« 地方産科医療崩壊 44年間働いた80歳の一人産科医長引退で産婦人科休止@長野県上伊那地方 | トップページ | よそんちの猫 »

2010-04-19

地方産科医療崩壊 仏作って魂入れず 病院は出来るのに2006年から休止している出産取り扱いは再開できない@安曇野赤十字病院

ハコモノは出来るのに
 肝心の医療スタッフが集まらず、出産取り扱いができない病院
が、
 今年7月完成の安曇野赤十字病院
である。こちらは長野県を四つに分けた時の中信地方に位置する。
4/17付信濃毎日より。


出産、再開できず-7月完成の安曇野赤十字病院
4月17日(土)

 7月に新病院が完成する安曇野赤十字病院(安曇野市豊科)で、常勤医の不在のため2006年から休止している出産の取り扱いが、オープン時に再開できない見通しとなったことが16日、分かった。新病院の産婦人科病棟には35床のベッドを設けるが、当面は使わないスペースにせざるを得ない状況だ。
 沢海明人院長は取材に「常勤医確保の見通しが立たず、助産師などスタッフの確保と考え合わせると、オープン時の再開は間に合わない」と明らかにした。
 新病院は6階建て2万1800平方メートル。総工費は90億円余で、うち37億4千万円余を周辺8市町村からの補助金で賄っている。
 同病院では、産婦人科の常勤医3人が06年6月までに相次いで退職。出産取り扱いの休止後は、非常勤医師による妊婦健診などの外来診療のみを受け付けている。
 病院側はこれまでも、信大病院(松本市)や県に医師の派遣を要請したり、退職した産婦人科医に打診をしてきたが、再開の時期についてはめどがたたず、新病院完成に間に合うかどうかもはっきりしていなかった。沢海院長は「何とか再開できるよう、さらに手を尽くしていきたい」としている。

ええと、まず
 安曇野赤十字病院は周辺自治体から総工費の41.6%に上る37億4000万円を補助してもらって建て替えた
ってことね? で、産婦人科病棟を建てたってことは、当然、その時に
 お産は再開しますから
と説明して、産婦人科病棟への予算も組み入れたって話ですね?
 2006年からお産を休止
している、というのは
 産科崩壊では割と早い時期の休止
となる。で、現在の外来診察
 名前のない「信大医師」1人と2人の非常勤医師
でまかなっており、当直はない。
しかし
 信大医師
ってすごい表示だな。ひょっとして
 信大病院から先生は来るけど、誰が来るかは決まってないor誰か適当に来る
って話でしょうか?

2006年から今年まで4年近く
 産科医の手当をしたけど、目途が立たなかった
ってことなんだけど、安曇野赤十字病院のサイトを見ると、こんな状況。


産婦人科医師(急募)

現在、当院は産婦人科の常勤医師欠員に伴い産科・婦人科の分娩・手術等の入院診療を休止していますが、安曇野市における唯一の総合病院として、また赤十字病院という公的医療機関の責務として、産婦人科診療充実、とくに分娩の受け入れ再開は喫緊の課題であり、市民ならびに安曇野市からの要望も強く、目下産科・婦人科の再開を目指して医師確保に努めています。

新病院においては、分娩設備と入院環境の整備に重点を置いた実施設計を完成させました。

自然環境と交通の便に恵まれた田園都市で産科・婦人科診療に取り組んでくださる医師が集まってくださることを切望しています。

募集人員 常勤医師 3~4名(部長・副部長含め)
給 与 日本赤十字社職員給与要綱に基いて支給。
待  遇 昇給・賞与は日本赤十字社の規定に基づく。年金は厚生年金基金に加入(詳細は電話で回答)

勤務時間 8:30~17:00
休日休暇 週休2日制、祝日、年末年始、創立記念日、特別休暇(夏休み等)
病院概要
許可病床数:一般360床 (回復期リハ病棟41床を含む)
診療科目:17科および1診療
内科、神経内科、呼吸器科、消化器科、循環器科、小児科、外科、整形外科、形成外科、脳神経外科、皮膚科、泌尿器科、産婦人科、眼科、耳鼻咽喉科、リハビリテーション科、麻酔科、救急部
松本広域医療圏第2次救急医療指定施設(輪番病院)
管理型臨床研修病院
(以下略)

ええと
 部長・副部長含め3〜4名急募
って、
 まったく見つかってない
ってことと同義ですが。

今時、
 産婦人科医3〜4名を一度に招聘できる病院
なんて、どんなに条件がいいところでも、そうそうないんじゃないのか? あと、気になるのは
 赤十字病院の待遇
で、これが更に
 人集めの障害になっている
のではないかと推察する。

続き。「信州の産科医」先生から貴重なコメントを頂いたので再掲する。


中信地域は産科共通ノートを作って分娩施設を集約化し、妊婦健診は診療所でという形で病診連携を図っており
「ウチから車で15分以内の病院で出産出来ないと嫌だ!」
と言うのでない限り、ある程度の対応ができているはずです。
(安曇野市にも妊婦健診をする診療所は存在します)
また、緊急時には県立こども病院(独立行政法人になった)がすぐのところにあるので対応可能。
安曇野日赤にどうしても分娩施設が必要というわけではないと思います。

信州の産科医先生、ご教示ありがとうございます。
どうも、
 周辺自治体に補助を仰ぐときのうたい文句の一つが「産科の充実」
だったのではないか、という疑念がどんどん強くなってきた。要するに
 病院整備の看板として「医師の手配が出来るかどうかは白紙に近い状態」で「産科を充実させます」と周辺自治体に「奉加帳」を回した
のではないのかな、安曇野日赤。しかしながら、信州の産科医先生のご教示の通り
 中信地域では「安曇野日赤にどうしても分娩施設が必要というわけではない」
状況では、医師招聘の条件も良くないんじゃないのかな。医師の募集要項にある
 分娩の受け入れ再開は喫緊の課題であり、市民ならびに安曇野市からの要望も強く
という文言の中で、
 市民ならびに安曇野市からの要望
が、実際のニーズに対して、医療経済的根拠に基づいて勘案して
 強い
と判断されたモノなのか、その点がよく分からない。いくら日赤とはいえ
 医療経済的に診療科が成り立たない
のであれば、赤字覚悟で分娩を再開することも出来ないだろう。単に
 近所に産科がなくて不安
という
 情緒的反応
からだけでは、今や、病院経営は成り立たなくなっている。国際的に見ても高水準の医療を桁外れの安価な対価で提供している日本の医療制度は
 病院を赤字垂れ流しにする
ことはあっても
 病院を大幅黒字にする
ことはない。

立派な病棟や設備は作ってみたけど、結局医師が来ませんでした、現在鋭意募集中です、という病院側の言い訳は、果たしてこのまま続くのか、それともどこかから産科医が突然赴任してくるのか。どのみち、分娩再開のためには、まだまだ道のりは遠いだろう。
補助金を出してくれた自治体だって、そう懐具合がいいわけじゃないだろう。
 病院は完成するけど、分娩再開できず、というマスコミ報道
は、今のところは
 補助金を出してくれた自治体へのエクスキューズにしか見えない
のだけれども、どうなることやら。

更に続き。(4/20 7:00)
信州の産科医先生から貴重なコメントを頂いたので再掲する。
 安曇野市の分娩施設が増えなくていい、というわけではないが、現在の長野県の産科の戦力からすると、到底「どの自治体にも十分な分娩施設を作る」ことは難しい
というご指摘である。


誤解の無いように付記しますが、安曇野市に分娩施設がいらない、と言っているわけではありません。
安曇野日赤でローリスクの分娩に対応できれば(ハイリスクはこども病院と連携できます)、周辺の分娩施設も助かることは事実です。
ただ、現在の長野県の産科医の現有戦力では、そこまで手が回らないということです。
前の記事にあるように、南信地方(伊那・飯田・駒ヶ根)もぎりぎりですので、そちらもカバーしなくてはなりません。
現状は住民の皆さんの希望にフルに応えるためには100人必要となるところを、70人で回しているような状況です。

そういう状況をご理解いただき、特に首長や地方議員の皆様には安易に「オラが町の分娩施設再開」を唱えていただきたくないものです。
「分娩施設再開のために産科医をまわせやゴルァ!」と言うだけでは解決しません
また、現在の周産期医療というものについても正しい理解をお願いしたいです。
現在の周産期医療は一つの施設・一つの職種で完結できるようなものではありません

信州の産科医先生、ありがとうございます。
政治家が
 地元にイイ顔をしたいために「産科を再開させるべく尽力する」とお題目を唱え
ても、実際に働くのは
 専門教育を受け、日々研鑽を重ねている現役の産科医の先生達
である。そうした人材は右から左に流れてくるわけではない。

もし、政治家がやることがあるとすれば
 何故、長野に産婦人科医がやってこないのかを、労働条件・待遇等から検討する
ことだろう。そして問題があれば
 現在の制度を改善
するしかない。しかし
 財政の悪化
を盾に、
 安く、有能な人材をこき使う
ことしか考えてないのであれば、産科に限らず、どの分野からも有能な人材は流出していく。

かつての長野県は
 教育県
を標榜して、人材の育成に重きを置いていたように思うのだが、そのためにはまず
 長野県で生まれ、育つ子ども
がいないと始まらない。将来の日本を背負う長野県出身の若年人口を確保するためには、最初の関門である
 複数の医療機関が協調して行う周産期医療への理解と十分な手当
は、どうしても必要なのだが、
 まだ生まれてきていない子どもは票にならない
ので、短期決戦の選挙では、争点になりにくいのだ。

|

« 地方産科医療崩壊 44年間働いた80歳の一人産科医長引退で産婦人科休止@長野県上伊那地方 | トップページ | よそんちの猫 »

コメント

中信地域は産科共通ノートを作って分娩施設を集約化し、妊婦健診は診療所でという形で病診連携を図っており
「ウチから車で15分以内の病院で出産出来ないと嫌だ!」
と言うのでない限り、ある程度の対応ができているはずです。
(安曇野市にも妊婦健診をする診療所は存在します)
また、緊急時には県立こども病院(独立行政法人になった)がすぐのところにあるので対応可能。
安曇野日赤にどうしても分娩施設が必要というわけではないと思います。

投稿: 信州の産科医 | 2010-04-19 17:11

誤解の無いように付記しますが、安曇野市に分娩施設がいらない、と言っているわけではありません。
安曇野日赤でローリスクの分娩に対応できれば(ハイリスクはこども病院と連携できます)、周辺の分娩施設も助かることは事実です。
ただ、現在の長野県の産科医の現有戦力では、そこまで手が回らないということです。
前の記事にあるように、南信地方(伊那・飯田・駒ヶ根)もぎりぎりですので、そちらもカバーしなくてはなりません。
現状は住民の皆さんの希望にフルに応えるためには100人必要となるところを、70人で回しているような状況です。

そういう状況をご理解いただき、特に首長や地方議員の皆様には安易に「オラが町の分娩施設再開」を唱えていただきたくないものです。
「分娩施設再開のために産科医をまわせやゴルァ!」と言うだけでは解決しません。
また、現在の周産期医療というものについても正しい理解をお願いしたいです。
現在の周産期医療は一つの施設・一つの職種で完結できるようなものではありません。

投稿: 信州の産科医 | 2010-04-20 02:47

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 地方産科医療崩壊 仏作って魂入れず 病院は出来るのに2006年から休止している出産取り扱いは再開できない@安曇野赤十字病院:

« 地方産科医療崩壊 44年間働いた80歳の一人産科医長引退で産婦人科休止@長野県上伊那地方 | トップページ | よそんちの猫 »