子どもの筋電義手に関して「技術大国日本」は世界の後進国
うんと小さい子ども達が、事故や病気で、不幸にして手を失うことがある。先天的に手がない、あるいは手が使いにくい赤ちゃんもいる。
こんなとき、イギリスやカナダでは
筋電義手
が使われる。筋肉は脳が発した命令を、電気的刺激として受け取る。その微弱な電気を感受して動くのが、筋電義手だ。
残念ながら、日本では
筋電義手の処方をして、子ども達が自由に筋電義手を使えるように指導できる医療機関はほとんどない
上に
日本の医療制度では、筋電義手が普及するほど、子どもの上肢欠損に対して医療や補助具の助成がない
のだという。
詳しい話は、zundamoon07先生のblog「リハ医の独白」の
2008-08-30 義手のバイオリニスト
と
2009-01-18 日本義肢装具学会誌の特集「小児の四肢欠損・切断と義肢」
をご一読下さい。
子どもの可能性というのは素晴らしく、
四肢に障碍があった場合でも、大人では到底望めないレベルまで、訓練によって機能を獲得することが可能
だ。もし、日本で、筋電義手が、もっと子ども達が気軽に使えるように制度が変われば、先天的に上肢に欠損があったり、事故や病気で上肢を失った子ども達が、
自分たちの手でいろいろなことが出来るようになり、子ども達の未来の可能性が広がる
だろう。
障碍を持つ人間にとっては、
助けを借りずに自力で出来ることが増えるという事実そのものが喜び
である。
手が悪いからできない
ではなく、
手には障碍があったけど、筋電義手のおかげで、こんなことが出来るようになった
ということのほうがその子の長い人生にとっては大事なことだ。
zundamoon07先生の今日付のblog記事によれば、
日本で1年間に製作された筋電義手はわずかに10数本、価格は1本60-100万円
だという。いま、
義手への補助は63万円が限度、しかも上肢は片側のみ支給
だそうだ。それでは、両上肢に欠損がある場合には、
両手を筋電義手にして、自由に両手を使う訓練をする
こと自体がムリではないか。片手の障碍であっても
持ち出し分が多すぎて、経済的理由で筋電義手を諦める場合
があるだろう。
もし、上肢欠損の子ども達に、筋電義手を支給したとしても、それほど医療費が圧迫されるわけではない。zundamoon07先生は、
筋電義手の支給に要する費用は年間3.6〜24億円
と試算されている。もし、それだけの費用で
障碍を筋電義手によって克服した子ども達が、社会に参加できる余地が増える
ならば、その方が、将来的に見ても重要だ。昨年の24時間テレビでは
先天的に右ひじから先を失う障碍をもつ8歳の少女が、筋電義手でバイオリンを弾く
シーンが放映されたそうで、筋電義手が、上肢欠損の子ども達に与える可能性の大きさを示した。
上肢を失っている子ども達が、少しでも不自由を感じない生活が送れるように、政府は是非対策を練って欲しい。これこそが
少子化対策
ではないのか。子どもが産まれる数が少ないのならば、
一人でも多くの子ども達がよりよい生活を送れるように支援する
ことも重要ではないのか。そのために、大人達は、子ども達を助けてやらなければならない。
zundamoon07先生が紹介されているイギリスとカナダの状況は
・イギリスでは、小児切断の場合、70%は幼少時から筋電義手を使用している。
・カナダでは、経済的負担をさせないように配慮して年齢に合った義手を装着できるシステムと訓練システムが確立している。
だという。
日本より医療崩壊が進んでいるといわれるイギリスやカナダの方が、筋電義手に関しては、日本よりも遙かにマシで、子ども達のことをずっと考えている
のだ。
子どもの頃、かなり長期間、右目のリハビリに通った。待ち時間5時間は普通だった。だから、今でも病院の待ち時間が2時間以内なら、全然「待たされた」とは感じない。
わたしの場合は、残念ながら、リハビリは実を結ばす、右目は機能を回復することはなかったが、自分にとって苦痛な時間であっても、子どもは結構頑張ってリハビリに取り組む。大嫌いだったけどね、右目の視力回復訓練。
その当時もそうだったし、今も変わらないと思うが、子どものリハビリの場には、同じような子ども達と親達が集まっている。病院では、親は親で、子どもは子どもで、それぞれ仲間を見いだし、お互いに励まし合う。障碍の程度は一人一人がそれぞれ違うから、同じように回復しないのは、子どもが一番よく知っている。(親は時々焦ったりするけど)
しかし、子ども達がその
リハビリの場
にも着けないのでは、話にならない。是非
筋電義手が、必要とする子ども達に利用できる制度
を、政府も厚労省も、そして上肢に障碍のある子どもを学校に受け入れることになる文科省も、真剣に考えて頂きたい。
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コメント
30年ほど昔、東京の博物館巡りをしたときに
コンセプト模型みたいなものがあり、
頼んで体験させてもらったことを思い出しました。
つまり、すっかり忘れていました。
学生時代に習った覚えもなく、
医者の間でも、ほとんど知られていないんじゃないかと。
投稿: nyamaju | 2009-01-19 12:37
知り合いの赤ちゃんが、NICU急で救われました。日本の周産期医療のレベルはトップクラスだなーと関心していたら、その後が問題なんだよね。その病院は超有名病院で、障害のある赤ちゃんも沢山入院しているんだけど。退院後、なんのフォローもなくて、精神科医が投薬するのが、ケアなんだって。福祉や教育を考えないと、救命してもしょうがないんじゃないの。母子心中って日本に多いけど、一番多い理由が「将来への不安」だよね?厚労省は、予算がないから、丸投げってこと?消費税があがったら、心中増えるかもね。
投稿: 通りすがり | 2009-01-19 17:19
ご紹介いただき感謝申し上げます。急にアクセスが増えたため、驚いておりました。
リハビリテーション工学が発展を続けています。特に義足や義手分野の進歩には眼を見張るものがあります。南アフリカの両下腿切断選手オスカー・ピストリウスの北京五輪参加問題は、社会面をにぎわせました。
しかし、日本では義肢支給制度の不備が放置されているため、切断者が医学の進歩を享受することができない状態にあります。財政面の都合を優先させ、医学の進歩に眼をつむっています。肢体不自由者に関わる専門家として忸怩たるものがあります。
数少ないリハビリテーション医療分野のブロガーとして、自分の興味の赴くままにコツコツとエントリーを書き続けていくつもりです。今後ともよろしくお願いいたします。
投稿: zundamoon07 | 2009-01-20 21:12
nyamaju先生、通りすがりさん、zundamoon07先生、コメントありがとうございます。
パラリンピックで日本の四肢欠損の障碍者アスリートが紹介されるたびに、何か違和感を感じていたのですが、それは
筋電義手がほとんど適用されてないこと
など
リハビリに対する「無理解」「無関心」
にあるのだ、とzundamoon07先生のエントリーを拝読して思いました。いまだに
自助努力と「持ち出し」
で、国民の福祉を阻害しているのは、残念です。
日本が誇る技術の力
を借りれば、
よりよい「障碍を負った後の生活」
が可能になることもあるのに、現状は実に悔しい限りです。
筋電計については、学生時代、京大の体育養護クラスで、熊本水頼先生が、CPの学生の下肢のリハビリで使用していましたので、ごく原始的な形の筋電計は実際に知っています。ですから、zundamoon07先生がご紹介下さった筋電義手の進歩には驚きました。その年の養護クラスはその子の下肢リハビリの手伝いでした。
投稿: iori3 | 2009-01-20 22:51
はじめまして。通りすがりの筋電義手ユーザーです。
私は両上肢切断で筋電義手・能動義手を使用しております。
zundamoon07さんのブログにもコメントさせて頂いたことがあるのですが、1つ言わせて頂きたいことがあります。
子供が筋電義手を使える環境・制度を作らないといけないということは、国が間違いなく変えるべき、やるべきことだと思います。
しかし、大人の筋電義手ですら普及していない現状と、筋電義手以前に能動義手の訓練もできる所が少ないというのが現在の日本の現状ではないでしょうか?
その状況で、制度ができても筋電義手を着ける子供達が増えるのでしょうか?
私は運よく、能動義手も筋電義手も訓練でき、なんとか生活できていますが、そうではない上肢切断の方もいらっしゃいます。
昨年だったか、労災での筋電義手支給が試験的なようですが、緩和されたようです。
でも訓練できる環境がなければ意味がないと思います。
ましてや、子供達の訓練となると大人以上に大変なようです。
私が訓練した病院で筋電義手の訓練をしている男の子がしていました。
その男の子の訓練を始めた頃は、色々と大変だったと知識を持ったO.T.の先生がおっしゃっていました。
先天性の子供の筋電位がとれる先生が日本で何人いらっしゃるでしょうか?
筋電義手の知識、何が欠点なのかを即答できる先生が日本に何人いらっしゃるでしょうか?
子供の可能性をすごく大事にしないといけないと思います。
だから訓練ができる制度プラス、環境も大事だと思います。
偉そうに言って申し訳ありません。
筋電義手ユーザーとして、正直に意見を言わせていただきました。
投稿: ま~ | 2009-01-23 13:56