地方産科医療崩壊 44年間働いた80歳の一人産科医長引退で産婦人科休止@長野県上伊那地方
常勤医が退職して産婦人科休止、というのは珍しくないのだが
常勤医が80歳で引退
というのが、なんとも凄い。場所は長野県を4つに分けた地域で言えば、南信地方となる上伊那北部に位置する箕輪町でのお話。元は信濃毎日の記事。
福島病院が産婦人科廃止へ 箕輪町は存続を要望福島病院(箕輪町)は6月18日、男性常勤医(80)が退職するのに伴い産婦人科を廃止する。上伊那地方北部で同病院のほかにお産を扱っている病院、助産所はなく、不安の声が上がっている。
同病院は1952(昭和27)年に開院。産婦人科は66年に開設し、この男性医が年間100~250件ほどのお産を扱ってきた。同病院は産婦人科を廃止するとともに、病床数を減らして診療所に転換する予定という。
男性医は「やるだけのことはやったと感じているが、患者に迷惑をかけて申し訳ない気持ちだ」としている。箕輪町の平沢豊満町長は取材に「地域としては非常に残念。事情はあると思うが続けてほしい」と存続を求めている。
上伊那地方の病院は町立辰野総合(辰野町)が05年度、昭和伊南総合(駒ケ根市)が08年度から医師不足でお産の扱いを休止し、伊那中央病院(伊那市)にお産が集中。同病院は08年4月から里帰り出産を制限している。同病院事務部によると、04年度に759件だったお産の扱いは09年度に1103件に増えた。県伊那保健所(伊那市)によると、上伊那地方では現在、福島病院と伊那中央のほか、伊那、駒ケ根両市にある6助産所がお産を扱っている。福島病院の産婦人科が廃止になる一方、6月に昭和伊南の医師が駒ケ根市内で産婦人科医院を開業する予定。同医院は年間300~350件のお産を扱う予定だという。
(提供:信濃毎日新聞)
80歳の引退なさる先生、お疲れさまでございました。
産婦人科開設の1966年から今日まで44年間勤続
で、
80歳まで現役で年間100件はお産を取っていた
というのがなんとも。なおかつ、この80歳の先生に
やるだけのことはやったと感じているが、患者に迷惑をかけて申し訳ない気持ちだ
と口にさせているのは、一体何なのだろう。80歳になるまで、44年間、お産も取り、婦人科も診て、これだけ働いて頂いたのなら、もう十分ではないか。
今年2月には地元の伊那MYウェブニュースで、この
福島病院産婦人科休止問題
を扱っている。
福島病院で産婦人科の今後検討 今年度末目途に結論箕輪町の福島病院が、産婦人科について、廃止も含め検討していることが、病院関係者の話で分かった。
福島病院の産婦人科は医師1人で、年間約100件の出産に対応している。
病院では現在、診療6科目のうち産婦人科について、廃止も含め内部検討を行っているという。
取材に対し福島病院では、「まだ検討中で何も決まっていない」としていて、結論を出す時期は今年度末を目途にしているという。
つまり
80歳の先生は「一人医長」で最近も年間100件ほどのお産を取ってた
ってことですね? いろんな意味で大変だ。
産科医が一人しかいない、ってことだけでも問題ありまくりなのに
80歳とご高齢な方に年間100件お産を取らせていた
ことは、ちょっと信じられない激務だ。単純計算でも3〜4日に1度はお産がある。しかも
お産は夜昼関係ない
のだから、引退される先生のこれまでの勤務状況はちょっと想像が付かない。このお年になられるまでに、普段から夜中の呼び出しがあったことは間違いないのだ。
察するに
80歳まで現役産科医
というのは
後任が全く見つからないまま、引退できずに80歳を迎えた
ってことだろう。国の
後期高齢者の最低年齢より高齢の現役産科医
というのは、
日本の医師数の実態
を表しているようで、ちょっと恐ろしいものを感じる。
80歳の先生がたった一人でこれまで頑張ってこられたのは奇蹟に近いものがあり、
是非、後任を
と地元が望んだところで、
80歳になるまで現役続行をせざるを得なかったこれまでの状況
を考えるに付け、
それはムリ
というものだ。
で、翻って、
妊婦さんが殺到している伊那中央病院
の状況なのだが、病院のサイトを見る限り
非常勤無しの常勤7人
で回しているようだ。2009年の実績で扱ったお産が
7人で1103件
というのは、
158件/人
だ。更に、
6月に駒ヶ根市に産婦人科が開業
して
年間300〜350件のお産を扱う予定
だそうだから、
福島病院の休止によって他に流れる妊婦さんと、伊那中央病院に殺到している妊婦さんの何割かは駒ヶ根市の病院に行く
として単純計算すると、伊那中央病院の現在の状況は少しは緩和されるように思うのだがどうなのだろうか。
ところで、この
駒ヶ根市に開業する産婦人科
なんだけど
昭和伊南総合病院からの転出
って話になっている。で、昭和伊南総合病院というのは
駒ヶ根市にある公立病院
なのだが
現在、一人医長でお産の取り扱い休止
となっている。
産婦人科現在、外来は常勤医師による週5日の診療体制になっています。常勤医師1名ですので、手術の必要な患者様の対応はできません。お産の取り扱いもできません。また、症状により、十分な対応ができないことがありますのでご了承ください。
なお、産科・婦人科ともに、夜間や休日の対応・急患の受け入れはできません。夜間・休日・緊急の場合は伊那中央病院にご相談ください。
地域の皆様には大変ご不便をおかけいたしますが、ご理解、ご協力をお願い申し上げます。
(以下略)
ということは、ひょっとして駒ヶ根市に開業するのは、
いま、昭和伊南の一人医長の先生が退職して開業する
ってことですか? この開業予定の産婦人科は
お産を年間300〜350件扱う
ということなので、
医師だけで3人は勤務している勘定
になるのだが、
私立の産婦人科医院にスタッフ募集で負ける、公立病院の待遇
ってどうなの? 昭和伊南総合病院ではただ今、産婦人科の先生を募集中だ。
産婦人科医急募!
現在、産婦人科医師不在のため地域医療・地域の子育て環境に不安が生じています。地元での出産ができない状況ですが、妊婦健診だけでも地元で行い、出産する病院の負担を減らす必要があります。常勤・非常勤勤務 産婦人科医師を急遽募集しております。
募集人員 2名
採用時期 随 時
年 齢 不 問
学会等 年2回 国内公費出張ができます
待 遇 給与 : 経験年数により優遇いたします
宿舎 : マンションタイプ、一戸建て住宅があります
※ 院内保育所があります
※ 特に、女性医師については勤務時間等について考慮しますのでご相談下さい。
(以下略)
常勤でも非常勤でもいい、年齢も不問というのだけどなあ。。。
昭和伊南の産婦人科の先生は昭和47年信大医学部卒だそうで、現役だったとしても1947年つまり昭和22年生まれ、今年御年63歳になる。この先生が開業されるのだとして、これからお産を取るのだとすれば、
地方の産科医の高齢化
というのは、これからも続くのだろう。60歳を過ぎてもお産を取りたい、と思う先生というのは、やはり、当時の医学部教育の「賜物」なのだろうか。
長野県は山国で、平野にある地方と比較すると、交通その他で不便な部分があり、救急搬送などの一刻を争う事態になったときには、気候にも左右される。
近くに産科がない
ことに対する上伊那北部住民の不安は分からないでもないが、それでも、いまや全国の趨勢となっている
産科の集約
は避けられない。上伊那地区の総面積は1348キロ平米だそうだが、同じ山間部が中心となる
奈良県南部
では、
とっくにフリーアクセスの産科は絶滅
している。しかも奈良県南部の面積は2347キロ平米で県の面積の64%にもなっているのだが、五條市の面積291.98キロ平米を除いても、上伊那地区全体よりも更に広い。
上伊那北部の人達は、まずは、この80歳の先生に感謝し、これまでの労をねぎらうべきであろう。
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コメント
引退される先生は本当にお疲れ様でした。
それにしても町長の言葉。
>事情はあると思うが続けてほしい
まったく感謝の気持ちが感じられない。
先生の事情なんて年齢考えたらわかるだろうに、その事情を受け入れられないってどんだけ非常識なんだろう。
ここの町長はいったいいくつなんでしょうか。
自分の親かそれ以上の高齢であろう医師にまだ働けと。
それよりもこうなるまで手が打てなかった、自分たち行政を恥ずべきだと思うけどね。
投稿: すぴか | 2010-04-19 10:42