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2008-01-20

点と線の奈良 万城目学『鹿男あをによし』幻冬舎(ネタバレ注意)

夏目漱石『坊ちゃん』の2007年版パロディ。
それが、万城目学の『鹿男あをによし』の骨格となっている。
文体もわざと似せてある。
『坊ちゃん』のパロディだと分かれば、だいたいの登場人物の行く末も最初の段階で見えてくる。もっとも、古賀君に相当する気の毒なキャラクターはおらず、美術教師は野だいこのような悪役にはならず、マドンナに愛されるなど、違いはある。山嵐と野だいこをブレンドしたような立場なのが、主人公の下宿先の孫で、同僚の美術教師「重さん」だ。

何より大きい違いは
 舞台が男子しかいない松山の中学から、奈良の女子高へ変わっている
ことだ。思春期まっさかりの女子高生という、若い男性にはいちばん得体の知れない、扱いの難しい生徒達をいきなり担任することになった主人公「おれ」の困惑がよく描かれている。あの年代の少女達は、残酷で、美しく、のびやかで、傷つきやすい。

そうした道具立てで語られるのは
 60年ごとの「目」の移動の「使い番」に「おれ」が指名される
という、古代史に素材を取ったファンタジーだ。八月に研究室を追われることとなった主人公が、九月十月と女子高で理科の教師として短期間務める。
最初のミッションに失敗し、鹿に「印」を付けられた「おれ」は、日に日に鹿に変貌していく。鹿に変わりつつ、
 定められた期日までに、鼠の使い番からだまし取られた「目」を奪い返し、60年に一度の儀式を滞りなく済ませるよう計らう
のである。

「目」を奪った鼠の使い番が誰で、どうして「目」に執着したかの筋立ては、歴史の話としては底は浅いけれども、ディープじゃない読者には受け入れられるだろう。
わたしは盛大に突っ込んで読んでいたけれども。

気になるのは
 舞台となる奈良が点と線
でしかない点だ。都となった地には、広がりがある。その広がりがまったく見えてこない。ポインティングされた地名だけが浮かび上がる。起伏に富み、歴史を蔵する奈良の魅力はあまり感じない。
そう言う意味では
 一種のトラベルファンタジー
であり、地名は、ドラマの背景以外の意味は持たない。奈良には地霊が騒ぐ場所があちこちにあるのだが、作者の耳には、その声は聞こえていないようだ。

だからこそ、テレビドラマの原作としては、実に扱いいいと言えるだろう。
地霊を描くためならば、映画の方がふさわしい。

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