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2008-05-14

「マスコミたらい回し」とは?(その121)毎日新聞奈良支局の「産科破壊報道」の勝利 奈良県・和歌山県・三重県の周産期死亡率上昇 県は周産期医療センターをつくったもののスタッフ不足で増床分の過半数のベッドは使えず→追記あり

「大淀病院産婦死亡事例」報道によるメディアスクラムの口火を切り、奈良県および近隣の他府県の産科崩壊を促進してきた毎日新聞奈良支局の皆様、またすでに異動した旧奈良支局の皆様、おめでとうございます。
 奈良県と、隣接し奈良県からも妊産婦が通っていた和歌山県・三重県の周産期死亡率がアップ
いたしました。マスコミ報道が産科を追い込むだけでなく
 お母さんや赤ちゃんに危害を及ぼすだろう
と拙blogではたびたび申し上げておりましたが、実際にあなたたちの報道が要因の一つとなって
 周産期で赤ちゃんの命が失われる率が高まり
ました。「ペンの勝利」のご気分はいかがでしょうか。

Hirn先生のblog[phenomenon]に、詳細なデータが上がっている。Hirn先生、労作をありがとうございます。
2008-05-11 日本の周産期死亡率および諸外国との比較
2008-05-11 周産期死亡率が上昇している地域(平成17年度と18年度の比較)

さて、Hirn先生が表を作って下さったので、問題の
 奈良・和歌山・三重三県の平成17年と18年の周産期死亡率の比較
の部分を引用する。人口動態調査の結果を資料とされている表のようだ。


都道府県 H17 H18(出産数1,000に対する年間の周産期死亡)
三重 4.9 5.2
奈良 5.3 6.2
和歌山 4.5 4.6

奈良県の周産期死亡率が
 5.3→6.2(+0.9)
と1近く上昇しているのが目を引く。
全国的には、周産期死亡率は
 4.8→4.7
と僅かながらだが低下しているのに比べると、この差は顕著だ。

他の産科崩壊地域では、
 大阪 4.5→4.3
 兵庫 4.8→3.9
 神奈川 5.2→5.0
 静岡 5.0→4.1
と下がったところが多く、大きく周産期死亡率が上がっているのは
 富山 4.0→6.8(+2.8)
がダントツで、続いて
 大分 3.8→5.2(+1.4)
 山口 3.7→5.1(+1.4)
 秋田 4.7→5.9(+1.2)
 青森 5.3→6.4(+1.1)
となる。
周産期死亡率の高さで言えば
 1位 富山 6.8
 2位 青森 6.4
 3位 奈良 6.2
と6を超える三県が堂々のワースト3である。
いや〜、
 毎日新聞奈良支局の「周産期死亡率上昇」への貢献
はすばらしいですね。
(追記 17:41)
ところで、分娩件数も書いておかないと、何が起きているか把握しにくいので、付記しておく。平成18年の分だ。周産期死亡数も平成18年の「人口動態統計月報(確定数)の概況」から取った。


都道府県名 分娩総数 周産期死亡数
全国 1,110,448 5100
青森 10,812 68
秋田 7,907 46
東京 103,281 478
神奈川 80,038 397
富山 9,085 61
静岡 33,385 136
三重 16,033 83
奈良 11,659 71
和歌山 8,061 37
大阪 78,837 334
兵庫 49,339 192
山口 11,920 60
大分 10,359 53

奈良の平成7(1995)年の周産期死亡数は79で、周産期死亡率は5.9だった。平成7年の周産期死亡率の全国平均は7.0だったから、平成7年当時の奈良は、統計上は全国平均より成績が良かったことになる。その当時より、県内の産科医の数は減っている。平成18年は11659件のお産を、すべて産科医(72人として計算)が扱ったとして、162件/人だ。これを激務と言わずして何という。
富山の場合は、平成17年の周産期死亡数は36だった。なぜか18年に61と激増している。一体何があった、富山県。
(追記終わり)

(追記 21:11)
コメント欄で、統計について非常に真面目な議論が続いています。ご配慮を頂きありがとうございます。統計の扱いについて、科学的にはその通りでしょう。
しかし、この
 奈良県の産科医療の問題は行政の問題
でもあります。行政は科学を優先しません。まず、今回、行政が問題にするとしたら
 奈良県の周産期死亡率が全国ワースト3
という数字がとりあげられるでしょう。内容ではなく
 全国ワースト3
ということが、政治家と官僚には一番問題になるのです。
科学的に正しく論証をするのはよいことですが、正しく良いことがすべて戦略として最善かどうかはわかりません。
有権者や議会が
 周産期死亡率全国ワースト3
と言ったとたん
 奈良県は何をやってきたんだ
という話になります。当然
 その奈良県行政を座視してきたメディアにも批判の目は向けられる
ということになります。
これまでの県内を含めたマスメディアの論調は
 周産期医療センターさえできれば、奈良県の産科崩壊はなんとかなる
という
 ハコモノ優先の考え
でした。これは「土建国家奈良県」と歩調を同じくしており、
 行政におもねった論調
ということができるでしょう。
2006年10月17日に大淀病院産婦死亡事例の第一報が毎日新聞奈良支局によって流されました。その後の奈良県の産科は、そうでなくても医療資源が乏しかったところに追い打ちを掛けられました。県外の病院へ長時間の通院を余儀なくされる妊婦さんたちが実際にいらっしゃいます。

マスコミも、行政も
 数字が好き
なのです。その数字を「マスコミの使い方」で書いたのが、上記の記述です。
納得いただけない方もいらっしゃるかと思いますが、
 同じやり方で非難される
のは、マスコミにとってはかなりイヤでしょう。今回は武士の情けか宋襄の仁か、どちらになるかわかりませんけれども、
 第一報を流した二人の女性記者の名前
は明記しませんでしたが、今後、また大淀病院産婦死亡事例についてマスコミが取り上げるときには、遠慮なく言及します。
(追記終わり)

奈良県は、ようやく
 周産期医療センターを今月26日から稼働
する運びとなったのだが
 スタッフ不足で増床した25床の内、すぐに使えるのは半数未満の12床
という情けない状態である。そりゃ、あれだけ
 毎日新聞奈良支局が奈良の産科を叩いた
わけで、
 奈良で周産期医療に携わるのは、火中の栗を拾うのと同じ
と考える医療関係者がいてもおかしくはないだろう。
朝日新聞奈良版より。


産みの安心 拠点始動
2008年05月14日


NICU内の個室。新生児の手術や治療、母親のケアなど多目的に使うという=橿原市四条町の県立医大付属病院

総合周産期母子医療センターが開設される県立医大付属病院=橿原市四条町

  ◆「周産期医療センター」26日開設
   ◎看護師不足 部分稼働へ

 危険度の高い新生児や妊婦を受け入れる県立医大付属病院(橿原市)の「総合周産期母子医療センター」が完成し、26日に開設する、と県が13日発表した。集中治療管理室の病床を計25床増やし、医師らが病室の外から患者の健康状態を把握できる仕組みも採り入れる。荒井正吾知事は会見し、「県内で難しいお産に対応する態勢は飛躍的に充実したと思う」と話したが、看護師不足のために当面は部分的な稼働になる見通し。

  ■橿原■
 同センターは、同病院A病棟の4、5階に新設。出産前の妊婦が対象の「母体・胎児集中治療管理部門」(約2200平方メートル)は、母体・胎児集中治療管理室(MFICU)を従来の3床から6床に増やす。ICUでの治療を終えた患者が入る「後方病床」を新たに12床設置「新生児集中治療管理部門」(約900平方メートル)10床増やして31床にし、そのうち21床を新生児集中治療管理室(NICU)として使い、残りを後方病床にあてる。
 各部門では、患者の呼吸や心拍数などを別室の医師や看護師が24時間把握したり、国立成育医療センター(東京都)など、より高度な医療機関にデータを送って治療を相談したりする仕組みも導入。同時に多くの患者を受け入れられるよう、配管や電源も増強した。
 厚生労働省の指針で、総合周産期母子医療センターはMFICUが6床以上、NICUが9床以上必要で、後方病床はそれぞれICUの2倍以上が望ましいとされ、1床あたりの面積なども示されている。同病院はこれらの基準を満たしており、26日に指定を受ける。同省によると、同センターが未整備の都道府県は山形、佐賀の2県だけになるという。
 しかし、NICUを担当する看護師が23人不足しており、当面は12床分のみの稼働にとどまる。
 同病院の昨年度の看護師の離職率は、前年度より5ポイント高い約15%。看護師不足で1人あたりの負担が重くなっていることが悪循環になっているという。今春、県立医大看護学科を卒業した84人の大部分が県外に就職し、同病院に11人しか残らなかったことも追い打ちをかけた。
 榊寿右・病院長は「安定したセンター運営には、医師も足りない。引き続き人材確保に努めたい」と話した。

ハコモノだけ作っても
 運営に携わる医療スタッフがいなければ、十分に機能を果たせない
わけで、これまで
 奈良県の産科のネガティブキャンペーンを行ってきた毎日新聞奈良支局を始めとするメディア各社
は、今後、更に奈良県で周産期に赤ちゃんやお母さんが不幸にして亡くなったり、トラブルに遭うことがあれば、それは、
 メディアが間接的に殺し、傷つけたのだ
ということを是非覚えていて欲しいものですね。

奈良県立医大産婦人科教室の人手不足に関しては、昨年の「奈良高槻妊婦搬送問題」で起きたメディアスクラムにも原因がある。あの時、口を極めて奈良県立医大産婦人科教室を罵ったメディア各社には今一度猛省を促したい。
奈良県内には産科医は72人しかいない。昨年、県内で周産期に亡くなった赤ちゃんは
 71人
だ。県内の産科医1人につき、扱ったお産で年間1人は赤ちゃんを失っている勘定だ。2006年末の医師数の調査では、全国の産科・産婦人科医の総数は、1万2000人ほどだ。以前、このデータから、現在実働している産科医数を7000人と見積もった。昨年度周産期に亡くなった赤ちゃんの総数は5100人。奈良県のこれはかなりな高率ではないのか。現場で、必死になって赤ちゃんの命を救おうとしても、人手も設備も不足している現状が浮かび上がる。
これ以上、県内の産科医が減ることがあれば、奈良では、何かあったとき、赤ちゃんもお母さんも助けることが更に難しくなる。お産は死と隣り合わせ、いつ急変してもおかしくないのだ。設備がたとえあったとしても、それを扱う医師や医療スタッフがいなければ、赤ちゃんもお母さんも、命が危うくなる。
2007-08-29「マスコミたらい回し」とは?(その88)産科医は促成栽培できる野菜じゃありません 養成に最低10年かかる産科医は絶対数不足なのにNHKニュース9で「スピード感をもって望んで欲しい」「安心して子供が産めません」と血迷ったコメント
2007-08-30「マスコミたらい回し」とは?(その89)奈良高槻妊婦搬送問題 38歳女性は妊娠7ヶ月? 妊娠中期まで産科未受診の妊産婦の急変には救急は対応できない
「マスコミたらい回し」とは?(その90)奈良高槻妊婦搬送問題 フジ「とくダネ!」 「たらい回し」と放映中→奈良県産科の砦・奈良県立医大産科を潰す気か?
「マスコミたらい回し」とは?(その91)毎日新聞奈良支局に以前勤務の元田禎記者 奈良県南部の産科を絶滅させたことには触れず「妊婦をめぐる救急体制の不備を問い続け」たと強弁
「マスコミたらい回し」とは?(その92)奈良県立医大産婦人科教室小林浩教授単独インタビュー「受け入れは断っていません」@MBS/TBS→一部訂正あり
2007-08-31 「マスコミたらい回し」とは?(その93)奈良高槻妊婦搬送問題 胎児は胎内で死亡していた 何故マスコミはその点を隠そうとするのか→奈良県立医大産婦人科教室叩きには「某有名大学教授選絡み」という怪情報まで
2007-08-31「マスコミたらい回し」とは?(その94)産経と読売は「少子化対策」の敵 社説のタイトルが「たらい回し」 子どもを持つ予定の家庭には両紙の不買を推奨 当夜、どの病院も命の戦い 目の前の患者を見殺しにして「緊急搬送」に応えろ? 
「マスコミたらい回し」とは?(その95)奈良県立医大産婦人科教室からの正式コメント
2007-09-01「マスコミたらい回し」とは?(その96)奈良高槻妊婦搬送問題で報道被害 奈良県立医大産婦人科教室への研修希望者が辞退 ただでさえ人手不足の産科に打撃
2007-09-06「マスコミたらい回し」とは?(その101)奈良高槻妊婦搬送問題「昨夜から出血が」
2007-09-12「マスコミたらい回し」とは?(その109)奈良高槻妊婦搬送問題 救急搬送する以前に胎児は胎内で死亡 病理医学の立場から→マスコミは搬送当日(8/29)の警察発表でその事実を知っていたにもかかわらず、歪曲した報道を続ける
2007-12-19「マスコミたらい回し」とは?(その112)奈良高槻妊婦搬送問題「結果的に死産」ではなく「最初から死産の娩出の搬送」だった事実を「搬送先が見つからず死産の悲劇」というのは悪意あるミスリードだ 読売新聞奈良支局の田村勇雄記者は事実誤認記事を書き飛ばすな

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コメント

でもこの程度の数字の浮き沈みは、特異性があるかどうかわかりませんぜ。
こんな考察をしたことがあります。

http://ssd.dyndns.info/Diary/2007/01/post_121.html
さくらんぼを摘みに

奈良県で多発奇形などの重症例を自分とこで診ることにしたら、数字はむしろ悪くなる可能性があります。
それを頭悪いマスコミが、またいじると。

投稿: ssd | 2008-05-14 16:21

ssd先生、コメントありがとうございます。
スルーパスで周産期死亡率を立派に下げた自治体がありましたね。かなり問題になってました。
奈良の場合は、三重・和歌山にも搬送できず、あとは京都か大阪にお願いすることになるわけですが、大阪南部はご存じのように崩壊まっただ中。奈良の場合は母数が小さいので目立つわけですが、昨年の人口動態を見ると、出生数は、奈良は11517人に対し、大阪は78520人で約7倍。18年度(人口動態とは集計期間が異なる)の大阪の周産期死亡数は334人ですね。

投稿: iori3 | 2008-05-14 16:33

マスコミの感情的報道が産科医療を破壊したという御主張は全くおっしゃる通りだと思いますが、彼らの科学リテラシーのなさを常日頃馬鹿にしている者としてひとこと。奈良県の周産期死亡率増加(5.3‰→6.2‰)は統計学的に有意でありません。一方、富山県は有意です(カイ2乗検定、有意水準5%)。ただし、生データを使っていないので正確な計算ではありません。

投稿: ひで | 2008-05-14 16:54

奈良  71人の死亡した赤ちゃんの内、何人かは助かったはず。

殺したのはマスコミです。

この事実を各ブログ発信者は発信して欲しいですね。

推定事実ですから。

投稿: ゆうじ | 2008-05-14 18:57

ゆうじさん、奈良県の数字の悪化は、誤差範囲内の可能性、つまり天然自然の揺らぎの範囲内である可能性が高いのです。
ベビーが死んだから、そのいくらかはマスコミのせいと決めつけているのでは、患者が死ぬのは医者のせいだと決めてかかる馬鹿者となんら変わりありません。
人の死は、自然現象です。どんな年齢でも死は確率的に起こりうる事象です。その死亡率が、誤差範囲内を超えて変動し、かつ他の要素、つまり産婦人科の稼働医師数の減少などと因果関係があるのをよく確かめてから言わなければ、それは魔女狩りと同じです。
 マスメディアを叩くなら、反論の余地がない論拠を揃えて追い詰め、後生に語り継ぐべきであろうと思います。
 少数のものを長くだますことも、多数のものを短い間だますことも可能ですが、多数のものを長くだますことはできないのですから。

投稿: ドロッポ小児科 | 2008-05-14 20:25

元記事を書いたものとしてコメントさせていただきます。統計的に有意差があるかという点については皆様のご指摘されるとおりです。この点を明確にしなかった事について天漢日乗様はじめ皆様にお詫びいたします。

投稿: Hirn | 2008-05-14 23:49

ひでさん、ゆうじさん、ドロッポ小児科医先生、Hirn先生、コメントありがとうございます。

Hirn先生、こちらこそ、勝手に引用して、却ってご心配をおかけし申し訳ありません。

投稿: iori3 | 2008-05-15 00:13

 統計学を学んだ立場からすれば、奈良県の周産期死亡率の増加の有意性を議論することは難しいものがあります。

 統計学は常に母集団を想定して議論を進めないといけないのですが、この場合前年の母集団と本年の母集団は明らかに
異なるものなので、その異なる母集団を同じと見なして良いのかどうかというところから議論をしなければいけないのです。

 あと、統計的に有意でなくても増えたことは増えたわけですから、県はその原因をちゃんと分析しないといけません。
増加したが有意ではないということは確かに揺らぎの範囲内である可能性もあるわけですが、有意差が無くても明らかな
原因や因果関係があるのであれば統計上の処理は意味を持たなくなります。有意差無しというのは診断学でいうなら除外診断的に
用いられるべきで、統計処理で有意差無しが出た場合でも、ちゃんと明確な原因や因果関係がないことを確認して有意差無しと
結論づけるのが統計の正しい利用法です。

 大淀事件は奈良県の産科救急の様々な問題点を明らかにしましたが、統計学上はあくまで母体死亡1というデータにしか
なりません。それを統計処理して有意差が出なかったから特異性がなく何も考えなくてもいいと言うことにはならないはずで、
むしろそういう使い方がされてしまうのは大きな問題であると思います。

投稿: ただの(ry | 2008-05-17 11:21

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