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2008-01-09

NICUの向こう側(その3)超低出生体重児の海外での扱い→追記あり

大学の教養では体育があった。その当時、養護クラス(というのが京大にはあった)に入っていたメンバーには
 CPのために足に障碍がある農学部の子(ただし歩行は普通にしている)
がいたので、その年度の養護クラスの課題は、その子が使わずに退化していた膝から上の筋肉をリハビリするプログラムになった。筋電計で果たしてその筋肉を使っているかどうかチェックしながら、一番効果的なリハビリ方法を探る、というものだった。(ちなみにその子は「僕は原因が原因だから、足の障碍は不治ってことになってるんで、うんと子どもの頃に身障者手帳もらってるんですけど、誰も気がつかないもんな」とニコニコしていた)
その時、指導に当たっておられた熊本水頼先生が、
 (追記 15:15)バイク事故なんかで(追記おわり)機能がダメになった腕は、日本の医者はウェットだから温存するけど、アメリカだとドライだから切っちゃうんだよな
という話をされた。機能が戻る見込みがほとんどない腕を身体に付けておくよりも、切断して、使える機能を最大限に利用するのが、アメリカなどのやり方なんだよ、でも日本だとそれは馴染まないだろうな、というお話だったと思う。
 ダメだろうと、わずかな希望を残して、リハビリしている
というのが、今から20年以上前の日本の話だった。

生命観についても、日本とは大きな違いがある。日本では
 80歳以上の高齢者であっても、予後は別として、濃厚な治療を行う方向
にあるように見えるのだが、海外では、高齢者などでは
 QOLが良くない
という場合、手術適応されないとか、そうした違いがある。
祖母が88歳で亡くなる2週間前に、腸の手術をして人工肛門を付けられたのを見たとき、
 ここまでしていいのかなあ
と家族みんなが思った。結局、手術後2週間で亡くなったので、
 あんなに苦しい手術をさせて、人工肛門にしない方が、おばあちゃんは楽だったんじゃないのか、かわいそうなことをした
というのが、残された家族の思いである。

こうした
 どこまで治療するのか
というのが、端的に突きつけられるのが
 超早産で生まれた超低出生体重児の問題
だ。今では300gを切るような、うんと小さい赤ちゃんでも、場合によっては助かってしまう。こうした赤ちゃんは、管理さえ適当ならば、よほどのことがない限り、どんどん大きくなる。大きくなるのだが、
 健常な子ども
とは限らない。発達はどうしても遅れ勝ちだ。その点については、昨年4月に
 2007-04-06 不妊治療で語られないこと 小さく産まれた赤ちゃんが学校に行くとき
http://iori3.cocolog-nifty.com/tenkannichijo/2007/04/post_8bc7.html
で取り上げたのだが、ubm46671先生が、海外の記事を博捜して、
 海外での超低出生体重児の問題
について、ご自身のblog"SFD :SuperFamily-Dentist"で紹介してくださっている。
500g以下のうんと小さい赤ちゃんが育つようになったのは、比較的最近のことであり、超低出生体重児の予後については、現在、やっとデータが出始めたところだ。
 超早産児の 6 歳の時点での神経学的障害と発達障害 2008/01/09 09:54
 超低出生体重児は正常に発達しない 2008/01/09 09:26
 超早期産児の長期予後はよくない 2008/01/09 09:23

二つ目の記事では、ロサンゼルスの超低出生体重児のその後を追跡調査した結果、これらの子ども達を扱った施設が、次のような指針を設けたことが記されている。


この施設では、体重500g以上の児あるいは在胎齢24週以上で出生した児のみ蘇生するよう閾値を高める改訂を行った。新生児学者はどの児を蘇生させるべきかという困難な問題に取り組み続けており、医療センターによって診療はさまざまである。

平均値で子どもを切るな、という意見を、マスコミ辺りが喧伝しそうだが、赤ちゃんは大きく育つのだ。重度の障碍を負うことがほぼ明確な状況で、小さい赤ちゃんを救うことが、その赤ちゃんと家族のために一番いいことなのか、新生児医療に携わる人たちは、常に問題を突きつけられている。
NICUに一ヶ月入院すると、医療費は1000万円かかる。こうした極小さい赤ちゃんが「助かった」というニュースは
 感動的
ではあるが、実際には、その後を語られることが少ない。もし、1年NICU管理が続いたとしたら、その子どもには、1億2000万円の医療費が使われていることになる。残念ながら、それほど長期のNICU管理が続く子どもは、障碍の程度が重い場合がほとんどだろう。
重度障碍であっても、生きる権利はある。しかし、生きる権利があるのと、その子どもを育てていく困難、その子どもが育っていく困難とは別なのだ。この辺りの制度がまったく整っておらず、むしろ
 福祉予算削減で、重度心身障害者の施設入居が阻害されている
のは、
 「小さい赤ちゃんが助かった」という奇蹟のニュースが、実はその後の「家族の苦悩」の歴史
になる、ということだ。昨日、(その2)に龍さんからいただいたコメントを再掲する。


NICUから、小児病棟に移ってもまた小児病棟のベッドを占領します。また、重症心身障碍児施設に移っても、施設の定員がありますから、そこを退所しない限りそのベッドを占領します。今は昔と違ってケアー・キュアーが行き届いていますので、障碍児をいえども寿命が伸びています
施設のベッドが空かない限り入所できません。また、一度入ってしまうと、よほどのことがない限り退所しませんというか、退所するときは死亡退所のみです。

よって、後から生まれた障碍児は行く所がなく、小児病棟にたまり、更にはNICUに沈殿してしまう構造になっています。
解決方法は、キャパシティを増やす以外ありませんが、医療福祉予算の削減が至上命題であり、施設定員の増加はなくむしろ減少となっています。

親の方が、老齢となり障碍児の介護ができない状態でも、施設が空かない限り、入所できません。よって、たとえ、親が元気でも早くから施設に入所申し込みをしておいて、ベッドが空き次第、入所させます。これでは、緊急入所が出来なくなり、悪循環です。

医学の発達が、
 超低出生体重児の救命
に役立っているとしても、
 超低出生体重児のその後の人生
を保証するのは、家族と社会だ。龍さんのコメントでは
1. 重度心身障碍児の受け皿となる施設の収容定員は削減傾向
2. 医学の発達により、超低出生体重児などが原因の重度心身障碍児は増加する傾向
3. 施設に空きがないので、小児科に長期入院
4. 小児科のベッドが空かないので、NICUに長期入院
5. 結果として、NICUに長期入院する赤ちゃん・子どもが増加、NICUの満床などつねに「NICUの余裕がない状態」が続く
ということなのだ。

どこまで助けるか。
これは医療技術の問題ではなく
 倫理の問題
である。
日本では
 表向き、障碍者は差別しない
のだが、実際に
 福祉予算の削減によって、生きにくくなっている
のである。これは
 隠れた差別
だ。もし、国が
 予算がない
というのなら、
 現在の国の予算では、新たに生まれた重度心身障碍児は、一年に何人しかフォローできない
という事実を数字で明確に示して欲しい。つまり
 せっかく助けても、受け皿がない
のでは、
 個人の努力が及ばなくなった場合、八方ふさがりになってしまう
からだ。一人の重症児のケアには、たくさんの医療スタッフが関わっている。一人をケアすることで、他の子どもはケアできなくなる場合があるわけで、
 NICUへの搬送不能
が増える原因ともなっているのだが、その子どもがNICUや後方病床から出たとたんに、
 十分なケアが受けられなくなる
とするなら、医療スタッフの努力は報われない。

国は
 少子化対策で、不妊治療を補助する
と言っているが、不妊治療を受けざるを得ないカップルには
 高齢初産

 体外受精による多胎妊娠
など、超低出生体重児が生まれるリスクが高い場合が少なくない。
 生むまでは金を出す
が、
 健常児ではない子どもが産まれた場合は面倒を見ない
というのならば、それはおかしい。恐らく
 少子化対策=健常な労働人口の確保
という暗黙の了解を、表に出したくないのだろう。

今必要なのは
 妊娠適齢期に子どもを産み育てられる社会作り
だ。人間は生物だ。30歳を過ぎれば、女性の生殖能力は衰え始める。
 若い女性に労働も、子育ても
というのはムリである。
国はともかく、
 重度心身障碍者の社会的コスト
を明らかにした上で、福祉政策を立てていただきたい。今の予算編成は
 重度心身障碍者とその家族を追い詰める構造
になっている。それでも尚
 高齢の母親や体外受精で多胎妊娠した母親に少子化対策として「子どもを産ませる」
つもりならば、
 一定数は必ず生まれてくる重度心身障碍児のための施設の充実
が必要である。
こうしたコスト計算を表に出さないのが
 日本的優しさ
ならば、
 重度心身障碍者とその家族を「無理心中」に向かわせる圧力
も、
 日本的優しさの産物
ということになる。

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コメント

>熊本水頼先生が、「機能がダメになった腕は、日本の医者はウェットだから温存するけど、アメリカだとドライだから切っちゃうんだよな」という話をされた。

前文でこのフィレーズがあります。京大農学部のくだんのCPさんは、アテトーゼ型でしょうか。
四肢を切除すると、幻覚痛が出てきます。知的障碍のない人の幻覚痛は耐え難いものと聞いています。以前のアメリカの治療はそのようなものであったのでしょうが、それをK先生のようにウエット・ドライの割り切り方には、疑問が残ります。
重症心身障碍児で痙性麻痺のCPに、四肢の切断を行っていたとは到底思えませんので。

投稿: 龍 | 2008-01-09 15:03

低体重児も確かに問題ですが、中途障碍児もかなり問題だと思います。
健常に生まれ育っていて、病気や事故で、以前なら亡くなっていたような症例が、最新医療で障碍児になると分かっていて救命されています。
これだけ医療訴訟が増えていますから、医療機関側に救命しなければ訴訟になるという強迫観念もあるかもしれませんが、障碍児にまず間違いなくなるという場合でさえ、特に説明もないまま救命治療を続けるのはどうなのかと思ってしまいます。
もちろん、きちんと説明をする場合もあるでしょうが、それは大抵の場合、障碍児を育てる覚悟をしろという宣告でしかなく、救命をやめるかどうかの選択となっていないのが、難しい所です。
障碍を負ってしまったあとの、その障碍児の人生の責任は家族に被いかぶさってきますから、こういった最新医療が作り出す障碍児も、同じラインで論じていただければと思います。

投稿: Aya | 2008-01-09 16:54

重身で還暦のお祝いとかやりますよ。カルテなんて「○○大系」かってくらい厚いのが何冊も。
80過ぎた母ちゃんが見舞いに来るんです。

投稿: ssd | 2008-01-10 12:33

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