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2008-08-13

首都圏産科崩壊 「フリースタイル出産」は助産師の「自己実現」の手段か? 搬送を断られてフリースタイル出産を止めた病院で助産師チームが総入れ替え

産婦人科医であるBermuda先生の非常勤先の一つは、ごく最近まで
 フリースタイル出産
を標榜していた。ところが
 フリースタイル出産でトラブルが起きて緊急搬送を繰り返した結果、搬送先に受け入れを断られるようになり、フリースタイル出産自体を休止
したという。その結果
 フリースタイル出産をやりたくて集まってきた助産師チームが退職、別な助産師さんたちと総入れ替えの状態
になったそうだ。
詳しくは、Bermuda先生のblog「毒舌ドクターBermudaの三角形な気持ち」
残念なおしらせ
ぜんとっかえ
をご一読下さい。

で、この中で実に気になるのは、Bermuda先生の次のような記述だ。「残念なお知らせ」から。


気になるのは
フリースタイルをやりたくて
この病院に集まっていた助産婦さんたち
ね?

どっか
他の病院と提携できたんだろうか?

で、この助産師さんたちは若い。「ぜんとっかえ」から。


助産師さんが
全とっかえになってた…。


びびった。

今までは
結構
若かった
のよ?
(略)
数週間ぶりに来てみたら
平均年齢が
俄然上がってますた。

一瞬、
みんな
ちょっと会わないうちに30歳くらいずつ
年とったのかと思った。

比較的若い助産師チームが
 フリースタイル出産をやりたかった
というところが引っかかる。そして、「残念なお知らせ」にあるように、そのやり方が


まぁ、実は
トラブルが多かったみたいなんだわな。やっぱ。

で、
近隣の大きな病院にソッポ向かれたという。
時代に逆行した勝手なお産をやっといって
むやみに搬送を増やすな
…だって…。

でかい病院にソッポ向かれたら
緊急時搬送できないもんね…。

とあるように
 なにかあったら「大きな設備の整った病院に丸投げ」
だった。

いったい
 フリースタイル出産
って、誰のためなのか。
 助産師の「自己実現」
のために
 一生の間に何回もない出産が「危険にさらされる可能性が高くなる」
のであれば、一番守られるべき
 これから生まれてくる赤ちゃんとお母さん

 「フリースタイル出産」という聞こえのよい言葉で「勧誘」している助産師の責任
はどこにあるのか。
どうも、「フリースタイル出産」とは
 助産師の「自然なお産」という、一見「よさそうに聞こえる言葉」
に、
 真面目な妊婦さんが「共感」
して
 医学的なリスクをきちんと説明されないまま「雰囲気重視のお産」に行き着いている
のではないか、と危惧される。
前にも書いたことがあるが
 助産師一人が1年で扱うお産の数は、産科の研修医が数ヶ月で扱うお産より少ない
のである。忙しい産科勤務の研修医だと、
 年間200件
という、殺人的な数のお産を扱うことすらある。この数は、現在
 フリースタイル出産を手がけている助産師が何年目に到達した出産数か
ということを考えるとき
 いかに「少ない経験数」を元に「自然なお産」や「フリースタイル出産」が喧伝されているか
という危険性に思い至る。
 経験の絶対数が少なく、なおかつ「正常分娩」しか扱えない助産師

 異常分娩を早期に判断し、搬送する
のが、担当する母子への最大の配慮の筈だが
 フリースタイル出産にこだわる
あげくに
 母子ともに危険な状態で緊急搬送を繰り返した
結果、Bermuda先生の勤務していた産婦人科は
 近隣の大規模な病院から搬送を拒否される
ということに至ったのだと思われる。Bermuda先生の勤務先は、おそらく首都圏だが
 他院からの「自分でデザインした危険性が高いお産」による緊急搬送を受け入れられなくなる
程度まで
 産科崩壊が進んでいる
ということを示すのだ。

助産師自体が
 足りない
と言われる職掌なのだが、その一部が
 医学的リスクについての正確な知識を妊婦さんに伝えないで、「助産師がお産を主導できる」というエゴのために「フリースタイル出産」を喧伝している
のだとすれば、
 そうでなくても不足している産科医療の中でも、一番不足している「産科救急」という医療資源を「フリースタイル出産派の助産師」が食いつぶしている
ことになる。
数字の上では
 助産院からのキラーパス
については、はっきりした結果が出ている。
 2007-06-08 産科崩壊 助産所からのキラーパス 平成17年度に助産所で亡くなった新生児はわずか3人 ほかは搬送して病院で死亡
http://iori3.cocolog-nifty.com/tenkannichijo/2007/06/173_87b7.html

Bermuda先生が遭遇した今回の話は
 助産院だけでなく、産科救急を自院でまかなえない病院での「フリースタイル出産」が、近隣の産科救急という医療資源に過重な負担を掛けている実例
だろう。

「どうしても手術はしない」と言い張る外科手術が必要な患者がいて、手術を拒否し、本人が代替医療を選択した場合、代替医療の治療結果を病院が問われることはあまりないだろう。ところが
 フリースタイル出産が異常分娩に移行した後
は、
 責任を問われるのは、その分娩を受けた医師や、「フリースタイル出産」に手出しをしないけれども、横にいなければならなかった医師
だろう。
 助産師が異常分娩を取り扱って、早急な判断を下せなかった責任を問われることはない
のであれば、
 更に産科崩壊は進む
し、産科救急で
 懸命に手を尽くしたのに、罵倒される
という、医療現場が疲弊する搬送は、こうした
 「自然なお産」という医学的根拠が薄弱で、かつ妊婦さんの健康状態によっては、最初からリスクが高くなる「スローガン」に「共感」した妊婦さんと家族
によって起きている。
わたしは、自宅出産の時代に、数多くのお産を手がけた助産師さんを知っている。おそらくもう亡くなられていると思うのだが、この助産師さんは、
 母子の健康を最大の眼目とする
お産扱いをしていた。経験数が多かっただけに、決して
 自然なお産
などという、無体なことは口にしなかった。予定日の前の検診で、正常分娩に至らない徴候がみられたら、すぐに病院に連絡を取った。
産科救急が十全でなかった時代には、救えなかった命がたくさんあった。そうした悲しい事例を実際に経験されている助産師さんが、いまの 
 フリースタイル出産
を見たら、なんと仰るだろうか。ある町でそれこそ親子二代を取り上げていたほど、長い間勤められた助産師さんだったが、
 60になったので、もうお産は取りません
と、以後は沐浴の指導に回っていた。
 経験豊かで、腕がいいという評判の助産師
だったからこそ
 自分がお産を安全に取れるか、瞬時に判断が下せるか
という点を厳しく見定め
 引き際が潔かった
のだと思う。お産を止めてからも、お産を取ってくれるよう懇願されることがあったが、きっぱりと断っていた。
 何かあったら、大変ですから
というのが、その助産師さんの答えだった。周産期の母子の死亡率が今よりも高かった時代に、自宅出産を助けてきた助産師さんは、お産が命がけであることを何よりも心得ていて、決して、妊産婦になにか教条主義的なことを押しつけるようなことはなかった。産後の沐浴の指導では、毎日赤ちゃんの健康状態をチェックし、身体の胎毛を綺麗に拭い、お母さんの産後の肥立ちや乳房やメンタルの状態も見る、産後ケアのプロだった。

「フリースタイル出産」賛美のような、いまある「自然至上主義」が助産師の中に生まれるのは、自宅出産が激減し、周産期の母子死亡が世界でも類を見ないほど低くなってからだろう。当然
 助産師だけでお産を取る数
も激減している。経験の絶対値の減少が、
 自信過剰ともいうべき、間違った方向への「安全信仰」
をもたらしているのではないか。

いま、日本にいる現役助産師は、わたしの知っている助産師さんより、お産を取った数は遙かに少ない。

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コメント

エントリとは直接関係ない話題で申し訳ありません。以下は日本電波ニュース社報道部の真々田弘氏がNPO「医療制度研究会」の8月9日の夏季研修会で発言した内容です(CBニュースより)。社名がちょっとアレですがw、NHK、日本テレビ、読売テレビ、テレビ朝日、フジテレビの番組を手がけている歴史ある会社のようです(HPに「日本で初めてのテレビニュース通信社」とあります)。耳には痛いですが、彼の意見は傾聴に値すると思います。医療系ブロガーの方、ブログにコメントされている皆様はどのように感じられますか?

救急医療に関するドキュメンタリー番組の制作などを手掛ける真々田氏は、「現場を見ることが取材に対する姿勢」と語った上で、これまでの活動を紹介した。(中略) 真々田氏によると、取材を続けるうちに制作スタッフは医療者の現状を理解していった。視聴者目線ではなく、医療者側の立場で番組を作ろうと意識が変わり、テレビ局のスタッフも番組の放送直前になって「医療と裁判は相性が悪い」と理解した。
 当初は視聴者からの批判を懸念していたが、予想外に反応が良かったという。真々田氏は「きちんと伝えれば分かってくれるのだと思った。『こんなに医者が頑張っていると知らなかった。もっと伝えてほしい』との感想があった」と紹介した。 
 真々田氏は、取材を続けるうちに感じた思いを、次のように語った。
 「5、6年前に比べ、潮目が変わっている。視聴者は『自分たちが医療を受けられなくなるかもしれない』と皮膚感覚で感じているから、こういう番組が受け入れられるようになってきた。医療者が発する言葉を視聴者が待っている。医療をどう守っていくかの提言を番組として出したが、困っている。取材をする中で、個々の医者が頑張っている姿しか見えず、医療者の集団が見えてこないからだ。日本医師会も学会も勤務医の声を代弁していない。誰の声を聞けばいいのか。集団としてのまとまりのなさに、ある種情けなさを感じる。日雇い派遣(の業界では、)制度を見直させている核となる人間の数は1000人いないかもしれないが、声を上げて政治を動かしている。26万いる医師たちは何をしてきたのかと思わざるを得ない。医療が悪くなっていることを伝えてこなかったわたしたちは『マスゴミ』と呼ばれても仕方がないと責任を痛感する。では医療者は何をしてきたか。現場で毎日が厳しくなり、医者が足りなくなっていると、医療界全体として発言してきたのか。医療を今後、どんなものにしてほしいか、医療界が知恵を集めて提言してきたことがあったか。 (中略) 今がチャンス。メディアも変わりつつある。医師のつらく苦しい現場が開かれれば、わたしたちは入る。特に今は視聴者が求めているから発信できる。医療者は総意や知恵を集め、何らかのアクションを起こしてほしい。わたしたちはそれを支えていけると思っている」

投稿: 通りすがりの医師 | 2008-08-13 19:05

今までさんざん叩いておいて、(マスコミが叩かれそうになったとたんに)話を聞いてやるから纏まって来いとは、ずいぶんと傲慢だなぁと>真々田弘氏

投稿: 泥曰 | 2008-08-15 00:49

泥曰さん>
 叩かれるような傲慢だった医師もいっぱいいましたからねぇ。結局、自浄作用がないから叩かれるんじゃないです?というか、ネットで愚痴ぽく書くよりはいいんじゃないかなぁ?と。

投稿: 勉強中 | 2008-08-17 02:33

>>話を聞いてやるから纏まって来い
って団藤保晴氏も似たようなこと行ってたなぁ。
http://blog.dandoweb.com/?eid=29153
Yosyan先生にあきれられたけど。
http://d.hatena.ne.jp/Yosyan/20080515

投稿: ネットレギオン | 2008-08-17 09:55

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