『医方類聚』人民衛生出版社版の端本を手に入れる
李氏朝鮮の時代に編纂された東アジア最大の医学全書が勅撰『医方類聚』全二六六巻である。あまりに大部であるがために、朝鮮古活字本はたった30部しか作られなかった。時を経た現在、朝鮮古活字本は、
天下の孤本(世界中にただ一部しか残ってない書物)
として
宮内庁書陵部
に所蔵されている。『医方類聚』については、真柳誠さんの紹介が詳しい。
目で見る漢方史料館(56) 現存唯一無二の『医方類聚』初版 宮内庁書陵部に蔵せられる朝鮮古活字本 解説 真柳 誠
目で見る漢方史料館(58) 喜多村直寛による『医方類聚』の復刊 解説 真柳 誠
現在、わたしたちが利用できるのは、真柳さんが紹介されている
喜多村直寛の復刊
を元にした景印版や排印版である。で、真柳さんが
出来が悪い
と断じられている
人民衛生出版社版(全12冊)の端本
が、東方書店のバーゲンに出ていたので、頼んでみた。頼んだ理由はその価格にある。
端本が1冊630円
だったのだ。2006年に同じ人民衛生出版社から重刊されているのは、もうちょっと高い。どうせ出来が悪い本なのだから、安いのでいいし、悪い本でも、当たりをつけるのには使える。ま、『四部備用』を自分で直しながら使うのと似ている。
あまり期待しないで、オンラインで購入手続きを取った。
現物は、昨日の朝、届いた。文化大革命後の中国では、それまで押さえつけられていた学術出版が陸続と世に現れた。恐らく、この『医方類聚』もそうした一つだろうと思う。
1980年代初頭の中国の書籍の例に漏れず、粗悪な紙に印刷されていて、精装本でありながら至極軽い造本である。表紙は青灰色の、この時代の書物を知っている人にはおなじみの装幀である。ところどころ、ページを裁断し損なってるので、ペーパーナイフで開けながら読む。
索引は2006年版しかなかったので、それを頼んだ。索引1冊で、端本5冊が買える値段である。
家には80年代のこの手の
学術出版が許された勢いに乗って世に出た古典医学書
が、他にも何冊かある。その多くは初めて中国に行った89年に、町中の本屋を徘徊して手に入れたモノだ。簡体字横組で、造本も、本文校訂も今ひとつだ。
だが、そうした不十分な書籍が出版されたのには、文化大革命の爪痕が学術界に色濃く残っていたという、血で購われた事情がある。一応
科学出版なら許してやる
という建前を最大限に生かしつつ、古典を出版する場合には、当局に睨まれないように本文をいじったり、削除したりした営みの表れだろうと理解している。
89年に古典医学書を買い求めたときは、科学史は趣味の一環で、コレクションの一つとして入手しただけだったのだが、ページ数に比して、泣きたいほど軽い本には、当時の中国の研究者達の良心と葛藤とが詰まっている。
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