嫌いな言葉 自分磨き
時々、世に氾濫している
嫌いな言葉
を上げていく予定。
まず最初に上げるのは
自分磨き
だ。
『禮記』學記に
玉不琢、不成器。人不學、不知道。
(玉琢かざれば、器を成さず。人學ばざれば、道を知らず)
とある。
素質があったとしても、学ばないと、道理はわからない
というわけで、
絶えざる自己鍛錬の必要性
を説いている、とわたしは読むのだけれども、これってごく当然の話である。てか
オレはこれについては完成だ
なんて慢心したとたんに、人間はダメになる。
自分磨きという言葉の気持ち悪さは
自分探し
とよく似ている。自分探しという言葉を平気で使って恥じない人たちは
今、わたしの目の前にいるあなたは誰よ
という問いにはたぶんちゃんと答えない。
今は〜だけど、いつかはきっと
みたいな、不渡りの約束手形をたくさん振り込んでくれるだろうけれど、その
いつかはきっと
の
いつか
は、ほとんどやってこない。てか
本当に何か違うモノになろうとして努力している人
は、そんな言い訳を口にする時間が惜しい。自分の必要としていることを学んだり、身につけたりするのには時間が必要だからだ。本当に
夢を叶えようとする人たち
は、たぶん無口だ。てか、実現されてない自己を語ることは、いいオトナになれば、素面では気恥ずかしいということを知っている。
いま25歳くらいになっているかつての学生が、5年くらい前に、
うちのおねえちゃんは困る
と話してくれた。なんでも
おねえちゃんは、自分探しとかいって、いろんなものに手を出して、どれ一つ実現できず、そのたびに両親にお金を出してもらって、新しいことを始める。自分じゃ全然稼いでないのに、お金ばっかり使って、バカみたい
というのだった。その学生は、
わたしは地面に足を付けて、ちゃんと就職して、自分で稼ぎます
と宣言して、果たしてその通りの進路を選んだ。
自分磨きという言葉には、自分探し同様
自己憐憫の匂い
がする。
モノになる
という言葉からは遠い。
悲しい話だが、いくら努力しても、ダメなことはある。
どこでそれを見切るかが、オトナとしては大事であり、
損切り
ができるかどうかが、人生をやり過ごす一つの知恵なのだけれども
自分磨き
という言葉には
自分で選んだことを成し遂げられなかったときの責任回避
が匂っている。適当でいい、みたいな逃げが最初から感じられるのだ。
自分磨きなんて、ぬるい言葉ではなく、
日々鍛練を積む
ことには、きちんとした日本語がある。
丹精する
という言葉だ。
いま瀬戸山玄の『丹精で繁盛―物づくりの現場を見にゆく』を読みかけているところなのだが、瀬戸山玄のいうように
丹精という言葉をすてて「こだわり」を選んだ現代日本
では
当たり前の努力
を
あたかも難事を成し遂げているかのようにショーアップする悪弊
がある。その最たるモノの一つが
NHKの「プロフェッショナル 仕事の流儀」
だとわたしは思っている。たぶん、NHK局内には大量の
自分磨きが大好きな職員
がいるのだろう。
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コメント
全く同感。
自分が可愛いのは、ま、誰にもあることだけど、それがなんか変な方に強くなっている感じですね。
投稿: バンドル星人 | 2008-01-25 18:51
私もこの自分探しという言葉大嫌いです。以前、流行っていた(?)「自分史」というやつには嫌悪感すらもっていました。自分で金使って出版して、人に読ませるって、どういう感覚なんだか。最近は自分にばかり目がいって、ほんのちょっと周りを見渡すことができない人大杉。ところで、プロというと、NHKの「家族に乾杯」をなんとなくみてたら、黒豆(だったと思う)作ってるお爺さんが、「70年やったって、70回しかできないんだから」とおっしゃっていたのにはちょっと感動しました。来年はきっともっといいのができると考え続けて仕事をする姿勢に真のプロをみたような気がしました。
投稿: 南島の管屋 | 2008-01-25 21:12
自分探し
若い人ならある程度はしょうがないかもしれないけど…。
いい年した人が言うことじゃないね。(二十代後半以上)
ただ健常者から外れる人はそういうことはしないだろうな。
個人的にはオンリーワンも嫌いかな。
歴史を勉強した影響もありますけどね。
黒豆
70回か…確か花火にも言えますね…正月もそうかもしれませんけど。
投稿: 白 | 2008-01-25 22:02
なんでもかんでも「自己実現」という言葉につなげようとする人もいますね.
そんな人々には田中ぷにえの歌う「願い,明日,夢」を捧げます.
投稿: KenZo- | 2008-01-26 01:23