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2008-10-27

唐代の分娩時の出血に対する処方@『千金方』

宮内庁が、古鈔本を所蔵していることで有名な唐・孫思邈(バク)『千金方』だが、これは現行本の『備急千金要方』と『千金翼方』の総称である。前者の『千金要方』では、孫思邈(バク)は、第一巻を医師の心得などをまとめた序例に充てたが、続く臨床関係の巻の首巻は
 婦人方(現代の産婦人科領域が中心)
に、婦人科の次を「少小」(小児科)に充てた。巻二「婦人方上」の冒頭で、孫思邈(バク)は次のように宣言する。
 今斯方先婦人小兒而後丈夫耆老者,則是崇本之義也。(いまこの書物で婦人や小児を先にし、男性や年寄りを後にするのは、「崇本の義」〈根本を尊ぶ意義〉によるのである)
妊娠中や出産時の大出血については、『千金要方』巻二の「妊娠諸病」下血に十一首があるが、ほとんどが流産に関わる処方で、ざっと見たところ、出産時の出血に関する処方は死産を入れると三つほどしかない。中には
 一斗五升(唐代の一升は600mlほどなので、9l程度)の出血
というのもある。もちろん、現代の医療で計るような正確な出血量ではないから、本当はもっと大量だったかも知れないし、少なかったかも知れないが、大出血であることには間違いない。存外、処方が少ないのは、
 輸血もなにもできなかった時代に、分娩中に大出血があれば、手を拱いて見守るしかなかったから
だろう。手の施しようのないまま、大出血を起こして、亡くなっていった女性がたくさんいたのだ。

後者の『千金翼方』は、全三十巻の内、産婦人科関係に巻五から巻八までを充てる。孫思邈(バク)は巻八の第一篇を
 崩中 方三十六首
とし、婦人科の不正出血などを総括している。

いまや、産婦人科は、何かちょっと日蔭の、特別な診療科のように扱われているが、唐代では、人間の誕生を司る大事な診療科だったのだ。お産がまさに常に死と隣り合わせで、開腹手術ができず、人体が完全なブラックボックスであった時代には、気休めであったとしても、身体の損耗を少しでも減じたり、出産時の出血を止めたりするのに、薬を与えた。

これが本来の
 自然なお産
だ。
「自然なお産」を標榜する人達が、結果的に不幸なお産を導いていた話は、以下に。
 2007-09-27 産科崩壊 助産所の助産師の未熟と自信過剰が赤ちゃんを殺す 神奈川県相模原市の北里大学病院からの報告 初産29歳産婦は水中出産を4日も続けさせられ、赤ちゃんは細菌感染して生後5日で死亡、生まれてくるまで双子だとわからなかった(2例)未熟な助産師も
http://iori3.cocolog-nifty.com/tenkannichijo/2007/09/29452_e27e.html

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