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2008-02-05

外科崩壊 高齢化で手術件数は増加しているが外科医は恐ろしいペースで減っている 日本は交通外傷も一般の外科手術もできなくなって「いま助かっている患者」が死ぬ国に

昨年、京大医学部に勤める友人から聞いた
 外科が危ない
という話が論文になっている。
2007-11-06 医療崩壊 外科は崩壊前夜→医療費削減でエリート医師の海外流出はもうすぐ
http://iori3.cocolog-nifty.com/tenkannichijo/2007/11/post_6f1d.html

ご紹介下さったのは「僻地の産科医」先生の「産科医療のこれから」
 明日の外科手術はだれがするのか―若手外科医の減少
で、
北大の江原朗先生の上記表題論文を全文引用してくださっている。
ポイントは以下だ。


1. 厚生労働省の医師・歯科医師・薬剤師調査1)によれば,平成8~16 年の8 年間外科の若手医師(主たる診療科が外科である25~29 歳の医師)は,3,180 人から2,145 人へと著しく減少(-33%)
2. 平成8 年以降,25~29 歳の外科医の数は年々減少.同世代の産婦人科医の減少(-23%)に比べ外科医の減少のほうが著しい.また,小児科医の不足も叫ばれているが,若手に限っては著しい減少はない(0%)
3. 全年齢層においても外科医の減少が認められ,平成8 年の24,919 人から平成16 年の23,240 人へと7% 減少している.また,平成8~16 年にかけて,40 歳未満の外科医が減少し,40~59 歳までの外科医が増加している
4.  65歳以上の国民人口は増えている.国勢調査2)によれば,65 歳以上の人口は,平成7年には18,260,822 人であったが,平成17 年には25,672,005 人にまで増えている(+41%).これに伴い,悪性腫瘍の1 か月当たりの手術件数も平成8~17 年の間に約20% 増加している.また,胃・大腸,乳房,肝・胆・膵の各悪性腫瘍についても増加傾向
5.  手術件数は増加しているにもかかわらず,外科医総数も40 歳未満の外科医の数も減少している.特に若手外科医が減少しており,近い将来,手術の需要をまかないきれない事態が生じる可能性も否定できない.
6.  病院勤務の外科医の平均勤務時間は68.8 時間月に換算すると123 時間[週(68.8-40)時間÷7 日×30 日]の時間外勤務 病院勤務の外科医は過重労働 
7.  勤務体制を改善することは必須である.新卒の医師が外科を選択しなくなれば,明日の手術はだれがするのだろうか

若い医師がいない、ということは
 5年後、10年後にはもっとたくさんいるはずの「高齢者に頻発する癌の手術をする外科の先生がいなくなる」
ということだ。もちろん
 高齢者だけでなく、若い世代の癌の手術もできなくなる
のだ。そして
 癌だけでなく、交通外傷や一般の手術などもできなくなる病院が出てくる
ということなのだ。

ところで、江原先生の論文は一般外科の人数を議論されているのだが、資料に用いられている表「25-29歳における診療科(主たる)ごとの医師数の推移(各年12月31日現在)」には、もう一つ恐い事実が見える。
 診療科 平成8 平成10 平成12 平成14 平成16
 整形外科 1945/1915/1830/1757/1348
 脳神経外科 844/772/713/726/540
平成8年を100%とすると、
 整形外科 -28.8%
 脳神経外科 -36.0%

となる。つまり
 交通外傷や脳疾患などで手術が必要でも、できない場合が増える
ということだ。特に
 高齢化では脳疾患
は、心臓疾患と並んで大きな健康問題だが
 脳疾患で倒れたから、すぐに手術を
ということが、地域によっては出来なくなってきているのだ。

その昔、今ほど脳外科の恩恵に浴すことがなかった時代には、
 中ったら(=脳に出血を起こすこと)、死は時間の問題
だった。
今、これだけ医療が高度に発達している日本で
 医師がいないために、手術が出来ず、脳疾患で亡くなる例が増える
のは確実で、これが
 かつて経済大国と呼ばれた日本の「医師の人材養成の国家的計画を誤った」結果
であり、かつ
 マスコミが、こうした外科・整形外科・脳神経外科の苛酷な状況を把握せずに、「搬送が遅れて亡くなった」などと医療現場叩きを続けた結果
である。

今、記事を書いている現役記者達の生活は、お世辞にも、健康的とは言えない。彼ら、彼女たちが死に近づくときは
 癌・脳疾患・心臓疾患のいずれかである可能性大
だが、彼ら、彼女たちがその時を迎えても
 現在日本で普通に行われている外科治療が施される可能性は低い
のである。
 自分たちの無責任なペンの暴力が、自分の命に降りかかる
分には自業自得としか言いようがないが
 ペンの暴力による「外科崩壊」で、治療を受けられずに、むざむざと亡くなる一般市民がたくさん出るだろう
ということには、マスコミ人は責任を取らないだろうね。
もし、あなたたちの両親・家族・友人が今後
 必要な外科手術を受けられずに亡くなった
としたら、
 自分達のペンが殺した
ということを肝に銘じていただきたい。
それはもちろん
 高齢化社会で手術件数が大幅に増加する
ことを予見できず
 医学部の募集人員を抑制してきた国の政策
にも責任がある。でも
 厚労省の官僚も歴代厚労相も決して責任は取らない
だろうし、むしろ
 一般市民より濃厚な医療を受けて死ぬことができる
だろう。

マスコミのペンの暴力と厚労省の不作為によって
 国民はこれから必要な手術を受けられずに死んでいく
のだ。
江原先生の論文では
 現在40歳未満の外科医が減少している
ということだから、あと5年もすれば
 日本のあちこちで、外科医の絶対数が不足して、簡単な手術も受けられずに亡くなる人が出てくる
だろう。極端な話、その内
 虫垂炎をこじらせて死亡
という話も珍しくなくなるかもしれないのだ。

早晩、
 有限な医療資源を有効活用
するために、
 手術待ちの優先順位
が、問題になる。たぶん、厚労省は
 後期高齢者には濃厚医療は施さない
という方針だから、 最初は
 75歳を過ぎた癌・心臓・脳の手術は原則しない
となり、次に
 75歳を過ぎて、QOLを侵すような大きな手術はしない
となっていくだろう。その次は
 1歳未満の予後の悪い赤ちゃんの手術はしない
に移ると思われる。

その後に切り捨てられるのは誰になるのか。

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コメント

外科志望者の不足が目立つことに関して、マスコミにも厚生省にも無茶苦茶な司法にも咎があるでしょう。もうひとつ、今時「365日24時間医師であれ」などという非人道的なことを有名な東大教授が誇らしげに語ってしまうような、外科系臨床医の旧軍的というか時代遅れな体育会系的体質にも問題があると思います。今までの外科医達が奴隷扱いに異議を唱えずむしろ喜びとし、後輩にも押しつけ、労働条件の最低限の改善さえ要求してこなかったことも現在の志望者不足を招いた一因ということができましょう。

投稿: ひで | 2008-02-05 15:52

 深刻さの度合いから言えば、内科医が減っている(純減)ことの方がさらに重要です。

 昨今、病院内科医の集団辞職がちらほらと話題に上りますが、理由のないことではありません。

投稿: rijin | 2008-02-06 00:53

外科はチームでないと仕事ができないので耐えに耐えます。
辞めるときは揃ってやめます。ですから崩壊が先延ばしされます。

内科は個人プレーでやっていける分野が多いので
ポロポロとやめていきます。徐々に崩壊がすすみます。

現在、外科は耐え忍んでいる状況です。
内科の崩壊は着実に進んでいます。

投稿: 通りすがりの逃散医 | 2008-02-06 17:44

エリートではありませんが、アメリカで医師として働くためにUSMLEstep2対策がんばってます。
正直、日本は医師が働くのには環境が悪すぎます。

投稿: 医学部学生 | 2008-02-08 00:43

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やはり、未来がないことがわかった。小児科でもない。産婦人科でもない。一番、崩壊の危機に瀕しているのは、外科である。こんな資料を手に入れた。 資料元は北海道大学医学部 公衆衛生学教室の江原朗さんである。...... [続きを読む]

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受信: 2008-02-07 11:24

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