医療崩壊 「命を大切にする政治」の民主党が放つ「田舎の高齢医は引退せよ、零細クリニックは閉鎖せよ」作戦? 開業医の事業税優遇廃止案の行方→「組合」に入れない零細事業主狙い撃ちはベルリンの壁崩壊以前の「階級闘争」史観の亡霊か
もの凄いミスリードの悪寒。
時事より。
事業税優遇廃止案が浮上=開業医の診療報酬−来年度税制改正、政府・与党2010年度税制改正をめぐり、開業医の報酬に対する個人事業税(地方税)の非課税措置を廃止する案が政府・与党内に浮上してきた。政府税制調査会(会長・藤井裕久財務相)は租税特別措置などの優遇税制をゼロベースで見直す方針を掲げており、年末の税制改正の焦点の一つとなりそうだ。ただ、同措置の存続を求める日本医師会(日医)などの反発は必至で、来年の参院選を控え与党内から異論が噴出することも予想される。
治療の対価として医療保険から医療機関などに支払われる診療報酬は、税制面で各種の優遇を受けており、個人事業主の所得の3〜5%を課税する事業税の非課税措置もその一つ。制度創設以来、開業医の事業所得に当たる診療報酬は非課税扱いが続き、50年以上、手付かずの状態となっている。
同措置については有識者らによる旧政府税調が課税の公平性の観点から速やかな撤廃を求めるなど、自民、公明両党による前政権下でも見直しを求める声が強かったが、日医を有力な支持基盤としていた自民党内の反発で見送られてきた。(2009/10/19-19:17)
この記事だと
開業医は全員税制上優遇を受けてるのか、けしからん
って感じに聞こえるのだが、実際はちょっと違う。「租税特別措置法の社会保険診療報酬の所得計算の特例」というのが正式な名称だが、簡単に言うと
保険収入が年間5000万円までの診療所で、一定の%を必要経費と見なす
というやり方で、
いわばどんぶり勘定で、税金を支払って貰う
のである。よく問題になる
病院は7割も必要経費が認められる
という暴論は、
保険収入が2500万円以下の診療所で72%を必要経費とする
というこの特例を曲解したものだ。一番の誤解は
保険収入=利益
という誤解だろう。保険収入からは
病院のスタッフの給与、薬屋に支払う薬品の代金、病院設備や医療機材の償却費などを支払わなければならない
のだから、それを支払って手元に残る額が一体いくらか、まず考えて欲しい。だいたい
年間2500万円
ということは、
一ヶ月200万円ちょっとの保険収入
だから、土日休んだとして、診察日は一ヶ月で20日前後、一日の保険収入は10万円弱となる。10万円というと驚くかも知れないが、3割負担で
1500円
とか支払っているなら、保険収入は5000円だ。患者一人5000円として10万円なら
一日20人しか患者さんが来てない勘定
になる。これは診療所としてはぎりぎりだろう。一般的な病院の診療時間は
午前9:00〜12:00
午後14:00〜17:00
などだろうから、そうすると一日6時間クリニックが開いていて
たった20人の患者さん=1時間に3人前後
だ。ここに
最低でも看護師さんが1人以上いる
わけで、看護師さんの給与はいくら悪くても25万円くらいだろうから、そうなると基本給(賞与などは除く)だけで
25万×12=300万円
である。実際にはほかに手当が付くだろう。更に薬屋への支払いや、機材の償却費などを含めると、
「儲けすぎ」などと誇大宣伝されるような額は残らない
と推察できる。
さて、
2500万円規模の診療所
といえば
田舎の老先生がやっている診療所
などが当てはまる。地域医療が崩壊しつつある今、最新の治療は無理にしても、
いつでも診てもらえるホームドクター
は必要なわけだが、そうした役割を果たしてきたのが、地域の老先生である。この
事業税優遇措置廃止の影響をモロに受けるのが、こうした地域の老先生の診療所
である。要するに、今回の
税金を医師から搾り取る作戦
は、
実は地域の零細医療機関を潰す爆弾
だと思われる。もし、これが導入されたら
じゃ、病院閉めます、医師も辞めます
という老先生が続出するだろう。そうなると
基幹病院にさらに患者が殺到する
のだ。
たぶん、この案を考え出した人間は、おそらく官僚で
開業医の収入を絞って、経営を成り立たなくさせれば、きっと勤務医に戻って、「医療崩壊」解消
とかいう、実にくだらない計算をしているのだろうと思うのだが、
日本の医師の年齢構成を全く考えてない
のだ。一体
日本で働いている50歳以上の医師がどのくらいの割合を占めるか
統計を見てみればいい。厚労省の今のところ最新の統計平成18年(2006)医師・歯科医師・薬剤師調査の概況によると、
50〜59歳 20.5%
60〜69歳 8.8%
70歳以上 10.6%
と
50歳以上の医師が日本の医師のなんと4割近くを占めている
ことになる。60歳以上に限って言っても
5人に1人は60歳以上の医師
なのだ。これが平成18年の統計だから、今は更に高齢化が進んでいる。
結局
日本の医師の20%に引退を考えさせる政策が今回の「事業税優遇措置廃止案」
なのである。
さて、
もし60歳以上の医師の半分が引退したらどうなるか
ということを、同じ統計の
診療科名別にみた医師数
で見ると、さらに恐ろしい話になる。
いま、不足しているといわれる
小児科・産婦人科・産科
の医師の平均年齢なのだが、病院勤務の医師の場合、平均年齢は
小児科 41.5歳
産婦人科 43.5歳
産科 41.8歳
なのに対し、開業医が中心と思われる診療所の医師では
小児科 58.6歳(+17.1)
産婦人科 60.7歳(+17.2)
産科 55.5歳(+13.7)
と、平均年齢で13〜17歳以上年長の先生方が働いているのである。特に
診療所で働く小児科と産婦人科の医師の年齢が高い
のが目につく。こうした診療所で、2500万円以下のところは、今回の「事業税優遇措置廃止案」が施行されたら
真っ先に廃業する診療所
である。つまり
基幹病院に掛かるまでもない、軽い病気の患者さんや妊婦検診を引き受けてきた担い手を潰す
ことになるのだ。当然ながら
受け皿を失った患者が、軽い病気でも基幹病院に押し寄せる
のは必至で、
病院機能は麻痺し、スタッフは疲弊し、患者はなかなか診てもらえないという悪循環
が起き、
医療崩壊は加速する
のである。
なんだって、こんな愚策が浮上してきたのかね。
医師は「儲けすぎ」と勘違いしているマスコミがさらにミスリード
しているから、たぶん、このまま民主党がこの案を押しきる形になると
あっという間に地方の医療は崩壊しまくり、子どもは死に、赤ちゃんとお母さんは助からなくなる
という
母と子を切り捨てる医療環境
になるのではないかと思いますがね。鳩山首相が、来る臨時国会で次のような演説をすると言うのだが、悪い冗談としか思えないですな。NHKより。
“命大切にする政治”表明へ10月21日 5時0分
鳩山総理大臣は、臨時国会で行う初めての所信表明演説で、みずからの政治理念である友愛の社会を実現して、人の命を大切にする政治を行う決意を示し、中でも少子高齢化社会の是正が重要だとして、「子ども手当」の必要性を強調することにしています。
鳩山総理大臣は、来週26日に召集される臨時国会で、就任後初めての所信表明演説を行います。この中で、鳩山総理大臣は、みずからの政治理念である「友愛の社会」を実現し、人の命を大切にする政治を行う決意を示すことにしています。さらに、政府の「行政刷新会議」を中心に、税金のむだづかいを徹底的になくすことや、行き過ぎた市場主義を改めること、さらに、みずから掲げる「東アジア共同体」構想など、世界の「架け橋」となる外交を目指すことを表明することにしています。中でも鳩山総理大臣は、日本の将来に対する国民の不安を解消するためには、少子高齢化社会の是正が重要だとして、政権公約に盛り込んだ「子ども手当」の必要性を強調することにしています。また、年金記録問題の解決に集中的に取り組む決意も表明したいとしています。鳩山総理大臣としては、官僚が作った文章を羅列するのではなく、みずからのことばで国民に語りかけたいとしており、21日の与党3党の党首による基本政策閣僚委員会を開いて、詰めの協議をすることにしています。
今より医療環境を悪化させて、なにが
命を大切にする政治
だよ。
少子高齢化の是正には、子どもが死なない社会を作る
ことが肝要だが、
産科も小児科も更に崩壊させる施策を行う
なら、
羊頭狗肉
の誹りを免れない。てか
命を大切にする、といいつつ、子どもやお母さんを屠る政治を平気で行う
ってことになりますがね。
(追記 15:26)
今回、
零細開業医をねらい打ちにした施策を採ろうとしている背景
にあるのは、
開業医は個人事業主で「組合」がない
ことが一番の要因だろうと思う。要するに
連合傘下に入れる資格のない人間からは「徹底的に搾り取る」
というか
事業主=資本家からはいくら搾り取ってもかまわない
という
ベルリンの壁崩壊以前の「階級闘争」史観の亡霊がいまだに民主党内では勢力を張っている
ってことだ。
生活実態を見ず、「組合利権」を優先
することが、民主党の施策の根幹にあるとすれば
未組織労働者や、市民のために働く「零細事業主」からは「盛大に搾取」
することだろう。
しかし、
ベルリンの壁崩壊以前の社会主義国家でも、医師など医療従事者は大事にしていた
わけで、
民主党の「零細開業医潰し」施策は、「旧ソ連より酷い」
ってことだな。
ミスター年金である長妻厚労相が医療分野で「組合利権をどのくらい重視するか」
を、今後見守っていきたいですな。
(追記おわり)
おまけ。
「租税特別措置法の社会保険診療報酬の所得計算の特例」がちっとも「優遇になってない」
ということについては次のような指摘がある。野村望先生の中之島のBOWより。
医院経営と表計算ソフト私どものような開業医は医療サービスを業とする零細企業である。企業であるからには経理・経営を無視することはできない。しかし、私ども医師のだれもが、大学時代はもちろんのこと、勤務医時代にも、経理・経営に関するトレーニングを受けたことは皆目なかった。医師は医学のこと、医療のことを考えておれば良いとされ、世間も暗黙のうちにそれを了解していたようだった。
73年に開業をしたが、診療の必要経費を72%と計算しても良いという特別措置法が存在していて、記帳をしなくても税金の計算を簡単に行うことができるので、経理や経営について勉強することもなかった。しかし、この特別措置法は「医師優遇税制」だとする世間の非難のボルテージが高くなるにつれ、本当にこの措置法で医師は優遇されているのかについて疑問が生じて来た。
そこで、開業10年目の83年に、1年間の薬問屋の支払いなどの経費を計算してみた。これは、ほとんどの請求書や領収書を残していたので実行可能だった。また、水揚げに相当する総収入は、99%が健康保険からの振込なので、経費割合の計算も簡単であった。
その結果は、予想通り70%近い費用となった。そこで、大阪府医師会に関与している会計事務所に、これを見てもらったところ、抜けている費用がもっとあると指摘され、即座に青色申告を勧められた。その指摘を取り入れ、翌84年から、世間で非難される「医師優遇税制」と決別し、青色申告を採用したが、その結果は1年後に大幅な節税になって戻ってきた。白色から青色に変更して正解だったのである。
悪名高い特別措置法が「医師優遇税制」では決してないことを、その時にはっきり知った。大部分の医師たちは、記帳と計算に慣れていないので、その手間の要らないこの措置法を使って丼勘定をしてきたというのが真相であろう。
どうやら
医師は金勘定がヘタ
というのを逆手に取られていたって話みたいですね。
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コメント
宮城県のどこかの離島で、
島に医者がいなくなった
↓
中国人のお医者が来た
↓
しかし患者数が少ないため経営が成り立たず診療所を閉鎖、
ということがありました。
地方の過疎地域はどこも似たようなものと思われます。
「ムダ削減」(笑)のために都市部以外のインフラは全て切り捨てられそうですね。
投稿: はくす | 2009-10-21 13:20
地域のホームドクターが無くなったら、夜間救急は今より恐ろしいことになるというのに。
それに昨日の時点で、地方で勤務医やってる身内が職員用のインフルエンザワクチンが
行き渡る見通しがまだ立ってないって言ってたんですけどねえ…
今年の医療情勢がどうなるのか想像もつきません。
首相は唐揚げ2,000円のたっかい料理屋で嫁と飯食ってるヒマと金があったら
することが山積みのはずですが。
きれいごと(に見えること)にすぐ嘴挟むのだけはいっちょ前のようですが。
http://amanogawariver.blog99.fc2.com/blog-entry-39.html
http://mainichi.jp/select/seiji/news/20091021ddm005010079000c.html
投稿: m | 2009-10-21 15:47
いつもROMだけなんですけど、今回、自分のブログのエントリ中にリンク貼らせていただきました。トラックバックが上手くいかないので…。
投稿: iMac | 2009-10-21 18:02
マスゴミも民主党も、相変わらず「有資格者と一所懸命勉強してきた人」が嫌いですな。
トレーニングしてきた人間は賞賛するクセにラーニングしてきた人間を嫌悪する…
ジェラシーにしても偏った話です。
投稿: ななーすぃー | 2009-10-22 00:16