人呼んで「赤松口蹄疫」 宮崎県口蹄疫は4/20の発生から30日間で13万頭殺処分決定のパンデミック規模(その21)「県の宝」種牛一頭が感染疑い 全頭殺処分になれば宮崎のみならず日本の肉牛生産に大打撃 種牛の移動願を無視し続けた鳩山政権による人災
宮崎県は南下する口蹄疫から
肉牛生産の要、県の宝である種牛
を守るため
移動制限区域内の高鍋町にいた種牛55頭の内、特に優れた6頭の移動
を国に願い出ていた。もし、種牛が一頭でも口蹄疫に罹るようなことがあれば、全頭処分だ。40年以上の年月を掛けて作り上げてきた宮崎牛の種牛を失うことになれば、宮崎だけでなく、国内で宮崎から子牛を買い受けて肥育している生産地を含め、肉牛生産は計り知れないダメージを受ける。種牛の移動は他の生産地からも要望されていた。宮崎県産の子牛は、他の産地で肥育され、肥育された土地の名のついた銘柄牛になる。松阪牛も半分近くは宮崎県産の子牛を肥育したものだ。5/13付朝日より。
「宮崎の宝」口蹄疫から守れ 種牛6頭、特例で避難へ2010年5月13日12時46分
(略)
宮崎県産の子牛は、松阪牛(三重県)や佐賀牛の産地など全国各地に出荷されている。種牛の保護については、「日本一に輝いた名牛が失われることは全国の損失」と各産地からも宮崎県に要望が寄せられていたという。赤松広隆農林水産相が県庁を訪れた10日には、同県の東国原英夫知事が種牛の避難を認めるよう訴えていた。
(以下略)
ところが、何故か国はなかなか種牛の移動を認めなかった。
上記記事にあるように、5/10に赤松農水相が宮崎県入りしたときも、東国原知事は、
特例による移動
を願い出ている。「そのまんま」日記より。
2010-05-10
口蹄疫
(略)
今日は、赤松農水相にご来県を頂き、防疫対策人員の増加、埋却地の確保、移動制限・搬出制限内外の生産者や生産関係者へのきめ細かい経済的支援・助成、メンタルケアー、補助金・交付金・特別交付金等の措置、感染源・経路の解明、風評被害対策、家伝法(家畜伝染病予防法)の見直し等の要望・要請とそれらに関する意見交換をさせて頂いた。特に、今後の課題として、発生がこれ以上拡大した場合の新たな防疫措置、県家畜改良事業団の種雄牛の移動制限区域からの移動、保定経験者等の確保、家伝法に基づく手当金の仮払い制度等は重要である。
(以下略)
しかし、赤松農水相は、種牛の特例移動を即決しなかった。5/11付朝日宮崎版より。
赤松農水省来県 地元JA「見捨てないで」
2010年05月11日口蹄疫(こう・てい・えき)問題を受け、10日に宮崎市を訪れた赤松広隆農水相。東国原英夫知事のほか、関係団体や自治体の首長らと会談して要望を聞き、「地元と一体となり難局に対応していく」と何度も繰り返した。
県内では、前日までに川南町を中心に56農場で感染疑い・確定例が出ており、豚と牛計約6万4千頭が殺処分の対象になっている。
知事との会談の中で赤松農水相は、口蹄疫の現状について「一定の地域に抑え込めているが、残念ながら件数は増えており、勢いはとどまっていない」との認識を示した。
そのうえで、農水省側からの支援策として、国庫補助による消毒薬の配布や、職員のさらなる派遣、資金融資枠の拡大などを説明。「一部で『国の対応が遅い』とか、何とか(言われているが)、それは心外。言われたことはすべてやっている」と述べた。
さらに「激励に行きたいが『防疫以外の人は入らないでくれ』と言っているので理解して欲しい」とも話した。
一方、知事は、県産和牛の種牛を管理し「宮崎ブランド」の中枢ともいえる「家畜改良事業団」(高鍋町)が、発生農場から半径10キロに設定される移動制限区域に含まれていることについて「事業団は宮崎の宝。打撃を受けると肉用牛も一網打尽になる。特例措置で移動できるよう検討して欲しい」と求めた。
これに対し、赤松農水相は「隔離して守りたい気持ちは分かるが、家畜を殺される一般の農家の感情もある。移動前、移動後の管理のほか、ほかの農家の理解という条件が整えば考える」と答えた。
(以下略)
なんなんだ。
家畜を殺される一般の農家の感情
って。
種牛がいなければ、生産できない
という原則がまるで理解出来てない。これでは
即断即決など出来るはずもない
のだ。
この日、口蹄疫は64例目を数えていた。
国が許可を出したのがやっと3日後の5/13だった。この日、口蹄疫は86例に増える。そして、不運が重なる。移動先に問題があり、牛たちは一晩野宿を余儀なくされた。そして移動の翌々日、高鍋町の宮崎県家畜改良事業団(308頭)で、擬似患畜が見つかった。それについて、以下に。
2010-05-16 人呼んで「赤松口蹄疫」 宮崎県口蹄疫は4/20の発生から26日間で8万頭殺処分決定のパンデミック規模(その12)とうとう宮崎県の宝、日本の肉牛生産の要の1つ高鍋町の宮崎県家畜改良事業団の種牛も殺処分対象に 松阪牛や佐賀牛の親でもある6頭のエース級は避難させたが不手際があり感染の有無はこれから判明
http://iori3.cocolog-nifty.com/tenkannichijo/2010/05/420268121-6-d95.html
こうして、宮崎牛の名声を高めた伝説の種牛「安平」を始めとする残りの49頭は殺処分された。それだけではない、次世代の種牛候補も全頭殺処分されたのである。
宮崎県の希望は残った6頭に托されたのだったが、その内1頭に感染の疑いが出たのである。朝日より。
エース級種牛1頭、口蹄疫感染疑い 遺伝子検査で陽性に2010年5月22日0時49分
宮崎県関係者によると、22日未明、家畜の伝染病・口蹄疫(こうていえき)の感染を防ぐために移動制限区域内の牛舎から特例で避難させていたエース級の種牛6頭のうち、1頭が感染した疑いのあることがわかった。14日の避難終了後、連日、遺伝子検査を続けた結果、陽性反応が出たという。
家畜伝染病予防法では、同じ農場の牛や豚はすべて殺処分すると決めている。「宮崎牛」ブランドを支える種牛がすべて殺処分されることは、宮崎県産の子牛の供給を受ける他産地への影響も大きい。複数の関係者によると、残る5頭の扱いについては、特別措置として経過観察することにできないかどうか、国と県などで協議している。
6頭は、種牛を一括管理する県家畜改良事業団(同県高鍋町)が飼育している種牛55頭の中から選抜された。農家に供給する冷凍精液の9割を占め、東国原英夫・同県知事も「県の宝」としていた。
県は、口蹄疫の感染拡大に伴い、家畜の移動が禁止される移動制限区域(発生農家から半径10キロ)に事業団が入り、近くの農場でも感染疑い例が確認され始めると、国の特例を受け、6頭を県事業団から西へ約20キロ離れた同県西都市の山中に隔離した。
その約2日後、事業団の牛に感染疑いが確認された。約20万頭の子牛を送り出した伝説の種牛・安平(やすひら)など、事業団に残されていた種牛などはすべて殺処分対象となった。
県によると、6頭の避難前の検査では陰性が確認されていた。6頭は半径5キロ内に家畜がいない農場内の仮牛舎に1頭ずつ隔離して飼育されていた。限られた関係者以外の出入りが禁止され、連日、検体を国へ送って遺伝子検査で健康状態を確認していた。
ここまで手を尽くしていても、感染は防げなかった。
偏に
種牛移動許可が下りるのが遅すぎた
のである。
宮崎県の畜産農家の受けた衝撃は計り知れない。種牛さえいれば、口蹄疫後に、また子牛の生産はできるが、それが失われてしまうとなると、今残っている冷凍精液が尽きれば、しばらく優秀な子牛を出荷することが出来なくなる。種牛の選別・育成には7年以上かかる。それも、これまで育て上げた種牛をあたら失って、一からやり直すのだ。次世代の種牛候補はもう殺処分された後だ。また子牛から始めなければならない。
そして、宮崎県産の子牛が支えてきた銘柄牛の産地は、生産計画を見直さざるを得なくなる。
極端な話
松阪牛の味が変わる
ことだってあるのだ。味は変わらないにしても、これまで通りの安定した供給は難しくなる。
そうでなくても、手間のかかる
肉牛肥育
だが、デフレ傾向などで生産価格が上がらない。一方、飼料の価格は原油高などで高騰している。利の薄い中で、
牛肉の芸術品である和牛肉
が生産されてきたのだが、生産農家も高齢化が進んできている。もし、
種牛全頭処分
となれば、希望する肉質に育てやすいといわれる宮崎の子牛が入手できなくなり、銘柄牛生産地の畜産農家の中には、廃業するところも出てくるだろう。これまで宮崎県産の子牛で積み上げてきたノウハウが使えない、他産地の子牛に切り替えることは、高齢の農家には難しいと思われる。
ともかく、残りの5頭は経過観察するなどの措置を取って頂きたい。
もし、残りの5頭も殺処分になると、日本の肉牛生産は大打撃を受ける。
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コメント
種牛を守ろうとして他の牛まで、口蹄疫に感染させてしまい挙句の果ては牛は全滅する。やはり被害を極限に抑えるために殺すしかないでしょう。知事が涙ながらに訴えていたが、人の上に立つ者は感情に左右されてはいけない。見誤ってしまう。現在のブランド牛を求め続けた実態を考える良い機会であろうと思う。私は、このような状態は起こりうるケースだと思う、行政の上に立つものの危機管理体制がなっていない。対処方法をマニアル化していなかったのは、行政の責任である。宮崎県のみならず危機管理の体制がなされていない。その中にひとつ入れて欲しいのが、他国で口蹄疫が発生した場合、その国の者を施設に入れてはいけない。とね。とにかく、早く殺してしまわないと、日本の牛は全滅するぞ、宮崎県知事早く決断をしなさい。
投稿: 牛太郎 | 2010-05-23 07:06
コメントへのコメントは避けているのですが、なんか私と把握した内容に食い違いがあるのであえて触れてみる。「種牛を守ろうとして他の牛まで、口蹄疫に感染させてしまい…」の件は、どこからの引用でしょうか。これまでのニュースに、そのような分析は無かったように思うので気になりました。今回の記事の内容は、「逃そうとしたが間に合わなかった」ですよね。しかも、「知事が判断した時点では手遅れでは無かった可能性が高い」というお話に見えます。「宮崎県知事早く決断をしなさい。」と、知事の対応に不手際があった様に締めくくっていますが、なんか根拠がおかしいように見えました。
投稿: あれ?! | 2010-05-24 17:16