福島県立大野病院事件論告求刑公判@3/21 (しばらくこの記事をトップに表示します)
いま日本で進行中の
産科崩壊
の最初にして最大の推進力となった
福島県立大野病院事件
で検察側の論告求刑が3/21に行われた。検察側は
禁固一年 罰金10万円
を求刑した。
ロハス・メディカルブログでは、川口恭さんが、傍聴されたM先生の記録を掲載している。
福島県立大野病院事件論告求刑公判(1)
投稿者: 川口恭 | 投稿日時: 2008年03月21日 23:48こんなに長くやるなら午前からやってくれればいいのに
という長時間の早口朗読。
まずは求刑へとつながる最後の部分のみ
周産期医療の崩壊をくいとめる会M先生の記録にて。
検事
「被告人は産婦人科専門医であり、被害者は健康な29歳の女性であった。被告は癒着胎盤をクーパーを用いないと剥離できないほど癒着していたにもかかわらず、無理に剥離した。この過失は、専門医の基本的な知識に反し、過失は重大である。被告は癒着胎盤を十分に予見しながら、剥離を中止する注意義務に違反し大量出血させた。前回帝王切開の既往がある全前置胎盤では、24%の確率で癒着胎盤が生じることは基本的な医学書に記載されている。胎盤が前回切開創に付着している危険性は予見できた。手術の腹壁切開時に子宮前壁の表面に静脈の怒張がみられており、術前の超音波診断でも胎盤が前回帝王切開創にかかっていることは診断可能であった。被告人は臍帯を持ち上げた時点で胎盤が剥離せず子宮が内反した時点で胎盤が癒着していることを認識し、無理な胎盤剥離により大量出血によるショックを生じることを認識し、止血操作をはかるとともに直ちに子宮摘出すべきところ、これを怠った。
これは教科書や学会の冊子などに書かれている基本的な知見である。本件手術前に医局の先輩からも、同様の症例で大量出血が生じた症例があることを被告人は聞かされている。被告人は本件手術前や手術中の検査からも被害者の生命の危険が予見可能にもかかわらず、クーパーを使用したら剥離できる、出血しないこともありうるだろうと、安易かつ短絡的な判断により、10分間の長時間にわたって胎盤を剥離し、出血を生じさせた。無理な剥離により、剥離面から次々に湧き出る出血となり、剥離開始15分後には5000 ml、16時10分には10285 ml、最終的には20445 mlもの大量出血を生じさせ、血圧を50弱/30弱まで低下させ、出血性ショックから失血死にまで至らしめた。これは基礎的な注意義務違反であり、その過失は重大である。
被害者は29歳であり、夫と三歳の第一子と暮らし、第二子の誕生を待ちわびていた。家族と共に充実した生活をおくっていた。ほんの短時間、生まれてきた女児と対面し、「ちっちゃな手だね」と述べたその後で、予想もせずその命を奪われ、家族は言葉をかけられないまま、二度と会えないこととなってしまった。子供を残して、何ものにも代え難い命を奪われてしまったのである。予期せぬうち、突然生を断たれた心情は察するにあまりある。それにも関わらず、被告からは遺族に対し示談や慰謝も講じられていない。さらに、公判で自分のとった処置が適切であったと被告が言っている事実からは、期待もできない。被告に対する遺族感情は厳しい。遺族は4時間経過した後で蘇生中であることを知らされ、被害者が失血死した事実を突然突きつけられ、悲痛な生活を送っており厳しい感情を抱いている。被告の発言に衝撃を受けた。亡くなって悲しい気持ちや長男が言葉で母親が死んでしまったことを理解するかと、心痛は察するにあまりある。幼い子を遺して死なざるを得ない母親の気持ちを思い子供を見ると不憫でこの思いは一生続くのであり、被告に重罰をと述べている。また、当時の心境として天国から地獄が当てはまる、来る日もつらい思いと言っている。言い訳をしても一人の人間の命が消えたことは事実であり眠れない日が被害者の家族に続いている。亡くなった命は元に戻らない。長男は「お母さん起きて、サンタさんが来ないよ」、と泣け叫んだと言う。被告は院内外の忠告を無視した、命を奪った被告が許されないと綴っている。遺族の思いは当然である。
被告は自己の責任回避で信用できない供述を行ったことに反省を示していない。過失の重要な事実について、血圧低下の認識、出血量の認識、胎盤の剥離困難、クーパーの使用目的など、捜査時に供述や遺族に対する説明とも変えて、信用できない供述をしているので信用できない。自己の責任を回避するため真摯な反省や謝罪が見られない。医師と患者の信頼関係の確保が強く要請されているのに、我が国の患者の医師への信頼を失わせる、事実を曲げる被告の態度は許し難い。
医師法21条違反について、被告は自身の過失により死なせたという異状死の認識がありながら、届け出を怠った。医師法21条は主旨から、医師が警察に協力すべきである。警察が本件を知ったのが3ヶ月も経った3月31日であり、事故調査が公表され、ミスが新聞で公表されたからである。24時間以内に捜査を開始できず、関係者の記憶の散逸、胎盤などが破棄されており証拠の散逸が起こってしまったが、これは届け出義務の不履行によって生じたことだ。
よって被告には厳正な処罰が必要である。医療は侵襲を伴い生命に影響を与える。産科医療は母児の危険を内包する。よって産科医は高度な注意義務を負う。医師は社会的な信頼、患者の安全を全面的にゆだねられ、重い責任が課されている。被告は安易な判断で医師に対する社会的な信頼をも失わせた。不十分なインフォームド・コンセントしかおこなっておらず、家族は帝王切開の内容を殆ど理解できず、死後の説明も不十分で遅れた。最悪の知らせ方が遺族の悲しみを増した。被告は大量出血も家族に報告できないと言いながら一方で、応援要請に対して応援を依頼する必要はないとしており不可解である。重い医師としての責任認識が甚だ乏しいとしか言いようがない。被告は地域の社会的な重責を担ってきたとしても、過失は重大である。
よって、求刑は、禁固一年、罰金10万円 とする。 」
27の傍聴席に171の希望者。
久々に高い倍率となった。
開廷を待っている時に論告が160枚あると聞かされゲンナリする。
私は福岡で用事があったので途中で休憩が入った時に中座したのだが
結局13時30分から18時22分までかかったらしい。
しかも延々朗読するだけである。
途中で枝番号がいくつも入るので
文書を持っていない身には追うのがツライ。
インタラクティブにならないのであるから
文書を提出して公開するのと実質的に違いはない。
つくづくセレモニーだなあと思う。
ただ分かることは、延々と同じことを繰り返していたこと。
それは
加藤医師も含め、起訴段階の供述が信用性が高いのであって
公判での供述は信用できないというもの。
とりも直さず、公判では検察にほとんどいいところがなかったということだ。
それから論告の中で加藤医師のことを極悪人のようにこき下ろしていながら
求刑がずいぶん「安い」ことにも驚く。
この中途半端さは一体何なんだろう。
全体の趣旨は論告の冒頭に述べられた、こういうことである。
検事
「公訴事実は、ア)福島県立大野病院に専門医として勤務していた被告は、平成16年12月17日、被害者の帝王切開手術において、児娩出後、子宮内壁に癒着した癒着胎盤を、クーパーを使うなどして無理に剥離し、大量出血により被害者を失血死させた業務上過失致死にあたる。
イ)被告人は医師法21条に定められた届け出を怠った医師法違反である。
しかるに、被告人弁護側は
ア)被害者の癒着胎盤は局所的であり、程度は子宮壁の5分の1の嵌入胎盤にすぎなかった。
イ)癒着胎盤の予見可能性はなかった。
ウ)剥離中止義務なく、クーパー使用も相当な医学的処置であった。
エ)死因は特定されておらず、癒着胎盤剥離との因果関係は不明である。
オ)被害者は異状死にあたらない。
カ)被告人には医師法違反の故意はなかった
キ)医師法21条は憲法違反である
から、被告人は無罪であると主張している。
しかし以下に述べるように、被告人の主張には理由がなく、業務上過失致死と医師法違反に該当することは証明十分である」。
「杉野医師の鑑定では、子宮後壁から前壁にかけての嵌入胎盤であり、程度は深く、広い範囲に及んでいた。杉野医師の鑑定力は十分で23年にわたり子宮胎盤含め病理診断をしてきた。杉野医師は可能なかぎり詳細に見て医大にあった10例の癒着胎盤症例の標本も観察し実際に鑑定書は適切かつ合理的である。弁護人は杉野医師の鑑定書は楔入(せつにゅう)とすべきところ(けつにゅう)と読み仮名をふったことから不適切と言うが、標本一つの写真の左右を取り違えたのと同様の単なる誤記である。弁護側は杉野医師の鑑定能力を否定するが、十分な鑑定力を有しているのは明らかであり、その信用性を否定するのはあまりに安易。杉野鑑定書は十分信用できる。杉野鑑定によれば子宮後面と前面に癒着を認め胎盤剥離は困難であった。被告の検察官供述では、『用手剥離を開始したが、指が3本入らなくなり、2本、1本も入らなくなり、胎盤剥離を試みたが指が入らないのでクーパーを使用した』との供述によると、通常の胎盤剥離には1,2分で済むところ10分かかっている。岡村医師は被告が止血操作にとまどったと考えているが、その事実はない。剥離困難のためかかった時間といえる。広い範囲に癒着し深いことを示す。被告の検察官供述は信用できる。被告しか知り得ない事実を自発的に述べており臨場感がある。被告は検察官には確信的に胎盤の用手剥離が困難でクーパーを使ったと述べている。
麻酔記録は出血に関しては正確でない。胎盤剥離と同時に出血が増えたと見るのが相当。麻酔記録を根拠にクーパー剥離中には出血が少なかったとの弁護側の主張は不合理である。
関係者の供述でも剥離中に出血が増えている。H医師(麻酔医)の『湧き出るように出血していた』との供述は十分に信用できる。当時の記憶に基づいて証言したものと評価できる。医学界医療界からの心理的圧迫を受ける状況にはなく、また自らも被疑者として黙秘権の告知を受けて供述しており、わざわざ被告人に不利な証言をする必然性がない。一方で公判での供述は、内容自体が非常に曖昧であり信用性に乏しい。記憶の減退を主な理由に挙げているが、公判証言によって医学関係者から強い反響を受けることは明らかであり、強い心理的抑制が効いていたのは明らかだ。多くの医学医療関係者が注目していること、2回にわたって弁護側から事前に面談を求められ会っていること、うち1回は県立医大産婦人科教室の助教授が同席していたことなどから、被告人にとって不利益な証言が難しい。公判での証言の方が気が楽だと述べたが、そのこと自体、いかにも不自然であり、信用性が乏しい。
しかもミスと言えるようなものがなかったと証言しているが、H医師は本来専門外のことについて証言する立場になく、むしろ自己の供述により被告人を有利に導きたいとの意図があったことは内容・対応より明らか」
(これから徐々に更新します)
(以下加筆予定)
| 固定リンク
コメント