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2010-02-07

プリウスブレーキ問題(その7)もう一つの問題 エコカー減税&補助金で増加したプリウスオーナー

「エコカー減税&補助金」でお得にハイブリッドカーが買えます!
2009年4月からエコカー補助金とエコカー減税のコンボで、ちょっと手の届かない感じだったハイブリッドカーは、購入を検討してもいい車種となった。それまで、プリウス乗りというと
 エコな車という思想に共鳴した、小金持ち
という感じだったけれども、このエコカー減税&補助金で
 安く買えるから買ってみる層
というのが、新たに生まれた。
折しも、2月には、ホンダが新型ハイブリッドカー「インサイト」を発表していた。トヨタは、5月18日、プリウスとしては3代目となる
 新型プリウスを発表、即日販売
した。

ホンダのインサイトは、2006年まで販売していた旧型のハイブリッドカーだったインサイトのコンセプトから離れ、新たに組み直したハイブリッドカーになる。同じハイブリッドカーを買うなら
 技術が枯れている筈の新型プリウスの方がたぶんより安全で充実しているだろう
と、「エコカー減税&補助金」組の新たなハイブリッドカー購入層が考えても不思議はない。実際、新型プリウスはよく売れたし、いまも納車待ちの長い列が出来ている。

二代目までのプリウスオーナーと新型プリウスオーナーは、質が変わっているのだ。
 プリウスだから乗りたい
というのは二代目までで、彼らの多くは「プリウスファン」である。しかし、新型プリウスのユーザには
 普通の車と同じようにハイブリッドカーに乗る人達が増えている
のである。

トヨタの常務が、
 空走感
という言葉をつかって、ブレーキの不具合を説明したとき、もし、それが二代目までのプリウスオーナーだったら、違和感を覚えず、
 プリウスに操作性に自分を合わせる
ことに従順だったことだろう。しかし、現在、新型プリウスに乗っている人達のすべてが
 従順な「プリウスファン」
ではない。かなりの数の人達は
 いくつかある「エコカー減税&補助金」の対象車だから、プリウスを選んだ
に過ぎないのである。
 普通のガソリン車と同じように、ブレーキを踏んだら止まってくれる車としてプリウスを買った
のだ。それを、トヨタの横山常務は次のように説明し、せっかく掴んだ新たなハイブリッドカー顧客の心情を甚だしく傷つけた。【井元康一郎のビフォーアフター】メーカーとユーザーの距離感を浮き彫りにした プリウス 2010年2月6日(土) 19時00分より。


この件に関して、トヨタは2月4日に釈明会見を行ったが、その中身は実質世界トップ企業とは思えないようなものだった。説明に立った横山裕行常務役員の説明はこうである。

「油圧ブレーキと回生ブレーキ(電気モーターで発電を行い、その抵抗で減速する機構)の協調制御の問題。限られた状況下でブレーキ抜けはあるが、踏み増せばちゃんと止まる素人的には違和感を覚えるかもしれず、1月にはプログラムを改良した」

つまり、現在のトヨタの経営を支えている
 新たなお客様=新型プリウス購入者
であるにも関わらず、
 素人的には違和感を覚えるかも
と、
 お前ら素人には高級すぎて技術的な説明はわかんないだろうけど、故障じゃないし、踏み増せば止まるんだから、文句言うんじゃねえ
と、素晴らしい記者会見を行ったのである。横山常務には
 自分の給料がどこから出ているのか理解できていなかった
のである。横山常務が
 素人
と切り捨てた顧客こそが
 いまトヨタの販売を支えている
にも関わらず、だ。

なお、この横山常務が
 薄笑いしながら説明を行った
のが、ばっちり放映され、写真も掲載されているので、余計に評判が悪い。たとえ地顔であっても、この手の記者会見では
 謹直な表情を心がける
のがスジである。

こうした
 一般へ最も影響がある記者会見での不手際
は、
 トヨタは「車を売ってやっている」という「殿様商売」の自動車会社
という印象を日本でも強く与えた。当然、訴訟大国アメリカでは受け入れられないような態度である。

いまや情報は瞬時に世界中を駆け抜ける。横山常務のヒトを小馬鹿にした会見は、世界中からアクセス可能なニュース映像としてインターネット上に置かれていた。
そして、創業家出身の豊田章男社長の「棒読み」会見が続いた。こちらは、海外のメディアも取材に駆けつけた。
 横山常務&豊田社長の強烈な印象を与える映像
は、かくして世界に配信され
 グローバル企業トヨタの「実態」
を悪い味付けで暴露することになった。

もちろん、日本国内で、あの会見を見て承服した新型プリウスオーナーはよほど技術に詳しいか、元よりのプリウスファンでもない限り、少なかっただろう。

新型プリウスは、全車、日本でもリコール対象となるという。
読売より。


新型「プリウス」国内全車リコールへ

 トヨタ自動車は6日、ハイブリッド車の新型「プリウス」のブレーキに不具合が発生した問題で、国内で販売済みの全車両について、リコール(回収・無償修理)の実施を決め、販売店に伝えた。
 国土交通省と調整した上で、今週前半に正式発表する。
 国内では、法律で定めた保安基準を満たさず、原因が設計や製造過程にある場合、国交省へのリコール届け出が義務づけられている。トヨタはプリウスの不具合は欠陥ではないとして、自主改修である「サービスキャンペーン」も検討したが、信頼回復を優先し、厳格なリコールに踏み切ることにした。リコールでは、不具合の原因となったアンチロック・ブレーキ・システム(ABS)の電子制御プログラムを修正する。
 昨年5月に発売された新型プリウスは米国など約60か国・地域で計30万台以上が販売されており、米国などでもリコールや自主改修で同様の無償修理を行う。

 プリウスは、「ブレーキが利きにくい」といった苦情が日米で100件以上寄せられていることが3日わかった。販売済み車両への対策を発表する前に1月末から工場で生産する車両に改善策を講じていたこともわかると、内外で不信感が強まり、5日に豊田章男社長が緊急記者会見で早期に具体策を決める考えを示していた。

(2010年2月7日03時11分 読売新聞)

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コメント

修正前のABSのプログラムは、
回生ブレーキからの戻り電力を増やす(=燃費向上をはかる)ために、油圧ブレーキとABSの作動を遅らせるプログラムだったんではないか?
なんて疑ってみたくなりますね。

投稿: AGGY | 2010-02-08 18:32

今日の新聞を見ると、

『30度の急斜面に前から突っ込んで駐車。バックでブレーキを踏みながら発進したらがけから落ちそうになった。プリウス最低!(横浜市 68歳 女性』

という記事が出てました

斜度30度といえば、スキーに自信がなければ怖気づく恐怖の斜面角度です。
本当に急斜面に駐車した非常識な客なのか、”感覚的に”30度の斜面だったのか分かりません。

一つ言えることは、
非常識な市民の声を、常識の判別ができないメディアが扱うと、デマや煽動に繋がるということです
私は、そちらの方が怖いです。

投稿: Med_Law | 2010-02-10 15:09

こちらにメカニズム的な説明があります。

http://eco.nikkeibp.co.jp/article/report/20100209/103150/?P=1

現行のプリウスでは更なる低燃費と静粛性を追求した結果として起こってしまったという事でしょうね。

投稿: SORA | 2010-02-10 22:26

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» プリウスのリコールに思うこと [YuhのCar Room]
 3代目プリウスのブレーキ問題で、ついにリコールが発表になった。  浅い踏み込み時のブレーキの利きが独特な挙動をすることは以前から指摘されていたし「慣れが必要」とも言われていた。  2代目以前の車種でも似たような挙動はあったようだし、他車種のABS装着車でも似たような挙動を示す例があったようだから本当に3代目プリウスだけの... [続きを読む]

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