« 産科医療崩壊 産科崩壊地域静岡へ毎日新聞静岡支局が強力アシスト 極めてまれで致死率が高い急性妊娠性脂肪肝(その2)急性妊娠性脂肪肝の症例報告 1977年の段階では世界で70例、日本では5例の報告のみ | トップページ | 奈文研図化室に眠る往年の名機達 »

2008-05-31

産科医療崩壊 産科崩壊地域静岡へ毎日新聞静岡支局が強力アシスト 極めてまれで致死率が高い急性妊娠性脂肪肝(その3)一番近かった3次救急は順天堂大学付属静岡病院だが、受け入れ不能だったので沼津市へ搬送→毎日は「緩慢に進むメタボの脂肪肝」と急激に悪化して命に関わる「急性妊娠性脂肪肝」とを混同している疑い

(その1)にk104先生からコメントを頂いたので、再掲する。


以前沼津地域の病院へ勤務していました。
静岡県東部の救急に関しては、北部(御殿場・裾野・沼津・三島)と南部(伊豆の国市以南の伊豆半島)で救急医療圏が別れていて、下田は伊豆半島のさらに南端ですから、本来は順天堂大学附属静岡病院の医療圏になります。順天堂大学附属静岡病院が受け入れられない場合沼津まで来ることになりますが、車では2時間はかかります。(最近はヘリでしょうか?)
また、三次救急といっても、この地域の病院では全科で24時間常駐態勢を敷ける人員はおらず、時間外や休日は各科持ち回りの当直医制(他の科はオンコール)で二次救急の輪番制にも参加するような2.5次の病院です。
以降はあまり確実な話ではないので、話半分で聞いて下さい。
・19日に下田の医院に入院することになったものの、25日はなんらかの理由で外泊している最中だった可能性。
・当日の同時間帯に蘇生が必要な小児科の心肺停止患者の搬送があり、休日の小児科当番医が手を離せなかったため、非番の小児科医を呼び出さなければ緊急帝王切開に対応できない状態だった可能性。
・搬送されるまでに診断されていた可能性は低く、妊娠中毒症程度の情報だけで搬送された可能性。
いずれにしても、このような難しい疾患に対しては、これ以上の対応は難しい地域です。

k104先生、ご教示ありがとうございます。
一番近い伊豆の国市の順天堂大学附属静岡病院が受け入れられなかったので、搬送に車なら2時間は掛かる沼津市立病院に搬送されたということなのですね。
しかも、3次救急と言っても
 全科の医師が揃っているわけでなく、休日や夜間は当番医が呼び出される2.5次救急
なのですね。
ご遺族には実にお気の毒なのだが、極めて医療体制の手薄な地域で、
 大量の医療資源を投下しないと助からない、命に関わる急病にかかった
のが、今回の事例であり、
 出来る限り手を尽くしたが、助からなかった
のが、実態に近いのではないか、と思われる。
改めて、亡くなられたお母さんと赤ちゃんのご冥福をお祈りする。

伊豆出身の友人も
 伊豆の国市は沼津に行く通り道
だと教えてくれた。

2005年12月25日の天候を調べると、伊豆半島南部は、朝9時から夕方16時までは晴れ、風速は10m未満で、昼間ならヘリが飛べない天候ではなさそうだ。
ただ、毎日の記事では、搬送手段も搬送時刻も書かれてない。
昼間の搬送だった場合、ヘリが使われなかったとすると、
 k104先生の推測される通り、「重い妊娠中毒症」という情報で搬送
されたのではないか。あるいは
 入院していた医院の近くにヘリが降りられる場所がない
可能性もある。
早朝や日没後は、ヘリ搬送はされないだろう。
(追記 13:27)
コメント欄でnyamajuさんから次のようにご教示いただいた。


海保があることもあり、
下田、ヘリ運用のインフラは整っていますよ。

ただ、ナライの風が吹く冬場は、ヘリの運用は無理だと思います。
周りの山がかなり急峻で、複雑な地形をしており
気流は安定しません。
時々ものすごい突風になります。

ご教示ありがとうございます。
なるほど、あの複雑な下田の地勢からすると
 12月25日という冬場のヘリの運行は難しい
ということなのですね。

ヘリが使えないとなると、車で搬送するしかないが、そうすると
 2時間は掛かる山道を行く
ことになる。
(追記おわり)

急性妊娠性脂肪肝は、極めてまれであり、病態は急激に進む。搬送される時は
 重い妊娠中毒で肝機能障害がある
という診断でもおかしくはないだろう。僻地の産科医先生が見つけて下さった急性妊娠性脂肪肝の症例報告には、妊娠に合併し命に関わる重篤な肝臓病として


 妊娠に合併する急性黄色肝萎縮症予後きわめて不良のまれな疾患であり,わが国ではこれまでに約40例の報告がみられるのみである.
 妊娠にともなう急性黄色肝萎縮症には急性肝炎の激症型である真性急性黄色肝萎縮症と,産科的急性黄色肝萎縮症といわれるいわゆる妊娠性急性脂肪肝とがある.古今の報告例をみるとそのほとんどが真性急性黄色肝萎縮症であり,妊娠性急性脂肪肝と診断されたものは非常に少なく,わが国では5例,世界でも70例の報告がみられるにすぎないといわれている.
 最近われわれは妊娠末期に突然黄疸をきたし,分娩ののち急激な経過をたどって死亡し,その病状,検査成績から急性黄色肝萎縮症が疑われ,病理解剖所見から妊娠性急性脂肪肝と診断し得た症例を経験したので報告する.

とある。つまり
 妊娠に合併する予後の悪い肝臓病=急性黄色肝萎縮症自体がまれな病気
であり、
 急性黄色肝萎縮症をもたらす原疾患は真性急性黄色肝萎縮症と急性妊娠性脂肪肝の2つ
があり、かつ
 急性妊娠性脂肪肝は更にまれな病気
ということなのだ。
1977年の症例では、急激に黄疸が進んだ状況を以下のように報告している。


 母親は分娩前後より顔面および胸部に黄色調が認められるようになり,眼球結膜も黄色を呈し間もなく傾眠状態になった.急性肝炎を考えブドウ糖輸液,肝庇護剤,各種ビタミン剤,抗生物質の投与を開始した.
 分娩後4時間を経過する頃より胸部苦悶・悪心・嘔吐を訴え不穏状態になった.この時点で急性黄色肝萎縮症を強く疑がい副腎皮質ホルモン剤・強心剤・肝性昏睡予防剤を投与した.しかし黄疸は徐々に増強し全身が黄色となり意識はもうろう状態になり,分娩から11時間たった午後6時25分,胸部苦悶と上腹部痛を訴えたあと突然心停止をきたした.直ちに心マッサージ・人工呼吸・その他の救急蘇生術を施行して30分後に心拍動開始および自発呼吸をみた.しかしその後意識はもどらず,昏睡状態のまま3日間経過し8月26日午後4時11分死亡した.

この症例の場合、分娩と同時に
 急激に黄疸が進んだ
ことがわかる。わずか4時間で、命に関わるほどの重い肝臓障害となったのだ。
毎日新聞の記事では


25日に肝臓の検査値が基準の約15倍と分かり

としか書いてないが、上記1977年の症例から推察するに
 ビリルビン値の上昇
があったのではないか。
 総ビリルビン値 正常値 0.2~1.2mg/dl
 1977年の症例 発症1日目 11.8
 直接ビリルビン 正常値 0~0.4mg/dl
 1977年の症例 発症1日目 8.3
 間接ビリルビン 正常値 0.2~0.8mg/dl
 1977年の症例 発症1日目 3.5
何を以て「15倍」と言ってるのか記事では不明だが、急激に黄疸が進むのだから、ビリルビン値は、突然急上昇する。それこそ
 見る見る顔や目が黄色くなる急性肝炎の症状
が起きるわけで、現場では
 様子がおかしいから血液検査をしつつ、搬送を要請した
という同時進行であったのではないかと思う。記事では


原告側は、下田市内の医院は肝臓の異常に気付くのが遅れ、沼津市立病院は手術までに約2時間かかったと指摘。女性は迅速な処置が必要な急性妊娠脂肪肝だったのに、処置の遅れが死亡につながったと主張している。

と、原告側の主張のみ報じているけれども、
 目の前で患者さんが黄色くなるような、突然発症する肝障害
って、はっきり言って、産科では手の施しようがない。

まあ、この記事を書いた記者は、肝臓病の知り合いがいないんだろうな。で、
 急性妊娠性脂肪肝
という病名の
 脂肪肝
というところだけを
 メタボの脂肪肝と一緒か?
と勘違いした静岡支局のデスクや支局長が
 そんな「ゆっくり進む肝臓病を見逃すなんて、医療ミスだ」と完全に誤解
して、載せたのが、
損賠訴訟:妊婦、胎児死亡で遺族が提訴 沼津市など相手に /静岡
なのではないかと思う。
 緩慢に進む「脂肪肝」と妊娠末期に突然発症して命に関わる「急性妊娠性脂肪肝」とは、全く別な病気
であることを、調べもせず、
 単に「脂肪肝」という言葉に引かれての飛ばし記事
だという疑いをわたしは持っている。

|

« 産科医療崩壊 産科崩壊地域静岡へ毎日新聞静岡支局が強力アシスト 極めてまれで致死率が高い急性妊娠性脂肪肝(その2)急性妊娠性脂肪肝の症例報告 1977年の段階では世界で70例、日本では5例の報告のみ | トップページ | 奈文研図化室に眠る往年の名機達 »

コメント

数年前、神津島へ行く途中で難破した釣り船の救助作業時、
数機のヘリが同時に下田のまどか浜公園に展開したことがあります。
海保があることもあり、
下田、ヘリ運用のインフラは整っていますよ。

ただ、ナライの風が吹く冬場は、ヘリの運用は無理だと思います。
周りの山がかなり急峻で、複雑な地形をしており
気流は安定しません。
時々ものすごい突風になります。
私自身、下田の堤防で突風に煽られ
約0.1tの体が浮いた経験があります。

投稿: nyamaju | 2008-05-31 12:38

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 産科医療崩壊 産科崩壊地域静岡へ毎日新聞静岡支局が強力アシスト 極めてまれで致死率が高い急性妊娠性脂肪肝(その3)一番近かった3次救急は順天堂大学付属静岡病院だが、受け入れ不能だったので沼津市へ搬送→毎日は「緩慢に進むメタボの脂肪肝」と急激に悪化して命に関わる「急性妊娠性脂肪肝」とを混同している疑い:

« 産科医療崩壊 産科崩壊地域静岡へ毎日新聞静岡支局が強力アシスト 極めてまれで致死率が高い急性妊娠性脂肪肝(その2)急性妊娠性脂肪肝の症例報告 1977年の段階では世界で70例、日本では5例の報告のみ | トップページ | 奈文研図化室に眠る往年の名機達 »