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2008-05-30

産科医療崩壊 産科崩壊地域静岡へ毎日新聞静岡支局が強力アシスト 極めてまれで致死率が高い急性妊娠性脂肪肝で2005年12月25日(日曜日)に搬送された母子死亡事例で遺族が提訴したのを毎日新聞静岡支局が報道 →下田〜沼津は山道で、最短でも車で2時間では難しい難路

まず、亡くなられたお母さんと赤ちゃんのご冥福を心からお祈りする。

お産は命がけだ。それは医療が進歩した21世紀になっても変わらない。
お産では
 極めてまれで、致死率の高い病気によってお母さんや赤ちゃんが亡くなる
ことがある。それは、現代の医学をもってしても
 予見不能で、手を尽くしても、命を救えない難しい病気
なのである。

そうした病気の一つに
 急性妊娠性脂肪肝(AFLP)
という耳慣れない病気がある。
産婦人科の基礎知識から。


急性妊娠性脂肪肝

急性妊娠脂肪肝とは

急性妊娠脂肪肝(acute fatty liver of pregnancy:AFLP)妊娠後期(平均37週ころ)に発生し、妊娠が終結しないと肝不全となる怖い病態です。 肝臓はとても重要な臓器であり、ダメージが大きいと母児ともに予後不良となります。

肥満成人でも脂肪肝という用語があります。 これは余分な脂肪が時間をかけて肝臓に蓄積してゆくものですが、AFLPは急激に脂肪の沈着が発生します。 一般的な脂肪肝と蓄積する脂肪も種類も違うようです。

ヘルプ症候群と似たような症状がありますが、頻度はこちらの方が圧倒的に少ない珍しい疾患です。 妊娠高血圧症候群とヘルプ症候群とAFLPは血管の攣縮などに何らかの原因があり、お互いに関連性があると推測されています。

AFLPの症状と診断

妊娠後半期に、嘔気、嘔吐、頭痛、心窩部痛、全身倦怠感、黄疸、上腹部痛などの症状が出現します。 悪化すると低血糖や播種性血管内凝固症候群、消化管出血なども出現し、肝不全へ移行します。 肝不全がひどくなると、多臓器に障害が発生し死亡に至ります。

肝機能の指標となる検査値の異常やビリルビンの上昇をはじめとして、採血による検査でいろいろな異常値が出現します。 ヘルプ症候群とは血小板の低下の程度など若干違いますが重症化するとどちらも同じような検査結果になるようです。

脂肪肝は一般的には超音波検査やCT検査で描出することができますが、AFLPの場合の脂肪肝の描出率はあまり高くありません。 そのため画像的に問題がなくてもAFLPを完全に否定することができないのです。 肝臓の生検を行い、脂肪沈着の有無を確認できれば診断は確定されますが、全例で肝生検が行われるわけではありません。 臨床の現場ではこのような症状が出現し検査値も異常値を来してきた場合は、すぐに治療を開始することが多いです。


AFLPの治療

治療の基本は妊娠の終結になります。
この辺はヘルプ症候群と同じですね。
突然発症し、急速に進行しますので迅速な対応は必須です。 肝不全に陥ると死亡率も高くなるため、重症化する前に発見し、妊娠を終わらせることが大切です。

重症化した際は妊娠の終結とともに、症状に応じた内科的な治療も同時に行われます。
いずれにせよ高次医療機関での治療が必要となります。

急性妊娠性脂肪肝では、進行が早いため、致死率が高い。それ故、救命に成功した例が、学会発表されている。こうした発表が行われるのは
 急性妊娠性脂肪肝では、なかなか命を救うことが難しい
からだ。割合、救命率が高い疾病であれば、救命に成功した事例を学会発表する意味がない。
平成18年の日本集中治療医学会第23回中国四国地方会で発表された救命に成功した症例報告。


演題番号:PC1-4-5 演題名:「急性妊娠性脂肪肝の一例」演者:今井麻由(徳島大学大学院 救急治療医学)他6名

本文:
急性妊娠性脂肪肝は妊娠末期に発症し、妊娠10,000~15,000例に一例といわれるまれな疾患である。急性進行性の肝不全の病態を呈し、通常妊娠を終了させない限り改善はなく重症例では母体の救命率も低い。今回我々は、重篤な肝不全、DICを合併した妊娠性脂肪肝の母体を救命し得たので報告する。症例は31歳女性。妊娠経過は正常で胎児にも問題なかったが、妊娠36週頃より食思不振・黄疸を認めていた。38週より全身倦怠感が著明となり、歩行不能の状態となった。近医にて胎児死亡を確認、肝腎障害の急激な増悪、DICの合併などより急性妊娠性脂肪肝を疑われ、38週5日当院ICUへ搬送となった。入院時、血液検査にてGOT 34U/l, GPT 23U/l, T-Bil. 9.3mg/dl, PLT 5.8×104/μl, PT 19.6秒, PT-INR 1.70, APTT 46.6秒であった。緊急帝王切開術により胎児を娩出したが手術創よりの出血があり、再開腹止血術を行った。子宮切開部はガーゼによる圧迫でコントロールしていたが、翌日のガーゼ除去により再出血、ショック状態となった。緊急にて単純子宮全摘術を施行したが膣断端からの出血は持続し、再度止血術を必要とした。その後経過は良好で、帝王切開術後、7日目(最終手術より3日後)に抜管し、15日目にICU退室となった。最終手術以降、止血能は改善し術後4日目にはPT 12.5秒、APTT 32.0秒と正常化した。また10.4mg/dlまで上昇したT-Bil.も退室時には2.0mg/dlとなっていた。 今回我々は重症妊娠性脂肪肝症例を経験し、胎児死亡・子宮全摘は避けられなかったが救命できた過程を報告する。

妊娠10000-15000例に1回というまれな病気で、この学会発表の症例も残念ながら
 赤ちゃんは亡くなり、子宮は全摘して、お母さんの命を救った例
である。
 いかに、急性妊娠性脂肪肝が重症化したときに、救命するのが難しいか
が、上の記述からも読み取れるのだ。

ところが、今朝の毎日新聞静岡版には、この
 急性妊娠性脂肪肝で亡くなった母子の遺族が病院と市を提訴した
という記事が載っている。何度も言うが、
 ご遺族が、民事訴訟を起こす
のは、遺族感情のしからしむところであるからしょうがない。しかし
 それを一々取り上げて報道する毎日新聞静岡支局の姿勢
からは
 医学的な事実を無視して、単なる「医療ミスとして産科を叩く」悪意
しか感じられないのである。
問題の記事。


損賠訴訟:妊婦、胎児死亡で遺族が提訴 沼津市など相手に /静岡

 妊娠中に肝機能障害を起こした下田市内の女性(当時31歳)と胎児が死亡したのは、適切な経過観察をせず処置が遅れたことなどが原因として、女性の両親が29日までに、同市の医院と沼津市立病院を管理する沼津市を相手取り、計約1億300万円の損害賠償を求める訴訟を地裁沼津支部に起こした。

 訴状によると、女性は05年12月19日に妊娠の定期検査で高血圧と足のむくみが見つかり、下田市内の医院に入院。同25日に肝臓の検査値が基準の約15倍と分かり、沼津市立病院に緊急搬送され手術を受けたが、同日に胎児とともに死亡した。

 原告側は、下田市内の医院は肝臓の異常に気付くのが遅れ、沼津市立病院は手術までに約2時間かかったと指摘。女性は迅速な処置が必要な急性妊娠脂肪肝だったのに、処置の遅れが死亡につながったと主張している。

 沼津市立病院は「訴状をよく見て対応を検討したい」とし、医院は「精いっぱいやったが、亡くなってしまったことは残念」と話している。【山田毅】

毎日新聞 2008年5月30日 地方版

そうでなくても、静岡県は
 産科崩壊地域
である。「中間管理職」先生が今年の1月にまとめて下さった
 全国産科休止一覧7
より。


静岡県
 社会保険浜松病院/静岡/H17.01月
 浜松日赤病院(新築移転)/静岡/H19.01月
 共立湖西病院/静岡/H19年休診
 浜松労災病院/静岡/H18年休診
 袋井市民病院/静岡/H19.04月  
 静岡徳洲会病院/静岡/H19.09月  
 御前崎市民病院/静岡/H18年
 共立蒲原病院/静岡/H17.4月
 伊豆赤十字病院/静岡/H20.04月 ● 

 ■分娩制限
 島田市民病院/静岡/H19.04月(産科再開、分娩制限)
 榛原総合病院/静岡/H20.04月 分娩制限(月50件)

下田市は静岡県内では二次救急医療圈では伊豆に属するが、急性妊娠性脂肪肝では、三次救急へ搬送しなければ、助からない。2008年5月現在で、伊豆半島の三次救急で、もっとも下田から近いのは伊豆の国市にある
 伊豆の国市の順天堂大学静岡病院
であり、サイトでは


順天堂大学医学部附属静岡病院救命救急センターは静岡県東部、伊豆半島のつけ根に位置する三次救急医療施設です。伊豆半島において当院以南には三次救急医療施設が存在しないこともあり、救急医療をになう病院としての責任を果たすべく病院を挙げて救急診療に取り組んでいます。地域に根ざした救命救急センターであることをモットーとしています。

と明記されており、
 下田市の属する伊豆二次救急医療圈は命に関わる救急救命に関しては、医療の薄い地域
であることが分かる。
その上
 肝機能が急激に悪化したのが判明した2005年12月25日は日曜日
だったのだ。
 年末の日曜日
という
 もっとも救急の人員が薄い日に、三次救急がない伊豆から隣の駿豆二次救急医療圈の三次救急医療機関を探し、搬送した
というのが、この事例の極めて不幸な側面である。この
 まれで、母子の命に関わる、不幸な事例
が起きた2005年末の12月25日日曜日において
 下田市の産科医院から、沼津市立病院までの搬送にどのくらい時間が掛かったのか
は、記事には書かれていないので分からない。
 手術までに2時間掛かった
というのが、沼津市立病院に着いてからなのか、搬送開始から数えて2時間なのかも、分からない。
 年末の日曜日の救急搬送
という悪条件下で
 産科と消化器内科と外科と麻酔科のスタッフが揃っている病院
が、当日、伊豆半島に果たしてあったのか。
そのことを取材するのが、マスコミの仕事ではないのか。

ご遺族が無念に思われる気持ちは十分理解できるのであるが、この事例は
 極めてまれな、経過を予知できない疾病で、急激に症状が悪化したための不幸な病死
であるとわたしは思う。
恐らく、年末の日曜日である2005年12月25日において、日本中の医療機関で
 急性妊娠性脂肪肝の重症例を救命し得た医療機関がどれだけあったか
というと、ほとんどなかったのではないか。

こうした救命が困難な事例であっても
 「医療ミス」記事にして新聞を売ろうとする毎日新聞の報道姿勢
からは
 医療破壊の意図
しか、くみ取れない。

続き。伊豆出身の友人が教えてくれたのだが、
 下田〜沼津間は最短コースでも車だったら2時間以上掛かる
 距離は70km以上あるし、山の中の道だから、飛ばすこともできない
とのこと。記事には、搬送手段が書かれてないが、もし車での搬送だったら、それだけで
 2時間以上
掛かるので、
 緊急手術であっても、搬送開始から2時間以上後になる
ということだ。それだけ時間が空けば、沼津市立病院が待機している間に、
 年末の日曜日
という悪条件故に、他の救急患者も搬送されてくるだろうから、
 今回の妊婦さんが搬送されたその時に、果たして、手術に必要なスタッフの手が空いていたかどうか
も分からない。そうでなくても、かなり緊急且つ条件の良くない手術になるので、滞りなく手術を終えるためには、必要な人員が揃ってないとできないだろう。
誠にお気の毒としかいいようがない、搬送事例であったのではないかと推察する。

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コメント

以前沼津地域の病院へ勤務していました。
静岡県東部の救急に関しては、北部(御殿場・裾野・沼津・三島)と南部(伊豆の国市以南の伊豆半島)で救急医療圏が別れていて、下田は伊豆半島のさらに南端ですから、本来は順天堂大学附属静岡病院の医療圏になります。順天堂大学附属静岡病院が受け入れられない場合に沼津まで来ることになりますが、車では2時間はかかります。(最近はヘリでしょうか?)
また、三次救急といっても、この地域の病院では全科で24時間常駐態勢を敷ける人員はおらず、時間外や休日は各科持ち回りの当直医制(他の科はオンコール)で二次救急の輪番制にも参加するような2.5次の病院です。
以降はあまり確実な話ではないので、話半分で聞いて下さい。
・19日に下田の医院に入院することになったものの、25日はなんらかの理由で外泊している最中だった可能性。
・当日の同時間帯に蘇生が必要な小児科の心肺停止患者の搬送があり、休日の小児科当番医が手を離せなかったため、非番の小児科医を呼び出さなければ緊急帝王切開に対応できない状態だった可能性。
・搬送されるまでに診断されていた可能性は低く、妊娠中毒症程度の情報だけで搬送された可能性。
いずれにしても、このような難しい疾患に対しては、これ以上の対応は難しい地域です。

投稿: k104 | 2008-05-30 23:25

学会発表する時の常識についての記述ありがとうございます。
この解説がなければ、ご家族は、他で助かってどうして、私の家族は助からなかったのか、、と思われると思います。助かる確率が1%未満でも、助からない99%が「医療ミス」や「医療過誤」として裁かれるのは、納得がいきません。学会発表されるという事の意味は、普通は助からないが,非情に珍しく助かったのだという「教科書には書いていない常識」を前提にしなければいけないということを裁判官や検察の方に知って欲しいと思います。

投稿: 麻酔科医 | 2008-05-31 10:50

 29日に提訴されたものを地元の毎日新聞一社だけが翌朝に報じているのであれば、これは提訴前の段階からなにくれとなく毎日新聞社の関係者が「支援」を行っている可能性が高いと考えることができます。

 この種の稀少な疾患が原因で患者さんが亡くなったとされた場合、遺族としても提訴するかどうかは迷うのが当然でしょう。自信を持って病院を訴えるというのは、一見奇妙な現象です。弁護士や私的鑑定人の手配など、素人には難しい障害が少なくありません。

 この記者が遺族に対して何を言い、どういう「支援」をしたのか、非常に興味あるところです。

投稿: rijin_md | 2008-05-31 19:12

拙ブログの下書き中にこのエントリを読み、自分の方は簡単に済ませて、リンクを張らせていただきました。
詳しい情報、ありがとうございます。

それから、上の rijin_md さんの書き込み、とても気になります。

投稿: bamboo | 2008-06-01 07:08

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» 急性妊娠脂肪肝 [医療報道を斬る]
 もう何度も同じ事を書いていて、いい加減イヤになっているのだが、それでも同じ事が何度も起きるので書かずにはいられない。 世の中には残念ながら死に至る病気がある。医療の介入によって助かることはもちろんあるが、助からないこともあるのは常識ではないのだろうか...... [続きを読む]

受信: 2008-06-01 06:43

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