本を起こしに行く
只今、香港で訪書調査中。
わたしの仕事の一つに
本を起こしに行く
というのがある。海外調査で、それまで注目されていなかった書物を掘り起こして、周囲の注意を喚起する、という意味だ。
考古学で
当たる
というのは、担当した現場で大きな発見があることで、当たりやすい人というのがいるのだけど、訪書調査も「当たる」かどうかが鍵だ。
わたしの注目する書物は
目録には載っているが、書庫で割合冷遇されている書物
だ。どれがそう、というのは難しいけど、何となく
これは大事
というのが見えることがある。訪書調査の時間は限られているから、大量に次々見るのではなく、ポイントを絞って鍵になりそうな書物を見せていただく。その中に一部でも「ちょっと匂う」書物があれば、調査はほぼ成功である。
難しいのは、事前に調査したい書目を申請してからじゃないと、閲覧許可が下りないことで、目録の文字列だけから、
これは大事そうだ
というのを判断するしかない。書影(その書物の画像)が出てればいいけど、そんな親切な目録ばかりではない。もう何十年も前につくられた、ぶっきらぼうで、甚だ不親切な目録の方が圧倒的に多い。その中から
オレを読んでくれ
と叫んでいる書物を探り出すのである。
昨日も、中国と日本の文化交流の400年ほどの歴史を体現する波瀾万丈の経歴を持った書物が見つかった。書庫にあるのは分かっていたが、やはりあまり注目されてなかったようで、繙くと文字通り歴史がこぼれ出た。こういうことがあるから、訪書調査はやめられない。
少々、傷んでいるので、気をつけて頁をめくりつつ、往時の日本人がどんな気持で、中国から齎らされたこの書物を開いたかを想像した。最初の函の上にある分は、何度もめくられたために、版心のところが切れそうになっている。慎重に開きながら、注記を転写した。
以前は出来なかったりしたけど、いまは善本室にコンピュータを持ち込めるので、調査のスピードも速くなった。
貴重な歴史を抱えて眠っている書物は、世界中どこにでもあり、誰かに再び繙いて貰える日を待っている。
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