木簡学会@12/5〜12/6 奈良
今年は、いつも使っている奈文研の講堂が工事中なので、奈良県歯科医師会館(1日目)・奈良県立新公会堂(2日目)と二つの会場で開かれ、木簡観察は、奈文研食堂で初日のみ行われた。懇親会は春日野荘へ移動。春日野荘のロビーには、
アレ
の看板が立っているので、なるべく見ないようにして会場へ向かった。
そんなわけで、いつもと勝手が違い、ご挨拶できなかった先生方も大勢いた。申し訳ありませんでした。
奈文研食堂は狭いので、展示木簡はぎっしり詰め込まれている状態になり、観察者も渋滞気味。1時間半くらい頑張ったんだけど
木簡酔い
したので、退散した。目玉の一つは、今日から奈良市大安寺の奈良市埋蔵文化財調査センターで1週間だけ展示される西大寺旧境内出土木簡で、墨痕鮮やかな
石上朝臣
の文字が読み取れた。てか、なぜか
石上朝臣の文字だけ他の文字より黒々と残っている
のだ。官位から言って、日本最初の図書館「芸亭(うんてい)」を作った
石上宅嗣
である。この木簡については、あちこちで報道されている。これは産経。
西大寺旧境内から国内初の図書館開設者の肩書き木簡が出土
他にも注目すべき木簡があった。
まだ
取り上げた木簡の内半分しか洗い終わってない
そうなので、これからもすごい発見があるだろう。狩野久先生が
全国の木簡研究者とその学生は、是非奈良市埋蔵文化財センターでの木簡の洗いを志願すべきだ
と主張されていたが、ほんと、これだけの点数の木簡だと、生半可な人数では処理しきれない。いまは
市民ボランティアが洗いを担当
してるんだよね。
発表では西大寺出土木簡の釈文担当者が、
新型インフルエンザ感染
で、残念ながら出てこられず。ご本人もさぞ悔しいことだろうと思う。
昨日のシンポジウムでは
韓国・北朝鮮の木簡
について、早稲田大学の李成市先生が駆けつけて、ほんとうに
最新情報
をピックアップして発表して下さった。いや〜
激動の韓国・北朝鮮出土木簡状況
なので、実にすばらしい発表だった。レジュメも
その時点での最新情報、と断られた上でぎっしり充実した内容
で勉強になる。
会場でたびたび話題になったのが
出土直後の木簡を洗浄していいのかどうか
という話で、これまた狩野先生が
出たばかりの木簡を洗うと坪井清足に怒られるぞ
と冗談めかしておっしゃっていたのだが、
1300年ほど水に浸かり泥でパックされていた木簡
を
その場で洗浄して酸素や紫外線に晒す行為
は、
木簡を劣化させる一因
に他ならない。多数の木屑が出てきて
文字が書いてあるかないか謎
の時には、試験的に泥を落として確認するのはしょうがないけど
すべてその場で泥を落とす
というのは、木簡のその後の管理上、感心しない。実際
出土直後は鮮やかな木の色に黒々と墨跡が見えている木簡
も、暫く経つと
黒ずんで、文字が判然としない状態までに劣化
するのである。だから
施設に持っていって洗ってから、すぐに水に漬けて保存する
のが木簡を後世に残すためには大事だ、というのが奈文研の渡辺晃宏さんの主張だった。
木簡は古代の人達から現代のわたしたちに托されたものだから、発掘したために、木簡を破損することはあってはならない
ということを、渡辺さんは昨日のシンポジウムで何度もおっしゃっていた。同感である。
木簡の釈読を勉強するために奈文研に通っていたのは、いまから10年以上前なのだが、その頃と今では撮影のシステムもかなり変わった。デジタル画像が簡単に処理できるようになった現在では、たった10年違っても、
二次利用者は木簡にそれほど触らずに釈読できる
システムになりつつある。以前は、木簡のバットを出して来て、自分で読んだ方が速かったりしたけど、いまは出来るだけ現物には触らず、二次情報で判断できる程度に変わってきている。赤外線を当てても、どうしても読めない個所は、水に漬けて光の角度を変えて読む、という昔ながらの方法で行くしかないが、そこまでして読まなくてはいけない木簡はそんなにたくさんないだろう。
木簡は古代からのタイムカプセルである。現物を後世に残すためには、できるだけ木簡を破損せずに記録を取った後、時間を掛けて保存処理をする以外にない。
シンポジウムで
秦漢の簡牘と晋簡以降の非連続をどう処理するか
という話題になった。このミッシングリンクを
いま陸続と発見されている朝鮮半島の木簡が埋めるのではないか
という辺りで、盛り上がりつつ終わってしまったのだが、この問題はよく考えないといけませんな。そういう意味では、新潟大学の
關尾史郎先生のお仕事
が注目される。
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コメント
狐も避けているみたいです。(3.5.4)
投稿: 横田 | 2009-12-07 21:22
> 出土直後の木簡を洗浄していいのかどうか
このような事が話題になるということは、洗浄されてしまった木簡が多数あると言うことなのですね。
私、いままで、そういった遺物の保存方法の教育を受けた人間が発掘をしていると思いこんでいました。
大ショックです…
投稿: MUTI | 2009-12-08 00:09