識があり、署員が名前や住所を聞き出したが、間もなく意識不明になり、署員が同組合橿原消防署に通報した。
救急隊員3人は飲酒して軽傷を負ったと判断したが、駆けつけた家族は、昨年8月、大淀町立大淀病院で意識不明になった妊婦が19病院で転院を断られ死亡した問題を挙げ、「(あの時は)18、19件目まで探して連れて行ったのに」と搬送を強く要請。しかし、隊員は「朝まで大丈夫。様子を見て病院へ搬送して下さい」と言って引き揚げた。
両親は男性を連れて帰宅したが、翌日朝になっても意識が回復せず、他の消防署に依頼して同県立医大に搬送した。手術の結果、外傷性脳内出血と判明、現在も昏睡(こんすい)状態が続き、意識が戻る見通しはないという。
同組合の堀田消防長の話「訴状を見ていないので現段階ではコメントできない」
(2007年11月2日14時33分 読売新聞)
救急隊が搬送しなかったのがミスだということなのだが、何故、自宅に連れ帰る前に、ウォークインででも奈良県立医大の救急に家族が運べなかったのかが分からない。県立医大が受け入れ不能だったのか。
県立医大より遠い家には連れて帰っているだけに、この部分は今も謎だ。
夜中に酒に酔って転倒、顔面を切った人の治療は、高校の同級生が京大病院で当直の時に、担当することがあるという。奈良県立医大の救急医療システムがどうなってるか知らないけど、京大医学部はマイナー当直もある。もちろん、自分の担当する科の患者さんしか受けない。
なんで外科じゃないの?
と聞いたら
顔は形成の担当なんだ。一応、細かく縫うからな。
という話だった。連れてこられた時点で、意識レベルに問題があれば、当然、脳外科に回すだろう。ただ、泥酔と脳が原因の意識レベル低下は、医師であっても見分けが難しいという。
救急隊は医師ではないので、その判断が正しいとは限らない。搬送を断られても、怪しいと思ったら、自分たちで病院に担ぎ込むしかないだろうと思う。外傷性脳内出血だとすると、警察で発見されてから約1時間、意識がなくなってから救急隊が到着して、押し問答していた時間もあるから、自宅に連れ帰らないで担ぎ込んだとして、果たして間に合ったのかどうか。当夜に脳外科当直があって緊急手術が可能な体制だったのか、ベッドが空いていたかなど、細かいことがわからないと、何とも言えない。
今回の事例は、本当にお気の毒だったとしか言いようがない。
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コメント
京大病院と奈良県立医大病院ではベッド数、医師数など
同じ大学病院でも規模が異なり、救急患者の扱いも違います。
奈良では基本的に他の医療機関からの紹介のみ受け入れるはずです。
只でさえ少ない医師数でがんばっている高度医療期間に
救急外来に軽症患者が押し寄せると重症患者に手が
回らなくなってしまいます。
救急には1次救急、2次救急、3次救急と分かれており、
今回の例では、まず2次救急医療機関に搬送し、診断を確定させてから
治療のために3次救急医療機関である県立医大に搬送すべきと考えられます。
以下のページに分かりやすく受診の手続きが載っています。
http://www.nara.med.or.jp/oukyuu/oukyuu2.html
投稿: だめ医者 | 2007-11-06 16:32
だめ医者先生、コメントありがとうございます。
そうすると、救急搬送を断られた時点で、夜間診療を教えて貰ってウォークイン、その後県立医大コースですね。
どの時点で脳内出血を起こしたのか、記事では不明なのですが、ひょっとしたら、意識を失った時点でダメだったかも知れませんので、そうなると、どのみちお気の毒な経過になった、ということでしょうか。
橿原警察署の目の前にあるもう一つの病院、平成記念病院にも脳外科はあるようですね。
酔っぱらって転んで頭を打つと、同行者がいない限り、いったいいつどこでどうやって頭を打ったかも分かりませんし、難しいですね。
投稿: iori3 | 2007-11-06 16:54