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2007-12-19

「マスコミたらい回し」とは?(その112)奈良高槻妊婦搬送問題「結果的に死産」ではなく「最初から死産の娩出の搬送」だった事実を「搬送先が見つからず死産の悲劇」というのは悪意あるミスリードだ 読売新聞奈良支局の田村勇雄記者は事実誤認記事を書き飛ばすな

奈良県の妊産婦搬送システムが破綻しており、それが放置されていたのが確認されたのが
 8月29日深夜に橿原市のスーパーオークワから出血を訴えた「未受診妊婦」の搬送問題
だった。これが単なる「問題」なのは
 この妊婦さんの「死産」は、搬送遅れによるものではなく、スーパーオークワで出血を訴える2-3日前には、子宮内で胎児が死亡していたことが搬送当日の警察発表から読み取れる
からである。これについては以下に詳しく書いた。
 2007-09-06「マスコミたらい回し」とは?(その101)奈良高槻妊婦搬送問題「昨夜から出血が」
http://iori3.cocolog-nifty.com/tenkannichijo/2007/09/101_17c5.html
 2007-09-12「マスコミたらい回し」とは?(その109)奈良高槻妊婦搬送問題 救急搬送する以前に胎児は胎内で死亡 病理医学の立場から→マスコミは搬送当日(8/29)の警察発表でその事実を知っていたにもかかわらず、歪曲した報道を続ける
http://iori3.cocolog-nifty.com/tenkannichijo/2007/09/109829_6db9.html

この時も書いたけれども
  搬送システムの不備

 死産が始まっていた妊婦搬送
とは、話を分けなければいけない。ところが、相変わらずマスコミは
 死産の悲劇
などと
 自分たちが搬送当日に聞いた警察発表をわざと無視して、知らない振りをする報道
を続けている。
8-9月には、この奈良高槻妊婦搬送問題で
 奈良県立医大産婦人科教室叩きが激化
して、メディアスクラムが起こった。とりわけ
 NHKの「ニュースウォッチ9」のバッシング報道
がひどかった。それについては
2007-08-31 「マスコミたらい回し」とは?(その93)奈良高槻妊婦搬送問題 胎児は胎内で死亡していた 何故マスコミはその点を隠そうとするのか→奈良県立医大産婦人科教室叩きには「某有名大学教授選絡み」という怪情報まで
http://iori3.cocolog-nifty.com/tenkannichijo/2007/08/93_291b.html
にも書いたけれども、結果として
 産科医となるはずだった若い研修医が他科を選び、日本から一人の産科医が永遠に失われた
のである。このことは、以下に詳しい。
 2007-08-31「マスコミたらい回し」とは?(その95)奈良県立医大産婦人科教室からの正式コメント
http://iori3.cocolog-nifty.com/tenkannichijo/2007/08/95_6d40.html
 2007-09-01「マスコミたらい回し」とは?(その96)奈良高槻妊婦搬送問題で報道被害 奈良県立医大産婦人科教室への研修希望者が辞退 ただでさえ人手不足の産科に打撃
http://iori3.cocolog-nifty.com/tenkannichijo/2007/09/96_edee.html

現在
 奈良県内には産婦人科医は72人しかいない
のだ。そのしんどい現場に自ら飛び込み、研鑽を積もうとしていた若い研修医の意欲を喪失させたマスコミの責任は重い。一人の産科医がいない、ということは、その医師が年間実質的に扱うお産の数を150件/年(適正なお産の数は120件/年だが、産科医はオーバーワークが続く)として、産科医として50代半ばまで働くとすれば、お産を扱うのは約30年、すなわち
 150×30=4500件
4500人前後の妊婦と同じかそれ以上(多胎もあるだろうから)の赤ちゃんが
 お産を取ってくれる産科医を失った
のである。産科医が一人前になるまでには10年かかる。産科は外科系ではあるが、特殊な手技の多い診療科だから、昨日外科だった人間が、翌日からお産を扱うという訳にはいかない。当然、研修医を勘定に入れてシフトを組んでいた現場にもしわ寄せが行っている。

今は12月。9月までで、ここまで事情は明らかになっているのに、マスコミの論調は変わらない。
読売より。


妊婦死産問題  県の対応後手悲劇再び

 8月29日午前2時44分。橿原市の妊婦が腹痛を訴えた。通報を受けた中和広域消防組合が電話で9医療機関に問い合わせたが、すべて断られた。約1時間20分後、大阪府高槻市の病院への受け入れが決まったが、搬送中、妊婦は死産した。

 「教訓は、なぜ生かされなかったのか」。県庁で問題の一報を受けて取材を始めて、まず頭をよぎったのは、そんな思いだった。というのも、昨年8月にも、大淀町立大淀病院で出産中に意識不明となった妊婦が19病院に転送を断られた末、搬送先の同府吹田市内の病院で死亡し、社会問題となっていたからだった。

 今回の問題の取材を進めるうち、相次ぐ妊婦の悲劇は、起こるべくして起こったのだと確信した。前年の搬送問題の際に、柿本善也・前知事が搬送システムの問題点を検証する会議を発足させると表明していたが、会合は1度も開かれていなかったのだ。

 この不手際について、県側は「総合周産期母子医療センターの整備を急いだあまり、搬送システムにまで手が回らなかった」と釈明。しかし、そのツケは、あまりにも大きかったと言わざるを得ない。

 県は9月7日になって、医師や消防などによる調査委員会の第1回会合を開催。この中で、▽消防と医療機関の連携不足▽産婦人科の救急患者の受け入れ態勢が未整備――などの問題点が次々と指摘された。

 だが、最も問題なのは、産婦人科医不足だ。県内では2005年度以降、5病院が産科を休診し、産科医師の数は07年4月現在で72人。人口10万人当たりでは04年調査で0・3人となり、近畿2府4県では滋賀県と並び、最下位となっている。

 調査委の報告書に基づき、県は、県立医大(橿原市)の卒業後に県内で指定する病院や産婦人科などに勤務することを条件にした入試の特別枠5人を設ける制度を来年度から導入。また、同大の在学生や研修医を対象に、県内での産婦人科などへの従事を条件とした県独自の奨学金制度も来年度に設置する方針。

 「とにかく県内で1人でも多くの若い産婦人科医が増えてほしい」。県医師会産婦人科医会の齊藤守重会長は、県の再発防止策に期待を寄せる。

 ようやく動き始めた県の再発防止の取り組み。産婦人科医の確保や育成は一朝一夕には、いかないだろう。だが、いつか奈良が産科医療の先進県になってほしいと、切に願う。(田村勇雄)

(2007年12月19日 読売新聞)

え〜と、
 搬送中、妊婦は死産
というのは、事実であるが
 ミスリードを狙っている
のが明らかだ。というのは、続く
 相次ぐ悲劇
というフレーズが馬脚を現している。
 産婦人科を受診せず、2-3日前に子宮内で胎児が死亡、死産児の娩出が始まって出血が深夜のスーパーで始まった妊婦さん
というのは、はっきり言って
 悲劇ではなく、一切胎児を省みなかった結果、死産した
のではないのか。こういうのは
 自己責任
ではないのか。それとも読売新聞では
 妊産婦の不幸な転帰は「全部他人の責任で、妊産婦には一切責任がない」
という考えなのか?

よく言えば
 事実誤認に基づく記事作り
で、悪く取れば
 事実を隠蔽したミスリード
によるこの記事が
 最も問題なのは、産婦人科医不足
とぬけぬけと書いて恥じないのは、すばらしい。これを書いたのは
 田村勇雄記者
である。記事を読む限り
 読売新聞奈良支局の記者
のようだ。全国の産科医のみなさん、是非、名前を覚えておきましょう。
産科救急の原則を調べもせず、今回の
 奈良高槻妊婦搬送問題の本質を3ヶ月以上経っても全く理解せず
に、こうした記事を書き飛ばす神経がわからない。しかも
 地元の奈良県の話を書いている
のにですよ? こういうのは
 取材不足の書き飛ばし記事
ではないのか。チェックが甘いな、読売新聞奈良。せっかく
 正倉院展の観客数を増やすことには貢献
しているのに、
 医療関係記事はアウト
ですな。情けない。

そういえば、
 奈良高槻妊婦搬送問題
の時の読売の社説はひどかったな。産経もだったけど。
2007-08-31「マスコミたらい回し」とは?(その94)産経と読売は「少子化対策」の敵 社説のタイトルが「たらい回し」 子どもを持つ予定の家庭には両紙の不買を推奨 当夜、どの病院も命の戦い 目の前の患者を見殺しにして「緊急搬送」に応えろ? 
http://iori3.cocolog-nifty.com/tenkannichijo/2007/08/94_980e.html
全然反省してないどころか、
 日本の産科医療崩壊に貢献する読売新聞奈良支局
か?

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コメント

書き飛ばす新聞社がある一方で、地道にこの件をとりあげる新聞社もあります。
神奈川新聞は貴サイトを読んでいるのではと思うほど(笑)です。
今回も社会面とはいえ、12月19日付朝刊「2007記者ノートから」の7回において、実際に記者の妻が出産したときの体験と照らし合わせながら、周産期医療の現実(絶対的に数が足りない、医療の限界、飛び込み出産の問題点、といったこと)をピンポイントでおさえて紹介していました。もちろん記事の文字数もあり掘り下げるところまではいっていませんが、ただ医療側だけが努力すべきといった論調を取っていないこと、医療を受ける側に立ったときに感情的に判断しないようにするのは難しいことに触れているのはよかったと思っています。

スキャナを持ち合わせていないので、お送りできず申し訳ありませんがもし入手が可能でしたらご一読をと思いお知らせしました。
それでは。よいお年をお迎えください。

投稿: fx_piyokocchi | 2007-12-19 12:41

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