バンクーバー五輪女子フィギュア 「受験秀才」が勝つ採点システムに浅田真央は負けた→2/17付ニューズウィーク誌の記事は「新採点システムでは審査員の母国びいきと裏取引はむしろ悪化」と指摘→Nスペ「浅田真央 キム・ヨナ“史上最高”の闘い」@2/27 総合22:00〜22:50
フィギュアスケートの神様は、なぜこれほど浅田真央に試練を与え続けたもうのか。そして、浅田真央はけなげにも、その試練に常に正面から向き合い、実際に乗り越えてきた。まずは3Aを決める。そして3Aをフリーで2回入れる。そして、SPで1回、フリーで2回3Aを入れる。
今回のバンクーバー五輪で、浅田真央が銀メダルに終わったのは、フィギュアスケートの神様のご意志としか思えない。神様は
真央、お前にはまだ出来ることがある
そう思し召して、浅田真央がアマチュアとして現役を続けるように計らったのではないか。
演技者としてのキムヨナが今後どういう帰趨をたどるかはわからないが、競技者としてのキムヨナはこれで終わりだろう。終わりにしたいはずである。腰痛持ちのキムヨナが、これから更に4年間も第一線で戦い続けていくことは、肉体的にもムリがあるし、なにより金メダルを取ってしまった彼女には、モチベーションがなくなってしまった。キムヨナは、今後、一生、国家が面倒を見てくれることだろう。もう闘わなくてもいいのだ。アスリートとしては「長い老後」が始まるのである。少なくともあと50年、それは続くだろう。
韓国ではメダルを獲得したアスリートの「老後」は、手厚いものだと聞く。それも金メダリストなら尚更だろう。20歳を前にして、金メダルの栄誉を得ることはなかなかできることではないが、その後の長い人生をつつがなく終えることが出来るかどうかは、また別問題だ。なにしろ、熱狂的であると同時に、一旦事が起きれば、ただでは済ませないお国柄である。歴代の大統領がその地位を去った後の事を考えると、キムヨナの周りにも、彼女を出汁にして金儲けをしようとしているさまざまなよからぬ人物が蠢いているだろうし、これからは更にそういう人間が増えるだろう。才能ある人間が、本人の得意としない経済分野で、すり潰されないことを祈りたい。
銀メダルは敗北。そう思った浅田真央は悔し涙を流した。これはアスリートなら当然のことで、浅田真央の中で更に戦い続ける意志がむくむくと沸き上がっていることだろう。浅田真央は、見事な3Aが強調されて、見過ごされている部分があった。たとえば、3回転ジャンプを全種類は飛ばないのである。ジャンプが得意な浅田真央というイメージからすると意外なのだが、減点を恐れて試合では飛ばないジャンプがある。この弱点を、五輪前の2年で立て直してくるかと思ったのだが、残念ながら3Aの練習がその時間を奪った。これから4年間、浅田真央がソチ五輪を目指すというのであれば、時間はある。弱点とされる、いま試合に入れていない3回転ジャンプを強化してほしい。
そして、浅田真央は「4回転を飛ぶ」と口にした。
3AをSPとフリーで合わせて3回飛んでもメダルに届かないなら、圧倒的な技術の違いが点数に出る4回転を身につける、というのだ。浅田真央の体脂肪率は7%だそうだ。健康な女性の体脂肪率としては限界に近い。本来なら脂肪がついて女らしい体つきになっていく年頃である19歳の浅田真央が3Aを確実に飛ぶためにどれほどの犠牲を払っているかを考えただけで心が痛むのだが、4回転を飛ぶとなると、さらに節制と鍛錬が欠かせない。ケガの心配も増す。それでも恐らく浅田真央は4年後までにはSPとフリーのプログラム全体に1回か2回の4回転を入れ、その一つは連続ジャンプという離れ業をやってのけようとするだろう。当然3Aも欠かせない。男子でも4回転を飛ばない選手が金メダルを取るこのご時世に、アスリートとして持てる技術の限界を超え、フィギュアスケートの水準を高めようと、浅田真央は自分を叱咤激励し続けるというのである。その努力の尊さと払う犠牲の大きさを思うと、まったくもって、胸が張り裂けそうになる。
今回の五輪のフィギュアスケートは
受験秀才が天才を打ち破る採点システム
が結果を左右した。
難しい技よりも、平均的な技を確実にこなす
方が加点を貰えて点数が出やすい。ただ、
加点は審判の主観
によるから、ここに
さまざまな工作が入り込む余地
がある。ニューズウィーク誌は、2/17付でこんな記事を掲載した。
フィギュアの採点改革に効果なし
この記事によれば
新採点システムによって、審判の母国びいきと裏取引は更に悪化している
ということであり、
採点の匿名システムは、裏取引を行いにくくはしているが、審判がひどい点数を付けてもチェックできないので、採点に不正があったかどうかを調査する際には、記名データを公表するべきだ
という、ダートマス大学のエリック・ジツェウィッツ経済学准教授の研究を紹介している。
もし、この研究の通り
今の採点システムが、裏取引や母国びいきによって恣意的な点数の上下が頻繁に行われているシステム
であるとすれば、それは
既にスポーツではない
のだ。もし、今回
トリノ五輪の女子フィギュアは日本人が金メダルだったから、2大会連続で日本人に金メダルを取らせるのはフィギュアスケート人気維持のためにはよろしくない
と審判達が判断して、
浅田真央に点数が出にくい採点
をしていたのだとしたら、それこそとんでもない。
スポーツの醍醐味は、どんな競技であっても
一握りの天才が極限までに技術を高める部分
にある。もし、フィギュアスケートが今と同じ採点システムを続けるとしたら、それは自らスポーツとしての可能性を葬り去ることに他ならない。確かにフリーの出来が、従来の本人の演技と比較すればよくなかったとはいえ、プルシェンコがSPとフリーで2回の4回転〜3回転の連続ジャンプを入れても、4回転を飛ばないライサチェックに及ばない、というのは、競技としてはおかしい。同じことは浅田真央とキムヨナにも言える。3Aを3回入れても勝てない競技は、高みを目指すスポーツの本質に反している。ついでに言えば、浅田真央の演技構成は、ジャンプに関していうならば、ライサチェックとそれほど変わらないのである。
公式プロトコルによる、ライサチェックと浅田真央の演技予定からジャンプの部分を抜き出すと、次のようになる。
ライサチェック 浅田真央
3Lz+3T 3A
3A 3A+2T
3S 3F+2Lo
3A+2T 3Lo
3Lo 3F+2Lo+2Lo
3F+2T+2Lo 3T
3Lz 2A
2A
男子は女子より1つジャンプが多いのだが、ライサチェックのジャンプ構成と浅田真央のそれとの決定的違いは回転不足を取られがちだった浅田真央が3回転+3回転を入れてないところくらいだ。女子銀メダルと男子金メダルのジャンプの構成要素がそれほど変わらないというのは、やはりどこかがおかしい。
2/17付ニューズウィーク誌の記事の通り
採点は不透明で、権益がまかり通っている
のではないか、と疑われるところだ。
才能のあるアスリートの卓越した技能を適切に評価できない採点システムが続くならば、フィギュアスケートは、五輪から去った方がいいだろう。他にも大会はある。Xゲームのように、そこでやればいいのだ。
さきほど、
Nスペ 浅田真央 キム・ヨナ“史上最高”の闘い
が放映された。ちょっと前にやった
Nスペ 浅田真央 金メダルへの闘い
にキムヨナの取材部分と昨日行われたであろう
浅田真央への試合後インタビュー
を足して編集されたものだ。ナレーターは松本和也アナに変更されていた。
このNスペで何が凄いといって
銀メダルに終わった浅田真央が自分の試合のビデオを見ながら、冷静に振り返っている
のが凄いのである。19歳の乙女なのだから、動揺して取材を断っても構わないくらいの衝撃があったはずなのに、浅田真央は
自分の演技のどこが良くて、どこがダメだったのか
を的確に指摘し、人を明るくさせる調子で、そして自分の言葉で語っている。負けた試合の直後に、これほど冷静に自分を振り返り、分析し、インタビューアを気遣って語ることの出来るアスリートをわたしは他に知らない。
浅田真央の目はすでに次の段階に向いている。
与えられた才能を最大限に活かせ
というのが、フィギュアスケートの神様の思し召しであり、それを忠実にやり遂げ、進歩する、選ばれたアスリートが浅田真央なのだ。
神に選ばれるアスリートは、ごくごくわずかで、常にいるわけではない。
浅田真央の進化を目の当たりに出来る、よい時代に生まれた。
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コメント
ものすごい確信をついたコメントで、まさにその通りと拍手を送りたいです。
オリンピックは身体の限界に挑むからこそ、オリンピックなのです。スキー、100m走、そしてモーグルでさえも限界ギリギリの技術を乗り越えたものだけが手にすることが出来るのがメダルです。
フィギュアスケートが技術でなく芸術重視の採点方法のままならば、エキシビションマッチと名前を変えてオリンピックのラストを華やかに彩る役割に変えたほうが良いと思います。
投稿: 西村 典子 | 2010-03-01 03:31
プルシェンコの帰還の記事を読んでから、今回のOPの結果についてどんな記事を書かれるのか楽しみにしておりました。
天漢日乗様が新聞のスポーツ記者であったなら、フィギュアの裏実情を日本に広めることができ、金メダルを取れなかった悔し涙の真央ちゃんでなく、常に高みを目指す本物のアスリートであるから自分の理想とする演技をOPの舞台でできなかった悔し涙の浅田選手として、彼女のフアン以外の人たちに十分伝わるのにと思いました。
これからもフィギュアのこと必ず記事を書いてくださいますようお願いします。
投稿: Masako | 2010-03-01 14:03
初めて伺いました。
天漢日乗様の文を読みすっきりしました。
浅田真央さんの心意気とこれぞフィギュアスケーターと言うすばらしい滑りを見ることができて胸がいっぱいであると同時に、疑惑の高得点で、心が重かったので。
ありがとうございます。
最近、この疑惑の件がらみで、「国際スケート連盟(ISU)のジャッジ用教育ビデオにおいて、そのジャッジモデルがキムヨナ選手である」と言う話を聞いたのですが、これは事実なのでしょうか。ネット上ではあまり出ていなくて、ほんの1箇所程度なので、作り話かもしれません。
天漢日乗様で何かご存知でないでしょうか。
ちょっと気になっています。
投稿: らくぼう | 2010-03-01 17:11
キム・ヨナは引退して、ソチ五輪の二年前に再び戻ってくると思います。 浅田選手が、ルッツやサルコウなどを磨かないまま、スピードや表現面も含めて、基礎的なところを無視して、常に上を目指したら、四年後も同じ結果になる。キム・ヨナの五輪連覇をとめることはできない。
投稿: 007 | 2010-03-09 13:13
初めてコメントします。
真央さんのオリンピックの演技を見て、彼女こそ本当のアスリートと思いました。
昔からスケートを見ていますが、ここ何年かは国と国のどす黒いものが出ており、試合を見るのが嫌になっていました。
真央さん(美姫さんも)もジャンプが認定されなくなったり、有利になる選手とそうでない選手の差が多く、
選手達の心が折れるのではないかと心配していました。
しかし、オリンピックでの彼女の演技を見て、そんな思惑を全て払いのけた・・そんな感じがしました。
上の007さんはキムヨナさんが連覇するとおっしゃってますが、彼女はループが跳べないし、ロシアの若手選手がトリプルルッツ-トーループジャンプをどんどん跳んでくるなど、連覇ははっきりいって無理だと思います。
来季から真央さんはルッツもサルコーも3-3も挑戦すると言われてますので、それも踏まえた上で4年後の彼女の演技が本当に楽しみです。
投稿: nao | 2010-03-18 12:05
世界選手権の結果を観て、一度の転倒、更に一度のミスをし、その他もベスト等とはとても言えないキム・ヨナが130点で、浅田真央がそれ以下とは一体、どういう採点なのだと思い、審判団の構成を調べようと思ったら此処に来た。分かっている人は常に居るものだと思う。
今回のオリンピックが日韓の選手の戦いであったことは衆知の事実であった時、審判団に日本人が一人もいない…韓国人は1人いた…こんな不公正がまかり通るフィギュアスケートは、それだけでもスポーツから逸脱しているが、こんなことを看過した日本フィギュアスケート連盟とは一体何なのか。
この協会を長年牛耳っていたお爺ちゃんと、その関係を疑われていた実力者の女性が、資金(基金)運用等の不明朗さを糾弾されて失脚したのは数年前の事だった。この爺っさまと城田が、あまりにも長い間、この団体を牛耳っていた結果として、当たり前に、世界に物が言える人間が1人も居ないのだろうな。何と言う情けない国だろう。それは謙譲や謙遜の美などではなく、30年以上、世界第二の超経済大国の地位に在りながら、何一つ(せいぜいアニメなんぞ位か)世界をリード出来なかった国、夢も希望もなく、今や7人に1人が貧困者だという、私たちの国の根本的な問題なのだろう。今週号のニューズウイークが完璧に指摘した通りなのです。「トヨタが告げる日本の終わり」沈みゆく国には諦めムードが広がっている(ケビン・スチュアート、カーネギー国際問題倫理評議会プログラムディレクター)内にこもり、リスクを避け、何事にも消極的―縦割り構造で日本的思考に染まった「輝けるメイド・イン・ジャパン」の変調は、日本の経済と社会の沈滞ムードを象徴しているように見える…「しょうがない」とつぶやきながら…将来に自信が持てない国…自殺率はアメリカの2倍…中国との競争を放棄?…
トヨタはいわば、迷える日本の象徴だ。ある調査によると、日本人はパキスタンやロシアの国民より自国の進路に不満を抱えていた…文化を根底から変えなければ、問題を解決することは不可能だ。
一人一人の、個人が主人公で、王様で、天皇陛下で、国家主席である国。わたしたちが、一刻も早く、そのような国を作り上げる事より他に、浅田真央やトヨタの悲劇が繰り返される事を防ぐ道はないのです。
投稿: wolfparade21 | 2010-03-28 10:21