周産期医療崩壊 市立(旧国立)奈良病院建て替えはハコモノ優先か 小児科・産科スタッフは果たして招聘できるのか?→追記あり
奈良県南部の産科絶滅に貢献した毎日新聞奈良支局がお送りする
市立(旧国立)奈良病院建て替え&産科・小児科増床のお知らせ
だ。
市立奈良病院:一般病床を50床増へ 小児科、産婦人科を充実 /奈良奈良市は、市立奈良病院(同市東紀寺町1、稲葉征四郎院長)の建て替えのため、建設基本構想をまとめた。一般病床は50床増の350床で救急医療や小児科、産婦人科などを充実させる。2010年度に着工、12年度に新病棟で診療を始める。
約2万2600平方メートルの敷地のうち、職員駐車場や看護師宿舎などの場所に、地上5階・地下1階の鉄骨鉄筋コンクリート(一部鉄筋コンクリート)造りの新病棟(延べ約2万5500平方メートル)を建てる。
新病棟完成後、現病棟を解体する。建設・解体費などは約85億円。医療機器などを含めた総事業費は約100億円を見込んでいる。
増床50床の内訳は▽ICU(集中治療室)8床▽産科病床6床▽NICU(新生児集中治療室)の後方支援病床6床▽在宅の患者が入院した際に、かかりつけ医と共同で診察する開放病床20床▽緩和ケア病床6床--など。常勤医10人以上、看護師35人程度を増やす。
現病棟は67~68年完成で老朽化している。新病棟は免震・耐震構造にする。17診療科は変わらない。
市立奈良病院は、市が04年12月に、旧国立奈良病院を引き継いだ。社団法人地域医療振興協会を指定管理者とする公設民営病院。「市立奈良病院運営市民会議」が昨年7月、市に病院の建て替えなどを答申していた。【上野宏人】
毎日新聞 2008年5月24日 地方版
記事を書いている上野宏人記者は、4月から奈良支局に配属された。4/7付「支局長からの手紙」より。
収穫と反省と /奈良
(略)富山で2年間、人工呼吸器の取り外し問題や冤罪(えんざい)事件、イタイイタイ病--と、取材に追われました。奈良は幼稚園から高校までを過ごした地。ふるさとの皆様、どうぞよろしくお願いします。【上野宏人】
(以下略)
おお、これは
医療問題のエキスパート
か。今後の活躍が実に楽しみだ。
で、問題の
50床増床
なんだけど、
医師と看護師をどうやって増員するのか
って、具体的な対策はあるのか?奈良市。
奈良県は
日本で大阪に次いで二番目に看護師の離職率が高い地域
である。3/12付産経より。
看護師の離職率 大阪が全国最高2008.3.12 22:23
昨年度の看護師離職率の全国平均は12・4%で、都道府県別では大阪府が16・8%と全国で最も高かったことが12日、日本看護協会の調査で分かった。都市間格差は最大で3倍に達し、特に都市部の離職率が高かった。平成18年4月の診療報酬改定で看護師を手厚く配置した病院を優遇する措置が導入されたことが最大の要因。深刻な看護師不足に加え、都市部の大病院を中心に好条件での引き抜きが過熱し、人員配置が偏在化している実態が改めて浮き彫りになった。
離職率が高かったのは大阪府に次いで東京都と奈良県がそれぞれ16%、神奈川県15・4%などで12都道府県で全国平均を上回った。これに対し、離職率が低かったのは山形県5・6%、秋田県6・4%などとなっており、大阪と山形の間で3倍の開きがあった。
病院立地別の離職率をみると、「東京23区と政令指定都市」の平均は14・9%で、「過疎地域に指定されている市町村」の平均は8・6%と1・7倍の差があった。
また設置主体別では、都道府県や市町村が経営主体の病院は8・8%と最も低く、日赤や済生会などの公的医療機関が10・6%、医療法人や個人経営の病院は14・9%と高率だった。
離職率に格差が生じたのは、18年4月の診療報酬改定で最高水準の看護配置として、入院患者7人に対して看護師1人という基準が新たに導入されたことが大きい。看護師の手厚い配置をした病院に診療報酬を加算することで、若い看護師が好条件の大病院に流れる傾向が一層強まり、「全国の病院で看護師の獲得競争が激化している」(同協会)という。
よほど、奈良県には
看護師さんが働きにくい事情
があると思われる。
そんな状況が、これから4年で劇的に改善されるのだろうか。
まさかとは思うが
遷都1300年祭で観光客が大量に奈良市にやってきて、2010年は税収アップ、それで市立病院も建て直せる
とか、アホな皮算用をしてるんじゃないだろうな、奈良市。
市立奈良病院の現況。まずは小児科。
小児科小児科スタッフ
○小児科科長 鈴木 博
専門分野等 小児科一般、アレルギー疾患○小児科科長 川口 千晴
専門分野等 小児科一般、新生児、アレルギー疾患
○小児科医師 石川 智朗
専門分野等 小児科一般、腎疾患○小児科医師(兼) 中島 俊一
専門分野等 小児科一般○小児科医師(非常勤) 武田 以知郎
専門分野等 小児科一般、健康教育○小児科医師(非常勤) 川村 美和
専門分野等 小児科一般、母子保健
常勤4人と非常勤2人。これではNICUの後方病床は回せないので、かなり常勤の先生を増やさないといけない。
産婦人科。
産婦人科産婦人科スタッフ
○産婦人科部長 原田 直哉
奈良県立医科大学非常勤講師
日本産科婦人科学会専門医
母体保護法指定医
所属学会:日本産科婦人科学会、日本周産期・新生児医学会
*奈良県産婦人科医会評議員○産婦人科部長 延原 一郎
日本産科婦人科学会専門医
母体保護法指定医
所属学会:日本産科婦人科学会、日本周産期・新生児医学会
日本超音波学会○産婦人科科長 春田 典子
日本産科婦人科学会専門医
母体保護法指定医
所属学会:日本産科婦人科学会、日本婦人科腫瘍学会、
日本超音波学会○非常勤医師 北中 孝司
所属学会:日本産科婦人科学会○非常勤医師 春田 祥治
所属学会:日本産科婦人科学会
常勤3人に非常勤2人。「救急医療を充実させる」というが、現状では、産科救急を回すのはかなりムリがある。
手術には欠かせない麻酔科はこんなところ。
麻酔科麻酔科スタッフ
○麻酔科部長 呉原 弘吉
奈良県立医科大学卒業
麻酔科標榜医・日本麻酔科学会専門医・指導医
日本集中治療医学会専門医○麻酔科医師 味澤 みどり
東京女子医科大学卒業
麻酔科標榜医
ええと、常勤の先生が2人だけなんですが。これで50床増床、しかもその内ICU8床はムリでしょう。てか、ICU専属の麻酔科の先生が必要。8床24時間稼働だったら、あと何人の麻酔科の先生が必要になるのか。
で、市立奈良病院の職員募集を見ると、現在看護師2名助産師2名を募集中。
募集職種一覧■職種:助産師
雇用形態:正職員、必要資格・経験:助産師免許、年齢:
■職種:助産師
雇用形態:パート、必要資格・経験:助産師免許、年齢:
■職種:看護師
雇用形態:正職員、必要資格・経験:看護師免許、年齢:
■職種:看護師
雇用形態:パート、必要資格・経験:看護師免許、年齢:
これ以外に医師3名も募集中だ。
■職種:医師
雇用形態:正職員、必要資格・経験:日本呼吸器学会専門医・医師免許、年齢:
■職種:医師
雇用形態:正職員、必要資格・経験:日本救急学会会員、医師免許、年齢:
■職種:医師
雇用形態:正職員、必要資格・経験:日本消化器病学会会員・医師免許、年齢:35歳以下(職務経験不問、長期継続によるキャリア形成を図るため)
他にも、足りない職員がいる。
NICUの後方病床を増床というのは
奈良県立医大に設置された周産期医療センターのNICUのバックアップ
という計算だと思うのだが、畏友網塚貴介医師が指摘するように
保育園の保育士配置基準よりも、後方病床の看護師配置基準は薄く、赤ちゃんがミルクの「1人飲み」を強いられている現状
が、現在の看護師配置基準だから、たぶん奈良市はそれで看護師数を計算してるんだろうな。この配置基準は
赤ちゃんがミルクの誤嚥をしても、すぐに助けられないほど手薄な基準
なのである。実際、そういう事故が各地の周産期医療センターで報告されている。NICUというと、
手厚い看護を受けている
と、世の人は錯覚してるだろうけど、後方病床はそうではないのだ。
ハコモノだけ作っても
運営スタッフが手当てできない
のであれば、全く意味をなさない。どうも
奈良県立医大系の病院
みたいだけど、奈良県立医大に、これ以上、小児科や産科や麻酔科のスタッフを派遣できる余力があと4年待てば、できるとでも? そして、
2012年には、産科医も小児科医も麻酔科医ももっと増えていて、市職員の安い給料で雇える
と奈良市が考えているのであれば、それは大きな間違いだ。
奈良市民としては
実効性のない病院建て直しに100億円つぎ込むのは無駄
だと思う。だいたい、旧国立奈良病院が国立病院機構から切り捨てられた理由はなんだったか、それを考えていただきたい。
土建屋と医療機器メーカーが儲かるだけの病院建設
は、地域医療を荒廃させるだけだ。
(追記 5/26 10:40)
ただの(ry先生からコメント欄で次のようにご教示いただいた。
市立奈良病院は元々国立奈良病院であったのですが、国立病院の再編で廃院が一旦決まり、
地元の要望で公設民営化病院として生まれ変わりました。国立時代は奈良医大の系列だったのですが、現在の経営母体である地域医療振興協会は自治医大の息がかかっており、将来的には自治医大系列の医師がどんどん入ってくるものと思われます。そういったことも見越した上での今回の計画だと思いますが…。
ということで、これから自治医科大系になるとのこと。
もっとも、昨今の
産科医・小児科医・麻酔科医不足
は、どこの地域でも起きていて、いくら自治医科大が地域医療に貢献する大学だろうとも、すべての自治医科大系病院で同じような人手不足が起こっているはずだ。
とりあえず2012年に
不足している産科・小児科・麻酔科医師派遣
が本当に必要な数だけ可能なのか。
そして、医師不足ももちろんだが
看護師不足
を始めとする、医療スタッフの手配はできるのか。
医師も看護師もその他の医療スタッフも足りないのが、全国の病院の現状で、今の状況はこれから悪くなるという予想は立っているが、改善の糸口が見えず、公立病院の悩みの種になっている。奈良市にはそれを抜本的に改革できる「秘策」でもあるのだろうか?
さらに追記。(11:30)
「近県医師」先生から更にコメントを頂いた。
旧国立奈良病院は、京都府立医大系だったが、市立移管で、現在の陣容になった
とのこと。
ご教示ありがとうございます。
う〜ん、2012年の改築・増床って、本当にスタッフが招聘できるのか、ますます不安になってきた。
| 固定リンク
コメント
市立奈良病院は元々国立奈良病院であったのですが、国立病院の再編で廃院が一旦決まり、
地元の要望で公設民営化病院として生まれ変わりました。国立時代は奈良医大の系列だったのですが、
現在の経営母体である地域医療振興協会は自治医大の息がかかっており、将来的には自治医大系列の
医師がどんどん入ってくるものと思われます。そういったことも見越した上での今回の計画だと思いますが…。
投稿: ただの(ry | 2008-05-25 22:27
ただの(ry先生、ご教示ありがとうございます。
しかし、自治医大、最近あちこちに派遣を要請されていますが、大丈夫なのか、と気になるところです。
投稿: iori3 | 2008-05-25 23:21
ただの(ry殿、貴殿の活動力にはいつも感銘受けているが、本件は全然違うよ。
>国立時代は奈良医大の系列だったのですが
ダウト。京府医。ここも長く奈良医大をないがしろにしてきた病院の一つ。
市立になってから奈良医大に「泣きついて」はいないものの(以前のエントリ参照)、日参してやっと出してもらった。記事中のギネ・ペド・アネ全部もともと奈良医大の有力医者よ。
自治医が派遣?全然いない(藁) 自治医から奈良医を経由して来てるヒトはいるけど。
NICUは移管の時にせっかく用意されようとしたのに、スタッフ不足で起動しなかったらしいですね。後方のためだけに他院に送るということはどこの件でもまずあり得ません。つまりNの動いていない状況では、全くの絵に描いた餅。
ただし、病院そのものはスタッフの給料もそこそこ上げていたりして、お笑いの多い奈良県にしてはまあまあ頑張ってくれている病院のようです。この先は分からないけどね。
投稿: 近県医師 | 2008-05-26 11:19
近県医師さま
そうでしたか。小児科でお世話になることがあったので勘違いしておりました。
小児科は昔から奈良医大の先生が入ってましたから…。でも確かに京府医の先生も
おられましたね。失礼しました。
投稿: ただの(ry | 2008-05-27 02:53