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2008-05-31

産科医療崩壊 産科崩壊地域静岡へ毎日新聞静岡支局が強力アシスト 極めてまれで致死率が高い急性妊娠性脂肪肝(その4)現在でも原因不明の「急性妊娠性脂肪肝」だが胎児側に原因があり、母体に致死的な肝機能障害を起こすという説が有力

そもそも極めてまれで、かつ
 予後がかなり悪い病気
の疫学的知見というのは、なかなか集積されない。
毎日新聞静岡支局が、恐らく
 メタボの脂肪肝と混同して、極めて致死率の高い産科の疾病である「急性妊娠性脂肪肝」による母子死亡例の民事提訴を記事にした
のは、この辺りの
 医学的知見
を拾い切れてないからだろう。

「僻地の産科医」先生のblog「産科医療のこれから」の妊娠性急性脂肪肝の1例
のコメント欄では、医師の先生方が更に資料を博捜して、割合最近の研究を上げて下さっている。
以下、コメント欄から知り得たリンク先を列挙する。
ただの(ry先生のご教示による、アメリカでの疫学的概説。
Jamal A Ibdah,ISSN 1007-9327 CN 14-1219/R World J Gastroenterol 2006 December 14;12(46): 7397-7404, "Acute fatty liver of pregnancy: An update on pathogenesis and clinical implications"
僻地の産科医先生のご教示による、わかりやすい概説。
研修医のための必修知識 C. 産科疾患の診断・治療・管理 6.異常分娩の管理と処置 18)HELLP症候群、急性妊娠性脂肪肝

上記によると、この急性妊娠性脂肪肝は
 胎児が原因となって母体に深刻なダメージを与える疾患
のようだ。従って
1. 発症したら、病気の原因となっている胎児を速やかに娩出
2. 母体の肝機能障害と汎発性血管内凝固症候群(DIC)の集中管理
3. 重症ならば血漿交換
が必要だ。1-3までを速やかに行える医療機関は、果たして日本中にいくつあるだろうか。周産期医療が各地で崩壊しているいまの日本では、今回の事例のような
 年末の日曜日、遠隔地からの緊急搬送への対応
は、都会でも、かなり難しいだろう。

 お腹にいる赤ちゃんが、母親の身体に致死的なダメージを与える
というのは、一般には衝撃的な印象だろうけど、所謂「妊娠中毒症」も
 妊娠が原因なので、分娩すれば治る
わけで、こうした類の病気は昔からある。そもそも、40週間もの間
 自分とは異なった存在である胎児
を胎内で養い育てる妊娠という経過自体、
 女性の身体には大きな負担
となるのだ。通常の妊娠でも妊娠後期は細心の注意が必要だが、この病気では、胎児の異常が妊娠後期になって突然母体を攻撃するわけだから、
 急性妊娠性脂肪肝の母体へのダメージ
は非常に大きい上に、予測できない。
21世紀を迎えても、未だに、
 疾病の原因が究明されてない
ので、事前の対処は難しいだろう。
上記リンクのうち、Jamal A Ibdahの論文では
 妊娠13000回の内1回の頻度で起きる
ということだから、
 1人の産科医が、一生の間に1回遭遇するかどうか
という、極めてまれな産科疾患である。
 教科書で見たことはあるが、現場では目にしたことがない産科医の先生
の方が、日本では圧倒的に多いだろう。
なお、僻地の産科医先生が探し出して下さった
 他科から産婦人科医へのアドバイス 妊娠偶発合併症 妊娠性急性脂肪肝・劇症肝炎
今井深(東京慈恵会医科大学 第1内科), 植松幹雄, 戸島恭一郎, 他
産科と婦人科(0386-9792)59巻増刊 Page379-383(1992.06)
のアブストラクトには、次のように書いてある。


1はじめに
 妊娠性急性脂肪肝は, 妊娠後期に発生し, 急激に肝不全に陥り, 母児ともに死亡率の高い重症肝疾患である. 1940年にSheehanが, "obstetric acut yellow atrophy"として報告して以来, 注目されている疾患であるが, その後わが国では1968年, 岩田の報告以来, 40例ぐらいにとどまっているきわめて稀な疾患である. 本疾患の原因は, いまだ不明であり, 特に劇症肝炎と妊娠性急性脂肪肝との鑑別は困難で, わずかに妊娠性急性脂肪肝では, 尿素窒素や尿酸の著しい上昇, 血清トランスアミナーゼの増加が中等度にとどまることが多い. この事項だけでは, 歴然たる鑑別はむつかしい. また組織学的に妊娠性急性脂肪肝は, 炎症所見や壊死の程度も軽度で, 細胞形質内に脂肪小球が多数充満しているのが特徴とされている. 次にC型肝炎ウイルス由来の劇症肝炎と本症とを鑑別した報告はない. C型肝炎チェックがやっと軌道にのってきた現在では, C型肝炎ウイルスの関与の否定も重要な課題であろう.

ということなので、1992年までに
 日本国内では40例の報告があるだけ(1968-77年までには6例の報告)
なのだ。こうした極めてまれで、しかも
 集中管理を必要とする、突然発症する妊娠後期の病気
に即座に対応できる医療機関は、日本のどこにでもいくつもあるわけではない。たとえ東京で発症したとしても、よほどの幸運に恵まれなければ、助からない可能性が高いのではないか。
検索してみたが、救命しえたというのは
 大学病院など高次医療機関での事例
であり、今回のように、医院から遠距離搬送をしたという事例は、今のところ見つかっていない。例えば、香川大学周産期学・母子センターでは、


急性妊娠脂肪肝の症例では分娩後血漿交換を要した。これらは各分野のスペシャリストの集まる大学病院だからこそ母児ともに救命できた症例であろう。

医療設備 CT、MRI、NICU、手術部・ICUなど

と明言している。
 潤沢な医療資源がなければ、救命の難しい病気
なのだ。従って、裁判では原告側が
 大学病院などの救命例
の証拠採用を求めるかも知れないが、それが果たして
 2005年12月25日に下田から搬送可能な医療機関で行える救命措置であったか否か
が、問われなければならない。
 日本ではどこでも同水準の高度医療を受けられるわけではない
からだ。

三次救急医療機関がすぐ近くにはない伊豆半島の南端、下田市で2005年年末の日曜日、ヘリが飛ばない可能性の高い冬に発症したことは、誠に不運としか申し上げられない。亡くなられたお母さんとお子さんには大変お気の毒なことだったと思う。

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