福島県立大野病院事件最終弁論@5/15 (しばらくこの記事をトップに表示します)
長きにわたった刑事裁判は、一昨日最終弁論を迎え、結審した。
もし、K医師が万が一にでも有罪になることがあれば、日本の医療は間違いなく崩壊するだろう。
四川省の大地震で、土砂崩れが起きて、川がせき止められて「堰き止め湖」ができ、堰き止め湖に次々と土砂や水が流れ込み、湖が決壊する危機が迫っている。大量の被災者たちが、満足に道路も修理されてない悪路を再び避難を迫られた。
福島県立大野病院事件刑事裁判は、まさにこの
堰き止め湖
だ。もし、堰き止め湖が決壊するようなことがあれば、甚大な二次災害が起きるのは明白である。日本中で、救急医療から、産科医療から、医師が立ち去らざるを得なくなるだろう。これまで現場に医師を引き留めていたのは「医師としての使命感」であり、その使命感を支えていた、心のダムが決壊し掛かっているのだ。
これから傍聴記がアップされる予定の
周産期医療の崩壊をくい止める会
のサイト。過去の公判の傍聴記が閲覧できる。
今回も、ロハス・メディカルブログの川口恭さんが、傍聴に赴かれた。
福島県立大野病院事件公判(弁)0 2008年05月16日 05:52
福島県立大野病院事件・最終弁論公判(1)2008年05月16日 19:45
福島県立大野病院事件・最終弁論公判(2) 2008年05月17日 06:58
最終弁論の総括部分を引用する。
「本件起訴が、産科だけでなく、我が国の医療界全体に大きな衝撃を与えたことは公知の事実である。産科医は減少し、病院の産科診療科目の閉鎖、産科診療所の閉鎖は後を絶たず、産む場所を失った妊婦についてはお産難民という言葉さえ生まれている実態がある。産科だけではない。危険な手術を行う外科医療の分野では萎縮医療の弊害が叫ばれ、その悪影響は救急医療にまで及んでいる。
医師会をはじめ、医学会、医会、全国医学部長・病院長会議等100に近い団体が本件事件に交ぎする声明等を出している。医師の業務上過失致死事件について、各種医療団体から多数の抗議声明等が出されたことは、我が国の刑事裁判史上かつてないことである。
このような事態が生じたのは、検察官が公訴事実において、我が国の臨床医学の実践における医療水準に反する注意義務を医師である被告人に課したからに他ならない
検察官が、本件裁判において度々言及しながら遂に証拠請求すらしなかった県立大野病院医療事故調査委員会作成の報告書は、起訴前から広く医療界に知られていた。抗議声明等を出した医療団体は、被告人が術前には癒着胎盤の認識を持っていなかったこと、胎盤剥離中に癒着を認識したこと、剥離を継続して完了させたが止血ができず患者が死に至ったことを知ったうえで、それを前提に抗議声明等を出しているのである。
検察官は論告において、『胎盤の剥離を開始した後、癒着胎盤を認めた場合には止血捜査に努めると同時にただちに子宮を摘出するという知見は、基本的な産婦人科関係の教科書、基礎的文献に記載されている産婦人科における基礎的知見』と主張する。証拠となっていないものも含め、胎盤剥離開始後に剥離を中止して子宮を摘出するという記述はない。
また前述の通り、本件で証拠となったすべての癒着胎盤の症例で、胎盤の用手剥離を開始した場合には、胎盤剥離を完了していることが立証されている。これが我が国における医療の実践である。胎盤剥離を開始して、途中で中止し、子宮を摘出するという医療が、我が国の臨床医学の実践における医療水準や標準医療でないことは証拠上明らかである。
(中略)
被告人は、厳しい労働環境に耐えて、地域の産婦人科医療に貢献してきた優秀な産婦人科医である。
懸命の努力にもかかわらず、担当した患者を死なせてしまった被告人の無念さと悲しみは、当公判廷で被告人が供述する通りである。
被告人は真摯に本件患者の死を悼み、度々本件患者の親族に頭を下げ、本件逮捕に至るまで月1度の墓参を欠かしたことはなかった。このような事実は、被告人の医師としての誠実な態度と真摯な姿勢とを如実に表すものである。
本件患者が亡くなったことは重い事実ではあるが、被告人は、我が国の臨床医学の実践における医療水準に即して、可能な限りの医療を尽くしたのであるから、本件に関しては、被告人を無罪とすることが法的正義にかなうというべきである」
判決は8月20日に言い渡される。
5/16付読売の記事。
福島・大野病院事件が結審、判決は8月20日に福島県大熊町の県立大野病院で2004年、帝王切開手術で女性(当時29歳)を失血死させたなどとして、業務上過失致死などの罪に問われた産婦人科医K被告(40)(求刑・禁固1年、罰金10万円)の公判が16日、福島地裁で結審した。
医師が決めた治療方針の結果として起きた事故の過失責任がどこまで問われるのかを争点にした裁判は、8月20日に判決が言い渡される。
無罪を主張するK被告は「精いっぱいのことをしたが悪い結果になり、一医師として非常に悲しく悔しい思い。再び医師として働かせて頂けるのであれば、地域医療の一端を担いたい」と述べた。
弁護側は最終弁論で、K被告の起訴が医師の産科離れを加速させたとの指摘に触れ、「お産難民という言葉さえ生まれた実態が生じたのは、わが国の医療水準を超える注意義務を課したため」と批判した。
検察側の論告では、K被告は04年12月17日、妊娠37週の県内の女性に対する帝王切開手術で、子宮に癒着した女性の胎盤をはがして大量出血を引き起こして、約4時間後に失血死させたとされる。また、死体検案で異状を認めたにもかかわらず、24時間以内に警察に届け出なかったとして医師法違反にも問われた。子どもは無事生まれた。
公判で争点となったのは、子宮に癒着した胎盤をはがす際の出血が、死亡するほどのものかを予測できたかという予見可能性と、死に至るほどの大量出血を回避する注意義務。
検察側は「胎盤をはがすために子宮と胎盤の間に手を入れた時点では癒着を認識しており、子宮摘出手術などに移って生命の危険を避ける必要があった」と、予見可能性と注意義務がともにあったと主張した。
これに対し、弁護側は「手ではがし始めた際に癒着を認識することはあり得ない。はがし終えれば子宮が収縮して出血が収まることが期待でき、判断は妥当で標準的な医療」と反論。医師法違反について弁護側は、「院長の判断で届け出を行わなかった。異状死には当たらない」としている。
(2008年5月16日23時56分 読売新聞)
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コメント
フォント設定を変えていただかないと特定のブラウザでは記事が読めないのです。
以下MSサポートのURLからどうぞ
http://support.microsoft.com/kb/943922/ja
投稿: ちょっと通りますよ | 2008-05-26 10:33
「ちょっと通りますよ」さん、ご指摘のフォントの件ですが、こちらで表示フォントを操作していません。ココログのテンプレートをそのまま使用しています。
確認している環境はSafari3.1.1 for Macで表示フォントはヒラギノ明朝W3です。Firefox2.0 for Macでも時々確認しています。
IEについては、Macでは開発が中止されていますので、こちらからは確認できません。
あしからずご了承下さい。
投稿: iori3 | 2008-05-26 11:23
>証拠となっていないものも含め、胎盤剥離開始後に剥離を中止して子宮を摘出するという記述はない。
これ、ホントですか?これって検察が偽証罪なんじゃないですか?
投稿: 内科医O | 2008-06-05 21:17
>ちょっと通りますよ
JIS2004 フォントをインストールしているからでしょう。
アンインストールすれば?
投稿: 無休建築士 | 2008-08-07 18:36