山田五十鈴@1992年1月13日初放映「鬼平犯科帳」第四シーズン第二話「正月四日の客」
山田五十鈴は1917年生まれだそうだから、この
正月四日の客
を撮影した1991年は74歳になっていたはずだが、残んの香が役柄に合って凄まじい演技をしていた。平蔵と昔ちょっとした訳ありの老境に入った女の崩れた色気が、端々に伺える。6歳で押し込み強盗に両親を惨殺され、母親は陵辱を受けて殺されたという女にどんな残酷な境遇が待ち受けていたかを、1カットで見せるのだ。
たまたま途中から、ホームドラマチャンネルでやっていたのを見たのだけれども、
藍の手絡
を掛けた髪型といい、着物の着こなし、帯の結び(結ぶのは衣裳さんの担当だが、見せるのは女優の仕事)といい、
これぞ時代劇
だった。舞台の話を以前、衣裳さんがしていたけど
どんなに綺麗に結んでも、ダメにする女優さんが多い中で、山田五十鈴は決して帯を崩さないように工夫して演技する
と感心していた。
身分によって、着こなしは異なるのだが、今の時代劇で、そこまで演じ分けられる女優さんははたしているのだろうか? 山田五十鈴は、そこら辺りを押さえた上で演じられる最後の女優ではなかったか。
放映当時、正月最初の鬼平だったこともあるだろう、山田五十鈴が、三味線を弾きながら、故郷小諸の民謡を歌う、豪華なサービスシーンがある。途中で、劇伴が被っちゃうのがもったいなかった。
音曲に関しては、舞台で確か、胡弓を弾きこなさなければならない演目を、山田五十鈴が主演したのを見たことがある。ともかくも、音曲の腕も確かな女優であり、そうした脚本であれば、熱心に稽古するのが山田五十鈴であった。たぶん、この鬼平でも、山田五十鈴はかなりの稽古を積んで本番に臨んだのだろうと思う。
盗賊の頭目が、河原崎長一郎だった。長十郎の息子とはいいながら、必ずしも親の七光りでは渡れなかった俳優なのだが、その、河原崎長一郎らしい
人が好さそうな外面と内に秘めた暗い酷薄さがほの見える演技
は、定法通りとはいえ、嵌っていた。こういう役どころを演じる役者というと、河原崎長一郎以外にあまり思いつかない。
当時、鬼平の吉右衛門は48歳。山田五十鈴演じる「おこう」にグレていた若い頃の本名「銕三郎さん」と呼ばれた時の受けの芝居が、実に良かった。
90年代初めには、時代劇がまだ最後の光芒を放っていたのだな。
なお、この作品の原作は、鬼平シリーズを生む元となったもので、鬼平に先行する。
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